EY Global Public Finance Management Leaderで、上記のレポートの共同執筆者でもあるMark MacDonaldの説明によると、「現在のシステムは資本を短期間で効率的に配分しますが、投資を長期的な社会経済的成果に結び付けることがなかなかできません。公共支出の多くは、投資ではなく支出として扱われており、長期的効果ではなく、すぐに目に見える成果の最大化が図られているのです」
この軌道修正を図るには、国の長期的生産能力に投資をして、資源の配分先をより価値の高い成果に変える必要があります。例えば、国際通貨基金(IMF)の調査によると、GDPの少なくとも1%をあまり生産的ではない用途からインフラや教育に振り向けることで、先進国では経済生産を1.5%から3.5%上昇させることができ14、新興国と開発途上国では最大6%押し上げることができます。EYが実施した類似の調査によると、生産性向上と経済成長は今後、技術インフラへの公共投資と深く関係し、その投資に対して3倍のリターンとなる見通しです15。
政策当局は、成果連動型の予算編成や、技術的資本、インフラ、人的資本に対する複数年度の資本会計など、投資ベースの財政枠組みを政府財政に組み込むことで、インセンティブを軌道修正できると考えられます。また、「EYメガトレンド」レポートの2020年版(PDF)で掘り下げているように、効果を実証できる、GDP成長率を超える経済指標を新たに開発することも可能です。
政府の予算編成を、短期的な支出重視から長期投資戦略に軌道修正することで、政府予算への経済的リターンが向上する可能性があります。一方、「EY 2026 Global Economic Outlook」(ey.comの米国サイトで公開)で述べているように、膨らむ債務負担と支払利息の増加が政府の負担となっている国が多く、そのことが国債利回りの上昇圧力を高め、財政の柔軟性を制限しているのです。世界全体の債務残高は、世界のGDPの235%を超えており16、コロナ禍後の是正が限定的であったことを示唆しています。
EY Global Tax Policy LeaderのAruna Kalyanamが指摘するように、政府がどのように収入を確保するかについても軌道修正が必要となるかもしれません。「税制は、インセンティブのバランスを取り戻すために政府が利用できる最も強力な手段の1つです。しかし、税制の多くは、収入が(デジタル分野を含め)どのように発生しているか、複雑な租税規則が税金の徴収をいかに難しくし得るか、収入ニーズがどのように高まってきているかといった現状に対応できていません」とKalyanamは言います。「言うまでもなく、納税者と国家の利益を両立させ、ウェルビーイングと公平性を向上させることは常に課題が伴います。そこに競争力の問題が絡んでくると、なおさらです」
政府の収入を増やして長期的投資に資金を投入する方策は基本的に3つあります。「経済基盤を成長させて税収を増やす」、「国・地域を越えた連携など、脱税対策を強化して税務コンプライアンスを向上させる」、「商業活動、所得、消費に課す税金の引き上げや新たな税制の導入を行う」です。税金の引き上げは、公平性向上を推進する可能性があるものの、一般的に政治的に実現が最も難しい方策です。各国の政策担当者は、実行可能な方策を模索し、コンプライアンスや複雑性に関し過度な負担をかけないシンプルなシステムで、長期的な経済成長を支える投資に必要な財源を政府が確保できるようにする必要があります。
予算に制約のある政府が、長期的投資のための資金を調達するもう1つの方策は、経済インフラ整備への民間資本の活用を模索することです。ただ、民間資本は国家資本に比べ、世界規模で移動性が高く、投資先を選別する傾向も強いため、リスク調整後の市場リターンが最も高い国・地域に流れていきます。そのため、従来型の官民連携(PPP)モデルを、よりきめ細やかで商業的な民間資本の資金調達構造に変える必要があるかもしれません。
軌道修正2:投資家が短期的利益と長期的リターンのバランスを取る
第2の軌道修正は、投資家がより長期的な視点を持つことです。すでに、構造的に長期の投資を行う投資家もいます。具体的には年金基金、政府系ファンド(SWF)、さまざまなファミリー企業などです。特にSWFは長期投資家としての存在感を増しており、その資産は過去15年間で3倍に増えました17。こうした投資家の多くは長期目標を立て、数四半期ではなく、数十年にわたり財務リターンをもたらしてくれる企業や資産に資金を配分しています。
投資期間の長期化も一般化してきました。米国では2025年にプライベートエクイティ(PE)の保有期間が6.4年に達しました18。これはこの20年間で最長です。世界的に見ても、バイアウト支援を受けた企業で、保有期間が4年を超えるのは全体の61%19で、過去10年間の平均である53%を大幅に上回りました。この変化の背景には複数の要因が考えられますが、投資期間が長期化していることは間違いありません。
資金の配分で、短期的な財務リターン以外の要素を考慮に入れる姿勢に軌道修正しつつある投資家もいます。例えば、「EY 2024 Institutional Investor Survey」によると、この10年間にわたって、機関投資家が環境・社会・ガバナンス面の要素を重視し、これを意思決定に組み込む姿勢を強める傾向が見られます。同様に、直近のMorgan Stanley調査によると、今後2年間にサステナブルファンドが自らのポートフォリオに占める割合が増えると予想する資産保有者は86%20に上り、すでに高水準であった前年の79%をさらに上回りました。
欧州を中心に、投資家が取締役会と経営陣にサステナビリティ問題も重視するよう圧力をかけています。「2025 EY Long-Term Value and Corporate Governance Survey」によると、欧州企業の91%が持続可能な事業慣行の推進加速を求める投資家からの圧力を感じており、78%が同様の圧力をアクティビスト(物言う株主)から感じていました21。
これは、多くの投資家が、短期的な責務を果たしながら、長期的な成果への期待の高まりにも応えなければならないことを意味しています。FCLTGlobal(Focusing Capital on the Long-Term:長期志向経営推進国際イニシアチブ)が指摘するように、これは、保有期間が極めて長い投資家であっても複数の時間軸にまたがる管理を求められるということであり、しかし、多くの場合、長期的な成果を測る指標について、体系的な支援やガイダンスが整備されていません22。
イノベーション戦略の専門家であるLarry Keeley氏は次のように指摘します。「1つのイノベーションでシステムを変えることはできません。必要なのは、インセンティブ、オーナーシップ、リーダーシップ、ナラティブにまで至る協調的な変化です」
社会全体にわたる構造的な変革には、これらの新たな動きのいくつかをシステムレベルで制度化するための政策と規制の軌道修正が必要となるでしょう。具体的には、保有期間の長期化を促すガバナンス体制の確立と情報開示規則の制定、複数年の価値創造に整合させた役員報酬制度とスチュワードシップ義務の導入、サステナビリティ関連のリスク要因の受託者責任・報告基準への組み込み、短期的市場圧力の軽減などです。このような規制の軌道修正によって、新たな投資家行動を、任意あるいは周期的なものにしておかずに、システムレベルで制度化することができると考えられます。