次世代の未来のために、今、何をしますか?

人口動態の変化とテクノロジーシフトに伴い、働き方や消費動向、コミュニケーションの取り方が変わってきました。組織における世代間ダイナミクス(異なる年齢層の人々、特に異なる世代の人々の間で生じる相互作用、関係、影響、および行動のパターン) を見直すことで、企業の成長を促進することができます。


要点
  • 現代の職場は、5つの世代が共存し、幅広い経験と知識を持ち合わせた新しい形態へと変化を遂げている。
  • Z世代は新しい職場観を持ち、前世代にとっては夢物語だったテクノロジーを駆使して、既存のルールを塗り替えている。
  • 過去の体制を見直す組織は、さまざまな年代の社員のポテンシャルを最大限に生かすことができる。

今、リーダーが下す決定は、今後数十年にわたり社会に影響を及ぼすことになります。これは今に始まったことではありませんが、特にAI(人工知能)、サステナビリティ、エクイティ(公正)に関わる決定では、その選択の結果とレガシーが及ぼす影響は顕著です。リーダーは次世代のために未来を形づくる中で、すでに職場にいるZ世代と、これから働き始めるα世代の懸念と希望に耳を傾ける機会があります。

組織における世代間ダイナミクスへの関心が高まっていますが、それはレガシーの継承に対してだけではありません。5つの世代が初めて一緒に働くことも注目を集めています。テクノロジーが変化を加速させ、あらゆる世代の距離を縮める中、そうした職場環境が経験、スキル、将来の展望の違いを浮き彫りにしています。さらに、今のように職場に複数の世代が共存することは一時的なものではなく、少子高齢化の影響で優秀な人材がひっ迫している先進国では、こうした状況が2050年まで続く見通しです。私たちの前に立ちはだかる課題はこれまで以上に複雑で相互依存性が高く解決が困難ですが、同時に世代をまたいだ多様なスキルと視点を活用する機会も、かつてないほど大きくなっています。


しかし、世代に関する研究は確立されてはいません。世代の境界は流動的で、各世代は不均質な集団であり、文化的・地理的な影響を大きく受けます。EYが最近行った一連の調査では、不確かな情報と確かな情報を区別しています。本記事では、この幅広い調査から得たインサイトをまとめるとともに、外部データを参考に、職場、消費者行動、社会全般の世代間ダイナミクスを掘り下げていきます。Z世代の多大な影響はあらゆる世代に広がり、すべての人の機運を変えつつあります。

これまでも新世代は過去の常識を捨て、社会の行き詰まりを取り除き、新しいアイデアの流入を促してきました。上の世代が若者の現状を嘆くのはアリストテレスの時代から変わっていません。中でもZ世代は、怠惰で不安感が強く、注意散漫で忠誠心がないとメディアで多く取り上げられ、不当にレッテルを貼られています。ロンドンの架空の投資銀行を舞台としたHBOの青春ドラマ「インダストリー」に登場するZ世代の若手金融家たちは、1987年公開の映画「ウォール街」に登場するBud FoxやGordon Gekkoと同様、ずる賢くて冷酷、そして道徳心がありません。

EYの新入社員とシニアパートナーを対象にインタビュー調査を行った結果、両者のキャリア観の共通点と相違点が明らかになりました。2011年出版のベストセラー『Drive』をDaniel Pink氏が執筆して10年以上たちますが、その3つのモチベーション要因「自律性」、「熟達」、「目的」は今でも若い世代の共感を呼んでいます1。人間の心理は根本的に変わっていません。その一方で、最新のEY 2024 Work Reimagined Survey(EY働き方再考に関するグローバル意識調査2024)から、世代によって仕事で重視する内容が著しく異なることが分かりました。EYが実施した15の主要な世代間調査結果の全体を見ると、消費者や市民としての行動や選好、成功をどのように思い描くか、誰を信頼するか、家族やコミュニティの重要性、テクノロジーとその将来への影響に対する姿勢に共通するパターンが浮かび上がってきます。

世代間の違いを超えて私たちを結びつけるものがある一方で、大規模なシフトは変化を加速させるだけでなく、新たなチャンスの扉を開いています。世代を超えた、深く人間的な視点に立って従業員、消費者、市民の未来を形づくるには、新たな社会的ニーズを深く戦略的に理解する必要があります。私たちは皆、単に未来を眺めているだけではなく、共に未来の創造に積極的に参加しているのです。



