2026年3月期 有報開示事例分析
第5回 重要な契約等に係る2年目の開示分析

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 須賀 勇介

Question

2026年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)における重要な契約等の改正2年目の開示状況を知りたい。

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2026年8月
  • 調査対象期間:2026年3月期
  • 調査対象書類:有報
  • 調査対象会社:以下の条件に該当する189社
    ① 2026年4月1日現在、JPX400に採用されている
    ② 3月31日決算である
    ③ 2026年6月30日までに有報を提出している
    ④ 日本基準を適用している

【調査結果】

1. 解説

2023年12月22日に令和5年内閣府令第81号「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(以下「令和5年内閣府令第81号」という。)が公布され、有報の「事業の状況」における開示項目が「経営上の重要な契約等」から「重要な契約等」に変更されるとともに、重要な契約について新たに次の開示が求められることになった。

  • 企業・株主間のガバナンスに関する合意(以下「ガバナンスに関する合意」という。)
  • 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意(以下「株式の処分・買増し等に関する合意」という。)
  • 金銭消費貸借契約と社債に付される財務上の特約(以下「財務上の特約」という。)

当該改正は、2024年4月1日に施行され、2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有報等から適用されている。ただし、施行日(2024年4月1日)前に締結された契約については、2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有報等から記載が求められるが、それまでは記載を省略することができるとする経過措置が設けられていた(令和5年内閣府令第81号附則3条4項)。2026年3月期の有報では、経過措置の終了に伴う開示の拡充が見込まれたことから、2025年3月期の有報と比較した事例分析を実施した。

2. 開示状況の調査結果

(1) 記載項目

調査対象会社(189社)を対象として、「事業の状況」の「重要な契約等」における記載状況を調査した。当該改正により新たに開示が求められた項目ごとの開示状況を調査した結果は、<図表1>のとおりである。

財務上の特約について記載している会社は、2025年3月期の23社(12.4%)から2026年3月期の38社(20.1%)へ増加していた。一方、ガバナンスに関する合意、及び株式の処分・買増し等に関する合意について記載している会社はいずれも5%未満であり、その傾向は2025年3月期と同様であった。

なお、当該改正により新たに開示が求められたいずれかの項目について記載している会社は、2025年3月期の30社(16.1%)から2026年3月期の43社(22.8%)へ増加していた。この増加には、施行日前に締結された契約に係る経過措置が終了した影響も含まれていると考えられる。

<図表1> 重要な契約等の開示状況
 

項目2025年3月期(※1)2026年3月期
会社数比率会社数比率
ガバナンスに関する合意7社3.8%9社4.8%
株式の処分・買増し等に関する合意4社2.2%5社2.6%
財務上の特約23社12.4%38社20.1%
合計(※2)30社16.1%43社22.8%

(※1)2025年3月期の調査対象会社合計は186社である。
(※2)複数の項目を記載している場合は、それぞれ1社としてカウントしているため、合計は各項目の単純合算とは一致しない。

(2) 経過措置

いずれかの項目について記載している会社43社のうち、施行日(2024年4月1日)前に締結された契約について2026年3月期の有報において記載している会社34社を対象として、2025年3月期の有報における記載状況を調査した結果は、<図表2>のとおりである。

2024年4月1日前に締結された契約を2026年3月期の有報に記載している34社のうち、過半数の18社(52.9%)は経過措置による記載の省略を行わず、2025年3月期から契約内容等を記載していた。また、2025年3月期において契約内容等を記載していなかった16社(47.1%)のうち、過半数の11社(68.8%)では経過措置を適用した旨を記載していた一方で、残りの5社(31.3%)ではその旨の記載がみられなかった。このため、2025年3月期の有報のみからは、施行日前に締結された契約の存在や、経過措置により記載が省略されていることを把握できない事例もあった。

<図表2> 前期における施行日前締結契約の記載状況
 

前期有報の記載状況会社数比率(※)
契約内容等の記載あり18社52.9%
契約内容等の記載なし16社47.1%
うち、経過措置を適用した旨の記載あり11社68.8%
うち、経過措置を適用した旨の記載なし5社31.3%
合計34社100.0%

(※)16社の内訳項目は、16社を母数として比率を算定している。

(3) 財務制限条項の注記

借入金や社債等に付された財務制限条項については、財務諸表等に重要な影響を及ぼすと認められる場合など、利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関して適切な判断を行ううえで必要と認めた場合には、追加情報として財務諸表等に注記しなければならないとされている(日本公認会計士協会 監査・保証実務委員会実務指針第77号「追加情報の注記について」5項)。

「重要な契約等」に財務上の特約について記載している会社38社について、(連結)財務諸表における注記の記載状況を調査した結果は、<図表3>のとおりである。いずれかの注記に記載している会社は10社(26.3%)にとどまった。記載箇所別では、(連結)貸借対照表注記への記載が8社(21.1%)と最も多かった。これらの傾向は、2025年3月期と同様であった。なお、いずれかの注記に記載している10社のうち6社は、「重要な契約等」に財務上の特約の内容を記載せず、当該内容を記載した注記を参照していた。

また、「重要な契約等」に財務上の特約について記載していない会社151社のうち、財務制限条項についていずれかの注記に記載している会社が13社あった。

「重要な契約等」では、財務上の特約が付された金銭消費貸借契約に係る債務又は社債の期末残高が連結純資産額の10%以上である場合に開示が求められるという閾値が定められている(「企業内容等の開示に関する内閣府令」第二号様式(記載上の注意)(33)h)のに対して、財務制限条項に係る(連結)財務諸表の注記ではそのような閾値が定められておらず、前述のとおり、財務諸表等に重要な影響を及ぼすかなどの観点で記載の要否が判断される。このような両者の記載要件の違いから、記載の要否の判断結果が異なる事例があったものと考えられる。

<図表3> 財務諸表における財務制限条項の注記との関係
 

記載箇所2025年3月期(※1)2026年3月期
会社数比率会社数比率
注記に記載あり8社34.8%10社26.3%
うち、(連結)貸借対照表注記6社26.1%8社21.1%
うち、追加情報注記2社8.7%2社5.3%
うち、金融商品関係注記0社0.0%1社2.6%
注記に記載なし15社65.2%28社73.7%

(※1)2025年3月期は、財務上の特約について記載している23社を対象としている。
(※2)複数の箇所に記載している場合は、それぞれ1社としてカウントしている。

(旬刊経理情報(中央経済社)2026年9月20日号 No.1787「2026年3月期「有報」分析」を一部修正)

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