EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY-Parthenonは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
日本企業が直面するリスクと、その中で取るべき具体的な戦略とは何か。地政学、サプライチェーン、関税、移転価格の各方面から、EYのプロフェッショナルが考察・解説するセミナーを開催しました。
要点
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地政学戦略グループ(Geostrategic Business Group)の存在意義は、企業が、地政学的情勢が事業に与える影響や、世界的に不安定なこの情勢をうまく乗り切る方法を把握するために支援をすることにあります。
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「極めて不確実なこの時代、私たちはさまざまな“ノイズ”から何を“シグナル”として選び取り、企業の具体的な行動へと結びつけるのか。本日は、地政学的視点から見た世界の大きな流れ、その中で求められるサプライチェーンの再構築、注視すべきトランプ関税の最新動向、そして移転価格オペレーションの最適化という4のテーマについて、われわれEYのプロフェッショナルが総力を結集して知見をお届けします」
EYストラテジー・アンド・コンサルティング 地政学戦略グループの小林暢子がそう述べて、今回のセミナーは始まりました。小林はまず、激動する世界情勢の震源地が米国である以上、世の中の流れを米国の立場から俯瞰(ふかん)する視点も重要であることを指摘。その上で、「21世紀に入ってからのこの25年間で、それまでのパックス・アメリカーナ(米国主導の平和)の下で続いた特異な繁栄は終焉(しゅうえん)を迎えた」として、貿易、民主主義、紛争の3の観点からこれを例証しました。
具体的には、①1990年から2008年にかけて2以上に拡大した世界貿易はその後、現在に至るまで停滞中、②グローバル化とともに進展した民主化の動きも2000年を境に低迷、③テロ事案を含む武力紛争は2010年から増加に転じており、「自由貿易が進み、民主主義の下で何となく平和な世界になりつつあると思い込んできた私たちの直感がいかに不確かであるかが分かる」としました。
「このような状況下で米国は、①NATO加盟国の中で突出して高い国防費、②貿易相手国との間で積み上がる巨額の赤字、③国内で深刻化する経済的分断、などを理由として、対外的な関与を抑制する姿勢を強めているわけです」(小林)
一方、G7各国および世界のGDPに対する米国のシェアを比べてみると、対G7においては約60%を占め、米国経済が依然として強さを堅持しているのに反し、対世界の場合、その割合は25%程度にまで下がり、中国の台頭に追い上げられている実態が見えてきます。「これが米国の焦燥感をあおり、同盟国に対する防衛負担の増額や関税強硬策に象徴される、トランプ政権下での大胆な政策転換につながった」と小林は見解を示しました。
では今後、世界はどのような時代を迎えるのか。小林は次の3の視点を挙げ、戦後に築かれた国際秩序を根本から塗り替える「不可逆的な変化」が訪れているとしました。
①米国主導の世界安全保障体制から、各国・地域へと防衛負担が急速に分散
②自由貿易による制約のないグローバル化から、「管理された」貿易・産業政策へ
③同じ価値観に基づく同盟関係から、国同士の力と利害に依存する関係へ
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EYのサプライチェーン&オペレーションズ(Supply Chain and Operations)コンサルティングチームでは、世界のサプライチェーン課題の複雑性が増す中、高い専門性を持つサプライチェーン専門のコンサルタント集団が、企業の強靭かつ持続性あるグローバルサプライチェーンの構築を支援します。
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続いて登壇した志田光洋(EYストラテジー・アンド・コンサルティング サプライチェーン&オペレーションズ)によれば、世界中の企業で約44%のCEOが、サプライチェーンの組み替えなど何らかの見直しを模索していると言われています(EY-Parthenon調べ)。つまり、世界の半数近い企業が、米国の政策転換による影響は一過性ではなく、恒常的な構造変革を必要とするものと見ていることになります。
