EYが実践する、ERPとAIエージェントをつなぐグローバル財務経理変革とは

EYが実践する、ERPとAIエージェントをつなぐグローバル財務経理変革とは


AIエージェント時代における財務経理業務のあり方を実例から考察し、企業がどのようにファイナンス組織にAIを取り入れ、本質的な変革を遂げるべきかを明らかにします。


共同執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
テクノロジーコンサルティング/インテリジェンスユニット シニアマネージャー 
柏木 成美

※所属・役職は記事公開当時のものです。



要点

  • ERP、業務アプリ、AIを連携させ、仕訳・入金消込・照合などの財務経理業務を劇的に効率化させることができる。
  • AIエージェントの導入効果を引き出すためには、個々の業務だけでなく、データ、承認、実行をつなぐ業務プロセス全体を捉え直し、再設計することが鍵となる。
  • ファイナンス変革の価値は、業務効率化によって捻出されたリソースを分析や意思決定支援に割き、経営への貢献を高めることにある。


はじめに

 

生成AIやAIエージェント(AI Agent)への関心が高まる一方で、ERPを中心とした基幹業務にAIを組み込み、実際のトランザクション処理や承認業務まで実装している事例はまだ多くありません。EYではSAP ERP、Microsoft Power Platform、Microsoft Copilot Studio(以下、Copilot Studio)を組み合わせ、グローバルファイナンス業務の変革を進めています。

 

本稿ではEYにおける実践例を通じて、ERP×AIエージェントの実装方法と成果をご紹介します。


第1章 ERP業務を変革するAIエージェントの実践

従来の財務経理業務では、仕訳登録や承認申請、消込処理、勘定照合など、多くのプロセスが手動入力や人による確認を前提としていました。つまり、データを作成して別のシステムに入力する、処理結果を表計算ファイルで共有する、差異について担当部署に問い合わせるといった作業が必ず発生します。そのため、処理件数の増加に比例して、業務負荷も増大する従来型アプローチの延長線上では、決算早期化や業務品質を向上させようとしても、限界が見えています。

EYではこれらの課題に対処するために、AIエージェントを業務に組み込み、人が行う判断の支援やデータ確認プロセスを自動化しています。実際、EYではAIエージェントを単独のチャットツールとして導入しているのではなく、SAP ERP、業務アプリケーション、ワークフローと連携させながら業務プロセスへ組み込んでいます。具体的には、EYのグローバルファイナンス組織が以下のような場面においてAIを活用し、財務経理業務の変革に取り組んでいます。
 

ケース1:PowerPostによる仕訳登録の高度化

総勘定元帳(GL)への仕訳計上プロセスの各段階で、AIエージェントがユーザーをガイドし、必要情報の入力や登録を支援します。また、従来は複数の画面遷移や手動操作が必要だった処理も、AIエージェントとの対話形式によって、データのアップロードも一括して処理できるようになりました。手作業によるボトルネックを解消し、ワークフロー全体が効率化された結果、例えば20件の仕訳承認申請に約15分を要していたものが、現行フローでは1分かけずに完了できるようになりました。
 

ケース2:PowerMatchによる入金消込の自動化

年間を通じて膨大な案件数にのぼるクライアント企業からの入金業務において、それぞれの請求書と自動照合できていたのは全体の30%程度にとどまっていました。そこで、ローコード開発されたワークフロー環境にAIモデルを実装し、AIが送金通知や入金情報から必要項目を抽出し、請求書との照合作業を支援するプロセスを再構築しました。こうした新たな仕組みが入金申請プロセスを大幅に改善し、より迅速に正確な情報が提供されるようになりました。その結果、自動照合率は80%に向上し、全面的に人手作業が必要な案件は全体の5%程度に削減されました。
 

