AI時代のスキルベース組織を動かすリスキリングと人材マネジメントとは

AI時代のスキルベース組織を動かすリスキリングと人材マネジメントとは


「AIと人間が本格協働する近未来─メガトレンドから読み解く新たなリスキリングと人材ポートフォリオ変革─」イベントレポート(2026年6月5日開催)

経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)」によると、近い将来、日本では437万人の事務職が余剰人員になるとされています。AIが普及して「労働の自動化」が従来の働き方に変革を迫ろうとしている今、企業はどう対応すべきか。リスキリングやスキルベース組織の観点から実践事例を交えて探ります。


要点

  • AIの進展に伴い「労働の自動化」が進む中、企業はスキルベース組織への転換を図り、個人は学際的スキルを習得することが、今後重要となるリスキリングの方向性である。
  • 若手を中心にスキルの低下や「経験の空洞化」が懸念される一方、豊富な経験を持つ中高年層にはリスキリングによる「労働寿命の延伸」が期待される。
  • あるべき人材ポートフォリオをスキルベースで可視化して管理する仕組み、すなわち「スキルベース人材マネジメント」の重要性が高まっている。


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実は中高年の未来を明るくするAI普及とリスキリングの効果

労働の自動化、スキルベース組織への変革、経験の空洞化、そしてキャリア・ロンジェビティ(労働寿命の延伸)──。 これらのキーワードから、AIエージェント時代におけるリスキリングの意味が見えてきます。


日本におけるリスキリング分野の第一人者で、政府・自治体への政策提言や企業への導入支援に豊富な実績を持つ一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 後藤宗明氏をお招きしてのオープニングセッション。その冒頭で、モデレーターを務めたEY Asia East / Japan ピープル・コンサルティングリーダーの鵜澤慎一郎は、次の3つの「問い」を提示。それぞれに対する後藤氏の見解を引き出しながら、セッションを進めていきました。

 

1)AIエージェント時代の到来で何が変わるのか?

2)深刻な人材要件ギャップはリスキリングで埋められるか?

3)AIがもたらす「経験の空洞化」時代に各世代をどう育成すべきか?

AIエージェント時代の到来で何が変わるのか?

「SaaS is dead」の言説に象徴されるように、生成AIやAIエージェントの進展により、従来は人間が操作して管理してきた業務システムやアプリケーションの在り方が大きく変わろうとしています。人事領域のHRテクノロジーも例外ではなく、その先行きに対する企業の期待や不安が顕在化しています。現に、海外ではコールセンター業務の大半がAIに置き換わり、余った人員のリストラや配置転換を進める動きも見られようになりました。そうした時代に、人々の働き方や労働生産性はどう変わるのか、企業の人事組織戦略はそれにどう応えるのか──。

鵜澤のその問題提起に対して、後藤氏は、AIエージェントやフィジカルAI(機械やロボットと結びついて行動・判断するAI)などの進化に伴い加速する「労働の自動化」により、社会では「技術的失業」が進む中、企業においてはそれを踏まえた「スキルベース組織への変革」が欧米を中心に起きていると指摘。そこでは、人間のものとして残るスキルと、AI活用の進展により不要となるスキルの判別が進みつつあるといいます。

「その上で、個人に望まれる対策として注目されているのが『学際的スキル(IDスキル)』の習得です。すなわち、人間に残るスキルに、新たなスキルをリスキリングによって掛け合わせ、未解決の課題解決や新しい価値創造、新たな職種創出を実現させる取り組みです。1つのテーマを深化させるAIに対して、人間は『問いを立てる力』を強めなくてはなりません。それには異なる分野の知識を統合し、複数の視点、経験から得られるスキルを備えることが重要なのです」(後藤氏)

一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 後藤 宗明 氏
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ
代表理事 後藤 宗明 氏

また、同時に、労働の自動化にあらがうのではなく、自ら進んで自分のスキルを自動化し、その先にある新たなキャリア像に近づいていく自己変革や、AIやロボットと協働しながら、長く健康に働き続けるための「ロンジェビティ・スキル」が重要になるとのこと。加えて、スキルベース組織における「戦略的人員計画」として、「4Bs(Build、Buy、Borrow、Bot)フレームワーク」の構築が求められると述べました。

「これまでの人事施策の基本であった、育成(Build)、採用(Buy)、外部委託(Borrow)の3つに自動化(Bot)を加え、4つの軸からスキルの在り方を再構築する。そうしたワークフローの策定が、世界的動向となっています」(後藤氏)
 

深刻な人材要件ギャップはリスキリングで埋められるか?