第1章

人口動態のポリクライシス(複合危機)

先進国全体で高齢化が進むにつれて、労働力が減少しています。




世界の世代分布の偏りが広がり、先進国および新興国で少子高齢化が進む一方、人口の平均年齢が最も低いのは貧しい地域です。人口が減少している日本(65歳以上の割合が30%)、EU(同22%)、韓国(同18%)、中国(同14%)などでは人口動態圧力が特に高まっています。南米諸国でも出生率は下がっており、コロンビアではこの5年間で出生数が22%も減りました2。全体的に見て、若い優秀な人材の争奪戦は激化しており、労働力への参加を促進するため、各国は的を絞った移民政策やインセンティブ施策の導入を余儀なくされています。


米国では、人口動態の節目「Peak 65」を迎え、今年65歳になる人が400万人以上に達し、今後10年間それが続くとみられています3。しかし、すべての人が定年退職するわけではなく、65歳を過ぎても働き続ける人は増えています。ジョンズ・ホプキンス大学が行ったある調査では、1946年以前に生まれたサイレント世代が米国の労働力全体の2%ほどを占めると推計しています4。企業の経営トップにも、高齢化の波が押し寄せています。フォーチュン500企業のCEOの平均年齢は59.2歳ですが、そのほぼ半数(47.6%)が60歳以上であり、70歳以上も5%以上います。45歳未満の若手CEOは、大手テクノロジー企業やグリーンエネルギー企業、新興オンライン企業に集中する傾向にあります。労働人口全体で定年を延長すれば、短期的な人材不足対策にはなりますが、それは若い世代を犠牲にして、現状を維持する閉塞状況を招きかねません。企業は、シニア世代がスキルアップし、新しいテクノロジーツールを活用できるようにしながら、若い世代への知識移転を促す必要があります。


今、こうした世代間の流れが滞る兆しが見られます。多くのZ世代が就業しておらず、北米や西欧では、いわゆるニート(NEET:not in education, employment or training)が増える傾向にあります。国際労働機関(ILO)のデータによると、世界の15歳から24歳の約5分の1がニートです5。国別で特に多いのは、スペイン(50万人)や英国(300万人)などです。社会から孤立した状態が原因で、若い世代(18歳から24歳)はミレニアル世代とは比べものにならないほど強いストレスと不安感を抱くようになっています6


職場のジェンダーギャップも課題です。これまでも組織から女性の人材の流出が続いていることが指摘されてきました。Lean Inの「10th Workplace Report (2024)」では、この10年間、ジェンダー課題への取り組みが進められてきたものの、女性の職場体験が向上していないことが示されました。女性は、専門分野における判断を疑問視される確率が男性に比べてはるかに多く(女性38%、男性26%)、はるかに低い役職と間違えられる人が多く(女性18%、男性10%)、発言に割り込まれたり、発言を遮られたりする確率も2倍多くあります(女性39%、男性20%)7。また、ジェネレーションギャップも広がっています。ジェンダーダイバーシティに対する関心が最も低いのは若い男性で、最も高いのは若い女性です。シニアリーダーに限ると、男性の79%が女性の存在感は十分に増していると考えているのに対して、そう考える女性はわずか55%です。


それぞれの地域、ひいては世界の経済的および社会的健全性のためには、孤立したコミュニティに有意義な経済的機会を提供することが重要です。2030年には6人に1人が60歳以上になるといわれており、今後は人口動態圧力を受けて、過去100年間における常識の多くの見直しを余儀なくされるでしょう。


こうしたジェンダーダイナミクスは特に経営幹部に顕著に表れています。フォーチュン500企業ではCEOの10%強が女性ですが(2018年から倍増)、EYが世界の上場企業4,000社以上を分析したところ、これを大幅に下回る結果が明らかになりました。女性CEOは全体のわずか6%という結果になっています。これは、女性が上級管理職への昇進が決まる30代半ばと45歳から55歳というキャリアの2つの重要な期間に重要なポストを離れ、第一線から外れてしまっていることが原因です。

 