ケース3:PowerSyncによる勘定照合の高度化

これまでの照合業務は、世界各拠点の担当者間でメールや表計算ファイルを連携・確認しながら行われていました。そこで、手作業かつ分断されたフローで進められていたやり取りをデジタル化し、リアルタイムで共同作業できる環境を構築しました。ERPシステムから抽出された売掛金(AR)や買掛金(AP)の残高確認、照合結果の共有、確認書の生成、監査対応までを一連のプロセスとして自動化することで、決算業務の迅速化と透明性の向上を図っています。

これら3つの事例に共通するのは、AIエージェントがERPの代替になるのではなく、ERPを中心とした業務プロセスを再設計している点です。ERPには正確な取引記録を保持する役割を残し、その周辺にアプリケーション、ワークフロー、AIエージェントを配置することで業務効率化を実現しています。AIエージェントの導入効果を引き出すためには、個々の業務処理のあり方を見直すだけでなく、データ、承認、実行をつなぐ業務プロセス全体を捉え直し、再設計することが重要です。

PowerPost、PowerMatch、PowerSyncは、Microsoftが提供するPower Platform環境、Power Automate、AI Builder、Dataverseなどを活用し、EYが自社向けに開発したソリューションです。


第2章 ERP×AIエージェントが生み出した業務成果

EYのグローバルファイナンス組織では、AIエージェントを組み込んだ業務変革により、大きな成果を生み出しています。

まず、仕訳登録プロセスでは、データ作成と登録が一体化されたことにより、リードタイムを95%削減しました。また、従来利用していた外部ツールのライセンス費用を削減することにより、運用コストを37%以上圧縮できました。現在では2,000人以上の従業員が利用する標準業務プロセスとして定着しています(ケース1)。

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また入金消込業務において、年間12万時間に及ぶ工数削減を実現しており、世界各拠点へのロールアウト完了後には年間23万時間規模の削減効果が見込まれています。処理精度が向上した結果、再計上作業は85%削減されました(ケース2)。

さらに勘定照合では、従来比で約2カ月早く業務を完了できるようになり、グローバルな決算・会計プロセスの高度化に大きく貢献しています。複数の財務経理ソリューションをコンポーネントとして再利用し、世界拠点の担当部門が連携を図っています。会計年度末のタイミングに合わせて新たなプロセスを導入した結果、経営陣からの要求に応えることができました(ケース3)。

表1:EYにおけるERP×AIエージェントの実践事例

表1:EYにおけるERP×AIエージェントの実践事例

これらの成果は、AIエージェント単独で生み出せるものではありません。EYにおいても、業務フローの見直し、自動化、システム連携に加えて、AI活用を組み合わせることにより、具体的な効果につながりました。

変革の対象は、「担当者の作業」にとどまりません。どこで情報が途切れ、誰の確認を待ち、なぜ再入力が生じるのか――業務のつなぎ目を可視化することで、アプリケーションによる一元化、ルールに基づく自動処理、AIによる情報抽出や操作支援を、それぞれ適した箇所に配置することが重要です。適用するソリューションごとの機能、そして機能やデータ間の連携、それらと改善すべき業務課題を対応させる視点が欠かせません。


第3章 SAPとMicrosoftテクノロジーの融合

EYのグローバルファイナンス組織の変革を支えているのが、SAPとMicrosoft Power Platform(以下、Power Platform)を組み合わせたアーキテクチャです。

EYではSAP ERPを基幹業務システムとして活用していますが、従来は業務改善を行うたびに大規模なシステム改修を要することも少なくありませんでした。そこでEYは、SAPの安定したトランザクション基盤を維持しながら、その上位レイヤーにPower Platformを配置する構成を採用しました。Power PlatformとSAPは標準SAPコネクタおよびMicrosoft data gatewayによって接続され、SAPのデータやプロセスを安全に活用できる環境を構築しています(図1)。

ユーザー向けのアプリケーション開発基盤としてPowerAppsを使用し、業務ユーザーは使い慣れたwebインターフェース上で作業ができます。入力データがDataverseに格納され、Power Automateによるワークフローを通じてSAPに自動連携されます。権限管理や承認プロセスも組み込まれており、各国・地域固有の業務要件にも柔軟に対応することが可能です。

