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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 兵藤 伸考
2025年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の重要な契約等の開示の状況を知りたい。
2023年12月22日に令和5年内閣府令第81号「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(以下「令和5年内閣府令81号」という。)が公布され、有報の開示項目である「経営上の重要な契約等」が「重要な契約等」に変更されるとともに、重要な契約について新たに次の開示が求められることになった。
有報等の提出会社(提出会社が持株会社の場合には、その子会社を含む。)が、提出会社の株主との間で、次のガバナンスに影響を及ぼし得る合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く。)を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的及びガバナンスへの影響等の開示を求めることとされている(「企業内容等の開示に関する開示府令」(以下「開示府令」という。)第三号様式(記載上の注意)(13)、第二号様式(記載上の注意)(33)f本文)。
有報等の提出会社が、提出会社の株主(大量保有報告書を提出した株主その他の重要な株主)との間で、次の株主保有株式の処分等に関する合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く。)を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的等の開示を求めることとされている(開示府令第三号様式(記載上の注意)(13)、第二号様式(記載上の注意)(33)g本文)。
有報等の提出会社が、財務上の特約その他当該提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性のある特約が付された金銭消費貸借契約の締結又は社債の発行をしている場合であって、その残高が連結純資産額の10%以上である場合(同種の契約・社債はその負債の額を合算する。)、次のような当該契約又は社債の概要及び財務上の特約の内容を開示することとされている(開示府令第三号様式(記載上の注意)(13)、第二号様式(記載上の注意)(33)h本文)。
ⅰ 特約が付された金銭消費貸借契約の締結をしている場合には、次に掲げる事項
ⅱ 特約が付された社債の発行をしている場合には、次に掲げる事項
2024年4月1日から施行され、2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有報等から適用される。ただし、施行日前に締結された契約については、2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有報等から記載が求められることになるが、それまでは記載を省略することができるとする経過措置が設けられている(令和5年内閣府令81号附則3条4項)。
調査対象会社(186社)を対象に、「事業の状況」の「重要な契約等」の記載状況を調査した結果、① 企業・株主間のガバナンスに関する合意、② 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意、及び③ 金銭消費貸借契約と社債に付される財務上の特約について記載している会社数は<図表1>のとおりである。
③ 金銭消費貸借契約と社債に付される財務上の特約について記載している事例は23社と全体の12.4%であるのに対して、① 企業・株主間のガバナンスに関する合意、及び② 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意はいずれも5%未満であった。
また、調査対象会社のうち17社(9.1%)の会社が、経過措置を適用している旨の記載を行っていた。
項目 | 会社数 | 比率 |
①企業・株主間のガバナンスに関する合意 | 7社 | 3.8% |
②企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意 | 4社 | 2.2% |
③金銭消費貸借契約と社債に付される財務上の特約 | 23社 | 12.4% |
企業・株主間のガバナンスに関する合意について記載している7社及び企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意について記載している4社について合意内容を分析した結果は<図表2>のとおりである。企業・株主間のガバナンスに関する合意については、すべて役員候補者指名権の合意又は事前承諾事項等に関する合意のいずれかについての記載が行われていた。
項目 | 合意内容 | 会社数 |
①企業・株主間のガバナンスに関する合意 | 役員候補者指名権の合意 | 5社 |
事前承諾事項等に関する合意 | 4社 | |
②「企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意
| 保有株式の譲渡等の禁止・制限の合意 | 2社 |
保有株式の買増しの禁止に関する合意 | 1社 | |
株式の保有比率の維持の合意 | 2社 | |
契約解消時の保有株式の売渡請求の合意 | 2社 |
(※) 1社で複数内容を記載している場合にはそれぞれ1社とカウントしている。
借入金や社債等に付された財務制限条項については、財務諸表等に重要な影響を及ぼすと認められる場合など、利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関して適切な判断を行ううえで必要と認めた場合には追加情報として財務諸表等に注記しなければならないとされている(日本公認会計士協会監査・保証実務委員会実務指針第77号「追加情報の注記について」5項)。
「事業の状況」の「重要な契約等」に金銭消費貸借契約と社債に付される財務上の特約を記載している事例23社について、(連結)財務諸表の注記の記載状況を分析した結果が、<図表3>のとおりである。このうち、(連結)財務諸表の注記に記載を行っている事例は8社(34.8%)と半数以下であり、半数以上の会社は財務諸表等への影響は重要ではないと判断したものと考えられる。
記載状況 | 会社数 | 比率 |
(連結)貸借対照表注記に記載 | 6社 | 26.1% |
追加情報に記載 | 2社 | 8.7% |
注記に記載なし | 15社 | 65.2% |
合計 | 23社 | 100.0% |
(旬刊経理情報(中央経済社)2025年9月20日号 No.1754「2025年3月期「有報」分析」を一部修正)
2025年3月期 有報開示事例分析
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