EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY-Parthenonは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
カーブアウトの手法によって、売主と買主、そしてカーブアウト後の対象事業を運営する法人の三者が検討すべき税務上の課題は大きく変わります。買主候補との価格交渉にも影響する重要な視点「税務の目」から見たカーブアウトの留意事項をまとめます。
本稿は、事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウトシリーズの第6回目です。
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要点
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カーブアウトを成功に導くため、売主サイドでは買主候補との交渉に入る前の段階で、対象事業の望ましい切り出し方についてさまざまな検討を進めます。今回紹介する税務面での影響に関する調査も、その重要なミッションの1つです。カーブアウトの対象事業を会社分割によって株式で売却するか、対象事業だけを切り出して譲渡するかなど、どのカーブアウトスキームを選択するかによって、またカーブアウトされる対象事業に含まれる資産の内容などによっても、課税対象や税額の多寡が違ってくるからです。これら税務の論点は売却価額に直結し、買主候補との交渉にも大きな影響を与えます。
想定外の課税リスクを回避し、カーブアウトされる対象事業を適正に評価するためにも、また複雑な税務手続きを滞りなく進めるためにも、カーブアウトに伴う税務上の検討課題について理解を深めておくことが大切です。検討を要する税務に関する初期的な観点としては、大きく次の4つが挙げられます。
ではここで、前項【1】で述べたカーブアウトスキームの選択を左右する税務面での検討事項について、【Ⅰ】売主、【Ⅱ】買主、【Ⅲ】カーブアウト後の対象事業を運営する法人、この三者の目線を踏まえて見ていきましょう。スキームの決定において重要となる税務上のポイントは以下のとおりです。どのスキームを採用した際に、誰にどのような税務上の課題が生じるのか。売主の視点で言い換えれば、買主候補との価格交渉において何がポイントとなり、どのような点で有利になるのか、についてヒントが得られると思います。なお、本シリーズでは売主の立場からカーブアウトの流れと実務を見ていますが、ディールを成功裡に収めるには買主の視点も把握しておくことが大切です。
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スキーム①は事業譲渡であり、スキーム②③は株式譲渡です。その違いによって売却益に対する課税の仕方や税額が変わるため、どのスキームを選んだ場合にどのように課税が生じるかを事前に把握することがポイントとなります。
例えば、スキーム①のようにカーブアウトされる対象事業そのものを譲渡する場合、税務上、時価取引となり、売主側で譲渡損益を計上するのが原則です。スキーム②のように、会社分割等の組織再編を前提として資産を移転する場合も例外ではありません。最終的には株式譲渡として買主に譲渡価額で株式が移転されますが、その前に実施する会社分割は、①と同様に時価取引として分割を実施した会社において譲渡損益が計上されます。
扱いが異なるのは③のケースです。会社分割で新会社に移転した資産に対する支配が継続し、一定の要件を満たす場合には、分割に伴う資産の移転は簿価取引とされ、分割を実施した会社において譲渡損益は計上されません(ただし、既存会社の株式を譲渡する際、株式を譲渡した会社において譲渡損益が生じます)。
買収に伴い、対象事業にまつわる過去の税務リスクを引き継ぐか否かは買主にとって重大な視点です。スキーム③の場合、既存会社の株式を取得するため、その法人が持つ過去の履歴も承継されます。例えば、株式の取得後に、既存会社が税務調査により追徴課税を受けた場合には、既存会社の納税を通じて、買主に経済的負担が生じることとなります。一方、スキーム①は買収対象が法人ではないため、またスキーム②も、過去に履歴のない新会社の買収であるため、原則としてこうしたリスクは生じません。
減価償却による費用や繰越欠損金がある場合には、対象事業に係る課税所得・納税額が減る可能性があります。スキーム①や②の場合、対象事業を運営する買主または新会社は、【Ⅰ】で述べたように時価で対象事業を取得しますから、(売主側で計上されていた簿価から)取引時価にステップアップした減価償却資産を計上し、ステップアップ後の金額をベースに償却できることになります。
一方、③の場合、売却されるのは既存会社の株式であるため、対象事業を運営する既存会社に計上されている資産は簿価のままであり、売却によって償却費が増えることにはなりません。また、欠損金は①②では買主または新会社が引き継ぐことはありませんが、③では既存会社に残ったまま譲渡されるため、買収後に買主側で対象事業が利益を出せば、その所得と既存会社に残されている欠損金を相殺できる可能性が出てきます。
この他、消費税や不動産取得税、登録免許税などについても、カーブアウトのスキームに応じて、売主、買主、対象事業を運営する法人のそれぞれに対する課税の仕方や税額が異なるため、事前に確認しておく必要があります。
これまでの観点を踏まえ、売主と買主、及び対象事業を運営する法人が、それぞれ一般的にどの税目でどのような課税関係になるのかを、3つのスキームに分けて下表にまとめました。なお、償却メリットや税務リスクの違いにより、以下のように色分けしています。
[濃いグレー]課税あり/償却メリットが生じない/過去の税務リスクを承継する
[青]非課税/償却メリットが生じる可能性あり/過去の税務リスクを承継しない
[薄いグレー]条件付き
【Ⅰ】売主サイド 観点の早見表(①②:譲渡または分割をする法人、③既存法人の親会社)
【Ⅱ】【Ⅲ】買主及び対象事業を運営する法人 観点の早見表(①②:カーブアウト事業を承継する法人、③:カーブアウト事業を保有する既存法人)
以上見てきたように、カーブアウトに関する税務上の留意点は極めて複雑であり、状況によって売主の利点になることもあれば、買主に有利につながる取扱いもあります。①②③のどのスキームが適しているかは状況次第で変わるため、専門家による精緻な分析・検証が不可欠です。また、売主の視点から損得を判断するだけでは、ディールの過程で買主の意向と衝突することにもなりかねません。カーブアウトの成功に向けて最も望ましいスキームは何か。多面的な視点から検討する必要があります。
