EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
生成AIの活用が広がる中、企業には、AIと人の役割を起点に業務を再設計し、その変化を配置・育成などの人材施策へつなげることが求められています。本稿では、その具体的な進め方を紹介します。
要点
Section 1
AI導入検討時に、業務・人材・コストを一体で捉えて業務再設計につなげる
生成AIやAIエージェントの活用が広がり、企業の業務改革は新たな段階に入っています。
これまでの業務設計では、既存業務フローの中からどこを効率化し、自動化するかが主な論点でした。しかし、AIが情報の整理や分析、判断の支援まで担うようになると、従来の業務を前提とした改善だけでは十分ではありません。
今後は、AIを活用した業務の進め方を再設計し、人とAIがそれぞれ何を担うかを見直す必要があります。人とAIの役割が変われば、業務の進め方が変わり、人に求められる役割やスキル、人員配置も変わります。そのため、AI時代の業務再設計では、業務と人材を一体で捉えるオペレーティングモデルの最適化として進めることが重要です。
その出発点となるのが、業務、人材、コストを共通の視点で捉えることです。EYでは、独自ツールであるEY Workforce Platform(EYWP)を活用し、人事データを業務プロセスにひもづけることで、業務ごとの要員数や人件費を可視化します。その上で、AI活用によって削減・縮小できる業務を整理し、次に残された業務に必要な職務やスキルを整理するというプロセスを踏みます。このように人事データを業務プロセス改革の視点で整理することで、要員・コスト、AI・自動化余地、ジョブ・スキルへの影響を一体で捉え、業務の再設計やAI化に向けた論点整理、人材配置・育成設計を支援しています。
本稿では、EYWPを活用して業務変革の対象を見極め、AIを前提に業務を再設計し、その変化を人材施策へつなげる考え方を紹介します。
図1)AI時代の組織最適化の全体像
Section 2
EYWPで業務・人材・コストをつなぎ、業務再設計と組織最適化の共通基盤をつくる
オペレーティングモデルの最適化を進めるには、どの業務に、どれだけの人とコストが投入されているかを把握する必要があります。
一方、企業が保有する人事データは、組織、職務、等級、要員数、人件費などの単位で管理されることが一般的です。そのままでは、人やコストがどの業務に配分されているかを十分に捉えられません。
EYWPは、人事データを読み解いて、業務プロセスの視点で整理し、プロセス別の要員やコストを「業務コスト」として簡易的に可視化することができます。
図2)「どの組織に何人いるか」から「どの業務に人とコストが使われているか」へ
ただし、現状を可視化するだけでは、どこから変革に着手すべきかを決めることはできません。可視化した情報を手掛かりに、優先的に検討する業務を絞り込むことが次のステップです。
Section 3
複数の視点から、優先的に深掘りすべき業務を見極める
従来の業務再設計時に行う業務量調査のように、すべての業務を同じ深さで調査すると、現場にも大きな負荷がかかります。そこで、簡易的に業務全体を俯瞰(ふかん)した上で、優先的に深掘りする領域を絞り込むことが必要になります。
EYでは、EYWPを活用し、地域・業界を絞ったベンチマーク比較、AI・自動化余地など、複数の視点から初期仮説を整理しています。ここで得られる分析結果は、業務の変革施策を決める最終回答ではありません。例えば、要員が相対的に多い業務であっても、事業特性やサービス水準、規制上の要件など、合理的な背景がある可能性があります。
分析の目的は、変革余地の大きい業務を見極め、現場へのヒアリングや詳細な業務分析につなげることです。
対象業務を絞り込んだ後は、現行業務の延長で改善策を考えるのではなく、AIと人がそれぞれ何を担うべきかという視点から、将来の業務像を描きます。
図3)ベンチマーク比較に基づく深掘り検討対象の選定
図4)自動化余地の簡易識別
Section 4
既存業務へのAIの追加ではなく、人とAIの役割からあるべき業務を再設計する
優先的に業務変革に着手する分野を決めたら、AI活用を前提とした形に業務を再設計します。AI時代の業務再設計では、「現在の業務のどこにAIを導入するか」という発想だけでは不十分です。AI活用の効果を最大化するためのステップを以下に整理します。
