銀行業 第3回:ヘッジ会計

EY新日本有限責任監査法人 銀行・証券セクター
公認会計士 格嶋 文也

1. 銀行業特有のヘッジ会計に係る会計基準等

銀行業においても、一般事業会社同様、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、金融商品会計基準)及び移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、金融商品実務指針)に則ったヘッジ会計を適用することが原則となります。しかしながら、小口多数の預金・貸出金等の多数の金融資産及び金融負債を保有している銀行業のリスク管理手法や取引慣行等を考慮すると、金融商品会計基準及び金融商品実務指針をそのまま適用することが適切でないケースも想定されます。このため、銀行業におけるヘッジ会計の適用にかかる具体的な取扱いを明らかにする必要性から、「銀行業における金融商品会計基準適用に関する会計上及び監査上の取扱い」(業種別委員会実務指針第24号)(以下、第24号)が日本公認会計士協会より公表されています。


2. 銀行業特有のヘッジ会計の取扱い

銀行業で適用が認められる第24号におけるヘッジ会計の取扱いと、金融商品実務指針等(金融商品会計基準、金融商品実務指針及び移管指針第12号「金融商品会計に関するQ&A」(以下、金融商品Q&A))との比較は、以下のとおりです。

基準

第24号

金融商品実務指針等

ヘッジ取引の種別

公正価値ヘッジ(FVH)

キャッシュ・フロー・ヘッジ(CFH)

FVH/CFH

包括ヘッジ要件

通貨種類ごとにグルーピングを行い、イールドカーブが通常の状態である場合、1年以内のグルーピングであれば、通常は金利リスクに対する反応が同一グループ内の個々の資産又は負債との間でほぼ一様であると取り扱うことができる(第24号2(1))。※1

下記の基準をグルーピングの判定基準として利用することができる(第24号2(6))。※2

① 回帰方程式y=ax+bのaが1に近似していること

② 決定係数(r2)が0.8以上であること

個々の資産又は負債の時価の変動割合又はキャッシュ・フローの変動割合が、ポートフォリオ全体の変動割合に対して、上下10%を目安にその範囲内にある場合は、個々の資産又は負債はリスクに対する反応がほぼ一様であるものとして取り扱う(金融商品実務指針第152項)。

有効性評価方法

ヘッジ対象について1年以内の期間により残存期間のグルーピングを行い、ヘッジ手段についてヘッジ対象と同様の期間によるグルーピングを行った上でヘッジ指定を行っている場合には、ヘッジ対象とヘッジ手段双方の理論価格の算定に影響を与える金利の状況を検証することをもって、相場変動の累計によるヘッジ有効性の評価に代替することができるものとする(第24号2(2))。※3

下記の基準をヘッジ有効性の判定基準として利用することができるものとする(第24号2(5))。※4,5

① 回帰方程式y=ax+bのaがヘッジ指定時に想定した数値に近似していること(例えば、ヘッジ比率が1の場合にはaは1に近似すること)

② 決定係数(r2)が0.8以上であること

原則として、ヘッジ開始時から有効性判定時点までの期間において、ヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とを比較し、両社の変動額の比率がおおむね80%から125%までの範囲内にあれば、ヘッジ対象とヘッジ手段との間に高い相関関係があると認められる(金融商品実務指針第156項)。

部分的なヘッジ指定

ヘッジ対象に対する期限前償還リスクを除いた部分をヘッジ対象としたヘッジ取引を行う場合において、残存期間ベースでの管理及び実際の期限前償還率が当初見込んだ期限前償還率を上回っていないことの事後的な検証が行われている場合には、ヘッジ会計適用の要件を満たすものとする(第24号2(3))。※6

具体的な取引や取引種類を指定せず、元本総額のみを指定する方法によるヘッジ指定であっても、予定取引を含めヘッジ対象資産又は負債が存在する限りにおいてヘッジ会計適用の要件を満たすこととなる。なお、ヘッジ対象となり得る予定取引の判断基準については、金融商品実務指針第162項によることに留意する(第24号2(7))。※7

ヘッジ指定は、ヘッジ対象の金額の一定割合又はヘッジ対象の保有期間の一部の期間のみを対象として行うこともできる(金融商品実務指針第150項)。

ヘッジ会計の終了

包括ヘッジの一部を構成するヘッジ対象の減少が、ヘッジ対象であるポートフォリオ全体から平均的に発生したものとみなし、当該時点までに繰り延べられていたヘッジ手段に係る損益又は評価差額全額について、当該時点のヘッジ対象の帳簿価額等、金融商品実務指針第173項に列挙される方法を基礎として当期の損益に配分することができる(第24号2(4))。

包括ヘッジにおいて、ヘッジ対象である資産又は負債の一部が中途解約や売却等により消滅した場合、ヘッジ対象が消滅した部分のみについてヘッジ会計の終了があったものと考え、包括ヘッジの残りの部分についてはヘッジ会計を継続する。この場合、金融商品実務指針第173項に記載の方法のいずれかに基づき、ヘッジ手段に係る損益又は評価差額の配分が行われる(金融商品Q&A Q52)。※8

