多角的視点で見えてきたNFTのルール形成と市場成長を動かす力 ~政策・法律・プレーヤー・会計・監査の観点から検証~

多角的視点で見えてきたNFTのルール形成と市場成長を動かす力 ~政策・法律・プレーヤー・会計・監査の観点から検証~


注目されている「NFT」のルール形成と市場成長を動かす力を、政策・法律・プレーヤー・会計・監査という多角的視点から検証しました。


要点

  • NFT戦略のロードマップを自民党が公表。
  • NFTブーム到来も、出せば売れる時代は終わった。
  • 日本のNFTコンテンツがグローバル水準で評価されることが重要である。

「NFT」というキーワードが注目を集めています。NFTとは「Non-Fungible Token」を短縮したものであり、「代替不可能なトークン」という意味を持ちます。ブロックチェーン技術を活用した仕組みで、発行される個々のトークンは唯一無二のものである特性を持つため、デジタルゲームのアイテムの利用権利やアートの保有権利などを証明するために利用され始めています。

NFTの利用を促進しつつ、市場形成を進めて活性化を図るには、NFTへの理解を深めるとともに、NFT市場を把握し、法体系を整えていく必要があります。そこでEY Japanは、フィンテックに関する国際シンポジウム「FIN/SUM 2022」(フィンサム2022)にスポンサーとして参画し、会期中の3月30日に「NFTのルール形成と市場成長 powered by EY Japan」と題したワークショップを実施。NFT市場の活性化に向けたエコシステム構築に向けた現状の動向と課題について、市場のプレーヤーのみならず、法律や会計・監査といった多角的な視点を取り入れ、パネルディスカッションにおいてひもとくことを試みました。

写真1 FIN/SUM 2022で行ったワークショップで平 将明衆議院議員が講演

FIN/SUM 2022で行ったワークショップで平 将明衆議院議員が講演


冒頭では、自由民主党 のNFT政策検討プロジェクトチームで座長を務める平 将明衆議院議員が講演。2022年1月に同党のNFT政策検討PT座長を任されたという平議員は、「今日はちょうどいいタイミング」と語りつつ、ワークショップ当日に発表した「NFTホワイトペーパー (案)web3.0時代を見据えた日本のNFT戦略」を軸にロードマップを示しました。

「私のイメージとしては、『新しい資本主義』の柱にWeb 3.0を据えるのが1番分かりやすいので、まずはWeb 3.0の担当大臣を置き、内閣府に事務局を設置してチームで活動するのが大事だろうと思います」と発言しました。

そして、日本の税制や規制によって有望な人材が海外流出する問題があると指摘。これについて平議員は、「昨夏、アジアのあるセッションで、自社発行のトークンに対する期末の時価評価への課税に関して、トークンが現金化されていないにも関わらず課税されるのは大きな問題だと指摘し、その結果として、暗号資産の優れた人材の中で先輩から後輩に受け継がれているのは、『日本で起業だけはしてはいけない』ということになっている」と危機感を示しました。

その他には、NFT の暗号資産、暗号資産交換業、あるいは賭博との該当性に属するグレーゾーンの解消、個人所有の暗号資産の税率問題、G7などの世界的な枠組みを使いながらマネーロンダリングやテロ資金に利用されない仕組みづくりにも触れました。

さらに平議員は、地方創生やクールジャパン関連を担当してきたことから、「NFTは地方創生に役立つと思いますので、DAO(自律分散型組織)特区のようなものや、世界からデジタルブロックチェーン関連の人材を呼び込めるようクリプト・ビザのようなもの」の創造を検討していると述べました。

以上のような提言を網羅的にまとめたのがホワイトペーパーであり、「これは現時点で自民党の意見ではありませんが、政府与党のNFTに対する考え方や問題解決の方向性などを示せる内容になっていると思う」と締めくくりました。

写真2 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社顧問の椎名 茂氏

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社顧問の椎名 茂氏


続いて行われたパネルディスカッションでは、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の顧問を務める椎名 茂氏がNFT概論について説明。「NFTブームが来たことは皆さんもご存じだと思います」という言葉を皮切りに、小学生が描いた絵が160万円で売買された例などを挙げ、NFTの実例を紹介しました。

