2025年3月期 有報開示事例分析
第1回:総会前提出

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 須賀 勇介

Question

2025年3月期決算において、定時株主総会前に有価証券報告書(以下「有報」という。)を提出した会社について知りたい。


Answer

1. 総会前提出の状況(前期比較含む)

【調査範囲】

  • 調査日:2025年8月
  • 調査対象期間:2025年3月31日
  • 調査対象書類:有報
  • 調査対象会社:2025年3月31日決算
     

【調査結果】

2025年3月期決算の上場会社2,264社を対象として、定時株主総会前の有報提出(以下「総会前提出」という。)状況を調査した。<図表1>のとおり、2025年3月期の有報を総会前提出した会社は、1,310社(57.9%)と過半数に達しており、2024年3月期の42社(1.8%)から大幅に増加した。2024年3月期までは定時株主総会と同日又は翌日に有報を提出した会社が大半であったが、そのうち多くの会社が有報提出時期を定時株主総会前に前倒ししたことがわかる。なお、2024年3月期の有報を総会前提出した会社42社が、2025年3月期に有報提出時期をさらに前倒ししたかを調査した結果は、<図表2>のとおりである。2024年3月期と2025年3月期の前倒し日数が変わらない会社が20社と半数近くで最も多く、次いで多いのは1日前倒し日数が増えた9社であった。一方、有報提出時期を後倒しした会社は5社あり、そのうち1社は、2025年3月期では定時株主総会の後に有報を提出していた。

<図表1> 定時株主総会開催日と有報提出時期

有報提出時期

2023年3月期

2024年3月期

2025年3月期

会社数

比率

会社数

比率

会社数

比率

定時株主総会開催より前

33社

1.4%

42社

1.8%

1,310社

57.9%

定時株主総会開催と同日

1,122社

48.3%

1,119社

48.7%

462社

20.4%

定時株主総会開催の翌日

819社

35.2%

882社

38.3%

288社

12.7%

定時株主総会開催の2日後

54社

2.3%

47社

2.0%

22社

1.0%

定時株主総会開催の3日後

215社

9.2%

145社

6.3%

144社

6.4%

その他(注1)

82社

3.5%

65社

2.8%

38社

1.7%

合計

2,325社

100.0%

2,300社

100.0%

2,264社

100.0%

(注1)定時株主総会開催の4日後以降に提出した会社及び調査時点で定時株主総会未開催の会社を含めている。
(注2)調査時点で有報未提出の会社は集計に含めていない。

<図表2> 前期に総会前提出した会社の前倒し日数

前倒し日数(注)

会社数

1日以上後倒し

5社

前倒し日数変わらず

20社

1日前倒し

9社

2日前倒し

2社

3日前倒し

2社

4日以上前倒し

4社

合計

42社

(注)例えば、2024年3月期は総会6日前、2025年3月期は総会7日前に有報を提出した場合、1日前倒しとしている。

2. 総会前提出の日数分析

【調査範囲】

  • 調査日:2025年8月
  • 調査対象期間:2025年3月31日
  • 調査対象書類:有報
  • 調査対象会社:2025年3月31日決算

【調査結果】

2025年3月期の有報を総会前提出した会社が、定時株主総会の何日前に有報を提出したかを調査した結果は、<図表3>のとおりである。定時株主総会の前日に有報を提出した会社が842社(64.3%)と最も多く、定時株主総会の前日、2日前又は3日前に有報を提出した会社を合計すると9割近くに達することから、ほとんどの会社では有報提出から定時株主総会までの日数は数日以内であった。定時株主総会の1週間(7日)以上前に有報を提出した会社は、44社(3.4%)と少数であった。なお、定時株主総会開催の8日以上前に有報を提出した会社の一覧は、<図表4>のとおりである。

<図表3> 総会前有報提出から定時株主総会までの日数

有報提出時期

会社数

比率

定時株主総会開催の前日

842社

64.3%

定時株主総会開催の2日前

206社

15.7%

定時株主総会開催の3日前

96社

7.3%

定時株主総会開催の4日前

75社

5.7%

定時株主総会開催の5日前

27社

2.1%

定時株主総会開催の6日前

20社

1.5%

定時株主総会開催の7日前

36社

2.7%

定時株主総会開催の8日以上前

8社

0.6%

合計

1,310社

100.0%

<図表4> 総会の8日以上前に有報を提出した会社一覧

HOYA㈱(21日前)、㈱T&Dホールディングス(14日前)、㈱ZOZO(13日前)、トレイダーズホールディングス㈱(9日前)、㈱ニチレイ(8日前)、㈱コンコルディア・フィナンシャルグループ(8日前)、㈱十六フィナンシャルグループ(8日前)、㈱四国銀行(8日前)