先進国では人材不足が成長を圧迫し続ける中、多くの優秀な人材を放置しておく余裕はありません。『Five Generations at Work』の著者であるRebecca Robins氏は、組織の形成と構造には長期的な思考と投資が必要だと示唆しています。「今日から、役職、領域、分野、世代を超えて、より緊密に協力し、組織を結束させることに、これまで以上に意識を向ける必要があります。マネージャーは、世代間連携の緊密化を実現できる最も有力なイネーブラーの1人であり、そのためにはマネージャーが力を発揮できるようにしなければなりません」

 

グローバルノースの人口動態問題は、それ以外の国・地域とは対照的です。サハラ以南のアフリカでは若者が突出して多く、25歳未満が人口に占める割合が60%を超えていることが、移民の増加につながり、国内外の政治的ダイナミクスに大きな影響を及ぼすことになるでしょう。人口移動は現在の地政学的環境の大きな特徴となっており、国籍を持つ国以外で暮らす人は現在、およそ1億8,400万人(世界の人口の2.3%)です8

 

それぞれの地域、ひいては世界の経済的および社会的健全性のためには、孤立したコミュニティに有意義な経済的機会を提供することが重要です。2030年には6人に1人が60歳以上になるといわれており、今後は人口動態圧力を受けて、過去100年間における常識の多くの見直しを余儀なくされるでしょう。



第2章

経験・体験の共有、不信感の高まり

Z世代は仲間とのつながりを優先し、権威に重きを置かない傾向にあります。



「世代理論の核となる原則は、経験・体験を共有することが、消費者の行動と意識の共有を促進するということです」と指摘するのは、Young China GroupでCEOを務めるZak Dychtwald氏です。「経験・体験を共有しなければ、行動を共有することもできません」。特にインターネットが普及する前は、経済的状況、テクノロジーへのアクセス、地理的環境により、世界中の多くの人々が世代的な共有ができていませんでした。


例えば、米国でベビーブーム世代がベトナム戦争、月面着陸、経口避妊薬、ビートルマニアを経験していたとき、中国の同じ世代の人たちは文化大革命の最中にありました。さらに、各世代の共有経験・体験の推進要因の出現が加速しています。そのため、戦後のベビーブーム世代が18年にわたるのに対して、X世代とミレニアル世代が15年、Z世代に至っては、わずか10年となっています。変化が加速するにつれ、世代を特徴づける経験・体験は、世界全体でより画一的かつ短期的になりつつあります。

各世代が受けた影響

「Z世代は、人類史上で最もコンバージェンス(融合)が進んでいます」とDychtwald氏は言います。「国・地域を問わず、この世代を結びつける極めて重要な要素はインターネットへのアクセスとスマートフォンとデータの低価格化です。インターネットは情報時代の象徴でしたが、ソーシャルメディアの中心はコミュニティです」

しかし、Z世代がこれまでの世代と比べて、コンバージェンスが進んでいるからといって、大きな違いがないわけではありません。2023 EY Gen Z Segmentation Studyから、米国のZ世代にはいくつかのグループやセグメントがあることが明らかになりました。この世代は米国の人口の15%を占めるに過ぎませんが、すでに社会規範に異議を唱え、社会の意識を変えつつあります。

国・地域を問わず、この世代を結びつける極めて重要な要素はインターネットへのアクセス、スマートフォンとデータの低価格化です。

Z世代は経済的困難に直面

2023年のセグメンテーション調査によると、米国では経済的に安定していると感じ、現状を「良い」か「とても良い」と答えたZ世代は全体の3分の1弱(31%)です9。ほとんど(69%)は経済状況が「普通」か「悪くなった」と回答し、「経済的に厳しい」か「非常に厳しい」に該当する人も32%います。こうした状況が将来に対する不安感を生み、半数以上(52%)が生活に困窮することを「とても心配」または「非常に心配」していると回答しています。この数字は2021年以降の重大な懸念事項の中で最も高くなっています。Experianの2023年の調査で、ミレニアル世代とZ世代の4分の3以上が金銭面で親に「ある程度依存」あるいは「非常に依存」していると回答していることは驚くことではありません10

