2025年3月期 有報開示事例分析 
第11回:内部統制報告書(個別に追加した事業拠点及び業務プロセス)

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 中澤 範之

Question

2025年3月期決算に係る内部統制報告書における、個別に追加した事業拠点及び業務プロセスに関する開示の状況を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2025年8月 
  • 調査対象期間:2025年3月31日 
  • 調査対象書類:内部統制報告書
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する186社
    ①2025年4月1日現在、JPX400に採用されている
    ②3月31日決算である
    ③2025年6月30日までに内部統制報告書を提出している
    ④日本基準を適用している

【調査結果】

2025年3月期決算から改訂後の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」及び「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下「改訂内部統制実施基準」という。)が適用されることとなり、内部統制報告書にて個別に評価対象として追加するプロセスが記載されている(財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準)。

重要な事業拠点及びそれ以外の事業拠点において、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセスについては、個別に評価対象に追加

(例)

  • リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス
  • 見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス
  • 非定型・不規則な取引など虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、特に留意すべき業務プロセス

※長期間にわたり評価範囲外としてきた特定の業務プロセスについても、評価範囲に含めることの必要性の有無を考慮しなければならない。
※評価範囲外の業務プロセスにおいて開示すべき重要な不備が識別された場合には、当該業務プロセスについては、少なくとも当該開示すべき重要な不備が識別された時点を含む会計期間の評価範囲に含めることが適切である。

1. 個別評価プロセスの開示状況

調査対象会社(186社)のうち、内部統制報告書の個別に評価対象として追加するプロセス(以下「個別評価プロセス」という。)について、開示状況を分析した結果が<図表1>のとおりである。対象となった186社のうち、具体的なプロセスを記載していない会社は、34社(18.3%)であった。プロセスを記載した152社(81.7%)のうち、「リスクが大きい取引を行っている事業又は業務に係る業務プロセス」、「見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス」等に分けて、会社の特性に合わせた分類によって個別評価プロセスを開示している会社は33社(64.0%)であった。

<図表1>個別評価プロセスの開示状況

影響の開示

分類

会社数

比率

プロセスの名称の記載あり

プロセスの分類あり

33社

64.0%

プロセスの分類なし

119社

17.7%

小 計

152社

81.7%

プロセスの名称の記載なし(注)

34社

18.3%

合 計

186社

100.0%

(注)うち、1社は、個別評価プロセスがない旨を記載していた。

2. 個別評価プロセスの内容に関する開示状況

プロセス名称を記載していない会社を除いた会社(152社)について、個別評価プロセスを記載した個数ごとに集計した結果が<図表2>のとおりであり、その記載内容を集計した結果が<図表3>のとおりである。個別評価プロセスの個数については、1個から4個までが多い結果となった。また、個別評価プロセスの内容としては、固定資産の評価、税効果、有価証券等の評価、引当金などが多くを占めており、各社は、見積り項目を多く開示していると考えられる。

<図表2>個別評価プロセスの個数ごとの会社数分析

個別評価プロセスの個数

会社数

比率

1

43社

28.3%

2

38社

25.0%

3

29社

19.1%

4

24社

15.8%

5

9社

5.9%

6

4社

2.6%

7

1社

0.7%

8

1社

0.7%

9

1社

0.7%

10

2社

1.3%

合 計

152社

100.0%

<図表3>個別評価プロセスの内容に関する開示状況

分類

個別評価プロセス

会社数

比率(注1)

見積り

棚卸資産の評価(注2)

17社

11.2%

見積り

固定資産の評価(注3)

80社

52.6%

見積り

のれん又は無形固定資産の評価(注4)

21社

13.8%

見積り

有価証券等の評価(注5)

31社

20.4%

見積り

税金計算

27社

17.8%

見積り

税効果

55社

36.2%

見積り

資産除去債務

6社

3.9%

見積り

デリバティブ

11社

7.2%

(引当金の細目)

見積り

引当金(個別の名称なし)

14社

9.2%

見積り

貸倒引当金(注6)

21社

13.8%

見積り

賞与引当金

25社

16.4%

見積り

退職給付引当金

7社

4.6%

見積り

その他の引当金(注7)

16社

10.5%

(その他の重要性が大きいと判断された個別評価プロセス)

 

売上(注8)

11社

7.2%

 

購買・売上原価・原価計算・棚卸資産

9社

5.9%

 

販管費・支払・財務管理

9社

5.9%

 

固定資産

13社

8.6%

 

決算業務

10社

6.6%

 

その他(注9)

32社

21.1%

(注1)母集団となる会社(152社)に対する比率を記載した。
(注2)資源、販売用不動産、仕掛販売用不動産、分譲土地の評価を含む。
(注3)減損損失、有形固定資産の減損を含む。
(注4)のれんの減損及び無形固定資産の減損を含む。
(注5)投資有価証券、投融資、関係会社株式、子会社株式、金融商品の評価を含む。
(注6)売上債権の評価を含む。
(注7)製品保証引当金、工事損失引当金、工事保証引当金計上、海外投資等損失引当金、災害損失引当金等を含む。
(注8)重要な事業拠点以外の拠点における売上等を含む。
(注9)M&A評価、企業結合、現金預金、リース取引、格付・自己査定等を含む。

(旬刊経理情報(中央経済社)2025年9月20日号 No.1754「2025年3月期「有報」分析」を一部修正)

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