第2回 品質コンプライアンス違反に対する再発防止策や改善活動の実効性を確保するための取り組み

シリーズ:品質コンプライアンス対応

第2回 品質コンプライアンス違反に対する再発防止策や改善活動の実効性を確保するための取り組み


企業のインテグリティ(誠実性)経営が求められる一方で、品質不正やデータ偽装をはじめとする非財務に関する不正・不適切行為の発生が後を絶ちません。社会的にも品質コンプライアンスに対する動きが加速化している中で、企業が今できることは何でしょうか?


要点

  • 品質コンプライアンス違反が発覚した場合、本件および類似案件調査の結果を待たずして、再発防止策の策定・実行し、調査で判明した事実などを踏まえて軌道修正を図る進め方が有効かつ効果的
  • 原因分析や再発防止策の策定においては、他社の原因分析や再発防止策を参考とするアプローチや、これまでの会社経営の歴史を振り返り問題がどこにあったのかを考えるアプローチが有用
  • 実効性のある再発防止策を策定するには、真因に対して適切にアプローチすることに加え、「コスト対効果」、「実現可能性」、「整合性」、「理解容易性」といった観点が重要


1. はじめに

企業のインテグリティ(誠実性)経営が社会的に求められる今日においても、残念ながら不正・不祥事の発生が後を絶ちません。とりわけ、品質不正やデータ偽装といった品質コンプライアンス違反という類型の不正・不適切行為の発生に関する報道を目にする機会が増加傾向にあり、企業にとって財務と非財務の両面から不正・不祥事リスクへの対応の見直しが急務となっています。

今回は、実効性のある再発防止策や改善策の策定・実行とそれらの検証・見直しをトピックに、ポイントを解説していきます。


2. 品質コンプライアンス違反に対する再発防止や改善活動の進め方

不正・不祥事が発生した企業では、本件および類似案件調査の結果に基づき、原因分析を行うとともに再発防止策を策定・実行する必要があります。また、事態の収束や信頼回復に向けた取り組みが一段落した後も、再発防止策の実効性の評価(検証・見直し)や運用状況のモニタリング、必要に応じた方向性の見直しといった中長期的なサイクルを回していくことで、コンプライアンスの浸透・定着に向けた改善活動を推進することが重要です。

会計不正など多くの不正・不祥事の場合、本件および類似案件調査が完了後、再発防止策を策定・実行するのが一般的です。これに対して、品質コンプライアンス違反の場合は、顧客をはじめとするさまざまなステークホルダーへの対応を見据え、調査と並行して可及的速やかに再発防止策を策定・実行しつつ、調査結果(原因分析や再発防止の提言などを含む)を随時反映していく進め方となる点に違いがあります。

品質コンプライアンス違反に対する再発防止や改善活動の進め方

このように調査と再発防止を同時並行で進めていくにあたり、企業が直面することが多い課題としては、以下のような点が挙げられます。

【会社が直面する課題(例)】

  • 調査委員会による調査は本件調査が中心のため、会社が独自に類似案件調査を実施する必要がある
  • 会社としては、調査委員会による本件調査の結果を待たずして、再発防止策の策定・実行を開始する必要がある
  • 再発防止策について、本件調査や類似案件調査の結果を反映し、随時軌道修正を図る必要がある
  • 定期的に再発防止策の検証を行い、内容の見直しや定着状況のモニタリングを実施していくことで、継続的な改善を図る必要がある など

3. 再発防止策や改善活動の方針を検討する際の視点

品質コンプライアンス違反は、会社や部署で慣習的・集団的に行われている場合が多く、「カビ型」や「不作為型」とも言われる不正・不適切行為の類型に該当し、発見が容易でなく、ビジネスに大きな影響を及ぼす可能性が高いことが特徴として挙げられます。また、品質コンプライアンス違反は、数十年といった長期にわたり継続されている場合が多く、根本原因を究明し、真因に対して適切にアプローチすることが肝要です。