しかし、金融リテラシーの欠如が経済的困難の原因ではありません。Z世代の85%には少なくともいくらかの貯金があり、現実主義である反面、半数以上(54%)が借金やローンを抱えています11。米国労働統計局のデータを基にしたワシントン・ポスト紙の分析によると、Z世代は、1つ前のミレニアル世代と比べて、物価上昇、住宅費の高騰、学生ローンの残高の増大、債務全体の増大により著しく大きな打撃を受けています。いずれの世代も経済が混乱する最中に成人を迎えたとはいえ、Z世代は同じ年齢のミレニアル世代に比べて生活必需品への支出が多くなっています12

このような要因により、Z世代は副業で収入を得ることに熱心となる傾向があります。ビザが英国で2024年7月に行った調査から、Z世代の45%が副業を持ち、3分の1強(37%)が2つ以上の副業を掛け持ちし、多数(69%)が副収入を得るために副業をしていることが分かりました13。Z世代のパブリックスピーカーでコンサルタントのDanielle Farage氏は、「欧米では今や、複数の仕事を持つポートフォリオ型キャリアは当たり前です」と話します。しかし、新たな調査では、これがアジア諸国には当てはまらないことも明らかになっています。

Z世代の仕事に対する原動力となっているのは経済的安定だけではありません。この世代は、前の世代よりグローバルな考え方を持ち、旅行への意欲も強い傾向にあります。例えば、中国のパスポート保有率は10%ですが、その半数がZ世代です。こうした変化の多くは、世界各地に約40万人の従業員を擁するEYでも見られます。EY Global Vice Chair(Talent担当)のTrent Henryは次のように述べています。「この世代はかなりグローバル思考が強いです。彼らがEYに入社するのは、その地域だけにととどまらず、世界で経験を積むためです」

欧米では今や、ポートフォリオ型キャリアは当たり前です。

信頼性と透明性が信頼を築く

EYの縦断的な調査やEdelman Trust Barometerなど、過去5年間の調査から、既存の制度や体制に対する信頼度が低下する一方であることが明らかになっています。従来の確かな情報源(政治家、メディア、科学者)に対する信頼は全般的に弱まり、市民を意図的にミスリードしているとの懸念の高まりから、自身の仲間が信頼できる情報源となっています。こうした変化をけん引しているのはZ世代と、この世代で加速するテクノロジー普及率です14。

2021 EY Gen Z Segmentation Studyから、中国と日本、欧米諸国では信頼度に大きな違いがあることが分かりました。例えば、米国ではZ世代の3分の2(67%)強がほとんどの人を信頼できないと回答しています。組織が大きくなるほど、それに対するZ世代の疑念も大きくなります。組織が正しく行動していると、どの程度信頼できると思うかと尋ねたところ、大企業と連邦政府は34%で、州政府(41%)や地方政府(47%)、小企業(71%)など小規模な組織を大幅に下回りました。

スタンフォード大学のRoberta Katz氏が行った調査は一段と踏み込んだ内容です。Z世代の人たちは「年長者を必ずしもベテランと見ているわけではありません」とKatz氏は指摘します。「彼らは、なぜそれを特定の方法で行うのか、その理由を知りたいと考えているのです。信頼性を求めるには信頼を得る必要があります。言葉と行動は一致させなければなりません15」

Z世代の間で公的機関に対する信頼は特に低いのが現状です。米国でギャラップとWalton Family Foundationが2023年に、12歳から26歳を対象に共同で実施した態度に関する調査では、政治制度、メディア、大手テクノロジー企業に対する不信感が著しく高いのに対して、科学、軍部、医療機関に対する不信感はそれほど高くないことが分かりました16。

Edelmanの Gen Z Labが報じているように、「Z世代にとってソーシャルメディアは、信頼を得るための戦いの場となっています。昨年、あるブランドに失望した人の中で、その問題をソーシャルメディアで知ったと答えた人が最も多かったのは、Z世代とミレニアル世代です。ブランドに関する悪い評判は、ソーシャルメディアで広がります17」

信頼を得るには、まず透明性の確保が必要です。例えば、EY Global Consumer Health Surveyから、消費者の73%が自身の医療情報を電子的に共有することに同意すると答えたものの、その情報がどのように保護され、利用されるかに関する透明性を求めていることが分かりました18。

