EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY-Parthenonは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
本稿は、人口減少時代に動き出した上下水道インフラ経営シリーズの第9回目です。
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共同執筆者
森山 真稔
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY-Parthenon トランザクション・アンド・コーポレートファイナンス インフラストラクチャー ・アドバイザリー マネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです。
要点
わが国の水道は、これまで大規模な浄水場で処理した水を広範囲の利用者へ供給する「集約型システム」を基本として発展してきました。高度経済成長期以降、人口増加と都市化を背景に整備が進められ、現在では水道普及率は98%を超える高い水準に達しています。
一方で、近年注目を集めているのが「分散型システム」です。既存の集約型システムは、大規模な浄水場と管路ネットワークによって大量の水を効率的に供給できる点が特徴です。一方の分散型システムは集落単位や個別建物単位で飲料水を生産・供給するものであり、長距離の送配水管を必要としない点が特徴です。このような特徴ゆえ、人口密度が低い地域や山間部等の地理的条件が厳しい地域においては、分散型システムの方が経済的となる可能性があります。
国土交通省は、分散型システムを「中山間地域等において用いられる小規模で簡易な水供給システム」と位置付けており、具体的には、①小規模な水道施設、②運搬送水、③各戸型浄水装置、飲用井戸の3つに大別され、いずれも給水人口が数百人~数人単位の山間部の集落や離島への導入が想定されています1。
このうち、①小規模な水道施設、③各戸型浄水装置、飲用井戸は、浄水装置の設置が念頭に置かれています。前者は、小型の浄水装置から配水管を通じて各戸へ給水を行う「集合型」、後者は、各戸に置かれる浄水装置から直接給水を行う「戸別型」として整理することができます。また給水方式に関しても、浄水装置の特徴によって、水源から新たな水を供給し続ける「供給型」、生活排水の一部を再利用する「循環型」の2種類に大別することができます。
実際にこれらに該当する浄水装置は、既にいくつかの国内企業によって開発、一部製品化されています。特に③各戸型浄水装置、飲用井戸は発展途上の製品も多く、各地で実証実験が進められています。例えば、生活排水を再利用する循環型の浄水装置や、大気中の水分を冷却、消毒して飲料水を精製する供給型の浄水装置などがあります。
分散化が注目される最大の背景は、人口減少社会の到来です。特に中山間地域では人口密度の低下が著しく、現在のインフラを維持すること自体が困難になる可能性もあります。特に近年はヒト(人材)・モノ(施設)・カネ(財源)といった経営資源の不足への対応が重要な課題となっています。
多くの事業体で技術系職員の減少が進み、維持管理や更新計画の策定を担う人材の確保が課題となっています。人口減少は水道利用者の減少のみならず、水道事業を支える人材、特に技術者の不足も招いています。そのような中、高度成長期に整備された浄水場や管路が更新時期を迎えており、計画的に更新を進めていく必要がありますが、人口減少下では料金収入は減少傾向にあり、投資財源を十分に確保できない事業体も少なくありません。
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また近年では、災害対応の観点からも分散化への期待が高まっています。令和6年能登半島地震を契機として、広域的なネットワークに依存するシステムの脆弱(ぜいじゃく)性が改めて認識され、管路が寸断された場合でも地域ごとに給水機能を維持できる仕組みとして、分散型システムが注目されています。
こうした課題認識を背景に、国は近年、分散型システムに関する検討を本格化させています。まず、令和6年に策定された水循環基本計画では、「最適で持続可能な上下水道への再構築」の一環として分散型システムが位置付けられました。また、令和7年の「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」においても、分散型システムの活用が明記されています。
