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サステナビリティの観点からの税務ガバナンス・税情報の開示

2021年6月1日 PDF
カテゴリー Tax update

情報センサー2021年6月号 Tax update

EY税理士法人 大堀秀樹

EY税理士法人にて、経済のデジタル化に応じたグローバル課税ベースでの税務戦略アドバイスを担当している。日系企業グローバル税務ポジション、税務ガバナンスおよび税情報の開示状況について、分析を提供している。

Ⅰ はじめに

新型コロナウイルス感染の継続、カーボンニュートラル、ならびにデジタルな技術革新による社会の大変革の中で、企業は持続的な成長戦略の策定及び地球社会のSDGs※1への貢献が求められています。企業の税務についても、持続的な成長戦略の一環と地域貢献の観点から税に関する取り組みに関する要求が高まっています。

本稿では、サステナビリティの観点からの税務ガバナンスと税情報の開示について、解説します。

Ⅱ 企業の税に関する開示の経緯

従来、企業の税務は主に二つの指標で評価されていました。

第一は、税務申告を適正に行い税務調査に応じる税務コンプライアンスの遵守であり、追徴による税務リスクを防止することが挙げられます。従来の日本企業では税務コンプライアンスと税務リスクの軽減が最優先として位置付けられ、税務当局の求めに応じて適切な情報提供がなされていました。

第二は、税務プランニングによる実効税率の削減です。企業にとって税金は最大の費用であることから、その削減を図ることは、純資産とキャッシュ・フローの最大化を通じて企業価値の向上と株主へのリターンにつながります。企業は、財務情報としての税額や実効税率を開示しています。

一方、企業の事業活動において、グローバルなモビリティの高まりや経済のデジタル化に伴い、企業の過度な税務プランニングが顕著となり、一般社会からの批判が高まりました。このような税源浸食及び利益移転(BEPS)に対抗するため、経済協力開発機構(OECD)は、2015年10月に15のBEPS行動を発表し、各国の税制に導入すると共に、BEPS防止措置実施条約を締結しました。さらに、企業が自らを律する税務ガバナンスと税情報の透明性に関する一般社会からの要請が高まりました。これには税法や財務開示とは異なり義務は伴いませんが、VodafoneやDanoneなど欧州のグローバル企業は、税務に関する基本ポリシーやガバナンス体制を積極的に開示し、税に関して取り組んでいる企業として評価を高めました。

日本企業における税務に関する開示は当初限定的でしたが、次に述べるESG格付における税に関する評価項目の導入や英国拠点における英国税務戦略の開示義務等により、日本企業においても税に関する取り組みを開示する企業が増加しました。21年2月時点におけるEYの調査によりますと145社が税に関する開示をしています。

税に関する開示要請とは並行して、企業の環境Environment、社会Social、ガバナンスGovernance(以下、ESG)について格付(以下、ESG格付)を取得し、一定のESG格付を得た企業を投資適格とする社会的責任投資(SRI)の運用スタイルが定着しています。社会的責任投資では、投資対象企業がESG格付を維持できないと投資ポートフォリオから外されるため、ESG格付について意識されている企業も増えています。近年、ESG格付において、税務ガバナンス及び税情報の開示に関する項目がガバナンスの評価に加わりました。日本企業においても、IR部門からの要請により、税務ガバナンス及び税情報の開示に取り組む企業数が増加しています。

Ⅲ 最新のグローバル動向

21年に入り、新型コロナウイルスの継続的な感染拡大、カーボンニュートラルなど気候変動への対応、ならびにデジタルな技術革新によるニューノーマルな社会において、企業はさらなる取り組みを求められています。

EYのGlobal Vice Chair-Taxを務めるKate Bartonは、World Economic Forumのダボス会議において『サステナビリティと長期的価値は2021年において最も意識するビジネス上の課題となっています。』と述べています※2

さらにKate Bartonは、『税務、税の透明性と税に関するレポーティングは、サステナビリティの重要な部分を構成しています。企業が、税に関する情報を透明化することにより、ステークホールダー、特に公共サービス及び行政の施策の財源となる税収入に企業がどれだけ貢献をしているかについて関心を強めている消費者との間で信頼関係を構築できます。』と述べています※2

企業を取り巻く社会関係の大変革に伴い、日本企業はサステナビリティの観点からも、よりいっそうの税に関する情報開示を求められるようになっています。

Ⅳ サステナビリティの観点からの税に関する開示項目

企業は、サステナビリティの観点からどのような税に関する開示を期待されているのでしょうか。企業の財務情報の開示とは異なり、サステナビリティなど非財務情報に関する開示範囲の定めはありません。各国の法規制を超えて企業自らが取り組む、まさにガバナンスが求められています。

EYによる日本及び欧州のグローバル企業における税に関する情報開示に関する比較分析では、次のような項目が挙げられています。

  • 税務ポリシー
  • 税務リスク
  • 税務ガバナンス及びマネジメント体制
  • 国際的な役務に関するフレームワークへの取り組み
  • 対税務当局
  • ステークホールダー
  • 税情報の開示

その一方で、企業側からは、サステナビリティの観点からの税務ガバナンス及び税情報の開示についての規範が待望されていました。

日本企業を含む多くのグローバル企業は、Global Sustainability Standard Board(GSSB)が作成したGRIサステナビリティ・レポーティング・スタンダード※3(以下、GRIスタンダード)を参照してサステナビリティ報告書を作成しています。GRIスタンダードにおいて求められている報告項目について、どのように開示がなされているのか、GRIスタンダードとの対照表を示すのが一般的となっています。

GSSBは、GRIスタンダードの経済に関する項目別スタンダードとして、GRI207:税金※4を発行しています。GRI207:税金は本年1月1日から発効しており、日本企業においてもGRI207との参照関係が一覧表に示されています。

GRI207においては、税に関する取り組み、税務ガバナンスやリスク管理、税務当局との関係などに加えて、国別報告(以下、CbCR)の開示も要求されています。OECDのCbCRは税務当局に対する報告と税務当局の守秘義務を定めており、EU加盟国においても金融機関の義務を除き、CbCRの開示に関する指令案は合意を得ていません。サステナビリティの観点からは、企業自らの判断によりCbCRなどの税情報の開示を実施することが求められていますが、GRIスタンダードを参照している日本企業においても、実際にCbCRを開示している例はいまだありません。

Ⅴ おわりに

企業を取り巻くニューノーマルな環境下においては、サステナビリティの観点から税に関するより多くの開示と説明責任が求められるようになってきています。そして情報開示の根底には、税務ガバナンスの構築及び運用と企業の持続的成長を図ることが求められていることは言うまでもありません。

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