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南アフリカにおける黒人経済強化政策(B-BBEE)の概要について

2017年9月29日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2017年10月号 JBS

ヨハネスブルク駐在員 米国公認会計士 民野元哉

2006年に当法人に入所。会計監査業務を経て、政府開発援助のプロジェクトにてアフリカ諸国でのコンサルティング業務の経験を有する。17年1月よりEY南アフリカ、ヨハネスブルグ事務所に駐在し、サブサハラ地域における日系企業および公的機関の会計、税務をはじめ、各種制度、市場調査といったアドバイザリー業務など幅広くサービスを提供している。

Ⅰ  はじめに

南アフリカ共和国(以下、南ア)における独自の黒人経済力強化政策(Broad-Based Black Economic Empowerment:B-BBEE)とは、アパルトヘイト終息後に、南アが経済成長実現への戦略を推し進める上で、最も克服しなければならないポイントである、黒人の南ア経済活動への参画に対する権利と機会の不公平を解消し、地位回復を目的とする政策の一つです。

Ⅱ   B-BBEEの概要

B-BBEEの根拠となる主な法令は、Broad-BasedBlack Economic Empowerment Act(以下、B-BBEE法)であり、その具体的な実施内容や、導入進捗状況の評価・測定を行うために定められた実務指針に当たる適正実施基準「Codes of Good Practice」が、通商産業大臣の命令により2007年2月に施行され、15年5月から改正版(以下、コード)が施行されました。さらに、鉱業、農業などの産業セクター別にコードが存在し、前記の一般コードに優先して適用されています。本稿は、改正版の一般コードに準拠しています。
コードでは、企業および諸団体のB-BBEE促進への取り組みや貢献度について、「所有権」「経営支配」「技能開発」「企業およびサプライヤーの発展」「社会経済発展」の五つの要素が規定されている「スコアカード」に基づいてスコア化して格付けし、認定水準を決定するとしています。
外資系を含む民間企業のB-BBEEの遵守は強制ではありませんが、政府機関および国有企業の公共調達の入札参加や、国からの許認可(例えば採鉱許可)の取得・更新などには、スコアカードの獲得点数により付与される後述の格付けレベルの取得が要件となっています。そして、スコアの高得点化には高レベル企業との取引や、コード上で規定されている認定サプライヤーからの調達といった事項が規定されており、外資系企業といえども、高レベルの取得のためのサプライ・チェーン全体での遵守が求められているのが現状です。

1. 黒人の定義

B-BBEE法では、黒人が重要な要素となりますが、南アの黒人とは、南アにて出生または南ア人の子孫である黒人、カラード、インド人と定義されています。中国系南ア人は08年に黒人と認定されました。なお、日本人はアパルトヘイト時代からの外交関係上、当時より白人とおおむね同様の権利、特権を付与されており、現在の黒人という定義には該当しません。

2. 適用区分

コードでは、企業の売上規模に応じて、以下の通りに適用が区分されています

(1) 中堅・大企業(Large Enterprise)

年間売上高が5,000万ランド以上の企業では、前述の五つ全ての要素について、遵守が求められ評価されると規定されています。

(2) 小企業(Qualifying Small Enterprise:QSE)

年間売上高が1,000万ランド以上、5,000万ランド未満の企業では、(1)と同様に、全ての要素について遵守が求められています。企業の黒人所有比率(議決権および経済的利益の持ち分)が51%以上の場合はB-BBEE格付けレベル2、100%であればレベル1と見なされます(後述4.参照)。

(3) 適用除外零細企業(Exempted Micro-Enterprise:EME)

年間売上高が1,000万ランド未満の企業では、遵守すべき要素の規定はされていません。EMEと認定されると自動的にレベル4と見なされ、黒人所有比率のレベルの規定はQSEと同様です。

3. B-BBEEスコアカード

コードにおけるスコアカードは五つの要素から成り、各要素にスコアが配点されています。全ての要素はおのおのサブ指標で構成されており、<表1>の通り各要素に配点されています(括弧内の点数はボーナスポイント。小企業対象スコアカードは別途規定)。

表1 スコアカードの概要

スコアカードには、前記の要素のうち、「所有権」「技能開発」「企業およびサプライヤーの発展」の3要素が優先要素(Priority Elements)と規定され、詳細な遵守規定は異なりますが、最高点の40%に満たない場合はレベルが一つ下げられます。

4. B-BBEE格付けレベルおよび認定水準

前記の配点基準に沿った合計点により、以下のB-BBEE格付けレベルとなります(<表2>参照)。

表2 B-BBEE格付けレベルおよび認定水準表

5. その他のポイント

外資系企業対象の例外的優遇措置の一つとして、一定の条件の下、黒人労働者に対する技術訓練の取り組みが所有権要素の代替と見なされる、資本同等プログラム(Equity Equivalent Program)制度があります。しかし、現状は、申請の複雑さ、認可の不透明さおよび高コストにより普及はしていません。
また、企業のコードへの遵守が見せかけの行為、隠れみの行為(Fronting Practice)であると認定された場合の処罰についても規定されています。

Ⅲ おわりに

B-BBEEは、経営・管理・財務面で企業にとって大きな負担や障壁となっているのも事実です。例えば、所有権のサブ指標の一つには、企業の議決権や経済的利益の持ち分の25%超を黒人所有とする項目があり、信頼できるB-BBEEパートナーの選定や、黒人持ち株会社の設立といった施策で対応している企業もありますが、事業の縮小を余儀なくされている企業も存在します。
このような事業環境でも、近年の南アへの海外直接投資が大きく減少することはなく、日系企業のアフリカ進出のハブ的存在と称されているのは、他のアフリカ諸国と比較して、抜群に整備されたインフラや金融システムが大きな要因と言えるのではないでしょうか。
現在、南アは折からの資源安や政治問題などで成長回復への課題が山積しています。今後、B-BBEEが南ア民主化の理念に基づいた運用が継続され、アフリカ諸国のモデルケースを目指してほしいと願います。

※South Africa Government Gazzete Staatskoerant Vol.580 No.36928およびVol.599 No.38766

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