EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 公認会計士 加藤 信彦
製造業、金融業の会計監査、アドバイザリー業務に従事。2017年からデジタルリーダーとして会計監査DXをリード。23年からは宇宙ビジネス支援オフィスSpace Techプロジェクトにも関与。イノベーション戦略部およびAIラボ部長。
要点
EY新日本では毎年、「監査品質に関する報告書」※1の中でAIを含む最先端のテクノロジーを活用した監査業務の変革について掲載していますが、2024年12月より各取組みの最新状況を順次解説していきます。
初回となる本稿では、デジタル人材育成の取組みに関して説明します。EY新日本がAssurance 4.0を推進する上で重視しているデジタル人材育成については過去の記事※2でもご紹介しており、会計監査DX初期段階におけるデジタル人材育成や顧客である監査クライアントにどのような価値をもたらすかについて寄稿しています。
※1 EY新日本有限責任監査法人 監査品質に関する報告書 2024
※2 未来を切り開くデジタル人材の育成とAssurance 4.0(情報センサー2020年新年号 Digital Audit)
EY新日本では、デジタル人材を「テクノロジー人材と連携しデータドリブン監査をリードする監査プロフェッショナル」と定義しています(<図1>参照)。
デジタル人材は、デジタル監査戦略の策定から、各監査現場への導入・被監査企業とのコミュニケーションまで一気通貫した取組みの推進役となり、データドリブン監査をはじめとしたプロフェッショナルサービスにより、顧客企業の経営・事業そのものへの価値提供を行います※3。
出所:ヒトの変革
2020年のアシュアランスイノベーション本部発足時から、テクノロジー人材の積極採用とともに監査プロフェッショナルの「デジタル人材」育成を進め※4、現在では上場会社監査業務の97%にデータ分析ツールを利用するなどテクノロジー活用推進には一定の成果を上げることができている一方、事業環境の変化といった被監査企業ごとの柔軟かつ迅速な対応といった点では課題を感じながら進めているのも事実です。
社会そして顧客企業におけるデジタル化への対応とそのリードはますます重要度を増す中、デジタル監査の加速、そしてさらなるプロフェッショナルサービスへの進化を狙い、EYではグローバルベースで監査サービスのデリバリーモデル変革に着手しており、日本でも過去から育成してきたデジタル監査を推進するデジタル人材やテクノロジー人材といった“専門人材”をデリバリーチームに組み込んでいきます。
デジタル人材においては、従来の監査プロフェッショナルとしてのスキル・経験に加え、デジタルスキルと経験、役割を明確に定義しており、デジタル監査業務を中心に職務遂行することとなります。
デジタル人材の育成に当たっては、職階別に3つのデジタル人材選抜プログラムを用意しており、デジタル監査推進スキルやリーダーシップ力を鍛えるプログラム(1年間)にアサインし実践力を磨きます。またデジタルの専門人材としての経験や貢献を社内制度としてレベル別に認定する取組みも行っており、デジタル人材の適切な評価や配置、デジタル人材コミュニティの形成による情報流通の活性化・相互研さん、モチベーション向上などにつなげています。
専門人材としてデジタル監査を推進することで、自身のミッションがより明確になるとともに、身につけるべきスキルや実践力も明らかとなり、デジタル監査推進のコアとして、けん引力向上が期待されます。
※3 ファイナンスDXと共創するデジタル監査の新潮流(情報センサー2022年12月号 デジタル&イノベーション)
ここからはEY新日本におけるデジタル人材変革の現在地について、2024年6月に独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)から公開された、デジタル人材の確保・育成に関する取組みの全体像を時系列で整理しモデル化した「デジタル人材育成モデル※5」に照らしてご説明します。
IPAのデジタル人材育成モデルでは、次の4つのステップで育成の進め方が示されています。
EY新日本では、これまではデジタル人材をデジタル専門組織であるアシュアランスイノベーション本部に集結させ、データドリブン監査ツールの開発や監査現場への導入促進を担う橋渡しとしての推進機能を担ってきました。IPAのデジタル人材育成モデルで言うところの「3.コアメンバーの育成」に当たります。
