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特に先進国と途上国の間における、気候資金の数値目標や国別削減目標に関する攻防や、自然と生物多様性の動向も見逃せません。本記事ではCOP30の見どころについて、解説します。
要点
COPとは、国連気候変動枠組条約締約国会議のことで、気候変動対策に関する国際的な合意形成の場となっています。COP30はその第30回目で、2025年11月にブラジル・ベレンで開催されます。その前哨戦として国連気候変動枠組条約の第62回補助機関会合(SB62)が今年6月にドイツ・ボンで行われましたが、そこで予備的に検討されたテーマがCOP30に持ち込まれ、政府間で議論されます。今回は30回目の節目であり、ブラジルで行われること自体、気候変動対策の実行フェーズへの移行を象徴するだけでなく、自然・生物多様性の対応を含めた、マイルストーン的な会議となっています。
COP30では、「多国間主義の強化」「気候変動議論とビジネス・人々の現実の接続」「パリ協定の実施加速に向けた構造的調整の推進」の3つが主要目標となっていますが、これまでのCOPでは気候変動対策において先進国や途上国の二酸化炭素排出の「緩和」(Mitigation)やその資金動向が中心議題となっていました。しかし、現段階までに「緩和」(Mitigation)に加え、「適応」(Adaptation)が盛り込まれたことで、温室効果ガス排出削減だけでなく、温暖化の影響に対応するための施策の両面から取り組むことが問われています。また、先進国から途上国への気候資金の動員目標が年間1.3兆ドル規模と莫大なことから、その資金手当てをどうするかが今回の争点になると予想されます。
では、今回のCOP30で焦点となる具体的なテーマを見ていきましょう。まず挙げられるのは、気候資金の数値目標(NCQG: New Collective Quantified Goal)に関する合意形成の進展です。これまで先進国から途上国へは年間1,000億ドルの拠出がありましたが、COP29では、途上国向け資金の最低目標として年間3,000億ドルを設定し、2035年までに達成する方針が合意されました。さらに官民を含む総動員目標として、年間1.3兆ドル規模を2035年までに目指すことが確認されています。つまり、3000億ドルは先進国がリードし、1.3兆ドルは官民含むすべての資金源から動員するという整理となります。同時に、「損失と被害」(Loss and Damage)、つまり気候変動による既存の被害への補償や支援に対する基金は別枠で並走し、NCQGはこうした既存の仕組みを保管する全体の規模と動員の目標として位置付けられます。2035年までにどこが拠出し、どう配分するのか。先進国の発展の被害は途上国が受けたという二項対立の観点から大きな議論を呼びそうです。
2つめは「適応」に関する世界目標(GGA:Global Goal on Adaptation)に関する合意形成の進展です。こちらは、制度や人材の対応力、インフラやエネルギーの分散化など強靭性の強化、被害の要因を減らす脆弱性の低減など3つが柱となっています。具体的なテーマは水、食糧と農業、健康、都市とインフラ、生態系、貧困と生活生計、文化遺産の7つが決まっています。指標はUAE-Belém作業計画のもとで最大100指標に整理され、代表的な指標として、国・都市レベルの気候リスク評価の実施割合、気候関連災害による損失減少率、生態系に基づく適応の実施状況・成果などがあります。しかし、評価方法を含めた詳細は最終合意に至っておらず、議論となりそうです。
3つめは「緩和」の論点として、NDC(国別削減目標)の更新に大きな影響を与えるGST(Global Stock Take)に関する交渉の進展です。NDCは5年に1度締約国が提出するもので、パリ協定の目的達成に向けた削減目標の提出が求められています。そこでGSTが導入されており、5年ごとに全世界や各国の進捗を評価し、次のNDCに反映させる仕組みを採っています。目標(NDC)→実施報告(ETF)→パリ協定目的に対する進捗確認(GST)のサイクルを繰り返していくことで、効果的なNDCを設定していくものになります。
初めてのGSTは2023年のCOP28で提出されており、NDCの提出期限は2025年。次のGSTの期限は2028年であり、次のNDCの提出期限は2030年となります。初回のGSTを踏まえて、COP28では化石燃料からの移行、再生可能エネルギーの拡大、エネルギー効率の向上、適応策の強化などを盛り込んだドバイ宣言が出されましたが、この宣言にはGSTの本質が採用されていることからもGSTがいかに重要であるかが分かるでしょう。
第1回GSTで定められたUAE対話の実施範囲・方法や第2回GSTに向けたプロセス改善はSB62でも議論されており、COP30でこれらの論点に関して合意まで持っていけるのかが論点となっています。ただ、最近の国際情勢の影響で気候変動対策への優先度が下がっている傾向にある中、2025年のNDC提出が遅れている国が大半となっており、厳しい状況になる可能性もあります。
さらに、ブラジルで行われることもあり自然資本や生物多様性の保全との関連が注目されるでしょう。近年、気候変動対策の推進により自然資本を毀損してしまう事例が多々発生しています。自然資本に配慮しながら、いかに気候変動対策を行うのか。その目玉として注目されるのが「TFFF」(Tropical Forests Forever Facility)です。世界規模で森林保全のために1,250億ドル規模のファンドとしての設計が進み、COP30でのローンチが見込まれています。
COP30を迎えるに当たり、気掛かりな点は各国のNDCの提出状況です。2025年2月末が提出期限でしたが、提出したのは200カ国のうち1割で、10月1日の段階でも3割にとどまっています。日本は期限内に提出し、「2035年度、2040年度において2013年比それぞれ60%、73%削減」という新目標を掲げましたが、専門家から「1.5度目標には不十分」との指摘を受けています。全体的な提出の遅れは、米国のパリ協定離脱に加え、統一的な目標が定まらず各国に落としづらいEUの混乱も原因となっています。11月5日にはEUの削減目標合意がなされたとの報道がありましたが、11月6日から始まったCOP30首脳級会合にぎりぎり間に合わせたという印象です。
こうした国としての緩和政策の遅れは、企業のカーボンニュートラルにとって向かい風となり得ます。カーボンニュートラル実現に向けては現状の省エネ等に加えて、水素・アンモニアの利活用やCCUS(炭素回収・利用・貯留)など不確実性の高い先端技術の導入が求められますが、実用化には多くの課題があり官民連携での取り組みが不可欠であるためです。
以上を踏まえ、COP30の焦点は、COP28で合意されたGSTの結論をNDC・資金・適応に実装していけるかという点になるでしょう。企業にとっては、GSTの勧告(例:化石燃料フェーズアウト、再エネ拡大)とセクター別移行経路が自社の移行計画や調達、開示にも大きな影響を及ぼすことからも関心が高いでしょう。
また資金面では、NCQG(New Collective Quantified Goal)に基づく公的資金がリスクを低減し、民間資金を呼び込む仕組みとして機能します。企業は受益者であり資金供給者でもあるため、対象分野や評価指標を踏まえた案件形成と、リターンとインパクトを測れる枠組みの確認が重要です。
COP30は、こうした国際合意を企業戦略にどう取り込むかを考える節目となるでしょう。
COP30では、国と企業の約束事に実効性を持たせるGSTがどこまでしっかりと議論されるのか。今後の企業の脱炭素戦略を占う上で、注視すべき重要な論点となります。
また、気候資金の流れとしても莫大な資金が政府から民間へ流れていく中、自然資源なども加えた使途の動向についても注目です。特に企業は、資金提供側としてだけでなく、資金を活用する側としても戦略的に関与する必要があります。
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