銀行業 第2回:銀行業の経理・財務諸表の特徴

EY新日本有限責任監査法人 銀行・証券セクター
公認会計士 武田 直大

銀行業は、預金業務、貸出業務、為替業務といった業種固有の業務を営むなど、一般事業会社と様々な面で異なっており、その特殊性から、銀行業における経理、及び、財務諸表については、銀行業施行規則において固有の取扱いが定められています。

第2回においては、銀行業の経理の特徴について触れるとともに、事業会社と異なる財務諸表の様式についても取り上げます。


1. 銀行業の経理

銀行業の経理については、銀行法第3章(経理)においてその定めがあり(銀行法第17条~第23条)、ここでは代表的な取り扱いについて以下の四つを取り上げます。

銀行法上の規定

規定の主な内容

第17条
(事業年度)

銀行の事業年度は、4月1日から翌年3月31日までとされている。

第18条
(資本準備金及び利益準備金の額)

銀行は、剰余金の配当をする場合には、剰余金の配当により減少する剰余金の額に5分の1を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金として計上しなければならない。

第19条
(業務報告書等)

銀行は、事業年度ごとに、業務及び財産の状況を記載した中間業務報告書及び業務報告書を作成し、内閣総理大臣に提出しなければならない。

第21条
(業務及び財産の状況に関する説明書類の縦覧等)

銀行は、事業年度ごとに、業務及び財産の状況に関する事項として、中間事業年度に係る説明書類、及び、当該事業年度に係る説明書類を作成し、公衆の縦覧に供しなければならない。

銀行法第18条においては、剰余金配当時の準備金の計上に係る特別な取り扱いが規定されており、銀行の健全性を確保する見地から、一般事業会社に比してより強固な準備金の積み上げが要求されています。具体的には、剰余金の配当をする場合に、準備金(資本準備金又は利益準備金)の額が資本金の額に達するまで、配当する剰余金の額の5分の1を準備金として計上することが求められています(銀行法施行規則第17条の7の4)。

一般事業会社の取り扱いとの対比をまとめると、以下のとおりです。

 

銀行

一般事業会社

配当に伴う準備金計上限度額

資本金の額から、準備金(資本準備金又は利益準備金)を控除した額

資本金の額の4分の1から、準備金(資本準備金及び利益準備金)を控除した額

準備金計上必要額

配当する剰余金(その他利益剰余金又はその他資本剰余金)の額の20%

配当する剰余金(その他利益剰余金又はその他資本剰余金)の額の10%

なお、銀行持株会社(銀行を子会社とするホールディングス会社)の剰余金の配当に伴う準備金の計上は、一般事業会社と同様の取扱いとなります。

また、銀行法第19条においては、銀行業固有の報告書類である業務報告書等が定められており、中間事業年度及び事業年度において、業務及び財産の状況を記載した業務報告書(中間業務報告書)を作成することが求められています。銀行法第21条はディスクロージャーに関する規定となり、銀行は、業務及び財産の状況に関する説明書類、いわゆる「ディスクロージャー誌」を作成し、公衆の縦覧に供することが求められています。

2. 銀行業の財務諸表と勘定科目

(1) 別記事業

会社法や金融商品取引法に基づき作成する財務諸表は、一般的には、会社法であれば会社計算規則、金融商品取引法であれば財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、財務諸表等規則)等に基づき作成されます。これらの規定は一般事業会社を念頭に置いており、特殊な事業を営む会社に一律に適用することは適さない場合があります。そのような特定事業を営む会社に関しては、その業界特有の会計処理や科目等を定める必要性から、会社計算規則や財務諸表等規則等をそのまま適用せずに、一部、固有の取扱いに拠ることとされており、対象となる特定事業については、財務諸表等規則の別記において掲記されております。別記に掲げられていることから、これらの事業に関しては別記事業と呼ばれています。

銀行業に関しても、「銀行・信託業」として財務諸表等規則別記に掲げられていることから、別記事業として、銀行業特有の会計処理を反映する必要があります。

財務諸表等規則 別記 (一部抜粋)
三 銀行・信託業

具体的には、銀行法施行規則において詳細な内容が規定されており、銀行業が作成する財務諸表の用語、様式及び作成方法は、銀行法施行規則の内容も考慮する必要があります。これは、会社法に基づき計算書類等を作成する場合でも、金融商品取引法に基づき有価証券報告書を作成する場合でも同様です(会社計算規則第118条、財務諸表等規則第2条)。

(2) 銀行業特有の財務諸表の様式と特徴的な勘定科目

前述のとおり、銀行業固有の財務諸表の用語、様式、作成方法は、銀行法施行規則に準拠する必要があり、単体の財務諸表であれば、別紙様式第3号や第3号の2等に準拠する必要があります。

以下では、銀行業の貸借対照表、損益計算書に係る代表的な様式と、特徴的な勘定科目について取り上げます。

ここで、銀行業の貸借対照表、損益計算書の一例として、銀行法施行規則別紙様式第3号の2に掲記されている様式は以下のとおりです。

一般事業会社の財務諸表の様式と大きく異なり、銀行業特有の資金科目であるコールローンや買現先勘定等が記載されているなど、固有の勘定科目が多数記載されておりますが、ここでは特徴的な取り扱いとして、主に以下の四つを取り上げます。

a. 流動固定分類のない貸借対照表

銀行業の貸借対照表においては、流動固定分類がなく、資産を流動資産と固定資産、負債を流動負債と固定負債に分ける必要はありません。

b. 現金預け金、預金

一般事業会社においては、預金は金融機関に対して預け入れているお金を指し、貸借対照表において資産の部として計上されます。一方、銀行業における預金は、預金者から預け入れられているお金を指し、資金調達の源泉であって、将来返済する必要があることから、貸借対照表において負債の部として計上されます。なお、銀行が他の金融機関に対して預け入れているお金は、預け金として貸借対照表の資産の部に計上されます。

c. 支払承諾見返、支払承諾

銀行が実施する債務保証は、特定の債務者が債務不履行等に陥った時に、債務者に代わって債務を履行し、当該債務者に対する求償権を得るというものです。

ここで、一般事業会社が実施した債務保証は、いわゆる偶発債務として、損失発生の可能性が高い場合には引当計上が行われますが、それ以外には必要に応じて注記等が求められ、一律に貸借対照表に記載することは認められていません。

一方、銀行が行う債務保証は、その主要業務である与信業務の一形態であり、その金額も大きいことから、銀行法施行規則により貸借対照表能力が与えられています。具体的には、銀行が債務者に対して負う保証債務は支払承諾として負債の部に計上されるとともに、債務者から得る求償権は、偶発債権として支払承諾見返という名称で資産の部に計上されることとなります。

d. 経常収益、経常費用

銀行業の損益計算書に関しては、一般事業会社のように売上高の区分がなく、これに相当するものとして経常収益の区分から損益計算書が始まっており、資金運用収益などがこれに含まれます。また、経常収益に対応する費用は経常費用の区分に含められるとともに、経常収益から経常費用を差し引いた額が経常利益(又は経常損失)として計上されます。

従って、一般事業会社における売上総利益や営業利益といった段階利益は、銀行業においては計上されないこととなります。


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