2025年3月期 有報開示事例分析 
第9回:内部統制報告書(重要な事業拠点の選定において利用した指標とその一定割合)

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大山 文隆

Question

2025年3月期決算に係る内部統制報告書における、重要な事業拠点の選定において利用した指標とその一定割合に関する開示の状況を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2025年8月 
  • 調査対象期間:2025年3月31日 
  • 調査対象書類:内部統制報告書
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する186社
    ①2025年4月1日現在、JPX400に採用されている
    ②3月31日決算である
    ③2025年6月30日までに内部統制報告書を提出している
    ④日本基準を適用している
     

【調査結果】

2025年3月期決算から改訂後の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」及び「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下「改訂内部統制実施基準」という。)が適用されることとなり、内部統制報告書の記載内容について開示の拡充が求められている。

ここで、重要な事業拠点の選定において利用した指標(以下「重要な事業拠点の選定指標」という。)とその一定割合については、決定の判断事由を含めて記載することが求められている(「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」Ⅱ-4-(4)①)。

1. 重要な事業拠点の選定指標

調査対象会社(186社)について、2025年3月期における内部統制報告書の「重要な事業拠点の選定指標」及び「重要な事業拠点の選定指標の数(業種別)」を調査した。調査結果は<図表1>及び<図表2>のとおりである。

<図表1> 重要な事業拠点の選定指標

指標

会社数(注1)

調査対象会社に占める比率

売上高(注2)

184

98.9%

総資産

22

11.8%

税引前利益

17

9.1%

棚卸資産

11

5.9%

売上原価

7

3.7%

固定資産

3

1.6%

売上総利益

3

1.6%

仕入債務(買掛金含む。)

2

1.1%

販売費及び一般管理費

1

0.5%

製造活動の規模及び
事業活動から生じた成果

1

0.5%

(注1)例えば、売上高と税引前利益を重要な事業拠点の選定指標としている会社については、売上高と税引前利益それぞれに1社として集計している。
(注2)売上収益、経常収益、営業収益も含む。

<図表2> 重要な事業拠点の選定指標の数(業種別)

業種

会社数

「複数」記載している会社において売上高以外に記載されていた主な指標

売上高のみ

複数

その他

銀行業

4

6

-

総資産、税引前利益、経常利益

電気・ガス業

1

5

-

総資産、税引前利益

化学

8

5

-

総資産、税引前利益、棚卸資産

卸売業

7

4

-

総資産、税引前利益、売上原価

非鉄金属

1

3

-

総資産、税引前利益、棚卸資産

電気機器

12

3

-

総資産、税引前利益、棚卸資産

その他の業種

104

21

2

-

合計

137

47

2

-

調査対象会社(186社)のうち、重要な事業拠点の選定指標として売上高を記載している会社が184社(98.9%)であり最も多かった。改訂内部統制実施基準において例示されており、実務においても浸透している指標であるためと考えられる。次に、総資産を記載している会社数が22社(11.8%)、税引前利益を記載している会社数が17社(9.1%)と多かった。これらも改訂内部統制実施基準において例示されている指標である。また、総資産は各事業の資産規模を示す指標であること、税引前利益は財務諸表利用者が着目する指標であることから重要な事業拠点の選定指標としている会社が多いと考えられる。

重要な事業拠点の選定指標を複数記載している会社は47社(25.3%)であり、業種に関係なく売上高以外の指標として総資産、税引前利益を記載している会社が多く見受けられた。また、製造業等の多額の在庫を保有していると考えられる業種においては売上高以外の指標として棚卸資産を記載している会社も見受けられた。

次に、調査対象会社(186社)について、重要な事業拠点の選定指標における決定の判断事由について記載内容を調査した。調査結果は<図表3>のとおりである。

<図表3> 重要な事業拠点の選定指標における決定の判断事由

記載内容

会社数

売上高のみ

複数

その他

合計

事業内容や事業の特性を踏まえ、事業規模、経営成績等を示す指標として適切

100

24

1

125

経営管理上、重視している指標

10

1

- 

11

各事業拠点の利益水準や利益率に乖離が無い

8

1

- 

9

財務報告への金額的影響が重要

6

1

- 

7

各事業拠点の利益水準や利益率が異なる

5

- 

- 

5

指標ごとに決定の判断事由を記載

- 

15

- 

15

その他

8

5

1

14

合計

137

47

2

186

調査対象会社(186社)のうち、事業内容や事業の特性を踏まえ、事業規模、経営成績等を示す指標として適切であることを決定の判断事由としている会社が125社(67.2%)と最も多かった。このうち、具体的な事業内容を記載している会社は106社であった。

2. 重要な事業拠点の選定指標の一定割合

調査対象会社(186社)について、2025年3月期の内部統制報告書の重要な事業拠点の選定指標の一定割合として何を記載しているかを調査した。調査結果は<図表4>のとおりである。

<図表4> 重要な事業拠点を選定する指標の一定割合

記載内容

会社数

調査対象会社に
占める比率

おおむね3分の2程度

112

60.2%

おおむね3分の2程度に加えて質的重要性を考慮

59

31.7%

重要な事業拠点が占めるカバー率の実績を記載

9

4.9%

その他

6

3.2%

合計

186

100.0%

改訂内部統制実施基準において例示されている一定割合であるおおむね3分の2程度を記載している会社が112社(60.2%)と最も多かった。また、おおむね3分の2程度に加えて質的重要性を考慮している旨を記載した59社(31.7%)においては、長期間にわたり評価範囲外としてきた事業拠点、不正リスクや開示すべき重要な不備の有無等の具体的に考慮した項目を明記している会社も見受けられた。これらは評価範囲の決定における改訂に伴い、内部統制報告書においても明記されたものと考えられる。重要な事業拠点が占めるカバー率の実績を記載している9社(4.8%)についてはいずれも、おおむね3分の2よりも高いカバー率となっていた。

次に、調査対象会社(186社)について、重要な事業拠点を選定する指標の一定割合における決定の判断事由を調査した。調査結果は<図表5>のとおりである。

<図表5> 重要な事業拠点を選定する指標の一定割合における決定の判断事由

記載内容

会社数

調査対象会社に
占める比率

全社統制の評価が良好

76

40.8%

その他

2

1.1%

特段記載なし

108

58.1%

合計

186

100.0%

全社統制の評価が良好であることを記載した会社数が最も多く、76社(40.8%)であった。これは改訂内部統制実施基準において「全社的な内部統制の評価が良好であれば、例えば、連結ベースの売上高等の一定割合(おおむね 3分の2程度)とする考え方や、総資産、税引前利益等の一定割合とする考え方もある」との記載があり、こちらを参考にした会社が多いためと考えられる。

決定の判断事由について特段記載がなかった会社は108社(58.1%)であった。このうち、おおむね3分の2程度を一定割合としているが決定の判断事由について特段記載がなかった会社は97社であった。おおむね3分の2程度は改訂内部統制実施基準において例示されている項目であり、実務においても広く知られている割合であるため、あえて記載していないものと考えられる。

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