これを踏まえて志田は、サプライチェーン構築のキーワードはこれまでの「Just in Time」から「Just in Case」に変わると指摘。従来は、民主的平和・自由貿易など一定程度の安定した外部環境を想定した「静的な状況」に基づき、Quality(品質)、Cost(費用)、Delivery(リードタイム)の観点から最適化を図る考えであった。これからは「動的な対応」が求められるため、Agility(迅速性)、Resilience(回復力)、Sustainability(持続可能性)が重要になると言います。
Just in Caseとは、どのような事態が起きたとしても即時に対応できるサプライチェーンを組んでおくことを意味します。そのために必要な「動的な対応」のケイパビリティとして、志田は以下の3点を挙げました。
①センシング:サプライチェーンを取り巻く脅威や危機(有事)をいち早く感知
②シージング:有事の影響を把握し、既存のリソースを的確に配分・利用
③トランスフォーミング:サプライチェーンを再構築し、経営資源を再配分して持続可能な競争力を獲得
また、これらのケイパビリティを獲得する施策の一例として、「有事の影響範囲可視化と逆展開計画(プラットフォーム化)」が鍵になるとして、次のように述べました。
「サプライチェーンの計画は通常、顧客の内示に基づく需要計画を起点として、在庫から生産、調達へと流れていきます。これを平時の“正展開”とすれば、有事に際しては供給量を起点として流れをさかのぼる“逆展開”による計画が望まれる。これが変革ポイントです」
さらに他の例として、サプライチェーン・ネットワークの設計見直しを挙げ、「これからは地政学リスクやオペレーションの持続性・迅速性にも注視しつつ、世界の経済圏を米・中・その他の3極に分けて考えることや、カナダやメキシコへの直送など米国を経由しない物流網の検討、あるいは米国に工場を設立するなどの対策を講じる必要がある」と言います。
志田はこの後、変革を可能にするキーワードとして、テクノロジー活用によるレジリエンシー強化も欠かせないとして、デジタル中心の「Industry 4.0」から、人間の創造性や柔軟性を中心としてデジタルでこれを補完する「Industry 5.0」への転換を促すなどして講演を終えました。
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米中の地政学的対立によって世界で保護主義が進む中、関税の上昇や輸出規制の強化が続いており、企業には新たな通商関税管理が求められています。EYでは、パラダイムシフトを迎えて急速に変化する国際貿易環境に合わせた関税・国際貿易アドバイザリーサービス、そして、国際ルールの厳格化に対し、国際的な輸出規制に対処するアドバイザリーサービスを提供します。
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目まぐるしく変わるトランプ関税の動向を整理し、企業にとって必要な視点を示唆したのはEY税理士法人の大平洋一です。「不可逆的な転換期にあるのは関税管理の仕方についても同じ」とした上で、米国関税政策の発動状況を次のようにまとめました(2025年9月3日現在)。
国家の緊急事態であることを理由として、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、大統領が議会の承認なく行使できる追加関税。薬物流入や不法移民の懸念対象である中国・カナダ・メキシコに対する「フェンタニル関税」と、主に恒常的に貿易赤字を計上する相手国に対する「相互関税」の2つがある。
なお、米連邦巡回区控訴裁判所はIEEPA関税を違法と判断(8月29日)、最高裁判所に上訴される見込みだが、その裁定が下るまで追加関税が維持される模様。
国家安全保障を理由として、通商拡大法232条に基づき、特定の輸入貨物に対して課せられる追加関税。
例)自動車・自動車部品:25%(日本車は12.5%の予定)
鉄鋼・アルミ製品・銅製品:50%
232条関税はこの他、木材、半導体、医薬品・原薬、中型・大型トラックなどが対象になると見られ、現在その要否を調査中。
このような関税政策の発動により、今後は国別・品目別に、またFTA利用の有無などによっても異なる税率が課され、その組み合わせ次第で、同じ品目でも合計の関税率が大きく違ってくることになります。例えば、アパレル分野ではスニーカーの場合、MFN(最恵国待遇)20%のところ、日本は相互関税15%を乗せて合計35%となるのに対し、相互関税20%のベトナムは合計40%、韓国はFTA契約によってMFNがゼロとなるため相互関税のみの15%、などというように大きく変わります。