連結会社間取引及び内部取引※9

連結会社会社間取引についてヘッジ会計を適用するに当たっては、原則、金融商品実務指針第163項及び第164項に従い処理を行い、内部取引については、これらに準じて処理することになる(第24号3(1))。一方で、恣意性を排除し厳格なヘッジ運営が可能と認められる対外カバー取引の基準(例えば、必ず3営業日以内に内部取引と同条件のカバー取引を実施すること等)を定め、当該基準に従った運営を条件として、連結会社間取引及び内部取引から生じた収益及び費用を消去しなかった場合でも、監査上妥当な会計処理を行ったものとして取り扱うことができる(第24号3(2))。

以下、ヘッジ対象が連結会社間取引である場合(金融商品実務指針163項)、及びヘッジ手段が連結会社間取引である場合(金融商品実務指針164項)に関する取扱いとなる。

連結会社間取引をヘッジ対象として個別財務諸表上繰延処理されたヘッジ手段に係る損益又は評価差額については、連結上、修正を行い、ヘッジ関係がなかったものとみなして当期の純損益として処理する(金融商品実務指針第163項)。※10

また、連結会社間で行っているデリバティブ取引が個別財務諸表上でヘッジ手段として指定されている場合、連結上は当該デリバティブ取引を消去し、ヘッジ関係がなかったものとして処理する(金融商品実務指針第164項)。※11


※1 
銀行業においては、市場金利の変動に伴う理論価格の変動について、ベーシス・ポイント・バリュー(BPV)やデュレーションといったリスク指標に集約して管理を行うのが一般的であり、個々の資産又は負債ごとのリスク指標を満期までの期間(残存期間)を基準として集計し、計測している場合には、包括ヘッジの要件である、金利リスクに対する反応が同一グループ内の個々の資産又は負債との間でほぼ一様であることがある程度担保されることが推測されます。
 

※2 上記の回帰分析をグルーピングの判定基準として利用する場合にも、グルーピングの判定方法(データ採取方法、期間等を含む。)を銀行のヘッジ方針に照らし合理的に定め、当該方法について合理性の検証を含め文書化の上、継続的に適用されていることが必要です。
 

※3 貸出金等、市場価格のない金融資産の理論価格は将来キャッシュ・フローを、市場利子率で割り引くことにより算定されるため、信用リスクの変動を除外すれば、理論価格の変動の累計は、ヘッジ開始時点の市場金利とヘッジ有効性判定時点の実勢市場金利との差からもたらされることを背景としております。
 

※4 回帰分析をヘッジ有効性の評価に利用する場合には、適切なヘッジ有効性の評価方法(データ採取方法、期間等を含む。)を銀行のヘッジ方針に照らし合理的に定め、当該方法に関する合理性の検証を含め文書化の上、継続的に適用することが必要です。また、回帰分析によるヘッジ有効性の評価方法においても、金融商品Q&A Q53に示されているような、既に経過した期間についての金利インデックス実績のみを対象とする方法や、既に経過した期間についての金利インデックス実績と未経過の期間の理論先渡金利(インプライド・フォワードレート)等も含めて対象とする方法があります。事後テストとして回帰分析を行うこととし、後者の方法を採用した場合、5年物の金利スワップ取引の6か月経過時点でのヘッジ有効性の判定を例にとると、過去6か月の実績とヘッジ有効性の判定時点におけるその後4年6か月間の理論先渡金利等をもってヘッジ有効性の判定を行うことになります。
 

※5 ヘッジ対象とヘッジ手段の金利インデックスが一致し、金利改定日及び改定インターバルの条件がほぼ同一である場合には、ヘッジに高い有効性があると判断しヘッジ有効性の判定を省略することができます。「ほぼ同一である」と判断するためには、ヘッジ対象とヘッジ手段の金利改定日及び改定インターバルの差異がそれぞれ3か月以内であることが必要です。
 

※6 銀行業における取引先からの要請等により預金・貸出金等について期限前払出・弁済等に応じる場合を想定した規定です。
 

※7 利付金融資産の金利に係るキャッシュ・フローを固定するヘッジの目的は、金利変動による利息キャッシュ・フローの変動を固定化することにあり、予定取引を含め、ヘッジ対象期間において金利変動による利息キャッシュ・フローの変動リスクを有するヘッジ対象資産又は負債が存在するのであれば、個別取引の指定は求められていません。
 

※8 金融商品実務指針第173項にて定められている配分方法は以下のとおりです。

① ヘッジ取引開始時又は終了時における各ヘッジ対象の時価を基礎とする方法
② ヘッジ取引終了時における各ヘッジ対象の帳簿価額を基礎とする方法
③ ヘッジ取引開始時からヘッジ取引終了時までの間における各ヘッジ対象の相場変動幅を基礎とする方法

 

※9 内部取引は、銀行法施行規則第13条の6の3の規定により特定取引勘定を設置する銀行が、銀行法施行規則等の規定に従い、銀行内における特定取引勘定とそれ以外の勘定との間で行う内部取引を指します。
 

※10 連結上消去される連結会社間取引が、一方の会社が外部に対して有する特定の資産又は負債のリスクを相殺するものである場合には、他方の会社の個別財務諸表において連結会社間取引のヘッジに指定されているヘッジ手段を、連結決算上、外部取引に係るヘッジとしてあらかじめ指定することができます。
 

※11 一方の会社が外部と行っているデリバティブ取引が、連結会社間のデリバティブ取引と個別対応するものである場合には、その外部とのデリバティブ取引を連結上のヘッジ手段としてあらかじめ指定することができます。

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