このように権威者に対する信頼度が低い反面、EYの調査ではZ世代の多くが、職場のリーダーを信頼していることが明らかになっています。EY US Gen Z Live Work Play Studyによると、Z世代の80%が職場の上司に対して肯定的な感情を抱いており、71%が上司を「とても信頼」または「完全に信頼」しています19。Z世代は、一般的な見解ではなく、個人的な経験に基づいて自身の意見を形成し、明白な信頼性を重視します。



第3章

経営者の課題は働きやすい職場づくり

組織のリーダーは、Z世代がこれまでの世代とは異なる仕事観を持っていることを認識しつつあり、そのことが労働力全体に影響を与えています。



北京のErnst & Young (China)Advisory LimitedでSenior Tax Partner/Sector Leadとして働くJoanne Suは、1994年にシンガポールで社会人になりました。「重いファイルの箱を苦労して運び、混み合った公共バスに乗って、事務所からクライアントのところまで通っていました」と入社1年目に監査に配属された当時を振り返ります。若いミレニアル世代にとって、すでにインターネットとデジタル化の加速が初期のキャリア体験を変えていましたが、多くの人にとって初期の特徴とも言える退屈に思えた仕事が、今では生成AIなどによってほとんどなくなりました。「テクノロジーは、私たちを雑用から解放してくれます」とHenryは述べ、「時間の効率化という意味においても、生成AIに並ぶものはありません」と付け加えました。

Z世代は、専門的なスキルを必要としない業務の効率化に対するAIの可能性をよく認識しています。EY Gen Z AI Literacy Studyでは、グローバル調査の回答者の58%が翌年にはAIをさらに使用するようになると予想し、51%がプライベートでも使用が増えると予想しています。回答者が挙げたメリットのトップ3は、反復作業の時間の削減(58%)、大量データの効果的な分析(53%)、重要なプロセスにおけるヒューマンエラーの削減(41%)です。しかし、同調査から、Z世代はAIとその可能性について楽観的である一方、AIを十分に活用するスキルがないこともあり、自身のスキルレベルを過大評価している可能性もあることが分かりました20

「年齢から生成AI関連のスキルを推定することは危険だ」とHenryは指摘し、「EY全体で使用されている生成AIの最も優れたユースケースの一部は、実際に高齢の従業員が考案したものです」と述べました。全従業員に対して、後れを取らないよう自習型のスキルトレーニングと好奇心を持つ姿勢を奨励することが不可欠です。

仕事の原動力となる使命を持つことが非常に重要です。

生成AIが職場の生産性を向上させると広く認識されているにもかかわらず、経営者はテクノロジーツールを常に最新の状態にして保つことに苦慮しています。TikTokのシンプルなインターフェースに慣れ親しんだ世代のやる気を引き出すためには、時代遅れの方法で時間を記録したり、文書を共有したり、ビデオ通話を行ったりしていてはうまくいかないでしょう。「経営者は、こうした古いツールを利用していると、どのような印象を与えるかにまで考えが及んでいません」とFarage氏は強調します21。大きい組織ほど、そのテクノロジーアーキテクチャが複雑になることが多々あります。そして、この複雑さは変化に対応するに当たってのアジリティの欠如をもたらし、従業員の不満を招く要因となると指摘する、ボストンでEYのForensics consultantとして働くGrace Kilroy(25歳)は、「非効率的な作業などに気づいても、何段階もの承認が必要となり、あまりに複雑なので、それを変える気持ちになれません」と述べます。

雇用の安定の再定義

30年前に入社したとき、Suは自身のキャリアを、雇用の安定と保障の象徴とも言える職業だと考えていました。「当時は、アジア金融危機が表面化する前の時代でした」。米国のErnst & Young LLPでAudit Seniorでとして働くKwame Nkrumah-Ababio(27歳)も考えは同じです。「私にとって雇用の安定は非常に重要です。私が知りたいのは自社が激しい経済の嵐を乗り越えることができるかどうかです」。Universumが今年実施した世界各地の大学生を対象とする調査も、この点を浮き彫りにしています。パンデミック直後に見られた求人市場の勢いが弱まり始める中、雇用の安定はIT分野の学生で3位(2023年から3ポイント上昇)、工学分野の学生で5位でした22。Big Stay(求人は多いが人が動かない状態)がGreat Resignation(大量退職)に取って代わりつつあります。米国では2024年1月に300万人の労働者が退職しましたが(米国労働統計局)、この人数は2022年1月をピークに30%減少しています23