「いずれにしても、ここまで高い関税が課されると、企業としてはいかにその負担を低く抑えるかが大きな課題」と大平は言います。その方策の1つが原産地管理。すなわち、どの国で製造するかですが、この場合、米国が定める難解な実質的変更基準に沿って、原産地判定をしっかり受けることが重要です。また、関税コストを考慮したTP(Transfer Pricing:移転価格)プランニングも重要であり、ファーストセール(製造者から仲介業者への販売価格)や、アンバンドリング(ロイヤリティなどを取引価格から分離)などの手法を駆使して関税評価額を引き下げなければなりません。さらに、出荷時の貨物形態を工夫して関税率を抑える関税分類プランニングも必要となるでしょう。
大平は最後に、「かつてのような低関税に戻ることは考えにくい状況の中、ある日突然税率が上がっても速やかに対応できるよう、あらゆる税務的措置を駆使して税率を抑えること、また製品バリューチェーン全体を俯瞰して通商コストとリスクを最適化することが重要です」と述べました。
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移転価格(Transfer Pricing〈TP〉)とは、グループ企業との取引を通じた所得の海外移転を防止し、適正な国際課税を行うことで国際的な所得の適正配分を図ることを目的とした税制です。 EYのTPチームは、移転価格文書化、移転価格ポリシーの策定、事前確認(APA)及び税務調査対応等のコンプライアンス対応に加え、近年複雑化する税制や事業を考慮した企業のガバナンス体制の構築を全面的に支援します。
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以上を踏まえ、最後に登壇した山田早苗(EY税理士法人)から、企業グループ間における貿易取引価格である移転価格について説明がありました。トランプ関税の導入により、これまでのように日本国内や別の国で製造した完成品を米国に置いた販売会社などに輸出すると、高い関税が課されることになります。そこで、米国に製造拠点を移すなどして、調達・開発・生産・販売などのプロセスを現地に集約する「地産地消」型の体制に移行する企業グループが増えていくことが予想されます。
「そうなった場合、日本本社のビジネスとしては、本社で行う基礎的な研究開発活動によって生まれる無形資産について、米国に移した拠点に使用許諾を与え、その対価としてロイヤリティを得るモデルが主流になると考えられます」(山田)
それに伴い、現地の税務当局に対するリスク対応としての「移転価格モデルの見直し」や、将来のキャッシュフローを見据えた税務プランニング対応としての「移転価格戦略の必要性」が高まると、山田は指摘します。米国に開発・生産拠点を移すなどしてサプライチェーンを変革した場合、一部の重要な機能が現地にシフトするわけですから、現地の税務当局としても、そこで生じる利益が今までどおりと見なすわけにはいかなくなります。「日本企業としては、これを機にどのような地域により多くの利益をつけ、どこで再投資に回すかというビジネス戦略の抜本的な見直しが求められます。」(山田)
山田によれば、サプライチェーン変革前においては、海外の子会社に一定の利益を確保しつつ、残りはロイヤリティとして本社が回収して利益を最大化するモデルが一般的だったところ、変革後は、ロイヤリティを回収するモデルに加え、本社と子会社の間での機能リスクに基づく割合で利益を分割するモデルも考えられると言います。
「このように分断化されたグローバル環境下では、従来のように製造拠点を1つにまとめるなどの機能集約型モデルはつくれなくなると考える方もいるかもしれませんが、本社・子会社とサプライヤーの間に調達活動をコントロールするハブを設け、集中購買モデルを構築する方法など、企業活動を集約できる余地はまだ残されています。今後は、変革に応じたフレキシビリティの高い機能集約モデルを設計し、税効率やコストを加味したビジネス戦略を立てる必要があるでしょう」。山田はそう述べて、講演を締めくくりました。
セミナーはその後、視聴者との質疑応答を経て、「WTOのような包括的な多国間協定がかつてのように機能するのは難しいとしても、TPPやCPTPPのような地域間協定の枠組みに自由貿易の精神が受け継がれる可能性は十分にある」と小林が未来への期待を述べて、幕を下ろしました。
※本文中の税率はセミナー実施時(2025/9)のものとなります。
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トランプ政権の大胆な政策転換による世界経済への影響は一過性ではなく、将来にわたる不可逆的な転換を必要とするものと見られます。これまでの常識にとらわれず、どのような状況にも対応できる柔軟性のあるサプライチェーン体制へと、税務を含む多角的な視点からビジネス戦略を見直すことが急務です。
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