「現在はアートやゲームのアイテムがはやっているNFTは、唯一無二のデジタルデータといわれています。例えば同じTシャツでも、どこかにサインが入っていれば1点物になるというのがNFTの大まかなイメージです。また、物によっては誰でも閲覧できたり、個別の売買による二次流通も可能ながら、知的財産権や著作権は作者にあるので商用利用はできないと明記しているのが、NFTを発行する人々の感覚です」と述べ、さまざまな実例の中で椎名氏は、20年後に開けるウイスキーNFTや、作者非公開のアートNFTについて言及しました。

「ウイスキーの場合は、熟成期間によって価値が上がっていくことを楽しみます。70名のアーティストが参加する同じポーズの作者非公開アートNFTは、発行されるトークンによる命名権取得や、作者を推察するコミュニティの発生など、さまざまな仕掛けが施されています」。また、こうした企画性に富んだNFTの登場理由について、「もはや出せば売れる時代ではなくなりました」と述べました。

「NFTには、価値の暴落や作品自体の消滅、偽物の流出、法律の未整備などが招くリスクもあるものの、プロジェクト型などの工夫を凝らし、コミュニティ経済圏などをつくっていくことで、さらにいろんな使い方が模索されていくだろう」と発言しました。

写真3 株式会社Gincoの代表取締役社長、森川 夢佑斗氏

株式会社Gincoの代表取締役社長、森川 夢佑斗氏


株式会社Gincoの代表取締役社長、森川 夢佑斗氏は、同社のNFTビジネスの事例を紹介。新しい取り組みとしたのは、サブスクやストリーミングの元の音源である CDやレコードを再評価するNFTとし、この音楽 NFT を保有する人だけがコミュニティに参加できる会員権的な要素を持たせたり、音源をサブスクリプション的に利用した場合の収益の一部を還元できる仕掛けを盛り込んだプロジェクトと説明しました。これは、先に椎名氏が推した画期的な工夫を施したNFTに属するものと言えるでしょう。

これに続き、椎名氏と森川氏のほか、法律の観点から創・佐藤法律事務所の斎藤 創弁護士が加わったパネルディスカッションを実施。EY Japanのフィンテックリーダー/ブロックチェーン・コンサルティング・ビジネスリーダーの荻生 泰之がモデレーターとして話を伺いました。


写真5 左から、荻生泰之、森川氏、創・佐藤法律事務所の斎藤 創弁護士、椎名氏

左から、荻生 泰之、森川氏、創・佐藤法律事務所の斎藤 創弁護士、椎名氏


荻生:先に椎名さんからNFTのリスクの話が出ましたが、NFT発行の実態についてご教示いただけますか。

椎名氏:偽物の流出に関して、NFTのマーケットプレイスには勝手にアップロードできるところが多いのがその原因でもあります。それを防ぐには、運営側が真贋(しんがん)を判定するキュレーション機能を持ったり、アーティストを限定したり。そのアーティスト自体が本物かどうか追える策を講じていくことが必要になっていくでしょう。買う側にしても、ある程度は自分で判別できる目利きの力が求められると思います。

荻生:NFTによっては賭博性があると問われています。その実態と法的な位置付けについて斉藤先生からお話しいただけますでしょうか。

斎藤氏:海外では、パック販売やリビールという仕組みがよく取られています。パック販売は、例えばブロックチェーンゲーム用のコレクションを楽しむカードを3枚1セット、何が入っているか分からない状態で販売する方法です。リビールも、購入時点では内容が不明で、2週間から1カ月後に中身が分かる仕組みです。それが日本の賭博罪に該当するリスクがあるのではといわれていますが、賭博罪は刑法的に該当性が広く解釈されており、過去の判例を見るとけっこう簡単に賭博になります。また仮に無罪になっても日本では逮捕されると起業家生命が終わってしまいますから、真面目な会社はパック販売やリビールはなかなかできない。ですから賭博にならないというガイドラインなどができれば非常に喜ばしいです。

荻生:NFTには、発行後に価格が上がっていくという特徴もあります。価値が向上した際、発行者にも利益が分配されるデザインをしているNFTもありますが、どの程度導入されているのでしょうか。

椎名氏:そうした仕組みが導入されているケースが多いと思っています。個人間でNFTを売買しても、そのロイヤリティが売った人にもクリエイターにも戻ってくるよう作っているのが割と一般的です。これは、カラオケで歌われるたびJASRACを通じて作曲家に二次流通としての印税が振り込まれるという、カラオケと音楽業界の形態に似ています。

ただしアートの場合は、二次流通時のロイヤリティが追い掛けにくい状況です。海外には追及権がありますが、日本ではその仕組みがないのでロイヤリティは入りません。しかしNFTは、そうした問題を解消できるツールでもあります。NFT 自体がブロックチェーンでできていますから、暗号資産を送るのは簡単にプログラミングできる。そこも取り込んだ形になっているところが多いと思います。