しかし、雇用の安定が重視されているからといって、若い人材が仕事を辞めないと考えるのは早計です。23カ国の従業員1万7,000人以上を対象とした最新のEY 2024 Work Reimagined Surveyでは、従業員の38%が今後1年間で仕事を辞める可能性があると回答しています。この数字は、昨年から4ポイント上昇しており、エネルギー・天然資源業界に限ると52%に上ります。「離職率はかつて、組織の健全性を測る絶対的な判断基準でしたが、もはやその役割を果たしていません。今日の経営トップは、代わりに人材の流れを管理して、昇格につながり得る、充実した体験を従業員に提供することに注力する必要があります」と話すのは、Ernst & Young LLPのPeople ConsultingのPrincipalであるRoselyn Feinsodです。今後1年間に退職する可能性がある人の割合は、ベビーブーム世代では4分の1未満(23%)ですが、ミレニアル世代では40%に達しています。Z世代の3,000人を対象に最近実施したEY US Live Work Play Studyでは、Z世代の回答者の半数以上(52%)が失職を心配していないと回答しています24。米国労働統計局によると、勤続年数の中央値は、55歳から64歳の従業員が9.8年であるのに対して、20歳から24歳の従業員では1.2年です25

このように雇用の安定を重視しながら、退職意欲が高いZ世代の姿勢は明らかに矛盾していますが、これは変化を受ける側であるか、変化をけん引する側であるかの違いに起因しています。米国と欧州の生活費高騰の危機は、若い世代に甚大な影響を及ぼし、経済的不安が高まりました。これは、2024年の米国大統領選挙での若年層の投票パターンにも表れ、インフレと生活費高騰の危機の影響が重要な決め手となりました。出口調査の初期分析では、初めて投票する人でドナルド・トランプ大統領を選んだのは56%、カマラ・ハリス前副大統領を選んだのは43%でした。この結果は、初めての投票でバイデン前大統領を選んだ人(64%)が、トランプ氏を選んだ人(32%)の倍だった4年前の若年層の投票パターンとは対照的です26


従業員は何に価値を置いているのか

人材の流動化が当たり前となる中、退職意欲があることはネガティブな兆候ではありません。ネガティブな兆候となるのは職場満足度の低下です。EY 2024 Work Reimagined Surveyでは、モチベーションが高い人の割合は、ベビーブーム世代で41%であるのに対して、Z世代ではわずか29%です。2024 EY US Gen Z Live Work Play Studyでも同じような結果が出ています。Z世代の3分の2(64%)が仕事で「ある程度」、あるいは「完全に燃え尽きたと感じる」と回答しています27


EY 2024 Work Reimagined Surveyは、若手従業員ほど、仕事とプライベートの線引きを重視していることが示されています。しかし、燃え尽き症候群を回避する境界線を守ることは難しいのが現実です。Z世代の回答者が最も重視しているのは有給休暇で、健康・ウェルネスと成果連動型インセンティブが同率で続きます。激しい競争環境ではストレスは避けられません。「私はつい頑張り過ぎてしまいます。そのため、常に働かなければ、何かをしなければと考えてしまうのです。仕事を減らすことはできるはずなのに、どうやって減らせばいいのかがよく分かりません」とKilroyは言います。

上級職に昇進すれば、健全なワークライフバランスの管理は容易になるかもしれません。「めったに超長時間働くことはありません。仕事と趣味のバランスを取ることは可能だと考えていますし、ウェルビーイングにとっても不可欠です。ただがむしゃらに働くのではなく、スマートに働くことで仕事と趣味を両立できています」とSuは言います。


Z世代にとっては、職場の同僚と協力し、共に仕事を進めることが極めて重要です。Nkrumah-Ababioは次のように話しています。「職場のコミュニティづくりに注力しています。私のいうコミュニティとは、帰属意識、カルチャー、インクルーシブネスなどの融合をもたらすものです。同僚と親友になる必要はありませんが、尊重し、協力し合える関係でいたいと思っています」


