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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 大浦 佑季
2025年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の上場市場別ののれんの開示の状況を知りたい。
のれんについて、有報では「取得による企業結合が行われた場合の注記」として、発生したのれんの金額、発生原因、償却方法及び償却期間の記載が求められている(「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財規」という。)15条の12第1項7号)。
また、「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」として、のれんの償却方法及び償却期間について有報に記載することが求められている(連結財規13条1項4号、「『連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則』の取扱いに関する留意事項について」(連結財務諸表規則ガイドライン)13-5の2(8))。
調査対象会社(1,858社)について、連結貸借対照表にのれんを表示している会社数を上場市場別に調査した結果は<図表1>のとおりである。
調査対象会社(1,858社)のうち、735社(39.6%)がのれんを表示しており、特に東証グロース市場に上場する会社においては半数以上の58.3%がのれんを表示している。
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| のれんを表示している会社 | 2025年3月期にのれんを計上した会社(注2) | ||
会社数 | 調査対象会社に占める比率 | 会社数 | 調査対象会社に占める比率 | ||
東証プライム市場 | 934社 | 410社 | 43.9% | 122社 | 13.1% |
東証スタンダード市場 | 765社 | 246社 | 32.2% | 70社 | 9.2% |
東証グロース市場 | 120社 | 70社 | 58.3% | 25社 | 20.8% |
その他の市場 | 39社 | 9社 | 23.1% | 5社 | 12.8% |
合計 | 1,858社 | 735社 | 39.6% | 222社 | 11.9% |
(注1)東証と他の証券取引所に重複上場している場合は、東証の市場区分で集計している。
(注2)有報の企業結合等関係注記でのれんの計上について記載している会社を集計した。
のれんを表示している会社について、総資産に占めるのれんの割合の平均値を上場市場別に調査した結果は、<図表2>のとおりである。東証グロース市場に上場している会社では、総資産に占めるのれんの割合の平均値が6.8%と他の市場と比較して高くなっている。<図表1>より、東証グロース市場に上場する会社の20.8%が2025年3月期に企業結合等によりのれんを計上していることからも、高い成長可能性を有する会社向けの市場である東証グロース市場に上場している会社は、会社の成長のために企業結合取引も活発に実施していることがうかがえる。
内閣府規制改革推進会議が2025年5月28日に公表した「規制改革推進に関する答申」においては、スタートアップ関係者ののれんの償却に関する問題意識について言及されていたが、東証グロース市場の半数超がのれんを計上しており、総資産に占めるのれんの割合が高いことからも、のれんの償却、非償却に関する取扱いがスタートアップ関係者に及ぼす影響が特に大きいと考えられる。
上場市場 | のれんの平均値 | 総資産の平均値 | 総資産に占めるのれんの割合の平均値 |
東証プライム | 12,868百万円 | 4,490,354百万円 | 2.1% |
東証スタンダード | 885百万円 | 87,794百万円 | 3.2% |
東証グロース | 467百万円 | 12,724百万円 | 6.8% |
その他 | 1,078百万円 | 72,085百万円 | 1.5% |
全体 | 7,532百万円 | 2,536,302百万円 | 2.9% |
東京証券取引所の各市場に上場している会社を対象に、2025年3月期決算における連結貸借対照表の「のれん」について連結損益計算書の「経常損益」に占める金額的影響を調査した結果が、<図表3>から<図表5>である。なお、会社の規模を表す指標として経常損益を使用したが、経常損益については経常利益の場合と経常損失の場合のいずれでも調査できるよう、その絶対値を使用した。
<図表3>で示した東証プライム市場においては、経常損益、のれんともに1,000億円以上の会社があるのに対して、<図表4>で示した東証スタンダード市場においては経常損益、のれんともに100億円超、<図表5>で示した東証グロース市場においては経常損益、のれんともに10億円超が最大値となっている。また、東証プライム市場においてはのれん計上額が10億円超100億円以下の会社が158社(38.5%)と最も多く、東証スタンダード市場と東証グロース市場ではのれん計上額が1億円超10億円以下の会社がそれぞれ117社(47.6%)、33社(47.1%)と最も多いことがわかる。このようにいずれの市場においても、会社の規模に応じてのれん計上額も増加しているものの、会社が属する市場によってのれんの計上規模について相違があるといえる。
東証プライム市場 | のれん | ||||||
1億円以下 | 1億円超10億円以下 | 10億円超100億円以下 | 100億円超500億円以下 | 1,000億円超 | 合計 | ||
経常損益 | 1億円以下 | 0社 | 1社 | 0社 | 0社 | 0社 | 1社 |
1億円超10億円以下 | 0社 | 3社 | 0社 | 0社 | 0社 | 3社 | |
10億円超100億円以下 | 28社 | 66社 | 54社 | 13社 | 0社 | 161社 | |
100億円超1,000億円以下 | 14社 | 63社 | 98社 | 43社 | 1社 | 219社 | |
1,000億円超 | 0社 | 0社 | 6社 | 11社 | 9社 | 26社 | |
合計 | 42社 | 133社 | 158社 | 67社 | 10社 | 410社 | |
東証プライム市場のれん計上会社に占める比率 | 10.2% | 32.4% | 38.5% | 16.3% | 2.4% | 100.0% | |
東証スタンダード市場 | のれん | ||||||
1億円以下 | 1億円超10億円以下 | 10億円超100億円以下 | 100億円超1,000億円以下 | 1,000億円超 | 合計 | ||
経常損益 | 1億円以下 | 18社 | 13社 | 4社 | 0社 | 0社 | 35社 |
1億円超10億円以下 | 25社 | 43社 | 10社 | 0社 | 0社 | 78社 | |
10億円超100億円以下 | 34社 | 59社 | 29社 | 2社 | 0社 | 124社 | |
100億円超1,000億円以下 | 0社 | 2社 | 6社 | 1社 | 0社 | 9社 | |
1,000億円超 | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 | |
合計 | 77社 | 117社 | 49社 | 3社 | 0社 | 246社 | |
東証スタンダード市場のれん計上会社に占める比率 | 31.3% | 47.6% | 19.9% | 1.2% | 0.0% | 100.0% | |
東証グロース市場 | のれん | ||||||
1億円以下 | 1億円超10億円以下 | 10億円超100億円以下 | 100億円超1,000億円以下 | 1,000億円超 | 合計 | ||
経常損益 | 1億円以下 | 10社 | 9社 | 3社 | 0社 | 0社 | 22社 |
1億円超10億円以下 | 9社 | 18社 | 7社 | 0社 | 0社 | 34社 | |
10億円超100億円以下 | 6社 | 6社 | 2社 | 0社 | 0社 | 14社 | |
100億円超1,000億円以下 | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 | |
1,000億円超 | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 | 0社 | |
合計 | 25社 | 33社 | 12社 | 0社 | 0社 | 70社 | |
東証グロース市場のれん計上会社に占める比率 | 35.7% | 47.1% | 17.1% | 0.0% | 0.0% | 100.0% | |
(旬刊経理情報(中央経済社)2025年9月20日号 No.1754「2025年3月期「有報」分析」を一部修正)
2025年3月期 有報開示事例分析
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