EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
メンター制度というのは比較的認知度が高く、Fortune500のメンター制度を調査しているレポートによれば2009年に70%だったメンター制度導入企業は、2021年には84%、そして2024年には98%と上位企業はほぼ導入済みと言っても差し支えない水準にありますので、皆さまもお聞きになったことはあるでしょう。近年、リモートワークなど働き方の多様化、人間関係の希薄化に対する解決策を模索する中で、このメンター制度も形態が多様化しつつあるようで、今回はそのうちのひとつ、Peer Mentoring(ピア・メンタリング、Peer-to-Peer Mentoringとも言う)と呼ばれるものを取り上げます。
従来のメンター制度というのは、経験豊富なメンターが一対一の関係の中で面倒を見られる人(メンティーと呼びます)を世話するというものです。ピア・メンタリングを標榜する企業、記事の中には社員同士ならPeerだろうということで誤用している例もあります(非常に多く見られます)が、基本は経験・知識を一方的に教える前提のGoogle社の制度のようなものは全て伝統的なメンター制度です。
一方のピア・メンタリングは水平方向、対等な関係の社員同士がメンター・メンティーを同時に担う関係を言い、つまり一方的に教えるモデルではなく互いに学び合うモデルのメンター制度です。メンター役・メンティー役のそれぞれに異なる知見・価値基準を前提としている(状況により役割が入れ替わる)ことから、これまでは多様性を重視する文脈で用いられる例が多く、例えばPayPal社の女性活躍支援のメンター制度で、従来型の一対一の仕組みでは賄いきれないほどニーズが高まったことで一対多のグループメンター制に加え、ピア・メンタリングを導入した例などが知られています。
元々ピア・メンタリングというのは学校教育、特に大学において広く用いられてきた手法で、新入生と上級生という多少の上下関係はあるものの、教師やカウンセラーなどの大人ではないフラットな立場からの関係を活用し、お互いに学び合う親友のような関係を構築することを目的としたものです。学術的には伝統的なメンター制度と同等の機能を果たし得るだけでなく、メンター選択肢の多さとアクセスの気軽さの点において伝統的なメンター制度を上回るとも言われています。
2010年後半頃から継続的学習文化の醸成、階層障壁の無い信頼関係や仲間意識、そして貢献意識と帰属意識を通じたエンゲージメント向上などの効果への期待を背景にピア・メンタリングを導入する企業は増加傾向にあったのですが、その後コロナ禍により職場の人間関係が従来と全く異なる(フラット化、バーチャル化)ものとなった中でも気軽につながれ、エンゲージメントを高め、リテンションにも効果があるという点で近年特に注目度が高まりつつあるようです。
なお、リモートワーク・ハイブリッドワークを前提とした就労環境下でピア・メンタリングに加えて社内外ネットワーキング、社内SNSプラットフォーム、定期的なグループディスカッションなど水平的なつながりを活用した取り組みが増えてきていることを総じて、Social Mentoringと呼ぶケースも出始めているようではありますが、Social Mentoringと言うと例えば移民など社会的に新たに加わった人たちを受け入れるソーシャルプログラムを指すこともあるため、こちらは用語としてはいまだ定着していません。
日本では最近、タウンホールが増えているそうです。これも経営陣と従業員の関係希薄化に端を発する取り組みと思われますが、従業員数が増えれば増えるほど、よほど丁寧に設計しない限り聞き流されるリスクも増えるものです。タウンホールの効果が無いとお悩みの場合、ピア・メンタリングでその(階層間の)隙間を埋めていくような取り組みをご検討されてみても良いのかもしれません。
参考文献
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