本稿で扱う業務再設計は、AIの導入自体が目的ではありません。不要な業務や複雑なプロセスをそのままAIに置き換えても、本質的な改善にはつながりません。
効果的なAI活用においては、例えば人材の配置・異動であれば、評価やアセスメント、職務経歴、研修受講歴、保有資格など社内外に散在する人事データをAIが統合し、各ポジションの要件に対するスキルの充足度やギャップを可視化した上で、候補者リストと育成プランの草案までを作成します。本人のキャリア志向や組織の将来の方針、上司・チームとの相性といった文脈に依存する判断は、人事担当者やマネージャーがAIの分析と根拠をたどりながら下します。要件を満たす社内公募のマッチングや異動に伴う定型的な手続きは、一定の条件のもとで自動化します。
このように、AIが情報整理から分析、そして判断の支援まで踏み込むことを前提にタスクを組み替えると、単なる自動化ではなく、業務そのものの形が変わっていきます。AIと人の強みを踏まえ、業務の必要性、プロセス、データの持ち方、ルール、役割分担を見直すことが重要です。こうして将来の業務像を描くと、現状との違いも明確になります。
次に必要となるのは、その違いを実現可能性の観点から捉え、AI活用に必要な準備を整理することです。
Section 5
AIを前提とした業務像と現状の差を捉え、業務ごとに適切な着手点を定める
AIと人の役割から目指す業務像を描いても、すべての業務を直ちにAI化できるわけではありません。規程や判断基準が整理されていない、例外処理が多い、必要なデータが蓄積されていないなど、AI活用の前提が整っていない業務もあります。
こうした業務では、AIを導入する前に、業務の標準化・簡素化や、データ・フローの整備が必要です。図5は、AI活用に向けた準備を、業務を整える、デジタル基盤を整える、AIを実装するという3つの段階で示しています。
図5)AI活用に向けた業務成熟度の全体像
ただし、すべての業務を同じ順番で進める必要はありません。既に業務が標準化され、必要なデータが蓄積されている場合は、AIによる自動化・高付加価値化の検証から着手できます。一方、業務ルールや例外処理が複雑な場合は、まず業務の標準化・簡素化から始める必要があります。
図6は、AIによる業務再設計効果の大きさと、業務・データの準備状況を踏まえ、業務ごとの着手点を判断する考え方を示しています。重要なのは、すべての業務に対して一律で高度なAI活用を進めることではなく、目指す業務像から逆算して、必要な取り組みを見極めることです。
図6)業務の準備状況を踏まえた着手点の判断
このように、AIを前提とした業務再設計は「目指す姿」を定めるものであり、段階的な準備は「そこへ至る道筋」を具体化するものです。業務ごとに適切な着手点を定めることで、AI活用を実行可能な変革計画へ落とし込むことができます。
その実行に伴い、業務を構成するタスクや、人が担う責任も変わります。したがって、組織最適化を実現するには、業務の再設計による変化をジョブやスキルへの影響として捉え、配置・育成・採用などの人材施策へ反映することが欠かせません。次章では、業務の再設計と人材戦略をつなぐ考え方を紹介します。
Section 6
タスクの変化をジョブ・スキルへ翻訳し、配置・育成・採用へ反映する
AIによって業務が変われば、人が担う仕事も変わります。定型的な処理の比重が下がる一方で、例外への対応、関係者との対話、AIの出力確認、業務設計、データ活用などの重要性は高まります。したがって、業務再設計はFTE(Full-Time Equivalent:フルタイムで勤務する従業員に換算した業務量・要員数)やコストの試算だけで終わらせるべきではありません。再設計後の業務を基に、各ジョブが担うタスクや責任を見直し、必要となるスキルを明らかにすることが必要です。EYWPでは、業務プロセスとジョブ・スキルを結びつけ、業務の変化が人材に与える影響を整理します。その結果を、配置・育成・採用・役割の見直しへつなげます。
本記事についてのご質問や詳細をご希望の場合は、お気軽にお問い合わせください。
基礎編で説明した通り、スキルベースの人材マネジメントは、従業員の保有スキルを可視化することだけが目的ではありません。変化する仕事と人材を結びつけ、将来必要となる人材を確保・育成するための基盤です。
業務の再設計による変化を人材施策へつなげることで、AI活用を一時的な効率化にとどめず、組織の能力を継続的に高める取り組みへ発展させることができます。
図7)AI活用による業務の変化をジョブ・スキルへ翻訳し、業務改革と人材戦略をつなぐ