では、そのリスキリングは、自動化によって余儀なくされる人材の流動化や配置転換の流れに対し、どれだけ有意に作用するのでしょうか。経済産業省が2026年3月に発表した「2040年の就業構造推計(改訂版)」によると、「AIやロボット等の利活用を担う人材」が約339万人の不足となる一方、事務職では約437万人の余剰が生じるなど、職種・学歴・地域間での需給ミスマッチが予測されています。しかし、事務職の人がリスキリングによって、AI・ロボット関連の専門職に転身するのは容易なことではありません。あるいは、同様に不足が予想される現場人材として、事務職から無理なく配置転換することはできるでしょうか。

「現実問題、そう簡単にはいかないと、多くの企業のご担当者がおっしゃいます。同じことは理系・文系についても言え、文系出身者の就職難が危ぶまれています。事実、米国では有名校のMBA取得者でさえ働き口に困る現象が起きています。そのような時代に、どうすれば生き残れるのか、企業の人材開発はどうあるべきか。人間が学び直す以上の速さでAIが進化する中で、どうすれば有意なリスキリングが可能になるのでしょう」(鵜澤)

EY Asia East / Japan ピープル・コンサルティングリーダー  EYストラテジー・ アンド・コンサルティング株式会社 パートナー 鵜澤 慎一郎
EY Asia East / Japan ピープル・コンサルティングリーダー
EYストラテジー・ アンド・コンサルティング株式会社 パートナー 鵜澤 慎一郎

これに対して後藤氏は、残念ながら「間に合わない」人が出てくる可能性も否めないとして、「全員育成、全員活躍」の組織風土を持つ日本企業といえども、全ての従業員に寄り添うことがかなわなくなるのが現実だといいます。しかし、だからこそ注目すべきは「いつリスキリングを始めたか」であり、その意味でもリスキリングの重要性がこれまで以上に高まることは間違いないと強調しました。

「もう一つ注目したいのは、先ほども触れた『人間に残る』部分です。人が働くためにはマインドセット、スキルセット、ツールセットの3つが必要だといわれており、このうちスキルとツールはAIで自動化が可能ですが、マインドは人間の領分です。AIエージェントを何にどう使い、どう管理するか。AI利活用の取捨も含めて、その主体性を握っているのは人間です。ソフトスキルさえも自動化可能になる時代において、マインドや主体性、野生の勘的なものをどう育成するのか。原点回帰のようなこの議論が、今まさに人事やリスキリングにまつわるさまざまな場で行われているところです」(後藤氏)
 

AIがもたらす「経験の空洞化」時代に各世代をどう育成すべきか?

最後のテーマは「経験の空洞化」。若手にとって、さまざまな経験値の糧となる事務処理や基本業務の大半をAIがこなすようになったとき、その実務経験の土台を欠いた人材にいきなり高度な判断や管理を任せていいものでしょうか。

後藤氏によれば、米ペンシルベニア大学の調査でも生成AI導入がもたらす「従業員のスキル低下」が実証されるなど、この現象は国際的にも避けられない流れとして認識されているようです。これには3つの段階があり、まず自動化技術の導入でその業務自体からスキルが不要になる「スキル空洞化」、次に自動化技術に頼ることで人間のスキルが衰えていく「スキル退化」、そしてスキルとしての市場価値が失われる「スキル陳腐化」へと至ります。これに対して、米国ではすでに「若手は育てず、即戦力を使う」傾向にあり、日本でそれが妥当か否かはともかく、現実的に若手を育てる余裕が持てない企業が現れる可能性は高いと後藤氏はみています。

「そうであれば、逆に十分な経験と判断力がある半面、テクノロジーに疎い中高年世代にとって、もしも技術を使いこなすスキルさえ得られるなら、明るい未来が開かれるとみることはできないでしょうか」(鵜澤)

「それがまさに、私の提唱する『健康で長く働き続ける力』=『キャリア・ロンジェビティ(労働寿命の延伸)』の核心であり、すでにシンガポール政府が重要性を喧伝するなど世界の潮流となりつつある考え方です。これからは、中高年がAIエージェントを使えることの意味が極めて大きくなる。なぜなら、経験値があるからです」(後藤氏)

