オーストラリア国民経済計算(2023年9月期):経済は低成長へ

オーストラリア国民経済計算(2023年9月期):経済は低成長へ


オーストラリア準備銀行(RBA)による、経済を低成長に導こうとする試みが功を奏していることは間違いありません。


要点

  • オーストラリアの9月期の経済成長率は、住宅ローン返済、税金、物価の上昇による打撃を受けたため、0.2%、年間では2.1%と穏やかな伸びとなった。
  • 消費の年間成長率は、新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックの影響を受けた2021年3月期以来の低成長となり、貯蓄率は2007年以来の低水準に落ち込んでいる。
  • 設備投資は、主に公共投資にけん引され経済成長を支えた一方、純輸出は、主要貿易相手国からの需要が減退したため経済成長を押し下げた。
  • 主にオーストラリア国内経済に起因するインフレにより、国内物価上昇率は依然として5%を上回る水準を維持している。

チーフエコノミストより


9月期の国民経済計算の結果は、あまり芳しいものではありませんでした。家計は住宅ローン返済の増加、税金負担の増加、インフレの影響を受け、利益は2四半期連続で減少し、世界情勢の悪化が輸出を押し下げました。しかし、国内の物価上昇率は30年ぶりの高水準でした。
 

これらのデータは、RBAの役目が終わったことを示すものではありません。しかし、年間GDP成長率が2.1%、1人当たりGDP成長率がマイナス0.3%であることから、経済を低成長に導こうとするRBAの試みが功を奏していることは間違いありません。
 

労働生産性がやや上昇したため、単位労働コストはわずかに下降しました。インフレ率を目標値に戻すためには、こうした一連の流れを逆転させることが重要だと主張してきたRBAは、この動きを歓迎するでしょう。しかし、RBAが3%以下というインフレ目標の達成を確信できるよう、この動きを維持させる必要があります。
 

インフレは家計を直撃しており、9月期には住宅ローン利子が7.6%増えただけでなく、個人所得税も7.6%増加しました。これらの「自動スタビライザー(景気を安定させる自動装置)」は景気を冷やし、RBAの利上げに合わせて機能しています。しかしそれとは対照的に、政府や公共企業の他の部門は、交通、通信、公共事業への投資を押し上げるなどして、経済の総需要を増やしています。エネルギー価格の上昇の緩和と保育補助金の拡大も、9月期の成長を支えました。
 

ここ数年の堅調な成長要因であった輸出は、9月期には数量ベースで0.7%減少しましたが、これは多くの貿易相手国の景気も減速していることを反映していると思われます。石炭や液化天然ガス(LNG)を含む主要輸出品の価格も当四半期は下落し、鉱業利益の大幅な伸びは収束したように見えます。しかし、鉱業セクターはパンデミック後の大幅な増益を受けて、依然として投資を進めており、民間建設事業増加の一因となっています。

2023年9月期の国民経済計算を10枚のチャートで見る(英語版のみ)


インフレ、金利上昇、税金が国内消費を圧迫

6月期の消費はほぼ横ばい(0.1%)でしたが、9月期は変化がありませんでした。消費全体が減少しなかった唯一の理由は、一時滞在者や観光客数の好調な増加によるものです。1人当たりの消費は0.5%減少しました。

消費の年間成長率は、2022年9月の11.8%から2023年9月には0.4%に低下し、パンデミックの影響を受けた2021年3月期以来の低い成長率となりました。

交通サービス(3.9%増)とホテル・カフェ・レストラン(0.9%増)への支出は、FIFA女子ワールドカップ関連の支出が後押ししました。オーストラリア人による海外旅行(旅行サービス輸入の20%増に反映)や、サプライチェーンの緩和が続く中で住宅の改築、新車の引き渡し(13.0%増)も堅調です。非必需品の支出は全体として前期比0.7%増加しました。

州政府および連邦政府による電力料金の割り戻しや保育補助金制度の拡大により、家計は必要不可欠な支出を削減することができ、当四半期の家計消費は0.5%減少しました。例年より暖かい冬を迎え、電気/ガス料金への支出は、16.9%減少しました。また、消費者は生鮮食品/アルコール飲料の支出を控える傾向にあります。

高インフレによる生活費高騰は家計を圧迫し、住宅ローン返済や納税額も大幅に増加しています。所得税は可処分所得の14.4%と過去最高を記録し、住宅ローン金利は可処分所得の7.9%に上昇しました。

消費者は、増加する出費に対応するため、貯蓄額を減らしました。貯蓄率は6月期の2.8%から1.1%に低下し、2007年12月以来の低水準となりました。

金利上昇の影響が引き続き経済に影響し、人口増加が緩やかになることから、家計消費は引き続き低迷すると予想されます。


供給制約の緩和が建設活動を後押し

9月期の住宅投資は0.2%増と、供給制約が緩和した6月期の0.5%増を下回りました。リノベーションが主な要因となり、7四半期連続の減少を経て、当四半期は1%の増加となりました。しかし、これは新規住宅建設が0.3%減少したことで一部相殺されました。

住宅投資は、特に建設の後期段階において、資材不足とスキル人材不足に関連する継続的な課題に直面しています。6月期の住宅完成件数は四半期ベースで10年来の最低水準となり、住宅建設許可件数は9月までの1年間で18.4%減少しました。しかし、9月期には4.0%回復しました。