(注)有報の総会前提出から定時株主総会までの日数が多い順、日数が同じ場合は証券コード順に記載している。


3. 総会前提出の業種別・市場別分析

【調査範囲】

  • 調査日:2025年8月
  • 調査対象期間:2025年3月31日
  • 調査対象書類:有報
  • 調査対象会社:2025年3月31日決算
     

【調査結果】

有報の総会前提出状況を、業種別に調査した結果は、<図表5>のとおりである。業種別の総会前提出割合は、銀行業や保険業では有報を総会前提出した会社の比率が高く、特に、銀行業ではすべての会社83社が有報を総会前提出していた。有報提出から定時株主総会までの平均日数は、有報を総会前提出した会社全体の平均日数が1.9日であるのに対し、保険業の平均日数は5.1日と全業種の中で最も多かった。

また、有報の総会前提出状況を、市場区分別に調査した結果は、<図表6>のとおりである。東証プライム市場に上場している会社は、有報を総会前提出した会社の比率が69.6%と、2025年3月期決算の上場会社全体の比率57.9%よりもやや高かった。有報提出から定時株主総会までの日数は、東証プライム市場に上場している会社の平均は2.0日であり、全体の平均1.9日と大きな差は見受けられなかった。

<図表5> 業種別の総会前提出割合

業種(注1)

調査対象会社

総会前提出会社数

調査対象会社に占める比率

総会前提出から総会までの平均日数(注2)

銀行業

83社

83社

100.0%

3.3日

保険業

10社

9社

90.0%

5.1日

石油・石炭製品

7社

6社

85.7%

3.0日

電気・ガス業

21社

17社

81.0%

1.6日

証券、商品先物取引業

30社

24社

80.0%

2.2日

海運業

10社

8社

80.0%

1.8日

その他金融業

32社

25社

78.1%

2.3日

パルプ・紙

18社

13社

72.2%

1.9日

陸運業

58社

39社

67.2%

1.3日

鉱業

3社

2社

66.7%

1.5日

倉庫・運輸関連

30社

19社

63.3%

1.8日

建設業

111社

70社

63.1%

2.0日

化学

148社

91社

61.5%

1.8日

電気機器

174社

106社

60.9%

1.6日

非鉄金属

28社

17社

60.7%

1.2日

輸送用機器

76社

46社

60.5%

1.7日

繊維製品

32社

19社

59.4%

1.3日

その他

1,393社

716社

51.4%

1.7日

合計

2,264社

1,310社

57.9%

1.9日

(注1)有報を総会前提出した会社の割合が高い業種順に記載している。
(注2)有報を総会前提出した会社が、総会の何日前に有報を提出したかの平均を集計している。

<図表6> 市場区分別の総会前提出割合

市場区分(注1)

調査対象会社

総会前提出会社数

調査対象会社に占める比率

総会前提出から総会までの平均日数(注2)

東証プライム

1,115社

776社

69.6%

2.0日

東証スタンダード

916社

435社

47.5%

1.6日

東証グロース

178社

73社

41.0%

1.7日

その他

55社

26社

47.3%

1.7日

合計

2,264社

1,310社

57.9%

1.9日

(注1)東証と他の取引所に重複上場している場合は、東証の市場区分で集計している。
(注2)有報を総会前提出した会社が、総会の何日前に有報を提出したかの平均を集計している


4. 総会前提出に係る記載箇所の分析

【調査範囲】

  • 調査日:2025年8月  
  • 調査対象期間:2025年3月31日  
  • 調査対象書類:有報 
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する186社 
    ①2025年4月1日現在、JPX400に採用されている
    ②3月31日決算である
    ③2025年6月30日までに有報を提出している 
    ④日本基準を適用している
     

【調査結果】

調査対象会社(186社)のうち、有報を総会前提出した会社は151社あり、それらの会社の当該定時株主総会又はその直後に開催が予定される取締役会の決議事項に係る有報の記載箇所を調査した結果は、<図表7>のとおりである。

「役員の状況」、「コーポレート・ガバナンスの概要」及び「監査の状況」では、定時株主総会における役員の選任決議について記載している会社が多く、その直後の取締役会の決議内容(役員の役職等)を含めて記載している会社が多くみられた。また、定時株主総会における定款の変更決議による監査等委員会設置会社への移行、役員の定数又は任期の変更について記載している会社もあった。

「配当政策」、「主要な経営指標等の推移」及び「(連結)株主資本等変動計算書関係注記」では、配当に関する定時株主総会決議について記載しており、「役員の報酬等」では、役員報酬額の改定、株式報酬制度の改定又は役員の選任に関する定時株主総会決議について記載している会社があった。株式報酬制度の改定に関する定時株主総会決議については、「株式等の状況」に記載している会社もあった。

<図表7> 総会前提出に係る有報記載箇所

記載箇所(注1)

会社数

役員の状況

151社

コーポレート・ガバナンスの概要

144社

配当政策

113社

主要な経営指標等の推移

112社

(連結)株主資本等変動計算書関係注記

112社

監査の状況

81社

役員の報酬等

48社

株式等の状況

15社

その他(注2)

18社

(注1)調査対象会社のうち有報を総会前提出した151社について、複数の記載がある場合には、それぞれ1社としてカウントしている。
(注2)「その他」としては、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「サステナビリティに関する考え方及び取組」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」、「重要な後発事象」や「追加情報」などにおける記載がみられた。

(旬刊経理情報(中央経済社)2025年9月20日号 No.1754「2025年3月期「有報」分析」を一部修正)


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