銀行業 第6回:DDSとDES、資本性適格貸出金に係る引当金、DCF法引当、リスク管理債権の開示

EY新日本有限責任監査法人 銀行・証券セクター
公認会計士 武田 直大

第6回では、債務者の業況悪化時における論点として、デット・デット・スワップ(DDS)、デット・エクイティ・スワップ(DES)、資本性適格貸出金(劣後ローン)に係る引当、DCF法による引当について取り上げます。また、銀行が保有する不良債権の開示情報として、リスク管理債権についても解説します。

1. デット・デット・スワップ(DDS)とデット・エクイティ・スワップ(DES)

DDSとは、一般的に、銀行が既存の貸出金を別の条件の貸出金へ転換することを指し、債務者の経営再建を支援する場合などに用いられます。具体的には、債務者の利払条件を有利にしたり、他の債務よりも弁済順位が劣後する条件に転換したりする方法が考えられます。

DDSの実施に伴い、転換前と転換後において、債権の法的同一性が維持されているのであれば、原則として金融資産の消滅の認識要件を満たしていないと考えられます(消滅の認識要件については、第4回:銀行業の貸出金と関連する会計論点を参照)。この場合、会計処理としては既存債権の条件変更として取り扱い、転換前債権の消滅や転換後債権の取得という会計処理は行われず、従前の取得原価又は償却原価のまま「貸出金」として処理することとなります。

一方、DESとは、債権者と債務者の事後の合意に基づき、債権者側から見て債権を株式とする取引のことを指します。こちらも、債務者が財務的に困難な場合などに、会社再建の一手法として用いられます。

こちらの会計処理については、DESの実施に伴って元の債務者側の債務は消滅することとなるため、債権者側では金融資産の消滅を認識します。同時に、債権者が取得する株式は、通常、債権とは異種の資産と考えられることから、新たな資産と考えられます。この場合には、債権者が取得する株式を取得時の時価により認識し、消滅した債権の帳簿価額との差額を当期の損益として処理します(実務対応報告第6号「デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い」2(2))。

2. 資本的劣後ローンに係る引当金

(1) 資本的劣後ローン等に係る債務者区分判定時の取り扱い

銀行が実施する一部の貸出金は、財政状態が悪化した債務者における資金繰りを改善すること等を目的として、貸出条件が劣後した形で実行されることがあります(例:その貸出金の償還が、他の貸出金の完済後に開始される場合など、他の通常の貸出金よりも劣後している場合)。このうち、契約条件が資本に準じた十分な資本的性質が認められる貸出金(資本的劣後ローン)については、銀行の自己査定における債務者区分の判定において、特別な取り扱いが定められています。

具体的には、「資本性借入金関係FAQ」等の金融庁の指針に記載された要件を充足した資本的劣後ローン等については、会計基準に基づいて適切な貸倒引当金が計上されていることを条件として、当該資本的劣後ローン等を債務者区分等の判断において債務者の資本とみなすことができることとされています。対象となる債権は、(1)で取り上げたDDSにより資本的劣後ローン等に転換した場合や、一部の債権については新規融資の場合にも、資本とみなすことが可能です。

(2) 資本的劣後ローンに係る貸倒引当金の概要

資本的劣後ローンに係る貸倒引当金については、業種別委員会実務指針第32号「資本性適格貸出金に対する貸倒見積高の算定及び銀行等金融機関が保有する貸出債権を資本性適格貸出金に転換した場合の会計処理に関する監査上の取扱い」に定めがあります。当該実務指針においては、「資本性適格貸出金」と表現されておりますが、契約条件に基づき資本に準じた十分な資本的性質が認められ、資本とみなして取り扱うことが可能となる貸出金については、その特性を勘案して貸倒見積高を算定することとされています。また、資本性適格貸出金に該当するかどうかは、実態的な性質に着目し、基本的には、償還条件、金利設定、劣後性といった観点から、資本類似性を判断することが適切とされています。