「私が思う、この世代のメガトレンドはパーソナライゼーションです。従業員一人一人が望んでいることを実現できるかどうかは、私たち次第です。これはベビーブーム世代にとっても、そしてα世代にとっても重要なことです」とEYのHenryは言います。組織が個人のニーズと独自の能力を認識することで、先進的な経営者は利益を得るだけでなく、消費者にも選ばれるようになります。

 

中古市場が急成長を遂げている背景には、気候変動に対する懸念がありますが、Z世代の自己表現を重視する価値観の表れでもあります。RealRealのレポートによると、中古高級品市場は今や500億米ドル規模に上り、その最大のけん引役はZ世代です。中古品は財布に優しく、サステナブルでもあり、また高級品の場合、Z世代が長持ちする、良質の商品を手に入れる手段となります28。それは、商品の評価、情報通による価格比較、インフルエンサー、パーソナルキュレーションによって成長している市場でもあります。常に自分らしさを演出し、表現している世代は、ラグジュアリーブランドが提供する希少性に高い価値を見いだします。

 

Robins氏は次のように言います。「職場では世代の多様化が進んでいます。それに伴い、私たちには一人一人の違いをより深く理解し、それを解決すべき課題や機会に落とし込む責任があります29

パーパスがエンゲージメントを促進

Z世代にとって重要なのは役割ではなく、目標だといわれています。使命とパーパスがモチベーション要因であることはどの世代も同じですが、Z世代では特に顕著です。2023 Gen Z Segmentation Studyでは、Z世代の76%が世の中の悪い点を変えることを重視し、36%が政治集会やデモに参加したことがあり、50%がソーシャルメディアを使って自身が支持する理念に関するメッセージを共有していることが分かりました30。

Kilroyは「仕事の原動力となる使命を持つことが非常に重要です」と話します。Z世代がエネルギー転換に不可欠な多くのセクターに関心を示さなくなったことは、市場関係者にとって目新しい話ではありません。世界有数のグローバルな鉱業教育の場であるコロラド鉱山大学(Colorado School of Mines)の2022年度入学者は2010年代からの10年間で35%ほど減少しており、これは世界的な現象になっています。オーストラリアでは、鉱業工学分野の在籍者数が2014年から63%も大幅に減少しています31。

一方、中国のZ世代においては、さほど問題ではないようです。同世代にとって、EV産業やAIの処理能力を支える、政府が後押しする新興の戦略的産業で働くことには高いステータスがあります。「エネルギー業界は、今、非常に熱い注目を集めています」とDychtwald氏は言います。

同氏によると、中国のZ世代は、環境問題を中心に、親世代より目的志向がかなり強いものの、米国や欧州のZ世代に比べると、その度合いは、はるかに低くなります。中国で人手不足なのは、専門的なスキルを必要としない製造業だけですが、同世代は、もう世界中のシャツを作りたくないと思っています。

Nkrumah-Ababioにとって重要なのは、チームに大いに貢献し、自身のスキルセットを高められる、困難でもやりがいのある仕事を与えられることであり、社内外にインパクトを与えたいと思っています。Henryは、この傾向は社員全体に見られるとしています。「社員に時間があれば何をしたいかと尋ねると、Z世代は他の人のカウンセリングがしたいと答えます。これは、共感と配慮の表れと言えます」

未来の人材に、過去の仕事をさせることはできません。次世代の労働者は職務でデジタル能力を身に付け、クリエイティブで戦略的、かつおもしろくて、やりがいを感じられる仕事をしたいと思っているのです。

Ernst & Young LLPのPeople Consulting のPrincipalであるStefanie Colemanは、銀行でのキャリアに対するZ世代の姿勢をまとめた調査で次のように述べています。「未来の人材に、過去の仕事をさせることはできません。次世代の労働者は職務でデジタル能力を身に付け、クリエイティブで戦略的、かつおもしろくて、やりがいを感じられる仕事をしたいと思っているのです32

世代間ダイナミクスを活用し、次世代に有意義なものを引き継ぐ

55/Redefinedの人口動態予測によると、今後20年間で欧州の労働人口(15歳~64歳)は25%減少します33。「生産年齢人口(15歳~64歳)に対する65歳以上の高齢者の比率は、2006年に4対1でしたが、2050年までにはわずか2対1になる見通しです」とCEOのLyndsey Simpson氏は説明します。

