EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
大石 一浩 氏
5 現場の実践
「地域の移動」は誰かの仕事ではなく、地域みんなで支えるもの
~愛媛県松山市・おすそわけ交通モデル~
地域主体の実践例として、ネッツトヨタ瀬戸内の大石氏が、愛媛県松山市久枝地区で展開されている「おすそわけ交通モデル」を紹介しました。
この取り組みの背景には、2018年にトヨタ自動車が掲げた「モビリティカンパニーへの変革」という大きな方向転換があります。
「これまで自動車販売店の役割は、自動車を販売・整備し、車を所有するお客さまのカーライフを支えることでした。しかし、人口減少や高齢化が進む社会では、免許返納後の高齢者や、さまざまな理由から自由に移動できない人々を含め、「地域に暮らすすべての人のお出かけの自由を担保する」という新たな役割が求められています」と大石氏は述べます。
大石氏は、地域交通によって生まれる便益は、地域全体に広がっているにもかかわらず、その維持を行政と交通事業者だけが担っている現場に課題意識を抱いたと説明。「移動は行政や交通事業者だけが担うものではなく、地域で暮らす私たち自身の問題ではないか。行政セクター、民間セクター、市民セクター、三者が3分の1ずつ自分事として責任を分担するのが理想的な形ではないか」と感じた経験を語りました。
こうした考えのもとで始まったのが、「おすそわけ交通」です。地域住民によるNPOが運営主体となり、ネッツトヨタ瀬戸内やタクシー事業者が運行を担う仕組みで、特徴的なのは行政補助に依存せず、地域企業からの協賛によって成り立っている点です。
交通サービスから直接利益を得ない企業も数多く参画しています。大石氏は、「地域企業から『もし道端でおばあちゃんが倒れていたら助けますよね。それと同じですので協賛します』と言われ、勇気をもらった」と紹介しました。現在では、建設会社、金融機関、小売業、飲食店など、業種を問わず約300社の地域企業がこの活動を支えています。
さらに、企業から提供されるものは資金だけではありません。高齢者向けのスマートフォン教室や地域イベントの運営支援など、それぞれの企業が持つ知識や強みを「おすそわけ」しながら地域交通を支えています。
大石氏は、「おすそわけ交通」は単なる移動サービスではなく、地域に存在する人や企業、知識、場所、想いなど、さまざまな地域資源を持ち寄りながら、地域全体の助け合いによって移動を支える新しいコミュニティモデルであると説明しました。この事例は、人口減少時代において、地域交通を行政サービスとして維持するだけではなく、「地域全体の共通課題」として捉え直す新たな地域交通の姿として注目されています。