2025年3月期 有報開示事例分析 
第6回:実務対応報告第46号に係る開示

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 兵藤 伸考

Question

2025年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)における実務対応報告第46号の開示の状況を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2025年8月 
  • 調査対象期間:2025年3月31日 
  • 調査対象書類:有報
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する2,080社
    ①3月31日決算の上場会社である
    ②日本基準を適用している

【調査結果】

1. 解説

① 経緯

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2024年3月に実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「実務対応報告46号」という。)及び補足文書「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する見積りについて」を公表した。グローバル・ミニマム課税は、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等を構成する会社等について、国別に算定された実効税率が基準税率(15%)を下回る場合、国別に集計された純所得(利益)に対する基準税率に至るまでの税額を、親会社等がその所在地国の税務当局に支払うものであることから、当該課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違する新たな税制であるとされている。

② 会計処理

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等合理的な金額を見積り、損益に計上するとされている(実務対応報告46号6項)。なお、グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計については、ASBJが実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下「実務対応報告44号」という。)の適用を終了するまでの間、連結会計年度及び事業年度の決算における税効果会計の適用にあたっては、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないものとされている(実務対応報告44号3項)。

③ 開示

(1) (連結)貸借対照表における表示

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3か月(グローバル・ミニマム課税制度に関する申告書を最初に提出すべき場合には1年6か月)以内に申告書を提出しなければならないとされ、当該申告期限までに納付することが求められている(実務対応報告46号BC2項)。このため、グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、連結貸借対照表及び個別貸借対照表の固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示するとされている(実務対応報告46号8項、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「財規」という。)52条1項5号、「『財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則』の取扱いに関する留意事項について」(財務諸表等規則ガイドライン)52-1-5、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財規」という。)38条1項4号、「『連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則』の取扱いに関する留意事項について」(連結財務諸表規則ガイドライン)38-1-4)。

ただし、連結貸借対照表については、負債及び純資産の合計額の100の1以下のもので、他の項目に属する負債と一括して表示することが適当であると認められるものについては、適当な名称を付した科目をもって一括して掲記することができるとされている(連結財規38条1項柱書きただし書き)。また、連結財務諸表作成会社のうち特例財務諸表提出会社として財務諸表等規則第127条の規定により財務諸表を作成している場合には、貸借対照表について会社計算規則の規定に基づいて記載することができることから別掲基準が設けられておらず、科目を集約して表示することも考えられる(財規127条1項、会社計算規則75条1項)。

(2) 連結損益計算書における表示

連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目に表示するとされている。また、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要な場合は、当該金額を注記するとされている(実務対応報告46号9項、10項、連結財規65条2項)。

(3) 個別損益計算書における表示

個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、次のいずれかの方法により表示するとされている(実務対応報告46号11項、財規95条の5第1項2号、2項)。

  • 法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を表示した科目の次にその内容を示す科目をもって区分して表示する。
  • 法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示し、当該金額を注記する。

なお、個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額の重要性が乏しい場合、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示することができるとされており、この場合には当該金額の注記は要しないこととされている(実務対応報告46号12項、財規95条の5第2項)。

2. 事例分析

① 貸借対照表における表示

調査対象会社を対象に、連結貸借対照表及び個別貸借対照表の固定負債の区分に「長期未払法人税等」を記載している事例を調査した結果は<図表1>のとおりである。固定負債の区分に「長期未払法人税等」を記載している会社は40社であり、39社は東証プライム市場上場企業であった。なお、前述のとおり、適当な名称を付した科目をもって一括して掲記している等の長期未払法人税等を別掲していない事例については40社にカウントされていない。

<図表1> 貸借対照表における表示

事例

会社数

連結・個別いずれも記載

16社

個別のみ記載

24社

 合計

40社

② 連結損益計算書における表示

調査対象会社を対象に、連結損益計算書における表示を分析した結果、連結損益計算書において法人税、住民税及び事業税に含めて表示し、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額を注記している事例は7社のみであった。重要性を勘案して注記を省略している会社が多かったものと考えられる

③ 損益計算書における表示

調査対象会社を対象に、損益計算書における表示を分析した結果が、<図表2>のとおりである。損益計算書において法人税、住民税及び事業税の次に「国際最低課税額に対する法人税等」として表示している事例が10社あった。連結財務諸表におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、グループの利益(所得)に対する課税額という点では、他の法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)と同様であるため、区分表示又は注記を求めないとされている一方で、親会社等の個別財務諸表上は企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」第4項(7)において定義する所得には含まれないことから、親会社等の所得に対して計上される法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)とは区分することが適切であると考えられるとされている(実務対応報告46号BC23項、BC25項)。

<図表2> 損益計算書における表示

表示方法

会社数

損益計算書において法人税、住民税及び事業税に含めて表示し、当該金額を注記

4社

損益計算書において法人税、住民税及び事業税の次に「国際最低課税額に対する法人税等」として表示

10社

④ 会計方針における開示

調査対象会社を対象に、連結財務諸表の会計方針の変更に実務対応報告46号の適用を記載している事例を調査した結果、記載を行っている会社は52社であった。また、影響金額の記載状況を調査した結果が<図表3>のとおりである。グローバル・ミニマム課税制度は、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等を構成する会社等が国別に算定された実効税率が基準税率(15%)を下回る場合に適用となることから適用される会社が限定的であること、又は当該課税制度自体が2024年4月1日以後に開始する対象会計年度から施行されるもので、当該税制の同時適用であること等により、注記の記載を行っている会社が少なかったと考えられる。

<図表3> 会計方針の変更における影響金額の記載状況

開示状況

会社数

連結財務諸表への影響金額を記載

1社

連結財務諸表への影響は軽微である旨を記載

23社

連結財務諸表への影響がない旨を記載

22社

連結財務諸表への影響を記載していない

6社

合計

52社

(旬刊経理情報(中央経済社)2025年9月20日号 No.1754「2025年3月期「有報」分析」を一部修正)

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