5 分 2019.02.01
空を飛ぶ鳥の群れ

なぜ今、非財務情報開示への標準的アプローチが必要か

執筆者

Mathew Nelson

EY Global Climate Change and Sustainability Services Leader

Leading a purpose-driven team that shares a common passion for creating positive impact. Workplace diversity and equality advocate. Engineer. Father of two boys. Australian Football League fan.

5 分 2019.02.01

投資家たちは、環境・社会・ガバナンス(ESG)のメトリクスを開示するための世界標準を求めています。それは困難な目標であると同時に達成可能な目標でもあります。

過去10年にわたり、世界の投資家は、より詳細かつ有用な非財務業績情報開示を期待するようになりました。商業と気候変動との間の因果関係、世間の注目を浴びた数多くの貧弱なコーポレートガバナンスの例、そして事業がもたらす社会的影響の再認識をそれぞれ示すエビデンスが増大する中で、投資家は、環境・社会・ガバナンス(ESG)のリスクをさらに注視するようになりました。

ソーシャルメディアもその一翼を担っています。つまり、風評被害の観点から言えば、今日、企業が注目を浴びないようにすることの方がはるかに困難です。すべての企業が説明責任を負っているのです。

投資家のESGに対する意識は、短期的なトレンドというよりはむしろ長期的な推移を示しています。投資家は、ESG問題について開示を求めれば求めるほど、ESGの要因が示す事業のコアなリスクを把握できるようになるのです。

一般に、企業は、投資家が関心のある非財務的課題や、進捗・業績を最も正確に測定するメトリクスの特定においては改善を見せています。とはいえ、今必要とされているのは世界的に認知された非財務情報開示の標準です。

比較不能性

現時点でも既に国際団体によって策定された標準、ガイドライン、枠組みが数多く存在します。例えば、国際統合報告評議会(IIRC);グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI);気候情報開示基準審議会(CDSB);気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)などです。米国を拠点とするサステナビリティ会計基準審議会(SASB)のように有力な国家機関も同様に重要な存在です。また周知の通り、EUの非財務開示指令(Non-Financial Reporting Directive)は大規模な公益企業に対し、持続可能性や多様性に関する年次の非財務情報を含めるよう要求しています。

しかし、非財務情報のあらゆる形態について適切な、世界的に認められた標準というものは、いまだ策定されていません。現時点において、投資家は企業を同一条件下で比較できているとは必ずしもいえません。それは、投資家がESG課題の観点から企業を有意に比較できるような、明確な情報のネットワークが無いからです。企業がさまざまな種類のデータをそれぞれ異なる測定方法で開示した場合には、比較も、トレンドの特定もほとんど不可能です。多くの場合、ガバナンスに関するリスク情報に対する開示状況は、社会や環境に関するリスク情報の開示状況よりも良好です。こうした不均衡状態にも対処していかなければなりません。

企業は、より明確で一貫性のある情報を投資家に提供した場合にインセンティブを与えられるべきであることはいうまでもありません。そのため、非財務情報開示に関する世界的に認知された標準、というのは道理にかなっています。ESG関連のリスクをますます認識するようになった投資家は、ガバナンス状況や環境や社会へのコミットメント状況が不透明な企業よりも、これらの標準を順守する企業をより好意的に見るでしょう。

そのうち、世界的に認知された標準を順守しない企業は、投資家が次第に資産を売り尽くしていくのを目の当たりにするでしょう。また、とりわけこういった企業は資金調達がより困難で高額であることに気が付くのです。これらは、行動させるための強力なインセンティブといえるのではないでしょうか。

「投資家は、投資先のことをよりよく理解できるようになり、また企業はより構造化されたESGの情報開示から利得を得られるのです。

ナッジ理論

しかしながら、多くの企業はいまだ、ESG関連情報を投資家に提供するよう注意喚起しなければ行動に移さないであろうことは明白です。世界的に認知された標準は、投資家の意思決定のためには不可欠です。リスクを理解している会社の方が、そうではない会社よりも将来の経営が良好である、ということも当然のことです。ESGリスクはこの方程式の基礎となる部分であり、ESGリスクに十分に注意を払うことを怠る会社は長い目で見て成功する可能性は低いといえるでしょう。