さらに、国土交通省の「上下水道政策の基本的なあり方検討会」では、人口減少を踏まえた上下水道の将来像について議論が進められており、地域特性に応じて集約型と分散型を適切に組み合わせる「ベストミックス」の重要性が指摘されています。従来の集約型システムのみを前提とした整備では、将来的に維持管理が困難となる地域が増加すると考えられているためです。
例えば、生活排水処理では下水道/浄化槽、ガスでは都市ガス/LPガスという集約型と分散型のベストミックスが技術・制度上可能ですが、飲料水供給に関しては、水道(管路で水を供給する)と井戸(未処理で飲用する)以外の選択肢として、各戸で浄水処理を行って飲用する技術・制度が従来あいまいになっていました。
このような背景から、国土交通省は2026年に「水道事業における分散型システムの導入手引き」を策定し、小規模水道施設や運搬送水などを対象とした導入検討の考え方を整理しました。
それでは、どのような地域で分散型システムの効果が期待できるのでしょうか。
最も有力な対象として考えられているのが中山間地域です。人口減少が進み、集落間の距離が長い地域では、一人当たりの管路延長が長くなる傾向があります。その結果、管路の維持管理や更新に多額の費用を要するため、既存ネットワークを維持し続けるより、小規模な水供給システムへ転換した方が合理的となる可能性があります。
また、離島や半島地域など地理的条件が厳しい地域でも、分散型システムの導入効果が期待されています。こうした地域では、管路整備や更新工事の費用が高くなりやすく、地域ごとに独立した給水システムを構築する方が効率的な場合があります。
さらに、災害リスクの高い地域も分散化の有力な対象です。従来の管路による送配水ネットワークは、1カ所の被災が広範囲の断水につながるおそれがあります。一方、分散型システムは地域ごとに独立性を持たせることができるため、被害の局所化や早期復旧につながる可能性があります。能登半島地震を契機として、このようなレジリエンス向上の観点からも分散化への関心が高まっています。
ただし、人口密度の高い都市部においては、依然として集約型システムの優位性が大きいと考えられます。大規模な浄水場による効率的な水供給や、安定した水質管理といったスケールメリットが発揮されるためです。
したがって、今後の議論において重要なのは、「集約型か分散型か」という二者択一ではありません。人口動態や地理条件、災害リスクなどを踏まえながら、それぞれの長所を生かした最適な組み合わせ、ベストミックスを模索していくことが求められます。
分散型システムの導入に当たっては、下図に示す4つのステップに沿って検討を進めていくことが有用と考えられます。
はじめに、導入地域の選定です。ここでは、分散型システムの導入により改善が期待できそうな課題を多く抱えている地域を選定します。具体的には、給水人口が極端に少ない地域や施設・管路の老朽化が著しく進んでいる地域などが考えられます。
次に、導入可能な給水方法の検討です。ここでは、分散型システムの技術特性や給水人口の適切性、導入コスト、課題への対応可能性などを踏まえ、導入可能なシステムを幅広く検討します。例えば、不安定な水源を多く抱える地域の場合、小型かつ高濁度に対応できる浄水装置の導入が有力な候補となり得ます。実際に導入する分散型システムを選択する際には、渇水による水量不足、雨天時の水質悪化・水質変動、住民による維持管理の限界といった課題に合わせて、求められる機能や対応可能な技術も多種多様になる可能性も十分あります。
続いて、分散型システム間の比較分析です。ここでは、前段で検討した各システムについて、定量・定性の両面から優位性を評価します。定量面での比較では、現行の集約型システムを更新して使用し続けた場合と比べてどの程度ライフサイクルコストの削減が見込めるかを試算し、その削減額の大きさを比較することが考えられます。定性面の比較では、メンテナンス性や災害耐性、ダウンサイジング可能性など、システムの機能やサービス水準について比較することが考えられます。ここでポイントとなるのは、長期的な視点で比較を行うことです。なぜなら、わが国全体で人口減少が急速に進んでいることから、集合型のシステムを導入した場合、いずれ施設規模が過大になる可能性があるためです。また、戸別型を中心に分散型システムの多くが発展途上のものであり、将来的に価格が下がる可能性があることも考慮して比較を行うことが重要です。
最後に、ベストミックスの検討です。ここでは、いつ、どの地域に、どの分散型システムを導入するのかを検討します。例えば、給水人口が一定規模存在する地域の場合、現行の集約型システムを更新して使用した方が、分散型システムを導入するよりもコストメリットが働く可能性もあります。また、施設・管路の老朽化が進んでいない地域の場合、必ずしも短期的に分散型システムを導入する必要がないとも考えられます。このように、スケール軸や時間軸をもって集約型システムと分散型システムのベストミックスを検討します。また、ひとえに分散型システムと言っても、条件や課題に合わせて求められる機能や対応可能な技術も多種多様になることから、集約型か分散型か、という視点のみならず、どの分散型システムを導入するか、という視点からもベストミックスを検討することが重要です。