(3) 具体的な算定方法

同実務指針においては、劣後性を有する場合と有さない場合とで別々の取扱いが定められており、ここでは、法的破綻時の劣後性を有する場合を取り上げます。

劣後性を有する資本性適格貸出金に対する貸倒見積高の算定方法については、以下の方法が示されています(同実務指針3.(1))。

それでは、簡単な設例を用いて、具体的な算定方法を解説します。

<前提条件>

A銀行は、X社に対して8,000の貸付を行っている。なお、X社に対しては、B銀行も1,000の貸付残高(優先部分)があるものとする。

X社は近年、業況が悪化しており、経営再建を支援するために、A銀行は一部の貸出についてDDSにより資本的劣後ローンに転換を行っている。当該資本的劣後ローンは、業種別委員会実務指針第32号に定める資本性適格貸出金に充足する要件を満たしているものとし、その残高は2,000である。

決算日におけるX社の財務諸表は以下の通り。

なお、貸倒見積高の算定においては、以下のパラメータが適用されるものとする。

  • 倒産確率(PD):60%
  • 劣後性を考慮した倒産時損失率(LGD):100%
  • 全ての金銭債権の予想損失額(EL):30%

上記の前提条件において、劣後性を有する資本性適格貸出金に対する貸倒見積高の算定は、以下の通りとなります。

3. DCF法に基づく引当金

(1) 概要

債務者の業況が悪化した場合に、自己査定の結果として要注意先や破綻懸念先に分類されることがありますが、これらの要注意先債権や破綻懸念先債権のうち、債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシュ・フロー(CF)を合理的に見積もることができる債権であって重要なものについては、DCF法により貸倒引当金を計上することとされています(銀行等監査特別委員会報告第4号「銀行等金融機関の資産の自己査定並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」第24項②③)。

ここで、DCF法とは、将来予想される元本及び利息の受取りに係るキャッシュ・フローを、債権の発生当初の約定利子率又は取得当初の実行利子率で割り引いた現在価値の総額と、帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法です。

DCF法を適用する際の留意事項については、日本公認会計士協会の「銀行等金融機関において貸倒引当金の計上方法としてキャッシュ・フロー見積法(DCF法)が採用されている場合の監査上の留意事項」(以下、「DCF法留意事項」)」において規定されています。ここでは、DCF法に基づく将来CFの見積りは不確実性を大きく伴うため、金融機関にとって最善の予測で、合理的かつ客観的な証拠によって裏付けられなければならないとされており、見積可能期間の算定、将来CFの見積りに対する必要な調整(将来CFの減額等)、見積可能期間後の残債に係るCFの見積りなど、適用時の留意点が示されています。

(2) 具体的な算定方法

以下では、DCF法留意事項で例示されている設例に基づき、具体的な算定方法を見ていきます。DCF法留意事項においては、「基礎となるシナリオを設定し、そこからのデフォルトを想定した場合」と「複数のシナリオごとの発生確率をそれぞれ見積もる場合」の2つの方法が示されていますが、ここでは、前者の方法を取り上げます。

なお、当該設例は理解に資するために単純化して作成したものであり、個々の実態に応じて適切な引当金額を算定する必要があることには、十分注意する必要があります。

<前提条件>

C銀行は、Y社に対して以下条件で貸出を行っている。Y社の業況が近年悪化していることを受け、C銀行は条件緩和を行い、Y社に対する貸出金は要管理先に分類されている。

Y社は5年間の再建計画を作成し、それに基づくと毎年の返済額が1,000となる見込みである(当該計画は合理的で、十分な見積りであると仮定)。なお、再建計画終了時の債務者区分は要注意先となる見込みである。

上記前提条件における、DCF法の算定結果としては、以下の通りが考えられます。

※1 再建計画終了時の債務者区分がその他要注意先であり、ここでは、その他要注意先の予想損失率を仮に5%として、(1-5%)を乗じて残債評価を実施。
※2 デフォルトの定義については、ここでは「破綻懸念先以下となる場合」を想定。
※3 過去の実績を踏まえて、デフォルト率を設定。
※4 直前期の発生確率から、対象期のデフォルト率(※3)を減算。

4. リスク管理債権の開示

貸出先の業況が悪化した場合など、その回収のリスクが高い債権については、銀行法施行規則第19条の2に基づき、以下の区分に応じたうえで、リスク管理債権として注記する必要があります。

また、上記開示の他に、「金融機関の再生のための緊急措置に関する法律」(以下、「金融再生法」)に基づき、類似の区分に基づき、自己査定結果の開示が義務付けられています。

リスク管理債権と金融再生法に基づく開示債権、自己査定の分類との関係性を示すと、以下の通りとなります。


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