EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
企業・行政・若者の代表が登壇し、持続可能な社会づくりに向けた実践と課題について有意義な議論を行い、いま社会が選ぶべき行動について模索しました。
要点
10月3日に開催されたセミナーの冒頭では、日本国際博覧会協会の永見氏が「いのち輝く未来社会のデザイン」と持続可能性に向けた取り組みを紹介。続いて、大和ハウスの能村氏、パナソニックの小川氏が、それぞれ大阪・関西万博をきっかけに進めた自社のサステナビリティ事例を紹介しました。
EY CCaSSエルダーは、若者代表として登壇し、今年7月の時点でSDGsの達成率が世界で35%にとどまる現状を指摘。「めざす姿」と「実際の行動」のギャップを埋めるための以下の3つの提言を示しました。
気候変動ファイナンスは最低でも年間約4兆ドルも不足しています。EY エルダーは「新たな資金を追加するよりも、既存の資金を『いかに分配するか』を考える方が現実的な解決策」と指摘。高炭素分野への資金の3分の2を転換するだけで、資金のギャップの半分が埋まるとの試算を紹介しました。
地球の安定性と回復力を支える地球システムのうち、すでに6つが限界を超えているという研究結果を踏まえ、EY エルダーは「限界を超えたシステムを修復するよりも、限界内で生きるために、必ずしも経済的な成長のみをめざさない『脱成長』を選択する若者も多い」と若い世代の現状を紹介。若者の間では中古品やリユースを前向きに捉える動きが広がっており、企業もサーキュラーデザイン戦略を取り入れたり、政府も再生資源への税制優遇などのルール作りを始めたりするなど、循環型の取り組みを加速させています。
GDPという指標には、経済が環境や社会と共に成り立つ『三位一体のシステム』であるという点が反映されていません。すでに世界銀行では「真の豊かさ」という新しい指標を提唱しています。「OECD加盟国の3分の2が独自のWell-being指標を開発する中、日本はポーランドやスロバキアといった国の後塵(こうじん)を拝しています」(EY エルダー)
後半のパネルディスカッションでは、EY 牛島をファシリテーターとして、登壇者4名が3つの提言を基に議論を展開しました。
EY Climate Change and Sustainability Services, Asia East Regional Leader
牛島 慶一
―1つ目の提言「課題は資金の『量』ではなく『配分』にある」につきまして、企業の立場からご意見をお聞かせください。
大和ハウス 能村氏:企業は営利を追求しながら、社会的責任を果たさなければいけません。企業単独で判断するのではなく、ステークホルダーの皆さまと対話しながら、ベストな選択肢を探る必要がありますね。
パナソニック 小川氏: そうですね。企業価値はどうしても短期的な財務指標で評価をされてしまうため、サステナブルな価値創造との両立が難しく、事業責任者としては非常に覚悟を持って取り組まなければなりません。
工場やサプライチェーンでのCO2削減はかなり進んでいますが、最終的な生活者が暮らしの中で排出するCO2が一番大きく、一企業だけでは解決できない領域でもあります。社会全体のマインドの変革が必要です。また、国、企業、金融などが連携し、企業に対する長期的な評価制度の構築が不可欠だと思います。
― 長期的な価値を評価する社会になることが1つのポイントになるかもしれませんね。まさに万博は、未来社会のデザインがテーマでした。万博がSDGs達成に果たした役割をどのようにお考えですか。
日本国際博覧会協会 永見氏:万博の来場者は8割以上が日本人です。円安の影響もあり海外へ出る機会が減っている中で、海外の食べ物や文化だけでなく、貧困などSDGsの問題に目を向けるきっかけにはなったのではないでしょうか。
サステナビリティの観点では、紙のチラシやプラスチックの使い捨て容器の削減の取り組みや給水スポットなど、体験を通じた啓発ができたのではないかと思います。
― 2つ目の提言「持続可能な社会への移行において、ニーズ・価値観の更新と生活様式の再定義が必要」についてお聞かせください。価値観のアップデートには、多様な価値観との連携が必要になると思います。多様性の集積地である万博では、どのように多様性を擦り合わせたのでしょうか。
永見氏:全参加国が参加するIPM会議でわれわれの思いを周知し、持続可能性へのご協力をお願いしました。基本的には前向きに受け入れていただき、ご意見をいただいた際には、なぜそれをする必要があるのかを丁寧に説明することで共感していただきました。
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