さらに、Copilot StudioでAIエージェントが構築されています。これらのエージェントは、業務ルールや知識を理解し、ユーザーと自然言語による対話を通じて処理を支援します。単なるチャットボットではなく、実際のトランザクション処理や業務フローの実行まで担う機能を果たしています。

ユーザーは、Power Platform環境から自然言語でAIエージェントに指示を出します。AIエージェントは必要情報の入力や確認を支援し、その情報はDataverseに格納されます。その後、Power Automateによる承認・ワークフロー処理を経てSAP ERPへ連携されます。つまり、AIエージェントはチャットボットとして回答するだけではなく、ユーザーとERPの間に位置する実行レイヤーとして機能しています。

図1:EYにおける仕訳登録(GL)「PowerPost」の仕組み

図1:EYにおける仕訳登録(GL)「PowerPost」の仕組み
出所:参考記事を基にEY編集
  1. “EY transforms its global finance operations with innovative apps and AI-driven agents using Power Platform,” microsoft.com/en/customers/story/25760-ey-global-services-limited-microsoft-power-platform/(2026年10月6日アクセス)
  2. “EY uses Power Platform to automate customer payment processing,” learn.microsoft.com/en-us/power-platform/guidance/case-studies/global-finance(2026年10月6日アクセス)


第4章 財務経理の未来:個別業務から複数エージェントの連携へ

EYでは、ファイナンス業務単位で個別にAIを導入するだけではなく、将来的に複数のAIエージェントを連携させたエコシステムの構築を構想しています。具体的には、仕訳登録(PowerPost)、入金消込(PowerMatch)、勘定照合(PowerSync)、そして複数にわたる他のエージェントが相互に連携し、問い合わせ対応やレポーティング、取引処理の自動化までを一貫して支援することができる将来像を描いています(図2)。

その中核となるAIエージェント基盤では、複数の業務アプリケーション、ナレッジベース、AIエージェントを統合します。人による判断が必要な場面において「Human-in-the-Loop」で統制を維持し、ガバナンスを効かせながら、業務全体を連携させることを目指しています。

また、複数のAIエージェントが連携する段階では、個別業務の処理速度に加え、業務間で受け渡す情報の意味や、例外が起きた際の責任分担が重要になります。ある業務での誤りを次の業務へ広げないためには、エージェントごとの実行権限、確認が必要な条件、人への引き継ぎを一貫した考え方で設計する必要があります。

さらに、グローバル展開では、共通化する業務と各国・地域に残す要件を切り分けることも重要です。従来の運用をそのままデジタル化すると、地域ごとの違いがシステムに固定され、改修や保守の負担が増えかねません。共通のデータ定義や処理手順を定めた上で、各国・地域固有の承認要件などに対応する設計が求められます。そのためには、ファイナンス組織とIT組織が業務の目的や例外の扱いを継続的に協議する体制が必要です。

図2:EYのグローバル財務経理業務におけるAIエージェント構想

図2:EYのグローバル財務経理業務におけるAIエージェント構想
出所:EY

財務経理の未来を左右するのは、導入するAIの数だけではありません。信頼できるデータ、業務をつなぐ仕組み、判断に責任を持つ人をどのように組み合わせるかが重要な要素となります。EYにおける実践を踏まえると、企業が最初に問うべきなのは、どの業務にAIを導入するか、そしてファイナンス組織が経営にどのような価値を提供したいかという観点です。それらの目的達成に向けて業務プロセスと役割を再設計することが、効率化の成果を継続的な経営支援能力へと転換することにつながります。




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サマリー 

EYは、自らが実践する変革を通じて、SAP、Microsoft、AIエージェントを組み合わせた次世代の財務経理モデルを追求しています。本事例が示しているのは、AIエージェント導入そのものではなく、ERPを中心とした業務プロセスの再設計が重要である点です。EYでは、ERPの信頼性とAIエージェントの柔軟性を組み合わせることが、エンタープライズAI実装の現実的なアプローチになると考えています。



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