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EY新日本有限責任監査法人
大浦 佑季
2026年3月期決算に係る有価証券報告書(以下「有報」という。)の事業等のリスク、重要な会計上の見積りに関する注記、追加情報の注記の開示における中東情勢に関連する開示の状況を知りたい。
【調査範囲】
【調査結果】
2026年2月以降、中東情勢の緊迫化を背景として、ホルムズ海峡は事実上の封鎖状態となっていた。日本の原油輸入の大部分はホルムズ海峡を運航する船舶での輸入に依存しており、多くの日本企業にとって原油等のエネルギー価格の高騰や石油製品の一種であるナフサ由来の原材料等の調達難・調達遅延等の影響があったものと思われる。
このような中東情勢の緊迫化は、2026年3月期決算の有報における事業等のリスク、重要な会計上の見積りに関する注記、追加情報の注記の開示内容にも影響を及ぼしているものと考えられる。
そこで、これらの開示について、中東情勢に関連する記載を分析した。
調査対象会社(1,996社)のうち、有報の「事業等のリスク」に中東情勢の影響を記載している330社(以下「中東情勢影響記載会社」という。)について、有報の「事業等のリスク」における中東情勢に起因するリスクの内容を集計した結果は、<図表1>のとおりである。また、記載数が50件超である各リスクの内訳に関する集計結果は、<図表2>から<図表5>のとおりである。
なお、リスクの内容の記載は一定程度分類して集計した。また、「中東情勢等の地政学リスク」といった記載や、一般的な影響にとどまると考えられる事例については、「具体的な記載なし」として集計した。
<図表1>「事業等のリスク」における中東情勢に起因するリスクの内容
| リスクの内容 | 記載数(件) (※1) | 比率 (※2) |
|---|---|---|
| 価格変動リスク | 298 | 90.3% |
| 供給制約リスク | 177 | 53.6% |
| 需要減少・市場悪化リスク | 84 | 25.5% |
| オペレーション停止・遅延リスク | 60 | 18.2% |
| 信用・金融リスク | 36 | 10.9% |
| 通商政策・制度リスク | 13 | 3.9% |
| その他 | 4 | 1.2% |
| 具体的な記載なし | 35 | 10.6% |
| 合計 | 707 | ‐ |
(※1)1社が複数のリスクを記載している場合は、それぞれリスクをカウントしたため、記載数の合計(707件)は中東情勢影響記載会社数(330社)を上回っている。
(※2)記載数の比率は330社を分母にして算定している。
<図表2>価格変動リスクの内訳
| リスクの内容 | 記載数(件) | 比率 |
|---|---|---|
| 原材料価格の高騰 | 117 | 39.3% |
| 原油価格・エネルギー価格の高騰 | 86 | 28.9% |
| 仕入価格・調達コストの上昇 | 35 | 11.7% |
| 物流コストの上昇 | 31 | 10.4% |
| 為替相場の変動 | 15 | 5.0% |
| その他 | 14 | 4.7% |
| 価格変動リスク 合計 | 298 | 100.0% |
<図表3>供給制約リスクの内訳
| リスクの内容 | 記載数(件) | 比率 |
|---|---|---|
| 原材料の調達難・調達遅延 | 92 | 52.0% |
| サプライチェーンの混乱 | 45 | 25.4% |
| 供給制限・供給不安 | 24 | 13.6% |
| エネルギーの調達難・調達遅延 | 13 | 7.3% |
| その他 | 3 | 1.7% |
| 供給制約リスク 合計 | 177 | 100.0% |
<図表4>需要減少・市場悪化リスクの内訳
| リスクの内容 | 記載数(件) | 比率 |
|---|---|---|
| 国内経済・世界経済への影響 | 25 | 29.8% |
| 取引先の業績悪化・支出抑制 | 22 | 26.2% |
| 需要の変動・低下 | 21 | 25.0% |
| 販売への影響 | 8 | 9.5% |
| 市場の低迷・景気後退 | 8 | 9.5% |
| 需要減少・市場悪化リスク 合計 | 84 | 100.0% |