住宅価格の上昇(同2.2%増)と堅調な人口増加により、住宅移転費用は9月期に2%増加しました。


鉱業と農業は減益、女子ワールドカップは接客業を後押し

9月期の企業収益は1.5%減少し、6月期の3.7%減少から、さらに悪化しました。結果は業種によってまちまちで、19業種中15業種で増益となりました(総営業余剰および混合所得)。

宿泊・飲食サービス業(10.6%増)と芸術・レクリエーションサービス業(9.7%増)は、女子ワールドカップの恩恵を受け、最も利益を伸ばしました。最大の落ち込みを記録したのは農業と鉱業で、それぞれ7.8%、6.5%減少しました。鉱業利益の減少は、石炭価格とLNG価格の下落によるものですが、鉄鉱石価格の上昇によって一部相殺されました。また主要輸出先の需要が減少したことによる輸出量の減少も一因です。しかし、鉱業利益はパンデミックが始まって以来43%増加しており、 世界経済が減速する中、ある程度の再編統合は避けられませんでした。

建設業界は4カ月連続で増益を記録し、資材やスキル人材不足など、広範な課題との闘いが続いているものの、その状況は緩和されつつあります。


生産性の改善はRBAにとって歓迎すべき兆候

企業が先行き不透明な経済環境に対応するために労働時間を短縮したため、労働時間は0.7%減少しました。

その結果、生産性の向上(労働時間1時間当たりのGDP)が進み、四半期を通じて0.9%改善しました。しかし、年間を通じての生産性上昇率は2.1%低下しており、芳しくない結果となっています。RBAの人件費高騰に対する懸念を払拭するには、より明確な回復の兆しを示すエビデンスが必要です。生産単位当たりの平均労働コストを示す実質単位労働コストは1.2%上昇し、年間では3.9%上昇しました。

経済全体の賃金を測定し、賃金、雇用、雇用の変動を反映する従業員報酬(COE)は9月期に2.6%上昇し、通年では8.4%上昇しました。これは3月期のピーク(10.5%)をやや下回っています。


物価上昇圧力は国外ではなく国内経済に起因する

オーストラリアの交易条件(輸出価格と輸入価格の比率)は、2022年の記録的な高水準から引き続き下降し、9月期には2.6%低下、通年では9%低下しました。交易条件の変化は、輸出価格の下落(1.4%)と輸入価格の上昇(1.2%)を反映しています。LNGと石炭の輸出価格は、在庫水準の上昇と世界的なコモディティ需要見通しの悪化により下落しました。一方、豪ドル安と供給削減による原油価格の上昇によって、当四半期の輸入価格が上昇しました。

当四半期の変動にもかかわらず、交易条件はパンデミック以前の5年間の平均と比較すると依然として高水準であり、RBAのコモディティ価格指数によると、コモディティ価格は9月以降4.5%回復しました。

国際価格は9月期も下落を続け、1年間で2%下落しましたが、国内価格の伸びは5.3%と高水準を維持しています。インフレについては、RBAも認めるように、パンデミック中の多くは国際的要因によるものでしたが、現在では主に国内経済に起因しています。


経済成長の主な原動力は公共部門

公的需要(消費および投資の両面)は、9月期の経済成長に大きく貢献しています。公共部門がなければ、成長率は横ばいだったでしょう。

政府消費は9月期に1.1%増加し、通年では2.6%増加しました。国防費の4.7%増に加え、生活費圧迫に対処するために家計に支払われた州・連邦政府の社会給付がけん引役となりました。

公共投資は前期に8%近く急増した後、9月期には0.7%増加しました。あらゆるレベルの政府公社によるインフラ投資がその要因となっています。公共投資は年間ベースで引き続き増加しており、1年間で12.4%増と、政府が積極的に景気刺激策を講じていた2021年以来の高水準となりました。公共セクターのインフラプロジェクトの性質を考えると、公共セクターの投資は2024年まで高水準が続くと思われます。


鉱業部門がけん引する民間投資

9月期の民間投資は前期と同様に1.2%増加しました。企業投資は鉱業部門の新設工事がけん引し、前期比1.5%増とやや増加し、機械・設備投資の0.5%減を相殺しました。通年の企業投資は、6月期の10%超から当期は7.6%へと減速しました。

投入コストと賃金が上昇し、景気見通しが低迷しているにもかかわらず、民間部門の投資意欲は驚くほど堅調に推移しました。2023~24年の設備投資需要は、前回の2023~24年予想に比べ8.5%高く、昨年度の同時期の予測と比較すると10%以上高くなっており、名目ベースであることから、この伸びの一部は資本財や建設コスト上昇の見通しを反映していると思われます。


鉱業需要低迷で純輸出が成長率を押し下げ

輸出の減少(0.7%減)と輸入の増加(2.1%増)により、純輸出は成長率を0.6ポイント押し下げました。

輸出は主要鉱物輸出の需要低迷により、9月期を通じて1.2%減少しましたが、これは鉱業在庫の積み増しの要因にもなっています。留学生と観光客の回復傾向は続き、サービス輸出は1.9%増加しました。

資本財である自動車と通信機器の輸入は、当四半期を通じて0.5%増加しました。旅行サービスは、オーストラリア人が継続して海外旅行を楽しんでいることから、サービス輸入が8.4%増加した最大の原動力となっています。


サマリー

9月期の国民経済計算データは、RBAの役目が終わったことを示すものではありません。しかし、年間GDP成長率が2.1%であることから、経済を低成長に導こうとするRBAの試みが功を奏していることは間違いありません。


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