銀行業 第5回:自己査定及び貸倒引当金の算定方法

EY新日本有限責任監査法人 銀行・証券セクター
公認会計士 格嶋 文也

1. 貸倒引当金算定の概要

銀行業において、貸倒引当金を算定するにあたっては、まず、債務者の財務状況、経営成績、返済能力及びその他定性的な情報等を踏まえ、債務者区分の判定を行う必要があります。次に、実際に債務者に融資している貸出債権の条件や担保や保証の有無に応じて債権の回収可能性に応じて債権ごとの分類を実施します。これを債権分類と呼び、貸出債権はⅠ分類(非分類)、Ⅱ分類、Ⅲ分類、Ⅳ分類の4種類に分類されます。各行はこのように自己査定業務を行い、当該結果により貸倒引当金を算定していきます。

なお、債務者区分判定、債権分類、貸倒引当金算定に至るまでの一般的な流れを図示すると以下の通りです。


以降にて、上記2.債務者区分判定、3.債権分類、4.貸倒引当金算定に関する詳細な説明をします。
 

2. 債務者区分判定

債務者区分とは、債務者を正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先の区分するものです。債務者区分判定結果によって、貸倒引当金算定にあたっての計上対象となる債権金額や適用される予想損失率等が異なるため、慎重に検討する必要があります。

なお、金融庁のディスカッション・ペーパー「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」(以下、金融庁DP)に基づき、各債務者区分の定義をまとめると以下の通りです。個々の債務者の財務状況、経営成績、返済能力、その他定性情報等に基づき、いずれの債務者区分にあてはまるかを検討することになります。

3.  債権分類

債務者区分判定の後、各債務者に対して実行する債権に関して、担保や保証の有無等に基づいた回収可能性に応じて債権分類を実施します。債務者区分判定及び債権分類の結果が貸倒引当金の算定結果に影響を及ぼします。なお、以下は旧金融検査マニュアルにおける債権分類の定義になります。

分類

定義

Ⅰ分類(非分類)

「Ⅱ分類、Ⅲ分類及びⅣ分類としない資産」であり、回収の危険性又は価値の毀損の危険性について、問題のない資産である。

Ⅱ分類

「債権確保上の諸条件が満足に充たされないため、あるいは、信用上疑義が存する等の理由により、その回収について通常の度合いを超える危険を含むと認められる債権等の資産」である。なお、Ⅱ分類とするものには、一般担保・保証で保全されているものと保全されていないものとがある。

Ⅲ分類

「最終の回収又は価値について重大な懸念が存し、従って損失の可能性が高いが、その損失額について合理的な推計が困難な資産」である。ただし、Ⅲ分類については、金融機関にとって損失額の推計が全く不可能とするものではなく、個々の資産の状況に精通している金融機関自らのルールと判断により損失額を見積ることが適当とされるものである。

Ⅳ分類

「回収不可能又は無価値と判定される資産」である。なお、Ⅳ分類については、その資産が絶対的に回収不可能又は無価値であるとするものではなく、また、将来において部分的な回収があり得るとしても、基本的に、査定基準日において回収不可能又は無価値と判定できる資産である。

以下は、債務者区分と債権分類の関係を示した図になります。例えば、正常先に対する債権については全額非分類となり、要注意先以下に対する債権であったとしても優良担保・優良保証による保全部分については非分類となり、保全されていない場合と比較し貸倒引当金の計上金額がより減額されることになります。貸倒引当金は、主に債権残高に予想損失率を乗じることによって算定されますが、債務者区分判定及び債権分類を実施することで、貸倒引当金算定の基礎となる債権残高を把握することになります。

(※)要注意先の場合、原則として正常な運転資金と認められる債権もⅠ分類(非分類)となる。

4. 貸倒引当金算定

このように各債務者区分判定結果や債権分類結果に応じて貸倒引当金を算定することになります。自己査定を通じて分類された債権額に予想損失率を乗じることで貸倒引当金を計上する場合や、一部の債務者に関してDCF法に基づき貸倒引当金を計上する場合などがあります。

予想損失率を含む貸倒引当金の算定方法については、債務者区分ごとで算定方法が異なるため、それぞれ予想損失率の算定方法に焦点を当てて解説します。DCF法に基づく貸倒引当金の計上については、第6回にて解説します。