<図表5>オペレーション停止・遅延リスクの内訳
| リスクの内容 | 記載数(件) | 比率 |
|---|---|---|
| 物流の停滞・混乱 | 32 | 53.3% |
| 生産調整・生産停止 | 13 | 21.7% |
| 納期遅延 | 9 | 15.0% |
| 販売活動の制限 | 6 | 10.0% |
| オペレーション停止・遅延リスク 合計 | 60 | 100.0% |
「事業等のリスク」における開示状況を分析した<図表1>からは、価格変動リスク(298件)と供給制約リスク(177件)がそれぞれ中東情勢影響記載会社数(330社)の半数以上を占めていた点が分かる。それぞれのリスクの内容を分析した<図表2>及び<図表3>からは、特に価格変動リスクについては原材料価格の高騰、供給制約リスクについては原材料の調達難・調達遅延に関する内容が多かったことが読み取れる。中東情勢の不安定化によりホルムズ海峡を通過する石油タンカーによる調達難・調達遅延が懸念され、石油等の原材料の価格の高騰や調達難・調達遅延のリスクが多くの会社で影響していたものと考えられる。
また、供給制約リスクの内訳である<図表3>のサプライチェーンの混乱(45件)や、需要減少・市場悪化リスクの内訳である<図表4>の取引先の業績悪化・支出抑制(22件)にみられるように、自社に対する直接の影響だけでなく、取引先への影響や、自社・取引先が属するサプライチェーンへの影響といった間接的な影響も「事業等のリスク」として記載している事例もみられた。
さらに、<図表1>より信用・金融リスクは記載会社数の10%超を占めており、中東情勢の影響は会社の生産・販売面だけでなく、取引先に対する与信リスクや金融市場にも影響を及ぼしていることが分かる。
次に、中東情勢影響記載会社(330社)について、「事業等のリスク」において業種別に中東情勢に起因するリスクの内容を比較した結果は、<図表6>のとおりである。なお、業種別の中東情勢影響記載会社数が10社以上、かつ、業種別でリスクの内容の記載数が20件以上の業種を記載している。
<図表6>「事業等のリスク」における中東情勢に起因するリスクの内容の業種別分析
| サービス業 | 卸売業 | 化学 | 機械 | 銀行業 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 価格変動リスク | 16 (39.0%) | 25 (47.2%) | 30 (46.9%) | 27 (42.9%) | 2 (6.1%) |
| 供給制約リスク | 8 (19.5%) | 12 (22.6%) | 16 (25.0%) | 15 (23.8%) | 1 (3.0%) |
| 需要減少・市場悪化リスク | 9 (22.0%) | 5 (9.4%) | 6 (9.4%) | 5 (7.9%) | 4 (12.1%) |
| オペレーション停止・遅延リスク | 1 (2.4%) | 6 (11.3%) | 7 (10.9%) | 6 (9.5%) | - |
| 信用・金融リスク | 2 (4.9%) | - | 2 (3.1%) | 1 (1.6%) | 26 (78.8%) |
| 通商政策・制度リスク | 1 (2.4%) | 2 (3.8%) | - | 2 (3.2%) | - |
| その他 | - | 1 (1.9%) | 1 (1.6%) | - | - |
| 具体的な記載なし | 4 (9.8%) | 2 (3.8%) | 2 (3.1%) | 6 (9.5%) | - |
| 合計 | 41 | 53 | 64 | 62 | 33 |
| 建設業 | 小売業 | 食料品 | 鉄鋼 | 電気機器 | 輸送用機器 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 価格変動リスク | 13 (46.4%) | 13 (52.0%) | 20 (55.6%) | 12 (44.4%) | 30 (35.3%) | 14 (43.8%) |
| 供給制約リスク | 7 (25.0%) | 7 (28.0%) | 11 (30.6%) | 9 (33.3%) | 23 (27.1%) | 7 (21.9%) |
