2025年3月期 有報開示事例分析 
第5回:株式の保有状況(政策保有株式等)

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 兵藤 伸考

Question

2025年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の株式の保有状況(政策保有保有株式等)の開示の状況を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2025年8月 
  • 調査対象期間:2025年3月31日 
  • 調査対象書類:有報
  • 調査対象会社:2025年3月31日決算

【調査結果】

1. 解説

2025年1月31日に令和7年内閣府令第6号「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」が公布され、政策保有株式の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という。)の規定が改正された。

有報における「コ-ポレ-ト・ガバナンスの状況等」の「株式の保有状況」では、従前、最近事業年度中に投資株式の保有目的を純投資目的から純投資目的以外の目的に変更したもの又は純投資目的以外の目的から純投資目的に変更したものがある場合には、それぞれ区分して、銘柄ごとに、銘柄、株式数及び貸借対照表計上額を記載することとされていた。この点、当該改正により、開示府令において、当事業年度末において保有している投資株式で、保有目的を変更した場合における開示について、純投資目的以外の目的に変更したもの又は純投資目的以外の目的から純投資目的に変更したものがある場合には、次の開示を求めている。なお、(1)については従来から開示が求められている項目であり、(2)について開示府令の改正によって新たに開示が求められている。

(1) 最近事業年度において、純投資目的から純投資目的以外の目的に変更した場合(開示府令第三号様式(記載上の注意)(39)、第二号様式(記載上の注意)(58)f(a))

  • 銘柄
  • 株式数
  • 貸借対照表計上額

(2) 当期を含む最近5事業年度以内に純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した株式がある場合(開示府令第三号様式(記載上の注意)(39)、第二号様式(記載上の注意)(58)f(b))

  • 銘柄
  • 株式数
  • 貸借対照表計上額
  • 保有目的を変更した事業年度
  • 保有目的の変更の理由及び保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針

また、「企業内容等の開示に関する留意事項について」(企業内容等開示ガイドライン)(以下「開示ガイドライン」という。)も改正され、従前のパブリックコメントの回答内容等を踏まえて、「純投資目的」の考え方についても明示されている(開示ガイドライン5-19-3-2)。

  • 「純投資目的」とは、専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とすることをいう。
  • 例えば、当該株式の発行者等が提出会社の株式を保有する関係にあること、当該株式の売却に関して発行者の応諾を要すること等により、発行者との関係において提出会社による売却を妨げる事情が存在する株式は、純投資目的で保有しているものとはいえないことに留意する。

2. 開示状況の調査結果

(1) 最近事業年度において、純投資目的から純投資目的以外の目的に変更した事例

2025年3月期決算の上場会社2,264社を対象に、有報の「株式の保有状況」から、最近事業年度において、純投資目的から純投資目的以外の目的に変更した記載を行っている会社を調査した結果、記載している事例は10社(0.4%)のみであった。なお、最近事業年度中に投資株式の保有目的を純投資目的から純投資目的以外の目的に変更したものがある場合については改正前においても開示が求められていた。2024年3月期の有報を提出した上場会社2,239社を対象に、2024年3月期の開示状況を調査した結果、記載している事例は12社(0.5%)であり、2024年3月期から大きな変化はみられなかった。

(2) 当期を含む最近5事業年度以内に純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した株式がある事例

2025年3月期決算の上場会社2,264社を対象に、有報の「株式の保有状況」から、最近事業年度において、当期を含む最近5事業年度以内に純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した株式がある事例を調査した結果、記載している事例は173社(7.6%)であった。当該173社について業種別に集計した結果が、<図表1>のとおりである。銀行業が最も多く全体の28.9%を占めていた。銀行業では従来から政策保有株式を多く保有していたことから変更する事例が増えているものと考えられる。

<図表1> 純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した株式の業種別分析

業種

会社数

比率

銀行業

50社

28.9%

棚卸業

20社

11.6%

情報・通信業

13社

7.5%

機械

13社

7.5%

食料品

10社

5.8%

その他

67社

38.7%

 合計

173社

100.0%

当期を含む最近5事業年度以内に純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した株式がある事例173社について目的を変更した事業年度別の事例を分析した結果が、<図表2>のとおりである。約半数は2025年3月期に投資目的を変更していた。2021年3月期に変更している事例が45社(26.0%)あり、純投資目的以外の目的から純投資目的に変更してから約5年間売却せず株式を保有し続けている会社も一定数みられた。

<図表2> 純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した株式の事業年度別分析

変更年度

会社数

比率

2021年3月期

45社

26.0%

2022年3月期

63社

36.4%

2023年3月期

56社

32.4%

2024年3月期

74社

42.8%

2025年3月期

93社

53.8%

(※) 1社で複数事業年度に変更している場合にはそれぞれ1社とカウントしている。

また、当期を含む最近5事業年度以内に変更した回数を分析した結果が、<図表3>のとおりである。当期を含む最近5事業年度以内に複数回にわたって変更している会社は46.8%と約半数であり、多くの会社で継続して政策保有株式の保有目的を見直しているものと思われる。

<図表3> 純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した回数

変更回数

会社数

比率

1回

92社

53.2%

2回

41社

23.7%

3回

19社

11.0%

4回

14社

8.1%

5回

7社

4.0%

合計

173社

100.0%

さらに、当期を含む最近5事業年度以内に純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した株式がある事例173社について、純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した株式に関して保有目的の変更の理由を分析した結果が<図表4>のとおりである。会社の保有方針に基づき検証するなど保有方針を見直した結果、保有目的を変更した事例が28.3%と最も多かったが、持合株式の解消や売却について相手先の合意が得られたなど相手先との交渉の結果、保有目的を変更した事例も多くみられた。

<図表4> 純投資目的以外の目的から純投資目的に変更した理由分析

変更の理由

会社数

比率

保有方針を見直した結果

49社

28.3%

保有意義が薄れた

32社

18.5%

持合い解消の合意

28社

16.2%

相手先との売却の合意

24社

13.9%

売却を妨げる事情はないと判断した

9社

5.2%

(※) 8社以下の理由については記載を省略している。

(旬刊経理情報(中央経済社)2025年9月20日号 No.1754「2025年3月期「有報」分析」を一部修正)

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