日本企業がSPACについて知っておくべきポイント

日本企業がSPACについて知っておくべきポイント

2021年10月1日 PDF
カテゴリー FAAS

情報センサー2021年10月号 FAAS

EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 公認会計士 塩﨑智也

財務会計アドバイザーとして、フォームF-4やフォーム20-FといったSEC登録書類作成支援を担当するとともに、登録書類作成のためのGAAPコンバージョン支援を担当。その他、組織再編に関して、プロジェクトマネジメントから会計論点まで幅広い領域で支援に従事した経験を有する。当法人 パートナー。

 

EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 米国公認会計士 山本聡一郎

財務会計アドバイザーとして、各種SEC登録書類作成やUSGAAPコンバージョン支援を担当。その他、海外企業とのM&Aに関する会計論点検討や財務報告プロセス構築などの支援に従事した経験を有する。当法人 アソシエイトパートナー。

Ⅰ はじめに

ここ1年で経済記事やニュースにおいてSPACという言葉をよく目にするようになりました。SPACとはSpecial Purpose Acquisition Companyの略であり、自身では事業を営まず、主に未公開企業や他社の事業を買収することを目的とした会社です。

2020年より、米国においてこのSPACを用いた新規上場(IPO)件数が急増しており、21年では日系の証券会社がスポンサーの一員となるSPACや、日系大手企業が設立したSPACが米国において上場しています。また、日本企業の子会社がSPACに買収される予定の公表など、SPACの米国上場や買収といった各ステージに関連する日本企業も増加しています。

本誌21年7月号「急成長する米国SPAC市場」では米国のSPAC市場について紹介しましたが、本稿では、日本企業の目線でSPACの留意点を説明します。

Ⅱ SPACのライフサイクル

まず、SPACは当初スポンサーによって設立され、米国証券取引委員会(SEC)にIPOの登録届出書(フォームS-1(米国籍SPACの場合))を提出してIPOを実施します。

そして、SPACがIPOを実現し合併対象となる事業会社が選定されると、両社は合併の基本合意(仮契約、LOI)を締結して合併の本契約に向けて詳細を交渉します。それと同時に買収・統合の登録届出書(フォームS-4(米国籍SPACの場合))に必要な財務諸表を作成して監査を受ける準備を進めます。

その後、フォームS-4を作成し監査済み財務諸表とともに提出するとSECによる審査が行われます。SECの審査が終了しフォームS-4が有効となると、SPAC株主による承認を経てSPACと買収対象事業会社は正式な合併手続を実行します。(<図1>参照)

図1 SPACのライフサイクル

Ⅲ 日本企業にとっての留意事項

1. SPACによる買収対象事業会社の選定

SPACはIPOから18~24カ月以内に事業会社との合併を実現する必要があり、この期間内に合併を実現できない場合はIPOで調達した資金を株主に返還し、SPACは清算されます。一般的に、SPACが設立されてIPOする段階では、合併する事業会社の業種を検討している場合もあるとはいえ、広く有望な事業会社から合併対象を選定します。

SPACとの合併を考える日本企業としては、自社の将来性を認識してくれるSPACを素早く見つけることが必要となります。

2. 財務諸表の会計基準

フォームS-4に必要な財務諸表を作成するために、日本の事業会社の場合はそれまで日本基準で作成されていた財務諸表を原則的にはUSGAAPに変換する必要があります。当該財務諸表はSECルールに準拠するために詳細な開示が求められる上、過去数年分の財務諸表をUSGAAPに変換する必要があり、日本企業にとっては多くの時間がかかります。

3. IFRSの適用

上記のように、フォームS-4に用いられる財務諸表の会計基準は原則的にUSGAAPとなりますが、日本の事業会社がSPACとの合併を行う場合、一定の状況が揃えばIFRSを採用できるケースもあります。

当該ケースはSPACがSECの定義する外国登録企業(FPI)に該当するといった限られたものであるため、SECへの問い合わせなどを含めた事前調査をした上で、どのSPACを対象とするかを検討する必要があります。

また、財務諸表のIFRSへの変換はUSGAAPと同様に日本企業にとっては多くの時間がかかります。

4. 財務諸表監査

フォームS-4に含まれる財務諸表は会計監査を受ける必要があり、その監査は米
国公開会社会計監視委員会(PCAOB)基準の厳しい監査となります。このため、日本企業にとってはPCAOB基準の監査に準備・対応できる社内体制の構築が求められ、相当の時間と労力を要することから、高いハードルとなります。

5. 財務諸表の開示対象年度

SPACが新興成長企業(EGC)の要件(直近年度の売上が10.7億ドル未満であり、かつ過去3年間に10億ドルを超える非転換社債を発行していないなど)を満たしており、年次報告書(フォーム10-K)を過去に提出しておらず、合併対象の事業会社もEGCの要件を満たす場合、フォームS-4に含まれる財務諸表は3年分ではなく2年分のみの開示となります。

また、SPACがすでにフォーム10-Kを提出していても、事業会社が小規模報告会社(SRC)の要件(直近年度の売上が1億ドル未満など)を満たしている場合、2年分の財務諸表の開示となります。日本のスタートアップ企業などはEGCやSRCの要件を満たす可能性が高く、留意が必要です。

6. 財務諸表の開示対象時点

非早期提出企業の場合、フォームS-4に含まれる財務諸表は、フォームS-4提出日から134日以内の日付のものでなければなりません。この例外として、第3四半期の財務諸表の場合は年度末日から45日以内であれば有効とみなされます。

例えば3月末が期末日の場合、21年3月期(とその比較年度)の財務諸表でフォームS-4を提出できる期限は8月12日までとなり、それを過ぎて提出する場合は期中財務諸表の開示も併せて必要となります。

7. 合併完了後の対応

SPACと買収対象事業会社が合併すると、その日から4営業日以内に臨時報告書(Super 8-K)を提出し、合併の事実などを公表する必要があります。通常の合併において認められる提出期限の延長は、SPACとの合併の場合は認められません。

合併後、日本の事業会社が上場企業(存続企業)となると、定期的にSECに財務報告を行う必要があり、EGCに該当しない場合はUS-SOXへの対応も必要となります。なお、EGCの要件を満たしている期間では、開示の粒度や新会計基準の適用時期の緩和、US-SOXに基づく内部統制監査が不要など、大規模な上場企業に対する要求とは異なる点があります。

Ⅳ おわりに

今後、日本企業によるSPACの設立やSPACによる日本企業の買収は活発になることも考えられます。しかし、SECによるSPACの業績見通しの開示に関する監視を強化するといった声明が発表されています。また、PCAOB基準の監査、US-SOX導入のためのガバナンスおよび内部統制の体制構築などの領域では、買収される事業会社は通常のIPOと同様の対応が求められます。

このように、事業会社の体制構築の視点では省力的に米国上場を可能とするスキームとはいえず、依然として外部アドバイザリーを含めた十分なリソースを確保して臨む必要があるといえます。

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2021年10月号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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