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登壇した山本直人氏は、生成AIの進化における新たなトレンドとして「大規模から小型・分散化への移行」を挙げた。「小規模言語モデル(SLM)へ移行する主なメリットは省電力化だ。従来モデルと比較して電力消費量を71分の1程度まで削減と言われている(出典:The Era of 1-bit LLMs: All Large Language Models are in 1.58 Bits)。従来は、生成AIの実行には巨大なマシンパワーが必要であったが、ここから解放される。今後のSLMの進化により手元で動作可能となれば、重要データの取り扱いや特化分野への適用など、より大きなゲームチェンジが起こってくると考える」(山本氏)。
山本氏は、SLMの小型化と分散化の先に見据える技術として「分散型自律エージェント」を挙げる。言語モデルの小型化(SLM)が進めば、クラウドだけではなく手元での活用が進んでいくと考えられる。つまり、AIが分散配置されるわけだ。分散されたAIの価値をさらに飛躍させるためには、それぞれが連携することが求められる。分散型自律エージェントは分散配置されたAIが、それぞれ自律的に思考し、必要に応じて他のAIと連携して機能する仕組みを指す。例えば、工場の製造装置にAIエージェントが搭載され、不具合が発生したらエンジニアリングチェーン・サプライチェーン上の他のAIエージェントと連携し、生産計画への影響を分析する。また原因特定と復旧手順までを自律的にまとめ上げ、人間と連携するようなオペレーションの実現も現実味を帯びていると言える。
また分散配置されたAIは手元で動作するため外部環境の変化を把握するために、マルチモーダルAI技術と組み合わせることが有効だ。マルチモーダルAIは画像、音声、テキストなどを統合的に処理する能力を持つ。これにより、自律エージェントは人間の行動やコミュニケーションをより深く理解し、適切に対応できるようになる。「特に期待されるのは、マルチモーダル化されたAIエージェントとロボティクスの融合だ」と山本氏は語る。
例えば、家庭内の健康管理システムではセンサーが顔色や体調の変化を感知し、音声対話で状態を確認する。複数の自律エージェントが連携することで、必要に応じて医療機関とも連携し、適切なケアを提供する、といった支援が実現できる。
講演中、この技術の可能性を示す実験として最も聴衆の興味を引いたのが“父と娘のペルソナの会話”だった。この実験はマルチモーダルAIによる人物理解と自律エージェント間の対話を組み合わせた画期的な試みである。その仕組みはこうだ。
まず、父のスマートフォンに記録した娘の動画データをマルチモーダルAIで分析し、「娘ログ」を作成する。同様に父親の特徴や行動パターンを反映した「父ログ」を作成し、両者のペルソナモデルを生成。それぞれのペルソナを持つAIエージェントを用いて対話をシミュレーションし、夏休みの旅行先を決める実験を実施した。その結果、“父”の健康志向と“娘”の関心を自然に反映し、両者の希望を満たす旅行プランを導き出した。人が事前定義したテキストをセットしたペルソナを用いるAIエージェント構築は現在一般化してきているが、ここで用いた手法では、よりパーソナリティが反映されたペルソナモデルが構築されている点がポイントであると山本氏は語る。
これらの研究成果を踏まえ、EYでは分散型自律エージェントの実用化に向けた取り組みを推進している。山本氏は「超省電力型SLMを基盤とした自律エージェントの開発に注力しており、今後は業界特性に応じたソリューションの展開を加速させる」と述べた。
著作・制作 株式会社 日経BP(2025年日経ビジネス電子版 Special)
マルチモーダルAI、自律エージェントなど、生成AIのこれまでの歴史や最新のトレンドを解説。生成AIが社会にもたらす変革を考察し、企業がどのように対応すべきか、生成AIの未来を探ります。
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