これを受けて鵜澤は、日本においても近い将来、従業員の雇用義務年齢が70歳まで引き上げられる可能性に言及。労働力活性化のポジティブな未来に光を当て、オープニングセッションを締めくくりました。


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スキルベース人材マネジメントでキャリアに花を咲かせよう

人材育成体系の再構築、スキルベース人材マネジメントの確立を実践し、企業のミッション・ビジョン・バリューの体現に成果を上げるヤンマーグループの取り組みに焦点を当てました。


企業と社員の未来を創る「人材育成体系」の再構築

続いて登壇したのは、ヤンマーホールディングス株式会社 エンプロイーサクセス本部 人事部で採用・人材育成、組織開発などを担当する司尾(しお)龍彦氏です。ヤンマーは農業機械用小型ディーゼルエンジンの開発に端を発し、船舶、建設機械、エネルギーシステムなどと発展してきた110年を超える歴史ある企業です。国内に加え、欧米・アジアに115のグループ会社を持ち、約2万7,000人の従業員が働く同社グループでは今、「2040年までに新規事業領域で売上高2,000億円規模の上積み達成」を目標に、「グローバルでの顧客価値創造企業への変革」を目指した取り組みが進行中だといいます。

「そのためには、専門人材の育成・確保をはじめ、社員が最大限に活躍できる組織・制度をつくらなくてはなりません。そこで人事部では①マインドセット変革②機動的な組織体制の構築③専門スキル人材の育成と次世代経営人材の選抜・育成④グローバル人材情報の一元化・見える化―という4つのキーテーマを設けて、人材育成体系を再構築する方策を立てました。この育成体系には、自分のキャリアに花を咲かせるという意味で『HANASAKA UNIVERSITY』の別称を付けまして、3つの重点テーマに沿った取り組みを進めているところです」(司尾氏)

ヤンマーホールディングス株式会社 エンプロイーサクセス本部 人事部 人材開発グループ 課長 司尾 龍彦 氏
ヤンマーホールディングス株式会社
エンプロイーサクセス本部 人事部 人材開発グループ 課長 司尾 龍彦 氏

その重点テーマとは、第一にチャレンジを実現する自律型人材を創出することであり、キャリアモデル(目標)の設定やサポート、ラーニングハブ(学びや)の導入などが含まれます。第二はグローバルトップレベルのプロフェッショナル人材を育てること。専門委員会のもと、機能別に必要となるスキルの設定や、その開発支援、高度専門人材の認定などを行います。第三として、ヤンマーグループ全体としての教育研修体系の再構築。従来は企業ごとにまちまちだった仕組みを一元化し、海外を含めてどこでも同じ教育が受けられるよう改善中です。
 

人材ポートフォリオをスキルベースで可視化する方法

こうした方針により、特にプロフェッショナル人材育成のために同社グループが注力しているのが、スキルベース人材マネジメントの確立です。経営戦略や事業戦略、ビジネスの動向や労働市場の動きなども織り込んだ上で、将来に向けて求められる人員計画を質と量の両面から策定。そこから導かれたあるべき人材ポートフォリオに対し、現状の人員体制には何が足りていないのか。そのギャップを分析し、採用・配置・評価・報酬・育成へとつなげていくスキームです。

「それら全てをスキルベースで管理することが、私たちの仕組みの眼目です。例えば、ファイナンス部門の財務グループで資金管理を担当する専門職の望ましい人員が、人材ポートフォリオ分析の結果3人であるべきところ、現状では1人で回していることがわかったとします。不足する2人をどう充当するか。その職務に必要なスキルを確認した上で、内部で育成するか、他部門から配置するか、新たに採用するかといった選択を迅速に検討することが可能になります。要は、事業や機能ごとに、人員の過不足状況をスキルベースで可視化するわけですが、これにはそれぞれの職種に求められる専門スキルと、その習熟度についての定義を明確にしておかなければなりません」(司尾氏)

司尾氏はまた、この仕組みを従業員の側から見た場合、個々人の成長をスキルベースで支える仕掛けとして機能するのが利点だといいます。入社当初、従業員はまず現状の自分のスキルを把握すると同時に、会社からは将来の役割や必要スキルを示したキャリアモデルを提示します。そこで自分の目指す目標を定めたら、現状とのギャップを埋めるための教育研修を自ら選択し、ステップとなる職種への異動を希望するといった、それぞれの「夢・目標」へと向かう自律的な歩みが可能となるからです。
 