この生産性ギャップを埋めるには、多世代労働力を構成する個々の人材を活用し、スキルアップを図り、AIリテラシーを高めることが不可欠となります。リーダーには、世代間の連携を可能にする新たな組織体制の構築が求められます。こうした新しい環境では、最も年齢が低い世代が下で、最も年齢が高い世代が上にくる、通常のピラミッド型の組織体制は通用しません。組織には、共通の目的を掲げ、生成AIを活用して多世代チームの力を引き出し、各世代独自の視点や経験・体験、スキルを結集させるために、組織体制モデルを見直すことが求められます。

一方、信頼性や仲間同士で支え合うコミュニティ、パーソナライゼーションへのシフトにおいて、Z世代は、あらゆる世代の従業員や消費者、市民の行動に影響を与えています。その変化の兆しはすでに現れており、未来からの手紙のように、ビジネスリーダーに未来で成功するための明確な優先順位を示しています。

取るべき対応

  • 従業員への価値提案(EVP:Employee Value Proposition)を高めて、現代の従業員の期待に応える。すなわち、勤務形態、福利厚生、ツールへのアプローチのパーソナライズ化を進める。
  • 全世代に対して常に自習型トレーニングを求め、導入を進める。生成AIのユースケース例を共有し、プロンプトライブラリを構築し、常に好奇心を持つ姿勢を全従業員に奨励する。
  • 新たなテクノロジーを活用する。古いツールを使っていては、アジャイルで直感的なアプリに慣れた世代のやる気を引き出すことはできない。
  • 組織の「言行不一致」をなくす。実現できないことは約束しない。透明性が信頼性の鍵を握る。言行を一致させなければならない。
  • 仕事のやり方、消費者の選択肢、政府や公共機関とのやり取りなどにおいて、個人の選択の重要性を認める。
  • 導入の際の障害を洗い出し、取り除く。従業員の1日、購入者の体験、市民の政府機関とのやり取りにおける摩擦が、辞職や顧客離れなどのきっかけとなる可能性がある。ロイヤリティーを構築するには、信頼を築かなければならない。
  • 10年後、組織がどのようになると思うかを尋ねる。ヒエラルキー型組織を縦断した多世代のチームやワークストリームを意図的につくり、双方向のメンタリングを実施し、連携を奨励する。
  • 昇格につながり得る充実した体験を提供して、新入社員のやる気を高め、人材の流れを管理する。
  • 次世代諮問委員/シャドーボードを設置し、若手と幹部が相互に意見を交換できる環境を整えることを検討する。

サマリー

人口動態およびテクノロジーの構造的な転換点を迎える中、従業員、消費者、市民としての私たちの優先順位は変化しています。そのため、過去に当然とされてきた常識の多くが、もはや未来のモデルには通用しません。組織体制を見直し、今までの前提に疑問を呈し、テクノロジーを活用して世代間ダイナミクスの力を引き出す方法を新たに生み出すことで、成長への新たな道を切り開くことができます。

関連記事

人材優位性を確保する5つの鍵と人事変革事例――「Work Reimagined Survey 2024」が示す働き方の変化と人材流動性の高まり

「Work Reimagined 2024 in Japan 未来の人材力を形づくる人材ダイナミクスと人材フローにどう向き合うべきか」 セミナーレポート(2024年12月19日開催) EYが毎年実施している働き方に関する意識調査「Work Reimagined Survey 2024」の結果を基に、目まぐるしく変化する「future of work(未来の働き方)」について、先進的な人材マネジメント改革に取り組むMars社やパナソニック コネクト株式会社の事例を交えて解説しました。

場所に縛られない働き方の増加は未来の人材の在り方をどう塗り替えるか?

仕事の在り方は、キャリア、リワード(報酬)、働く場所などにおいて従来の価値観とは異なるものへと変化しています。人材の優位性について詳しくは、EY 2024 Work Reimagined Surveyをご覧ください。

若手の管理職志向を高めるには?  ~ドライバーは、報酬のプレミアム感と管理職同士の仲の良さ

EYは、昨今、管理職になることを「罰ゲーム」と感じがちと言われる若手が管理職を志向するようになる主要ドライバーを新たに特定しました。

    この記事について

    執筆者