(1) 正常先及び要注意先(要管理先を除く)

正常先及び要注意先債権に関する予想損失率については、「銀行等金融機関の資産の自己査定並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針(銀行等監査特別委員会報告第4号)(以下、委員会報告第4号)」第24項①②にて、「貸倒実績率又は倒産確率に基づき、発生が見込まれる損失率を求め、これに将来見込み等必要な修正を加えて貸倒引当金を計上する」旨の記載があり、当該基準に基づき算定された貸倒引当金については、監査上妥当なものとして取り扱われます。貸倒実績率又は倒産確率に基づく計上方法とは、過去の貸倒実績又は倒産実績に基づき、今後の一定期間における予想損失額を見込む方法になります。ここでいう「一定期間」とは、貸出金等の平均残存期間が妥当と考えられますが、正常先及び要注意先債権(要管理先を除く)については、今後1年間の予想損失額を見込んでいる場合には妥当なものとして認めて差し支えないとされています(委員会報告第4号第24項(注3)①)。なお、委員会報告第4号第24項(注3)③にて、貸倒実績率又は倒産確率による貸倒引当金の具体的な算定方法についても例示されており、「今後1年間の予想損失額は、1年間の貸倒実績又は倒産実績を基礎とした貸倒実績率又は倒産確率の過去3算定期間の平均値に基づき損失率を求め、これに将来見込み等必要な修正を加えて算定する。」とされています。これらを踏まえ、正常先債権に関する予想損失率の算定方法について、簡単な設例を用いて、具体的な算定方法を解説します。なお、要注意先債権(要管理先除く)については、正常先債権の算定方法と同様のため解説は省略します。

(事例1)正常先債権に関する予想損失率の算定

<前提条件>

  • 2026年3月31日を基準日とする予想損失率を算定する。
  • 過去3算定期間における貸倒実績及び倒産実績は以下A~C及びA’~C’の通りとする。
  • デフォルトした債権については計算の便宜上全額回収不能であり、デフォルトした債務者から回収可能部分はないと仮定し、貸倒実績率もしくは倒産確率に基づく算定結果を本事例における予想損失率とする

貸倒実績

A:2023年4月1日時点で存在した正常先債権のうち、2024年3月31日までにデフォルトした債権の割合 (1億円/100億円)

B:2024年4月1日時点で存在した正常先債権のうち、2025年3月31日までにデフォルトした債権の割合(1.5億円/120億円)

C:2025年4月1日時点で存在した正常先債権のうち、2026年3月31日までにデフォルトした債権の割合(1億円/150億円)

倒産実績

A’: 2023年4月1日時点で存在した正常先債務者のうち、2024年3月31日までにデフォルトした債務者の割合 (125社/25,000社)

B’: 2024年4月1日時点で存在した正常先債務者のうち、2025年3月31日までにデフォルトした債務者の割合(110社/25,500社)

C’: 2025年4月1日時点で存在した正常先債務者のうち、2026年3月31日までにデフォルトした債務者の割合(120社/26,000社)

上記A(A’)~C(C’)のデフォルト期間の3算定期間を図で示すと以下の通りとなる。

<具体的な算定>

過去3算定期間における過去実績率の平均値を算定することになるため、貸倒実績率及び倒産確率に基づくそれぞれの算定結果は以下の通りである。

【貸倒実績率に基づく方法】

予想損失率=(A+B+C)/3=(1/100+1.5/120+1/150)/3=0.97222…%

【倒産確率に基づく方法】

予想損失率=(A’+B’+C’)/3=(125/25,000+110/25,500+120/26,000)/3=0.464304…%

上記の通り、いずれの方法を採用するかにより引当計上金額に影響を及ぼすことになるため、各社において実態を反映した算定方法となっているか留意が必要となる。

金融庁DPによると、特に経済環境が急激に悪化している場合には、貸倒実績率又は倒産確率の算定期間の採用にあたり、直近の算定期間のウェイトを高める方法、直近の期間における貸倒実績率等の増加率を考慮して予想損失率を調整する等の方法により、決定するとされています。
 