社員の自律的学習と成長を促す人材育成フロー

次に司尾氏は、スキルベース人材マネジメントの骨格をなす要素として①スキル評価②教育マップ③高スキル人材認定―の3つを提示。教育マップとは、「財務分析力」「情報リテラシー」といったスキルごとに定義とレベルを定め、個々のレベルに到達するのに必要な研修コンテンツを明示したもので、従業員はこれを見て育成計画を立て、必要な研修を自分で選ぶことができます。同社グループでは、これらの要素をCDP(キャリア・ディベロップメント・プログラム)として統合。以下の5段階によるサイクルを回すことをもって、従業員の成長を支えるフローを形成しています。

ステップ1:機能・職種・専門スキルの定義
ステップ2:個人別スキルレベル評価、目標設定
ステップ3:育成計画と実行
ステップ4:CDP委員会で審議(高ランクスキル)
ステップ5:専門職の認定(高ランクスキル)

なお、同社グループでは技術系については30年以上前からスキルベースの考え方を導入。常にアップデートを継続し、現在は4機能・31職種・65スキルを設定しているのに加え、未整備だった管理系・営業サービス系にも2024年に着手、これまでに16機能・79職種・約400スキルの設定を終えているといいます。

「これらのスキルは陳腐化しないよう、常に見直すことが鉄則。また、グローバルで通用するよう世界共通スキルの視点を持たせているのが特徴です」(司尾氏)
 

おろそかにできない社内コンセンサスと企業カルチャー

セミナーはこの後、モデレーターにUdemy Inc.の大塚涼右氏を迎えての対話セッションへと移行。Udemyは世界的に展開するオンライン学習プラットフォーマーであり、日本ではベネッセコーポレーションとの業務提携によりサービスを提供。ヤンマーグループにおいても、CDPに基づく研修コンテンツの一部に採用しています。

大塚氏は、スキルベース人材マネジメントの構築過程における管理職の関与や、従業員の自律的な学びを定着させる上での社内カルチャーの醸成について重要性を指摘。これに対して司尾氏からは、今回の変革において現場リーダーの理解と協力は不可欠であり、時間を掛け、対話を重ねながらコンセンサスを得てきたこと、自律学習の気風を培うため、HANASAKA UNIVERSITYにひもづくイントラ教育サイトの構築や、年間100人規模の従業員インタビューを進めていることなどの紹介がありました。

Udemy Inc. Director of Sales & Partner Success, Japan 大塚 涼右 氏
Udemy Inc. Director of Sales & Partner Success, Japan 大塚 涼右 氏

「自律学習のサポートにAIを活用し、個々の従業員がAIとの対話を通じて必要なスキルやキャリアパスについて示唆を得られるような仕組みも実現できたらいいですね」。司尾氏は最後にそう述べるとともに、国内で先行させてきたスキルベース人材マネジメントのグローバル展開にも意欲を見せて、大塚氏とのセッションを終えました。


書籍
『スキルベース組織の教科書』

スキルベース人材マネジメント転換の具体的な方法を、日本の先進企業の事例や最新スキルテック企業の事例を交えて、第一線のコンサルタント集団が解説いたします。

無料一般公開中
「【セミナー動画】スキルベース人材マネジメントによる組織力の最大化」

ピープル・コンサルティングリーダーの鵜澤 慎一郎が、「スキルベース組織」の可能性や課題を解説したセミナーをYouTubeで公開中です。


https://youtu.be/Pa5PM566myE




お問い合わせ
より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。


サマリー 

AIと人間が協働し、ともに本格稼働する時代に求められるもの。企業にとってそれはスキルベース組織への転換であり、個々のスキルに目を向けた新しい人材マネジメントの構築です。その中で、リスキリングと自律学習によって「労働寿命の延伸」が実現する時代が近づいています。


ニュースリリース

EY Japan、『スキルベース組織の教科書』が「HRアワード2025」書籍部門に入賞

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 近藤 聡)は、日本能率協会マネジメントセンターより出版した書籍『スキルベース組織の教科書』が日本の人事部「HRアワード2025」(主催:「HRアワード」運営委員会、後援:厚生労働省)の書籍部門に入賞しましたのでお知らせいたします。

EY Japan + 1

EY Japan、日本市場で初めてスキルを起点にした新たな人材マネジメント手法を包括的に解説する『スキルベース組織の教科書』を出版

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 近藤 聡)は、2025年4月28日、日本能率協会マネジメントセンターより書籍『スキルベース組織の教科書』を出版します。

EY Japan + 1

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