2. 輸送
貯留適地が近接しない地域では、船舶による輸送、とりわけ国際越境での対応が重要です。輸送における制度設計や経済性評価・技術開発が求められます。
「貯留適地が国ごとに異なる中で、越境によるCO₂輸送・貯留は現実的な選択肢となりつつあります。特にアジア太平洋地域では、CCUS均等化コストが140〜290ドル/tCO₂のレンジで推移しており、Hard-to-Abate産業の脱炭素手段として有望視されています。一方で、国際ルールの未整備や責任分担の不明確さといった制度面の課題がボトルネックとなっています」(山脇)
一部の国内排出事業者にとって、CCUSのコスト競争力は高まりつつあり、他の脱炭素化手法に対するCCUSの優位性も見え始めています。山脇は「日本がアジアにおけるCCUS推進の中心的な役割を担う可能性もある」と示唆しました。
3. カーボンリサイクル(CCU)の市場形成
CCUは、CO₂を単なる排出物ではなく資源として捉え、燃料や化学品、鉱物などの有価物に変換・固定化し、有効活用することで社会全体の負担軽減につながると期待されています。一方で、現状の市場動向を見ると、分野ごとに導入状況には大きな差があります。
<分野別の状況>
- 燃料(SAF):国際航空分野の排出削減制度であるCORSIAに基づく10%混入義務化を背景に、高値で取引が行われているものの、実際の導入はバイオ燃料などの比較的コストの低い手段から選択的に進められているのが実情
- 化学品:一部の環境意識の高いグローバル企業によって、高価格で取引されるケースも存在
- 鉱物(コンクリート):既存製品からのコストアップは他技術より限定的であるものの、公共事業を除くと、インセンティブ不足によって導入が進まないことが課題
こうした中で、炭酸飲料やドライアイスなどの直接利用分野は、全国で100万トン以上の既存需要があり、比較的高価格で取引されていることから、早期に経済性を成立させることができる可能性が高いと考えられています。今後は、こうした直接利用分野から段階的に導入を進めつつ、大規模CCUSプロジェクトと連携しながら、スケールメリットや部分的な利用によるコスト削減と需要創出が求められます。
CCUS事業化の現実と政策の方向性を読み解く
後半では、視聴者から寄せられた質問をもとに、刀禰氏と山脇によるトークセッションが行われました。
Q:日本におけるCCS事業展開について、JOGMECの支援を受けていない民間企業でも実施は可能なのでしょうか。
「CCSはJOGMECの支援を受けている事業に限定されるものではなく、民間企業でも検討・実施することは可能です。ただし、CO₂の貯留や輸送については許可制で、国の規制対象となります。」(刀禰氏)
Q:欧州で一部のCCSプロジェクトに遅延の動きが見られる中、日本の政策にも影響はあるのでしょうか。
「欧州では、一部プロジェクトで交渉が難航していると聞いていますが、すでに進行している既存プロジェクトは継続しています。各国とも、原則として大きな政策転換は行っていません」(山脇)
「日本においても政策の方針転換はなく、2050年に向けてCCUSの取り組みは継続しています。」(刀禰氏)
Q:CCUSの活用について、政府が民間に対して特に期待を寄せている産業分野を教えてください。
「エネルギー安全保障の観点から、化石燃料を使う鉄鋼や石油精製、石油化学などの基幹産業は今後も維持していく必要があります。一方で、同時に脱炭素化も進めなければなりません。その両立を図る手段として、CCSへの期待が高まっています。今後は、こうした分野を中心に重点的な支援を行っていく方針です」(刀禰氏)
Q:CCUS市場の拡大が予想される中で、アドバイザー視点で注目する領域を教えてください。
「例えば、国際航空分野の炭素排出削減制度であるCORSIAにおけるSAF(持続可能な航空燃料)の混入規制や、合成メタンに関する託送料金制度など、制度整備が進みつつある分野では、ビジネス機会が見込まれ始めており、企業の関心も高まっています。また、建物や衣料などの分野においては、一定の環境価値が市場から評価され、それに対して対価を得ることが可能な領域を起点として、市場は段階的に拡大していくと見ています」(山脇)
Q:CCS事業化において、貯留ガスの漏えいや土壌汚染などのリスクマネジメントの観点から重要なポイントを教えてください。
「まず重要なのは、CCS事業法に基づく安全管理や保安規制の徹底です。その上で、貯留リスク、漏えいリスク、あるいは想定通りにCO₂が回収できないといったクロスチェーンリスクも含めて、さまざまなリスクに対しながら、官民が連携していくことが求められます。引き続き、業界の皆さまとも意見交換しながら、事業基盤を整えていきたいと考えています。」(刀禰氏)