2025年3月期 有報開示事例分析 
第2回:のれんの動向①(上場市場別分析)

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大浦 佑季

Question

2025年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の上場市場別ののれんの開示の状況を知りたい。


Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2025年8月 
  • 調査対象期間:2025年3月31日 
  • 調査対象書類:有報
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する1,858社 
    ①東京証券取引所、札幌証券取引所、名古屋証券取引所、福岡証券取引所に上場している
    ②3月31日決算である
    ③2025年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ④日本基準を適用している
    ⑤連結財務諸表を作成している

【調査結果】

のれんについて、有報では「取得による企業結合が行われた場合の注記」として、発生したのれんの金額、発生原因、償却方法及び償却期間の記載が求められている(「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財規」という。)15条の12第1項7号)。

また、「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」として、のれんの償却方法及び償却期間について有報に記載することが求められている(連結財規13条1項4号、「『連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則』の取扱いに関する留意事項について」(連結財務諸表規則ガイドライン)13-5の2(8))。

1. 上場市場別ののれん表示会社数

調査対象会社(1,858社)について、連結貸借対照表にのれんを表示している会社数を上場市場別に調査した結果は<図表1>のとおりである。

調査対象会社(1,858社)のうち、735社(39.6%)がのれんを表示しており、特に東証グロース市場に上場する会社においては半数以上の58.3%がのれんを表示している。

<図表1> 上場市場別のれん表示会社数


上場市場(注1)


調査対象会社数

のれんを表示している会社

2025年3月期にのれんを計上した会社(注2)

会社数

調査対象会社に占める比率

会社数

調査対象会社に占める比率

東証プライム市場

934社

410社

43.9%

122社

13.1%

東証スタンダード市場

765社

246社

32.2%

70社

9.2%

東証グロース市場

120社

70社

58.3%

25社

20.8%

その他の市場

39社

9社

23.1%

5社

12.8%

合計

1,858社

735社

39.6%

222社

11.9%

(注1)東証と他の証券取引所に重複上場している場合は、東証の市場区分で集計している。
(注2)有報の企業結合等関係注記でのれんの計上について記載している会社を集計した。

2. 総資産に占めるのれんの割合の市場別平均

のれんを表示している会社について、総資産に占めるのれんの割合の平均値を上場市場別に調査した結果は、<図表2>のとおりである。東証グロース市場に上場している会社では、総資産に占めるのれんの割合の平均値が6.8%と他の市場と比較して高くなっている。<図表1>より、東証グロース市場に上場する会社の20.8%が2025年3月期に企業結合等によりのれんを計上していることからも、高い成長可能性を有する会社向けの市場である東証グロース市場に上場している会社は、会社の成長のために企業結合取引も活発に実施していることがうかがえる。

内閣府規制改革推進会議が2025年5月28日に公表した「規制改革推進に関する答申」においては、スタートアップ関係者ののれんの償却に関する問題意識について言及されていたが、東証グロース市場の半数超がのれんを計上しており、総資産に占めるのれんの割合が高いことからも、のれんの償却、非償却に関する取扱いがスタートアップ関係者に及ぼす影響が特に大きいと考えられる。

<図表2> 総資産に占めるのれんの割合の市場別平均

上場市場

のれんの平均値

総資産の平均値

総資産に占めるのれんの割合の平均値

東証プライム

12,868百万円

4,490,354百万円

2.1%

東証スタンダード

885百万円

87,794百万円

3.2%

東証グロース

467百万円

12,724百万円

6.8%

その他

1,078百万円

72,085百万円

1.5%

全体

7,532百万円

2,536,302百万円

2.9%

3. 経常損益(絶対値)とのれん計上額の調査

東京証券取引所の各市場に上場している会社を対象に、2025年3月期決算における連結貸借対照表の「のれん」について連結損益計算書の「経常損益」に占める金額的影響を調査した結果が、<図表3>から<図表5>である。なお、会社の規模を表す指標として経常損益を使用したが、経常損益については経常利益の場合と経常損失の場合のいずれでも調査できるよう、その絶対値を使用した。

<図表3>で示した東証プライム市場においては、経常損益、のれんともに1,000億円以上の会社があるのに対して、<図表4>で示した東証スタンダード市場においては経常損益、のれんともに100億円超、<図表5>で示した東証グロース市場においては経常損益、のれんともに10億円超が最大値となっている。また、東証プライム市場においてはのれん計上額が10億円超100億円以下の会社が158社(38.5%)と最も多く、東証スタンダード市場と東証グロース市場ではのれん計上額が1億円超10億円以下の会社がそれぞれ117社(47.6%)、33社(47.1%)と最も多いことがわかる。このようにいずれの市場においても、会社の規模に応じてのれん計上額も増加しているものの、会社が属する市場によってのれんの計上規模について相違があるといえる。

<図表3> 経常損益(絶対値)とのれん計上額の調査(東証プライム市場)

東証プライム市場

のれん

1億円以下

1億円超10億円以下

10億円超100億円以下

100億円超500億円以下

1,000億円超

合計

経常損益
(絶対値)

1億円以下

0社

1社

0社

0社

0社

1社

1億円超10億円以下

0社

3社

0社

0社

0社

3社

10億円超100億円以下

28社

66社

54社

13社

0社

161社

100億円超1,000億円以下

14社

63社

98社

43社

1社

219社

1,000億円超

0社

0社

6社

11社

9社

26社

合計

42社

133社

158社

67社

10社

410社

東証プライム市場のれん計上会社に占める比率

10.2%

32.4%

38.5%

16.3%

2.4%

100.0%

<図表4> 経常損益(絶対値)とのれん計上額の調査(東証スタンダード市場)

東証スタンダード市場

のれん

1億円以下

1億円超10億円以下

10億円超100億円以下

100億円超1,000億円以下

1,000億円超

合計

経常損益
(絶対値)

1億円以下

18社

13社

4社

0社

0社

35社

1億円超10億円以下

25社

43社

10社

0社

0社

78社

10億円超100億円以下

34社

59社

29社

2社

0社

124社

100億円超1,000億円以下

0社

2社

6社

1社

0社

9社

1,000億円超

0社

0社

0社

0社

0社

0社

合計

77社

117社

49社

3社

0社

246社

東証スタンダード市場のれん計上会社に占める比率

31.3%

47.6%

19.9%

1.2%

0.0%

100.0%

<図表5> 経常損益(絶対値)とのれん計上額の調査(東証グロース市場)

東証グロース市場

のれん

1億円以下

1億円超10億円以下

10億円超100億円以下

100億円超1,000億円以下

1,000億円超

合計

経常損益
(絶対値)

1億円以下

10社

9社

3社

0社

0社

22社

1億円超10億円以下

9社

18社

7社

0社

0社

34社

10億円超100億円以下

6社

6社

2社

0社

0社

14社

100億円超1,000億円以下

0社

0社

0社

0社

0社

0社

1,000億円超

0社

0社

0社

0社

0社

0社

合計

25社

33社

12社

0社

0社

70社

東証グロース市場のれん計上会社に占める比率

35.7%

47.1%

17.1%

0.0%

0.0%

100.0%

(旬刊経理情報(中央経済社)2025年9月20日号 No.1754「2025年3月期「有報」分析」を一部修正)


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