(2) 要管理先

要管理先債権の予想損失額の見積もりにおいては、正常先及び要注意先債権(要管理先を除く)とおおむね同様ですが、下記2点が異なる点になります。

a. 予想損失額については今後3年間を見込んでいる場合は妥当と認められ、今後3年間の予想損失額は、3年間の貸倒実績又は倒産実績を基礎とした貸倒実績率又は倒産確率の過去3算定期間の平均値に基づき損失率を求め、これに将来見込み等必要な修正を加えて算定します(委員会報告第4号第24項(注3)①③)。

b. 債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権(一般的に貸出条件緩和先(※)債権が該当すると考えられる。)であって重要なものについては、DCF法により貸倒引当金を計上する(委員会報告第4号第24項②)。

(※)当該債務者の債権の全部又は一部が「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律施行規則」(平成10年金融再生委員会規則第2号)(以下「金融再生法施行規則」という。)第4条第4項に定める貸出条件緩和債権である債務者

以下にて簡単な数値例を用いて、aの方法について解説します。なお、bの具体的な算定方法については第6回にて解説します。


(事例2)要管理先債権に関する予想損失率の算定

<前提条件>

  • 2026年3月31日を基準日とする予想損失率を算定する。
  • 過去3算定期間における貸倒実績を以下D~Fの通りとする。なお、倒産確率に基づく方法に関する解説は省略する。
  • デフォルトした債権については計算の便宜上全額回収不能と仮定し、貸倒実績率に基づく算定結果を本事例における予想損失率とする。
  • 各算定期間において、期首に要管理先以外であった債務者に係るデフォルトは含めない。つまり、Dの場合、2021年4月1日時点で正常先あるいは要注意先(要管理先を除く)で債務者が、2022年3月31日時点で要管理先となり、2024年3月31日までにデフォルトした場合、当該算定期間のデフォルト率には含めない。

貸倒実績

D:2021年4月1日時点で存在した要管理先債権のうち、2024年3月31日までにデフォルトした債権の割合(10億円/50億円)

E:2022年4月1日時点で存在した要管理先債権のうち、2025年3月31日までにデフォルトした債権の割合(8億円/30億円)

F:2023年4月1日時点で存在した要管理先債権のうち、2026年3月31日までにデフォルトした債権の割合(6億円/35億円)

上記D~Fのデフォルト期間の3算定期間を図で示すと以下の通りとなる。

<具体的な算定>

過去3算定期間における過去実績率の平均値を算定することになるため、貸倒実績率に基づくの算定結果は以下の通りである。

予想損失率=(D+E+F)/3=(10/50+8/30+6/35)/3=21.26984…%

(3) 破綻懸念先

金融庁DPにて、特に破綻懸念先については以下を含めいくつかの方法が実務上定着しており、個別貸出のリスク特性や各金融機関の方針等に合った方法を採用すべきとされています。例えば、倒産時に金融機関の健全性や収益に及ぼす影響が大きいと認められる大口与信先に対する引当を見積もる際には、個別に将来のキャッシュ・フローを見積もる方法が、信用リスクの実態を引当に反映しやすいと考えられます。

a. 予想損失率法(個別の債権毎に担保・保証等による回収見込額を考慮した上で、貸倒実績等の確率を用いる方法)

b. DCF法

c. キャッシュ・フロー控除法(個別の債権毎に担保・保証等による回収見込額を考慮した上で、合理的に見積もられた将来のキャッシュ・フローにより回収可能な部分を除いた残額を予想損失額とする方法)

d. 債権額から市場における売却可能見込額を減じる方法

予想損失率法については、予想損失率の算定にあたって今後3年間の損失を見込めば足りるとされていますが、より長期にわたって損失が発生すると見込まれる場合には、当該期間の損失を見込むことも考えられます。具体的な予想損失率の算定については、(事例2)と大きく相違がないため、具体的な数値を用いた解説は省略します。
 

(4) 実質破綻先・破綻先

債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し、残額を貸倒償却又は貸倒引当金として貸借対照表に計上するとされています(委員会報告第4号第24項④⑤)。具体的には、担保・保証の有無の結果、Ⅲ分類額については貸倒引当金、Ⅳ分類額については貸倒償却もしくは貸倒引当金として計上することになります。


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