分散型システムには大きな可能性がある一方で、実用化・普及に向けては多くの課題も残されています。
第一の課題は、制度面の整理です。特に戸別型のシステムや循環型のシステムについては、現行制度上の位置付けが十分に整理されていない部分があります。具体的には、水道法上の水道として認められるのか、という課題があります。今後は実証事業の成果を踏まえながら、法制度や技術基準の整備が進められると考えられます。
第二の課題は、維持管理体制の確立です。分散化によって施設数が増加した場合、これまでのような集中管理が難しくなる可能性があります。そのため、遠隔監視やデジタル技術の活用による効率的な維持管理手法の確立が合わせて必要になると考えられます。
今後の水道事業は、広域化、PPP/PFI、DX、そして分散化など、さまざまな施策を組み合わせながら再構築されていくと考えられます。人口減少が進む中、従来の集約型システムだけを前提とした発想には限界が生じつつあります。しかし、分散型システムも決して万能な解決策ではありません。
重要なのは、それぞれの地域が抱える課題や条件を踏まえながら、集約型と分散型のベストミックスを追求することです。分散化は、水道サービスの縮小を意味するものではなく、持続可能な水道事業を将来世代に引き継ぐための新たな選択肢として、技術、制度の両面でさらなる進化が求められます。
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人口減少を背景に、水道事業における分散型システムの注目度が高まっています。分散型システムの導入に当たっては、それぞれの地域が抱える課題や条件を踏まえながら、集約型と分散型の「ベストミックス」を追求することが重要です。
人口減少時代に動き出した上下水道インフラ経営 全9回
人口減少・老朽化・災害リスクに直面する上下水道事業。官民連携やDX、広域化など経営改革の最新動向と課題解決のポイントを解説します。
#2 なぜ今、ウォーターPPPの拡大に合わせて官民パートナーシップの枠組み自体を見直す必要があるのか
上下水道分野における官民連携が拡大する中、持続可能なインフラ経営のために、官民双方の役割分担の見直しが求められています。
#3 上下水道と他インフラ事業との連携「複合インフラ管理」による経営改革とは?
従来、水道事業と下水道事業は個別に経営されてきましたが、上下水道事業の経営改革策として、「上下水道事業の一体的な管理」による効率化が期待されています。さらには道路・公園などの他インフラ事業と連携する「複合インフラ管理」による効率化も期待されています。
#4 上下水道事業はどのように広域連携し、経営改革策を進めればよいのか?
人口減少により上下水道事業の単独経営は厳しさが増す中、自治体同士の広域連携は合理的です。しかし、現場では進んでいません。2市共同ウォーターPPPや官民出資会社など「官民連携を活用した間接的な広域連携」が突破口になり得ます。
#5 エネルギー危機による電力価格の変動性が高い時代において、脱炭素化により上下水道事業の経営・料金の安定化をどう進めるか
電力価格の変動が続く中、上下水道事業では脱炭素を経営改革として捉える視点が重要となっています。省エネ・再エネ・DXの実装ポイントを解説します。
#6 コスト削減のツールではない、「人が幸せになる」「魅力ある上下水道事業」に向けたDXとは?
上下水道DXの最新動向を、国の政策動向や導入事例を踏まえて解説。人材不足や技術継承など事業運営の課題と今後の方向性を整理します。
#7 相次ぐM&A・提携に見る、PPP・広域連携時代の新展開
上下水道業界で企業買収や提携が相次ぐのはなぜか。ウォーターPPP、広域連携、発注構造の変化から業界再編の背景をひも解きます。
#8 海外の官民連携事例から学ぶ、長期・協働型パートナーシップの可能性とは?
豪州・英国・ニュージーランドの上下水道における官民連携事例を紹介。長期契約や協働型パートナーシップから、人口減少や施設老朽化の課題を抱える日本のウォーターPPPの発展に向けた示唆を解説します。
#9 分散化による水道再構築-人口減少時代における水供給の新たな選択肢-
人口減少や施設老朽化、人材不足が進む中、水道分散化への関心が高まっています。地域特性や災害リスクを踏まえた分散型システムの可能性と課題、持続可能な水道事業に向けたベストミックスの考え方を解説します。