図8)AI活用による業務変化に伴い影響を受けやすいスキル・受けにくいスキルの一覧
AI活用を、持続的な組織変革へ ―業務と人材の両面から、AIと人が強みを発揮できる組織をつくる
AI時代の組織最適化で問われるのは、単に何人分の業務を代替できるかではありません。
重要なのは、業務・人材・コストを一体で捉え、変革すべき領域を見極めることです。その上で、AIと人の役割から業務を再設計し、実現に必要な基盤を整えます。さらに、業務再設計後の変化をジョブ、スキル、配置、育成へ反映することで、AI活用を持続的な組織変革へつなげることができます。
AIが担える作業をAIへ移し、人の時間と能力を、判断、対話、創造など、より高い価値を生む活動へ振り向ける。業務と人材の両面からこの変化を設計することが、AI時代の組織最適化の本質です。
「スキルベースの人材マネジメント活用」基礎編はこちら
スキルベースの人材マネジメント活用基礎編 ―最適なスキル設計と運用とは
EY Japan People Consulting Newsletter
最新の人材・組織関連の注目ワードや先進的な取り組みを、毎月無料で配信しています
ニュースリリース
EY Japan、日本市場で初めてスキルを起点にした新たな人材マネジメント手法を包括的に解説する『スキルベース組織の教科書』を出版
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 近藤 聡)は、2025年4月28日、日本能率協会マネジメントセンターより書籍『スキルベース組織の教科書』を出版します。
EY Japan、『スキルベース組織の教科書』が「HRアワード2025」書籍部門に入賞
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 近藤 聡)は、日本能率協会マネジメントセンターより出版した書籍『スキルベース組織の教科書』が日本の人事部「HRアワード2025」(主催:「HRアワード」運営委員会、後援:厚生労働省)の書籍部門に入賞しましたのでお知らせいたします。
EYの最新の見解
AI時代のスキルベース組織を動かす リスキリングと人材マネジメントとは
AIと人が協働する時代、スキルベース組織への変革と新たな人材マネジメントが求められます。リスキリングと自律学習が個人の価値を高め、持続的な成長と労働寿命の延伸を実現します。
スキルベースの人材マネジメント活用基礎編 ―最適なスキル設計と運用とは
スキルベース組織におけるスキル設計では、初期段階で完璧を目指さず、AIを活用しながら運用の中で検証して最適化していくことが重要です。これにより、実際の意思決定で活用されるスキルデータの構築につながります。
スキル開発が企業競争力の源泉に。AI時代の人材戦略とピープルアナリティクスの新潮流
スキル開発の重要性が、変化の激しいAI時代において急速に高まっています。データの利活用を軸にしたスキル開発の仕組みを整えることで、企業競争力向上につながります。
EYとビズリーチのスキル可視化共同プロジェクトに見る、スキルベース組織実現への課題と可能性
スキル可視化はスキルベース実現の鍵となる要素です。スキル単位で人材管理・ジョブマッチングを行うことで、個人の能力最大化と企業競争力向上につながります。
スキルベース型人材マネジメントを実現するためのAI活用の重要性と導入事例とは?
スキルベースの人材マネジメントでは、AIなどのテクノロジーを活用してスキル把握、人材配置、育成を行い、カルチャー改革を推進することがポイントです。
スキルベース組織の教科書 ジョブ型人材マネジメントのその先へ
「スキルベース組織」への転換の動きが日本企業で活発化しています。 ジョブ型雇用の課題を背景としたスキル起点の人材マネジメント転換の具体的な方法を、日本の先進企業や最新スキルテック企業の事例を交えて、第一線のコンサルタント集団が解説します。
スキルベース組織の未来~日本企業におけるスキルを基軸にした人材マネジメントの在り方を考える~
現在、日本では人材不足により、スキルを基軸に採用や人材配置を見直す取り組みが注目されています。企業は、日々新しく進化するスキルにどのように対応すべきか。EY、Skillnote、SAPの3社は、企業のリーダーたちをお招きし、スキルベースマネジメントの実現に向けたセミナーを開催。先進企業の変革事例をご紹介すると共に、そこから見えてくる示唆をご提供しました。