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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大浦 佑季
2025年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の業種別ののれんの開示の状況、のれんの償却期間の開示状況及び監査報告書の監査上の主要な検討事項(KAM)におけるのれんの記載状況を知りたい。
業種の相違がのれんに与える影響を調査するため、調査対象会社①(1,858社)について業種別にのれんを調査した結果が<図表1>のとおりである。水産・農林業(80.0%)及び保険業(75.0%)において、のれんを計上している会社の割合が高くなっている。水産・農林業については調査対象会社数が少なく、特定の会社がのれんを計上していることにより割合が高くなっていた。また、保険業においては平均のれん計上額も他の業種と比べて高くなっている。これは、保険業界は競争環境の激化により、大規模な企業再編が繰り返されていることが原因と考えられる。なお、2番目に平均のれん計上額が大きい石油・石炭製品(のれんを計上している会社の割合が33.3%のため<図表1>には記載されていない。)でも平均のれん計上額は63,068百万円であり、保険業の会社において計上されているのれんが、他の業種と比較して突出して多額であることがわかる。
続いて、総資産に占めるのれんの割合の業種別平均値をみると、全体では2.9%となっているが、サービス業で4.9%、情報・通信業において5.1%と他の業種と比較して高くなっている。ここで、有報の企業結合等関係注記において2025年3月期にのれんを計上した会社数を調査したところ、サービス業は36社、情報・通信業は31社と他の業種と比較して多くなっている。この点、サービス業及び情報・通信業ではM&Aなど企業結合等により事業規模を拡大する傾向が強く、2025年3月期においても積極的に企業結合等を実施し、のれんを計上した会社が多かったものと思われる。
<図表1> 業種別のれん調査
(注1)業種別に調査対象会社が5社以上、かつ、のれんを計上している会社の割合が50.0%以上の業種を記載している。
(注2)サービス業のうち日本郵政㈱については、のれんを除く総資産の平均値が297兆円と他のサービス業と比べて非常に多額であることから、平均値の計算から除外している。
調査対象会社②(186社)のうち「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」にのれんの償却方法及び償却期間を注記している会社131社についてのれんの償却期間を調査した結果が<図表2>のとおりである。20年以内と記載している会社が55社(42.0%)と約半数であり、ほとんどの会社は5年から20年の間でのれんを償却している旨の記載を行っていた。なお、131社のうち48社(36.6%)は、のれんの金額が僅少なものについては発生年度に全額償却している旨の記載を行っていた。
償却期間の記載 | 会社数 | 比率 |
20年以内 | 55社 | 42.0% |
5年 | 14社 | 10.7% |
5年から20年 | 7社 | 5.3% |
10年から20年 | 4社 | 3.1% |
10年 | 4社 | 3.1% |
10年以内 | 4社 | 3.1% |
20年 | 3社 | 2.3% |
5年と10年 | 3社 | 2.3% |
5年から10年 | 3社 | 2.3% |
その他 | 11社 | 8.4% |
年数の記載なし | 23社 | 17.6% |
合計 | 131社 | 100.0% |
大規模な企業結合等が実施された場合、のれんの計上額やのれん償却費は(連結)財務諸表に重要な影響を及ぼすと考えられる。また、のれんの償却期間やのれんの減損損失の計上要否については重要な会計上の見積りに該当する場合が多いと考えられることから、有報の監査報告書の「監査上の主要な検討事項」(以下「KAM」という。)で記載される場合があると考えられる。
調査対象会社②(186社)のうち、連結財務諸表を作成している183社について、連結財務諸表におけるのれんとのれんの減損損失の計上額の関係を調査した結果が<図表3>のとおりである。このうち、連結財務諸表に対するKAMにのれんを記載した31社について、のれんとのれんの減損損失の計上額の関係を調査した結果が<図表4>のとおりである。
<図表3> 連結財務諸表におけるのれんとのれんの減損損失の計上額
<図表4> 連結財務諸表におけるのれんとのれんの減損損失の計上額(連結財務諸表に対する監査報告書のKAMにのれんを記載した会社)
(注)括弧内の割合は<図表3>の会社数を分母、<図表4>の会社数を分子として計算している。
<図表4>より、のれんが100億円超1,000億円以下の会社の58.8%、のれんが1,000億円超の会社の50.0%において、KAMにのれんが記載されており、のれんが100億円を超えるとKAMとして選定されている会社が多くなるといえる。また、のれんの減損損失が10億円以下の会社の50.0%、のれんの減損損失が10億円超100億円以下の会社の66.7%でKAMにのれんが記載されていることから、のれんの減損損失が計上されている場合、その規模にかかわらず、KAMとして選定されている会社が多いといえる。
仮に、今後のれんの非償却が採用された場合、のれんの帳簿価額やのれんの減損損失の金額は既償却相当額の分だけ大きくなることから、例えば、IFRS会計基準と同様に、減損の兆候の有無にかかわらず、毎期のれんの減損テストが必要となった場合にも、のれんについてKAMに記載される会社が増加すると考えられる。
なお、100億円超ののれんの減損損失が計上されているがKAMに記載されていない1社については、のれんが総資産に占める割合は1.3%、のれんの減損損失が経常利益に占める割合は2.0%と小さく、連結財務諸表に対する影響が小さいことからKAMとして選定されなかったのではないかと考えられる。
(旬刊経理情報(中央経済社)2025年9月20日号 No.1754「2025年3月期「有報」分析」を一部修正)
2025年3月期 有報開示事例分析
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