荻生:そもそも、NFT を買うと法的には何の権利が得られるのでしょうか。

斎藤氏:日本の所有権は、原則的に有体物にしか認められていませんから、NFTを買っても所有権はないことになります。NFTの規約にデジタル所有権という表記がなされることがありますが、それも民法上で認められた権利ではありません。

また、著作権や商標権ですが、多くのNFT ではそれらの権利が移るとは書かれていません。また、何億円も払って購入した絵を独占的に鑑賞できる権利があるのかというと、通常のNFTでは画像は誰でもダウンロードできる。そういうことを考えると、NFTを持っていたら何の権利を有するのか。

私自身は法律上の所有権でないにせよ、鑑定書付きでデジタルデータを保有している、排他的にNFT を移したりする権利、という意味でデジタル所有権があるといってもいいと考えておりますが、先に述べたとおり民法上の権利ではないということになります。

荻生:現在のNFTは、OpenSeaという巨大なマーケットプレイスでの取引が多いと聞きます。日本でも10前後のマーケットプレイスが立ち上がってきましたが、森川さんは今後のマーケットプレイスはどうあるべきとお考えですか。

森川氏:グローバルでもっとも利用されているマーケットプレイスがOpenSeaですが、そこに出品されている99パーセントは買われていないともいわれています。椎名さんもおっしゃっていましたが、大きなマーケットプレイスであれ、もはやNFTを出せば売れるという状態ではないと思います。その中で、OpenSeaのようなグローバルなものだけではなくコミュニティに根差したもの、セレクトショップみたいな NFT マーケットプレイスも出てきていますし、近いうちに日本独自の切り口を持ったマーケットプレイスも出てくるのかなと思っています。

NFT の活用で重要になってくるのが、日本のコンテンツがグローバル水準で評価されていくことです。日本だけで通用すると評価も価値の高まりもふたをされかねません。同一のブロックチェーン上で発行されている NFT であれば、異なるマーケットプレイスでも同じ NFT を取り扱うことはできますから、市場の流動性という観点に立つと、その辺はNFT マーケットプレイス側もしっかり整備するべきだと思っております。

荻生:NFT購入後で気になるのは、盗難などのセキュリティ面です。

森川氏:NFTの管理を事業者と個人のどちらが行うかという話になると思いますが、われわれが一般向け暗号資産のウォレットサービスを提供した際には、個々のスマートフォン内の「秘密鍵」により、個人主導で暗号資産を管理していただきました。しかし、「秘密鍵」を紛失してウォレットにアクセスできないというケースも少なからずありました。となると、やはり事業者側で管理した方がいいでしょう。NFTについては現状、暗号資産のようにカストディの規制の話が出ていませんので、事業者側がユーザーのNFTを管理して、従来の ID パスワードのログイン情報をもとにひも付けてあげるということもできます。

ですが、事業者側が多数のNFTを管理するようになると、セキュリティリスクも高まりますから、現時点では事業者と個人による管理についての明確な答えが出ていません。私個人では、今後のWeb3.0の世界観でいくと、まずは個人がしっかり管理できるような状況をつくり、その先で事業者と個人が互いにリスク分散した中間的なソリューションが出てくるべきだと考えております。

荻生:最後に私から。平議員がご提示くださった資料で興味深かったのは、DAO特区や暗号資産関連のクリプト・ビザ発行です。それらが技術ベースで実現していけば、さまざまな法律を緩和させていき、日本は世界に画期的な価値をもたらす可能性があると思いました。ソフト面の整備が進むことによって、NFT に限らずブロックチェーンやDAO、Web 3.0の環境もこの日本でしっかりと整っていくのではないでしょうか。私が所属している日本ブロックチェーン協会でも、官民の区別を越えた率直な議論を繰り返しています。今後もこの国において、新しい Web 3.0の社会とビジネスをつくり上げることを大きな期待として、このパネルディスカッションを終わります。


NFTのルール形成と市場成長

サマリー

約1時間に及んだ今回のワークショップでは、政策面やビジネス現場の最新情報から、日本におけるNFTの現状や課題、そして今後に向けた期待が明らかになりました。EY Japan はこのような機会を通じ、NFTに関する政府への政策提言とともに、企業におけるNFT関連ビジネスの戦略策定および実行支援をさらに後押ししていきます。


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