次回は、人事・労務に関する課題について取り上げます。
本記事は作成時点の法令等に基づく一般的な情報提供であり、会計、税務およびその他の専門的なアドバイスを行うものではありません。
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また、筆者の私見を含むものであり、具体的なアドバイスが必要な場合は、個別に専門家にご相談ください。
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カーブアウトに係る課税関係の調査は、買主候補との取引の行方も左右する重要なミッションです。適切な価格で譲渡するため、予想外の課税を未然に防ぐため、そしてディールを円滑に進めるためにも、M&A関連の税務に長けた専門家の目を交え、早期に検討を始めましょう。
事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト 全9回
#1 なぜ今、カーブアウトなのか ── 事業切り出しの必然性とアクティビズム 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
企業が戦略的に自社の事業の一部を切り出し、売却や譲渡によって事業ポートフォリオの最適化を図る「カーブアウト(carve out)」。資本効率を高めるための一手として、グローバル企業を中心にその実践例が増加しています。どのようにして成功に導くのか。売主の立場から見た重要なポイントを、連載シリーズでお届けします。
#2 カーブアウトの準備と手続き ── 譲渡完了までの要諦と全体プロセスを知る 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
企業カーブアウト(事業切り出し)の効果と具体的な実行スキームについて知る連載シリーズの第2回。今回は、日本の大企業が直面するコングロマリット・ディスカウントの実情を踏まえ、カーブアウト実行に向けた準備と手続きのポイントとおよび全体プロセスについてまとめます。
#3 カーブアウト分析の進め方 ── オペレーティングモデルの現状分析と将来設計 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
カーブアウトにまつわる複雑なスキームを滞りなく進め、望ましいオーナーを得て事業価値を高めるには、精緻な分析と準備が欠かせません。その鍵を握るのが、対象事業が独立運営するために解決すべき課題の特定と対策を検討する「カーブアウト分析」です。
#4 カーブアウトディールの留意点 ──セルサイド・デューデリジェンスのすすめ 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
カーブアウトの対象となる事業の範囲に目星がついたら、次にどのようにカーブアウトを進めるか、その手法や必要な手続きを検討することになります。そこで有意義なのが、「セルサイド・デューデリジェンス(DD)」。法務や財務、税務、人事、ITなど、各方面にわたる売主自身による詳細な調査です。
#5 セルサイド財務DDの効果 ── カーブアウト財務情報の作成と分析 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
カーブアウトディール実行前に売主が行うセルサイド・デューデリジェンス(DD)。その先鋒(せんぽう)として、クロージング時点やスタンドアロン後の対象事業の姿を想定してカーブアウト財務情報を作成し、精緻な分析を加えて財務面から具体像を描き出すのが「セルサイド財務DD」です。
#6 税務の視点で見る事業分離──カーブアウトスキームをどう選ぶか 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
事業だけを売却するか、新会社に事業を移して切り出して新会社を売却するか、あるいは売りたくない事業を別会社に移して既存の会社を売却するのか──。カーブアウトの手法によって、売主と買主、そしてカーブアウト後の対象事業を運営する法人の三者が検討すべき税務上の課題が大きく変わってきます。買主候補との価格交渉にも影響する重要な視点「税務の目」から見たカーブアウトの留意事項をまとめます。
#7「人の移管」という最重要課題──カーブアウトを成功に導く人材戦略 事業ポートフォリオ変革のためのカーブアウト
カーブアウトの準備・交渉過程において、対象事業の自律的な運営と成長を支えるための「人材の確保」は最重要課題の1つです。その核となる「従業員移管」のプロセスは、売主、対象従業員、残留従業員、そして新オーナーという四方のステークホルダー全てにとって、合理的なものでなければなりません。本稿ではその望ましい進め方について、3つの「場面」に視点を置いて解説します。
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M&A取引における税務、法務、人材の問題を扱うEYのチームが、ビジネスを変革し、取引価値を最大化するお手伝いをします。
続きを読むCEOやビジネスリーダーは、この変革の時代に、ステークホルダーにとっての価値を最大化するという任務を負っています。私たちは常識に疑問を投げかけ、収益性と長期的価値を向上させる戦略を構築し、実行します。
続きを読む年々増加するアクティビスト活動への対応および備えとして最も重要なことは、株主との建設的な対話(エンゲージメント)を通じて得られた意見を取り入れながら成長戦略を描き、着実かつ迅速に実行することによって中長期的な企業価値向上を実現し、資本市場からの信任を獲得することです。
続きを読む財務アドバイザー(FA)として、貴社の利益の観点からM&Aの組成からエグゼキューションまでを戦略的な助言によりバックアップ。FAとしての高い専門性発揮はもちろんのこと、グローバル・ネットワークと隣接領域の充実したサービスラインアップ(DDなど)を生かしてのシームレスな案件遂行をお約束します。
続きを読むEYのバリュエーション、モデリング&エコノミクスサービスでは、バリュエーションとビジネスモデリングを緊密に連携させ、事業への影響について理解を深められるようサポートします。
続きを読むEYのトータルリワード(人事制度・福利厚生・働き方)のプロフェッショナルは、人材に関する戦略の一環として、総合的な報酬の評価、またはその再構築や再設計の支援を行います。詳しい内容を知る
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