 

前述を踏まえると、再発防止策や改善活動の実効性を確保する上では、原因分析が1つ目の鍵であると言えるでしょう。一方で、長期であるが故に「関与した役職員が全員退職済みである」ことや「当該拠点は既に閉鎖されている」などを理由に、個人的な背景要因を分析することが困難なケースが見受けられます。このような場合に限らず、再発防止策を策定するための原因分析として、例えば以下のようなものが参考になると考えられます。


① 他社の原因分析や再発防止策を参考とするアプローチ

品質コンプライアンス違反が発生した他社の原因分析は、自社の課題を特定していく上で参考になります。同様の状況が発生していたか、発生する可能性があるか、といった視点で原因分析を参考とし、それに対応する再発防止策を踏まえて自社に適合するようにカスタマイズすることが一案として挙げられます。


② これまでの会社経営の歴史を振り返り、問題がどこにあったのかを考えるアプローチ

品質コンプライアンス違反が発生した企業のうち、調査報告書に加えて自社として別途行った原因分析や再発防止策を公表しているケースがあります。経営体質としてどのような点に問題があったか、これから同様の状況を発生させないために何ができるのかをこれまでの会社経営の歴史をひもときながら振り返ることは、再発防止策や改善活動を策定・実行し、会社が実現したい品質経営の姿を示していく上で、必要なプロセスであると考えられます。


4. 再発防止策や改善活動の具体化にあたり実効性を確保するための観点

前述のような視点(アプローチ)により、再発防止策や改善活動の方針を定めた後、具体策の検討を進めていくこととなります。実務においては、会社としてやりたいことやアイデアがたくさん出てくることが想定されるため、何らかの形で絞り込みや優先順位付けを行う必要があります。その際、実効性を確保するということに主眼を置く場合、例えば以下の観点で検討することが一案ではないでしょうか。その上で、中長期的な改善のロードマップを作成し、再発防止策の実行を確実にするための定期的な進捗管理を徹底することもそれらを成功に導く鍵と言えます。

観点

説明

コスト対効果

再発防止策を実行するために必要なコストに対して、見合った成果が得られるかどうか

実現可能性

再発防止策の確実な実行において、実現性があるかどうか

整合性

再発防止策として定めた個別施策の間で矛盾がないかどうか、既存の取り組みとバランスをとることができるかどうか

理解容易性

再発防止策が現場目線でわかりやすく、納得できる内容であるかどうか

上記は、再発防止策の検証・見直しにおいても有用な観点と考えられます。再発防止策を推進していく上で新たな課題が認識される場合も少なくないことから、定期的に実効性を検証し、必要な軌道修正(見直し)を図ることも真の意味で再発防止を成し遂げる上では必要なプロセスであることも忘れてはなりません。


5. 次回予告

品質コンプライアンス違反が発覚した企業については、品質コンプライアンス意識、企業文化、企業風土の問題が指摘されています。一方で、これらを具体的な施策に落とし込むことに苦慮している企業が多いのが実情です。第3回では、「企業文化の測定と改善活動」に焦点を当てて、実務における対応のポイントを紹介する予定です。


EY Forensicsは、品質不正やデータ偽装の調査および危機管理対応、再発防止、予防に向けた平時のコンサルティングサービスなど、幅広く多様な実務経験を有しています。企業の品質マネジメントと不正・コンプライアンスリスクマネジメントを整合させるため、企業の実情に応じて最適なサポートを柔軟に提供します。



【共同執筆者】

田嶋 司
EY Japan Forensic & Integrity Services シニア

※所属・役職は記事公開当時のものです。


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サマリー 

品質コンプライアンス違反の再発防止においては、他社事例なども参考にしながら、自社に合った独自の施策を策定・実行する必要があります。実効性を確保するためには真因へのアプローチに加え、「コスト対効果」、「実現可能性」、「整合性」、「理解容易性」といった観点が重要と考えられます。


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