米国、「GILTI高税率除外」に係わる財務省最終規則を公表

米財務省は、2020年7月20日、「米国外軽課税無形資産所得(Global Intangible Low-Taxed Income、「GILTI」)合算課税」に適用される「高税率除外」の選択に係わる規則を最終化しました。GILTI合算そのものに係わる規則については、2019年6月14日に最終規則が既に公表されていますが、その際に特定外国子会社(Controlled Foreign Corporation、「CFC」)の所得が高税率で課税されている場合に当該所得をGILTI合算計算から除外する選択を認める新たな規則草案が同時公表されていました。今回の最終規則は、この草案で提案されていた高税率除外規定を最終化したものです。また、GILTI高税率除外規定の最終化に伴い、Subpart F所得合算(従来からのCFC合算)条項に以前から設けられている「Subpart F高税率免除」規定を改定し、GILTI高税率除外規定と整合性のある内容に変更する旨の規則草案が同時公表されています。

GILTIは、CFCの所得を配当の有無に拘わらず、毎期米国株主側で原則合算課税するという新しい概念のクロスボーダー課税で、Foreign Derived Intangible Income(「FDII」)と対で機能し、米国多国籍企業の米国外事業を米国内外のいずれから展開しても、米国での課税関係がほぼ同様となるように設計されているものです。

GILTIは、CFCが米国外で高税率の外国法人税を支払っていても合算課税対象となり、予期せぬ追加課税が米国で生じることがあり得ます。今回の最終規則は米国外で高税率の外国法人税が課せられているCFCの所得をGILTI合算課税の対象となるTested Incomeから除外する選択を認めるものです。方向的には歓迎できる規定ですが、規則最終化にあたって期待されていた「高税率」を定義する基準税率の引き下げや、実効税率計算時のCFCレベルでの高税率所得と低税率所得のブレンディング容認等の緩和策は導入されませんでした。

GILTI合算概要

課税所得制限

GILTI合算は次のステップで計算。

  • 各CFCがCFCレベルで「Tested Income(Loss)」という米国税法ベースの税引後所得を算定。米国株主は保有する全CFCの自己持分相当のTested IncomeとLossを通算し、「Net Tested Income」を算定。
  • プラスのTested Incomeを計上しているCFCが保有する有形償却資産のネット簿価の自己持分相当額を合算し10%を乗じた金額から特定の支払利息を差し引いて「みなし動産リターン(ルーティーン所得)」を算定。Net Tested Incomeからみなし動産リターンを差し引いてGILTI合算額を確定。
  • GILTI合算額の50%に相当するGILTI所得控除を算定。所得控除は課税所得額を上限とする制限あり。
  • GILTIに適切に対応していると認められる外国法人税の80%をGILTIバスケット内で外国税額控除処理。GILTIに適切に対応していると認められる外国法人税は100%グロスアップ(全額をGILTI合算額に足し戻し)。GILTIバスケットの外国税額控除枠を計算する際には米国株主側で生じる費用をGILTIバスケットに配賦・按分する等、通常の外国税額控除計算規定の適用あり。

高税率除外に係わる最終規則

高税率除外選択

  • 18.9%(米国法人税率の90%)超の実効税率で課税されているCFCの所得を当該CFCの支配米国株主の選択によりTested Incomeから除外選択。この選択は、支配米国株主が行い、選択が行われた場合、全ての米国株主に強制適用。

    • CFCの支配米国株主は(複数株主の場合は合算で)CFCの株式議決権50%超を所有する米国株主。
  • 高税率除外選択は米国支配株主の課税年度毎に実施し、一旦選択した後に修正申告で選択を取り消すことも可能。
  • 修正申告による高税率除外選択および選択取り消しは、申告期限延長を加味しない申告書提出期限から24カ月以内に可能。この期限内に米国支配株主以外の全ての米国株主も修正申告が必要となり、全株主による修正申告書の提出が特定の6カ月の期間内に完了する必要がある。
  • 選択を行う場合、CFCグループに属するCFCのTested Unit全てに一貫して適用されなくてはならない。

    • CFCグループとは50%超の価値および議決権で繋がる法人グループに属するCFC群。持分の判定はみなし持分を勘案して行い、各CFC課税年度最終日に決定。
    • 特定のCFCが同時に複数のCFCグループに属することは認められず、原則規定で複数グループのメンバーとなる場合にはタイブレーカー規定を適用して帰属先を決定。
    • どのCFCグループにも属さないCFCに係わる高税率除外選択は、当該CFC単位で行う。
  • 米国支配株主は高税率除外選択および選択解消をCFCの少数米国株主に通知する義務を負う。
     

実効税率とTested Unit

  • 実効税率は「Tested Unit」という検証対象単位毎で算定し、除外選択対象か否かをTested Unit毎に判断。
  • Tested Unitは次の3つで構成される。
  1. CFC
  2. CFCが所有する「パススルー事業体」(米国税法上のパートナーシップもしくは米国税務上支店扱いされる事業体(Disregarded Entity、「DRE」))の持分で、当該事業体が事業を行う国において税務上の居住者となる場合、または当該事業体がCFCの居住国においてCFCとは別の法人とみなされる(従ってCFCの居住国でCFCの所得と合算されない)場合。
  • パートナーシップに関しては、各パートナーが所有する持分が各々別のTested Unitとなる。
  1. CFCの米国外支店で、支店所在地国でPE課税その他の課税対象となる場合、またはCFC所在地国で支店がオフショア活動として非課税もしくは他の何らかの優遇税制の対象となる(従って支店の所在地で事業が課税されない)場合。
  • 同一国内の複数のTested Unitは合算してひとつのTested Unitとして実効税率を判定。ただし非課税支店であるTested Unitは合算対象外。
  • Tested Unitの所得は、原則としてTested Unit単位の会計帳簿に反映される総所得を起点に米国税法基準で計算されるが、米国税務上本支店間取引として無視される支払いについては、その存在を勘案するための特別処理あり。例えばCFCからCFCの居住地国以外の国の支店に対して支払った報酬は、本支店間の支払いとして米国税法上無視されるが、Tested Incomeの計算上は当該支払いを考慮して各Tested Unitの所得を計算する。
  • Tested Unitに属する外国法人税は、外国税額控除のGILTIバスケットに帰属する外国法人税と同じ規定で決定。法人税はTested Unitの現地課税年度の最終日に、源泉税は源泉税の課税対象となる支払いが行われた日に発生したものとして取り扱われる。
     

適用開始日

  • GILTI高税率除外の適用は2020年7月23日以降に開始するCFC課税年度から。ただし、納税者の選択で2018年1月1日以降に開始するCFC課税年度に早期適用可能。