独立組織としてデジタル人材を育成し、次代のデジタル監査・保証ビジネスモデル実現というビジョンに対し積極的な挑戦を重ねてきたことは、すでに被監査企業42社にてAI監査ツールを監査上の主要な検討事項(KAM)に記載したり、被監査企業60社にてデータ自動連携によるリアルタイム監査が実現できていたりする成果をもたらしています。それでもなお、昨今では顧客企業におけるデジタル変革がスピードアップし、結果として監査現場にもデジタル活用による監査・保証業務の付加価値向上への要望がさらに高まっており、監査・保証サービスの高度化に向けて現場部門の一層の巻き込みが必要となっている状況です。
そこで、前述のとおりデジタル人材の専任化を進めるとともに、これまで独立組織のデジタル人材として要望の都度現場に赴いていた進め方を一部変更し、監査・保証部門ごとにデジタル人材を配置する進め方に変更することにしました。
顧客企業への付加価値提供を起点としたコミュニケーションにおいては、デジタル専門組織で培われたデータアナリティクス(AIと全量データを活用したリアルタイムなリスク識別など)やオートメーション(監査手続きの自動化など)のデジタルナレッジを監査・保証現場に還元し、法人全体としてノウハウを共有するとともに、監査・保証クライアント固有の事情を反映した取組みの提案と実行力の向上が重要と考えます。
現在EY新日本では「セクターデジタル活動」として、17のセクター(業界)ごとにデジタル人材を配置し、既存の監査・保証現場の実情を踏まえながらクライアントに対する付加価値提供を目指す活動を進めています。独立したデジタル専門組織ゆえに機動力が高く挑戦的に進められた点もあるEY新日本のデジタル変革ですが、いよいよ既存の監査・保証事業との本格的な融合、そして深化を狙うフェーズであると考えています。
これまでは公認会計士である監査人が、監査業務の知見に加え、デジタルをはじめとした幾つもの業務知見を幅広く理解する必要がありました。今後も一定のデジタルリテラシーは当然持ち続ける必要がある一方(<図2>参照)、これからは既存の監査・保証現場の中にデジタル人材が配置されるため、より専門的なデジタル監査領域については、現場を熟知したデジタル人材に委ね、それぞれが専門家としてスキル・経験値を高めワンチームでの価値提供を行う体制とすることで、クライアントへの価値提供の品質・スピードともに向上させる狙いもあります。
Assurance 4.0という次世代のビジネスモデルを実現そして、クライアントと社会に対する付加価値提供の実現に向けて、引き続きデジタル人材への変革を進めてまいります。
※5 独立行政法人情報処理推進機構(2024年)デジタル人材育成モデル~DXを推進する企業におけるデジタル人材確保・育成の全体像とそのステップ~ www.ipa.go.jp/jinzai/skill-transformation/eid2eo0000002gmp-att/2023hrwg.pdf(2024年10月24日アクセス)
私たちは、Assurance 4.0の理念のもと、これからも顧客企業ともにデジタル監査を進め、より効果的で深度ある監査やインサイトの提供を実現することで、監査・保証の品質を高め、資本市場の信頼性向上に寄与することを目指します。これらの取組みは単なる監査プロセスの効率化を超え、監査法人ならびに顧客企業のビジネスモデルそのものに革新をもたらす可能性を秘めていると考えます。
また、サステナビリティを含む企業情報開示の重要性が高まる中、テクノロジー人材と連携しデータドリブン監査をリードする監査プロフェッショナルであるデジタル人材の活躍領域はさらに広がっていると考えます。
EY新日本ではデジタル人材が持つスキルと実践力を最大限に発揮し、顧客企業とともに新しい時代を切り開いていくために、引き続き人材育成への投資を行い、監査・保証を次なるステージへと進化させます。
【共同執筆者】
EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 公認会計士 池山 允浩
EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 公認会計士 工代 哲大
EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 テクノロジーストラテジスト 横山 真由子
デジタル社会の健全な発展や資本市場の信頼性向上を目指し、EY新日本が掲げる次代の監査・保証のビジネスモデル「Assurance 4.0」。このコンセプトを支えるデジタル人材について、育成の取組みや今後の展望を紹介します。
EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。