| 需要減少・市場悪化リスク | 3 (10.7%) | 2 (8.0%) | 2 (5.6%) | 1 (3.7%) | 12 (14.1%) | 3 (9.4%) |
| オペレーション停止・遅延リスク | 4 (14.3%) | 3 (12.0%) | - | 4 (14.8%) | 12 (14.1%) | 3 (9.4%) |
| 信用・金融リスク | 1 (3.6%) | - | 1 (2.8%) | - | - | 1 (3.1%) |
| 通商政策・制度リスク | - | - | - | 1 (3.7%) | 3 (3.5%) | 1 (3.1%) |
| その他 | - | - | 1 (2.8%) | - | - | - |
| 具体的な記載なし | - | - | 1 (2.8%) | - | 5 (5.9%) | 3 (9.4%) |
| 合計 | 28 | 25 | 36 | 27 | 85 | 32 |
<図表6>より、小売業と食料品においては、5割超の会社で価格変動リスクを記載している。これは、これらの業種では包装資材等、販売商品にナフサ由来の原材料が多く使用され、販売単価も小さいことから、原材料価格や調達コストの影響を受けやすかったと推察される。
これに対して、銀行業において価格変動リスクを記載している事例は2件(6.1%)に留まり、一方で信用・金融リスクの記載が26件(78.8%)となっており、銀行業特有のリスクが最も表れているといえる。また、銀行業では自社への直接的な影響よりも、取引先企業の業績悪化に起因する影響が「事業等のリスク」として記載されている事例が多くみられた。
また、機械業においては「具体的な記載なし」の割合が9.5%と他の業種と比較して高くなっている。これは、機械業では原材料価格、調達コスト、燃料費、生産調整、取引先の需要など多くのリスクが混在するため、「中東情勢緊迫化等による当社への影響」といった包括的な記載に留まっていたためと考えられる。
調査対象会社のうち、有報の重要な会計上の見積りに関する注記に「中東」の記載がある会社は47社、55件であった。この47社について、重要な会計上の見積りに関する注記における記載項目(55件)を集計した結果は、<図表7>のとおりである。
<図表7>重要な会計上の見積りに「中東」と記載した事例の見積項目
| 見積項目 | 件数(※) | 比率 |
|---|---|---|
| 繰延税金資産の回収可能性 | 21 | 38.2% |
| 固定資産の減損 | 16 | 29.1% |
| 貸倒引当金 | 10 | 18.2% |
| 工事契約に係る収益認識 | 2 | 3.6% |
| 工事損失引当金 | 2 | 3.6% |
| その他 | 4 | 7.3% |
| 合計 | 55 | 100.0% |
(※)連結と個別で同一の項目を記載している場合には1件とカウントした。
<図表7>より、繰延税金資産の回収可能性、固定資産の減損において中東情勢の影響を記載している会社が多い。「事業等のリスク」に記載された価格変動リスクや供給制約リスクが会社の将来の収益性に影響し、これらの見積りにも重要な影響を与えているものと考えられる。
次に、貸倒引当金を記載している10件のうち、9件は銀行業及びその他金融業であり、金融業においては「事業等のリスク」において信用・金融リスクを記載している会社が多いこととも整合している。
また、工事契約に係る収益認識(2件)と工事損失引当金(2件)については、いずれも建設業の会社が記載しており、建設業の会社では原材料の高騰や調達遅延の影響により利益率や工事の進捗率の見積りに重要な影響を与えていたことが推察される。
調査対象会社のうち、追加情報において中東情勢について記載しているのは4社であった。このうち2社は重要な会計上の見積りの注記においても中東情勢の影響を記載していた。残る2社のうち、1社は重要な会計上の見積りの注記ではなく追加情報でのみ中東情勢の影響を説明しており、もう1社は中東情勢の影響が会計上の見積りに重要な影響を及ぼす可能性は低い旨を記載していた。
(旬刊経理情報(中央経済社)2026年9月20日号 No.1787「2026年3月期「有報」分析」を一部修正)
2026年3月期 有報開示事例分析
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