持続可能性局長
永見 靖氏
― 提言の中で、新たなニーズの芽が生まれてきているという話がありました。その点について、ビジネスの現場で変化を感じるところはありますか。
小川氏:エルダーさんのお話の中に「中古品に価値を見いだす」「使い捨てではなく長寿命のものを」とありましたが、昔の日本ではそのような文化が当たり前でした。私自身、「ものを大切にするのが日本人の美徳である」という価値観の中で育ちました。
しかし、ものづくりのサイクルがどんどん速くなる中で、ゆとりがなくなってしまったように感じます。本来、企業ももっと遊び心や余裕を持って活動をしていきたいと考えているのですが、世の中の変化のスピードに置いていかれる恐怖心の方が先に立って、日本にあった素晴らしい価値観が薄れてきているように思います。
パナソニックでは、リファービッシュ製品(検査済み再生品)の販売をしておりますが、値段が高くてもリファービッシュ品を選ぶお客さまも増えてきています。企業として一歩踏み出して社会に発信していく、また国を巻き込んでルール作りをすることも必要ではないでしょうか。
パナソニック ホールディングス株式会社
執行役員 2025年国際博覧会協会 理事
小川 理子氏
能村氏:同感です。製品の開発スピードが上がったのは、企業に限らず、消費者も望んでいたことでもあったかと思います。しかしながら、われわれの建設業界でも、過去においては新築の住宅やマンションへのニーズが高かったのですが、中古住宅をリノベーションし、付加価値を付けて販売するリブネス事業もスタートしています。ここ数年で、「新しければいい」という価値観は大きく変わってきたように感じています。
エルダー:日本人の「ものを大切にする文化」は、フランス人の私にとってはとても新しいカルチャーでした。一方で、不要なものを減らしていくことも重要です。例えばフランスでは、小売店での1.5キログラム未満の未加工の野菜や果物のプラスチック包装は禁止されています。日本では少し抵抗感があるかもしれませんが、未来に向けて少しずつ不要なものを減らすことも考えた方がよいのではないでしょうか。
― では、最後の提言「GDPに代わる、新たな成功と価値を測る指標が必要」についてお聞かせください。
能村氏:企業としては財務指標など経済的な指標をものさしにせざるを得ません。一方で、私個人としては、幸福度など、金銭では計測できない価値があると常々感じています。
大和ハウス工業株式会社
常務執行役員 人事・サステナビリティ担当、物流統括管理者、大阪・関西万博担当
能村 盛隆氏
小川氏:「見えない価値がある」という点については大賛成で、絶対に必要だと思います。しかしながら、万博に出展するときも、非財務的な価値をどう測るかメンバーと話し合いましたが、答えは出ませんでした。
これまでは製品の機能、性能が価値でしたが、成熟した社会においてはエモーショナルな観点、情緒的な価値が非常に重要になってきたと感じています。先ほどニーズの再定義においても話しましたが、企業が「これも価値である」と社会に指し示すことも大切だと思っています。
永見氏:万博の価値について言えば、10年後、20年後に「この万博で人生が変わった」というようなポジティブな影響があった人が一人でも多くいたら、それが成功の指標になるのではないかと考えています。
エルダー:非財務的な価値という側面は、非常に重要だと思います。EUの非財務情報開示規制が発令された中で、非財務的な価値の測定のおかげで自分の企業価値の生み出し方に気づいた企業も多くあります。
EY Climate Change and Sustainability Services
シニアコンサルタントテンチュリン・エルダー
パネルディスカッション後、EY新日本有限責任監査法人 大阪事務所長 入山友作が、「企業のグローバルな行動変革を支えるのは、一人一人の意識と行動の変化。このセミナーが参加者の皆さまのポジティブなマインドセットの転換につながれば幸いです」と締めくくりました。約2時間にわたる議論は、持続可能な社会への共創の重要性を改めて印象付けました。
持続可能な社会の実現には、個人・企業・行政それぞれの意識変革が不可欠です。大阪・関西万博を通じて浮かび上がったのは、資金の再配分、価値観の転換、そして真の豊かさを測る新しいものさしへの移行という課題でした。
「いのち輝く未来社会」を実現するためには、短期的成果にとらわれず、長期的な視座で真の豊かさを創出することが重要です。本セミナーでは、私たちはどうすれば真の豊かさを次世代へ残せるのか、そのヒントが示されました。
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