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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 中澤 範之
2025年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の未適用の会計基準等の注記の開示の状況を知りたい。
未適用の会計基準等に関する注記において、既に公表されている会計基準等のうち、適用していないものがある場合には、次の事項を注記しなければならないとされている(企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」12項、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」14条の4、「財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「財規」という。)8条の3の3)。
ただし、重要性の乏しいものについては注記を省略することができる(財規8条の3の3第1項柱書きただし書き)。
未適用の会計基準等として、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下「新リース会計基準」という。)及び改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「改正移管指針9号」という。)が注記されていた。
新リース会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用される。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができるとされているが、注記を記載している事例は調査対象会社186社のうち183社(98.4%)であった。記載をしていない3社は、それぞれ化学、情報・通信業、保険業であった。
また、改正移管指針9号は、上場企業等が保有するベンチャーキャピタルファンドの出資持分について、組合等に組み入れられた非上場株式等を時価評価し、評価差額の持分相当額を純資産の部に計上することを選択可能にするように改正されており、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができることとされている。この改正移管指針9号について記載している事例は6社(3.2%)であった。6社とも影響は評価中であったが、基準改正がベンチャーキャピタルファンドの出資を対象としていることから、影響する会社が少なかったと考えられる。
調査対象会社(186社)のうち、未適用の会計基準等に関する注記を行っている事例183社を対象に、当該会計基準等が財務諸表に与える影響に関する事項の開示状況を調査した結果が<図表1>及び<図表2>のとおりである。
また、適用予定日について、2027年3月期の期首から早期適用が1社(0.5%)、未定としている会社が1社(0.5%)、残りの181社(98.9%)は2028年3月期の期首から原則適用と記載していた。影響については、翌期にIFRS会計基準を適用するため評価していない旨を記載している会社が1社、残りの182社は評価中の旨を開示していた。このようにほとんどの会社が原則適用を採用している理由は、リースの識別や会計処理の検討に時間を要するためと考えられる。
概要の分類 | 会社数 | 比率 |
例えば、「国際的な会計基準と同様に、借手のすべてのリースについて資産・負債を計上する等の取扱いを定めるもの。」のように、借手のみに言及している事例 | 180社 | 98.4% |
例えば、「貸手の会計処理として、ファイナンス・リースの収益の計上の方法については、リース料を収受すべき時に売上高と売上原価を計上する方法から、リース料を利息相当額と元本回収額とに区分し、前者を各期の損益として処理し、後者をリース債権及びリース投資資産の元本回収額として会計処理を行う方法に変更される。」のように、貸手にも言及している事例 | 3社 | 1.6% |
合計 | 183社 | 100.0% |
影響の開示 | 会社数 | 比率 |
2028年3月期の期首から原則適用 | 181社 | 98.9% |
2027年3月期の期首から早期適用 | 1社 | 0.5% |
適用予定日は未定 | 1社 | 0.5% |
合計 | 183社 | 100.0% |
(旬刊経理情報(中央経済社)2025年9月20日号 No.1754「2025年3月期「有報」分析」を一部修正)
2025年3月期 有報開示事例分析
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