投資家は、ガバナンスの側面以外に投資の意思決定においてESGの主な要因となるのはサプライチェーン、人権、そして気候変動のリスクに関連していると述べています。ESGは今や投資の意思決定プロセスにおいて不可欠であり、今後もそれは変わらないでしょう。

投資家が純粋に、企業の年次または中間の財務データを見ていた時代は遠い昔に過ぎ去りました。投資家が今、貸借対照表と同様に重きを置いているのは、企業の持続可能性です。公平取引や雇用慣行、気候変動や人口増加による影響のいずれを問わず、投資家はすべてのリスク要因についてより大きな洞察を要求しています。

企業のサステナビリティ報告書にこういった情報はある程度開示されていますが、報告書に何を記載するかは当該企業の裁量に大きく依存します。報告内容は時に大ざっぱであり、その性質上プロモーション目的といえるものすらあります。世界標準は、投資家が購入し、保有し、売却するためにより意味のある理論的根拠を提供する絶対不可欠な枠組みをもたらします。

大局的にみると、より良い社会、つまり地球環境、資源、人類のスチュワードシップが将来的なビジネス機能の中核をなすような世界の構築を目指す上では、全社的に透明性のある比較可能なESG情報開示が重要な役割を果たすといえるでしょう。投資家は、投資先のことをよりよく理解できるようになり、また企業はより構造化されたESGの情報開示から利得を得られるのです。それにより、改善すべき領域が特定され、結果として効率性や生産性が向上するからです。

「難題であることは疑う余地もありません。しかしながら、非財務情報に関する世界標準は、実在論的な命題なのです。

先導者

こういった効果的な情報開示の標準を実現させることを目的として、機関投資家を対象に実施した最近のEYサーベイからは、各国の規制機関(70%)、ならびに国際機関、NGO(60%)がこういった取り組みを先導する立場にあると捉えられていることがわかりました。

しかしながら、現時点においてはすべての関係者が同じ方向を向いているわけではなく、またすべての国家の規制機関が本案件に取り組み、諸条件に同意するとは考えにくいでしょう。それよりも、国家機関(例えばSASB)と国際機関(例えばIIRCやGRI)とのつながりや連携を深めることで、企業が採用でき、有効に機能する何か(標準)を得ることのほうが現実的でしょう。

難題であることは疑う余地もありません。しかしながら、非財務情報に関する世界標準は、実在論的な命題なのです。既に、国際財務報告基準(IFRS)によって先例は作られています;すべての当事者の利益のために策定された基準として世界で広く採用され、認知されています。その上、幅広く採用されるようになるまでに10年足らずと比較的早い段階で普及しました。すべての主要なステークホルダーに有効に機能する強力な基礎を築くことができたのであれば、非財務情報開示の標準についても同様のことが可能なはずです。

EYの「気候変動とサステナビリティサービス(Climate Change and Sustainability Services )」の機関投資家を対象としたサーベイ第4版はここからお読みください。

 

サマリー

現段階では、ESG情報を開示するために世界的に受け入れられている一連の標準は一切ありません。しかしながら、非財務情報開示に関し、世界的に認知された標準を策定するという目的は理にかなっています。ESGに関する強力な標準があれば、投資家は、投資先のことをよりよく理解できるようになり、また企業はより構造化されたESGの情報開示から利得を得られるのです。それにより、改善すべき領域が特定され、結果として効率性や生産性が向上するからです。そのうち、世界的に認知された標準を順守しない企業は、投資家が次第に資産を売り尽くしていくのを目の当たりにするでしょう。また、とりわけこういった企業は資金調達がより困難で高額であることに気が付くのです。 

この記事について

執筆者

Mathew Nelson

EY Global Climate Change and Sustainability Services Leader

Leading a purpose-driven team that shares a common passion for creating positive impact. Workplace diversity and equality advocate. Engineer. Father of two boys. Australian Football League fan.