新たなTMT顧客の行動パターンを予測するために重視すべき3つの法則とは

新たなTMT顧客の行動パターンを予測するために重視すべき3つの法則とは


絶えず続くテクノロジーの進化と消費者行動の変化に対応するためには、豊富なデータに裏付けされた最新の顧客インサイトを活用するべきです。

要点

  • テクノロジー、メディア・エンターテインメント、テレコム(TMT)業界は飽和状態にあり、今や顧客獲得競争が成長の源泉となっている。
  • 新たなテクノロジーを活用することにより、パーソナライズされた顧客体験について広範囲にわたって理解することができる。
  • オペレーションと体験インサイトの強力な組み合わせが、成功をおさめるための新たな戦略の推進力となる。

EY Japanの視点

プロダクトライフサイクルの周期が短くなっていることから、TMT業界に限らず、多くの業界で自社の顧客理解度の向上や顧客群別マーケティング、顧客の離脱防止ならびにブランドの残存価値の活用がこれまで以上に重要となっています。

顧客の行動パターンを予測し、真に顧客が望む要望を正しく把握することが企業競争力を大きく左右します。EYは、業務、マーケティング、デジタルのプロフェッショナルが協業し、自社メディアだけでなく、店舗への来店顧客の声、主要オンラインチャネル、市場調査機関からの収集データや他社も含めた販売・売上情報、主要SNSからのインサイトといった多岐にわたる情報を統合的に収集・分析する仕組みの設計・構築に取り組みます。さらに、各種データを活用した商品・サービス開発チームへのフィードバック、顧客セグメントの策定、さらにはパーソナライズ化による効果的な施策の具現化を支援いたします。


EY Japanの窓口

松本 尚樹
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタルイノベーション AI&データ副リーダー パートナー

新たなTMT顧客の行動パターンを予測するために重視すべき3つの法則とは

テクノロジー、メディア・エンターテインメント、テレコム(TMT)業界では、新規顧客の獲得(カスタマーアクイジション)や顧客維持(カスタマーリテンション)の業務担当者を悩ませる事柄が多々起きています。米国では既に人口の約97%がスマートフォンを所有していることから(Consumer Affairs調べ)1、TMT企業の成長は、スマートフォンユーザーの新規獲得よりもむしろ競合ブランドから乗り換えるユーザーの獲得に移行していることが明白です。メディア業界でも同じようなシェア争いが起きています。サブスクリプション料金の値上げや多くのストリーミングプラットフォームから提供されるプレミアムコンテンツの拡大が、従来は予測可能だった顧客ロイヤルティーに影響を及ぼしています。Antenna2のデータによると、過去2年間に3つ以上のサービスを解約した「シリアルチャーナー(連続解約者)」がストリーミング視聴者の23%に達し、ストリーミングサービス事業者はこれらの予測不能な顧客の維持に対応しなくてはなりません。多くの企業にとって、こうした問題の発生よりも、むしろTMT企業が収集している膨大な消費者データが、競争市場で目下必要とされる戦略を明確にする上で役立っていないことに問題があります。特に、現在は運転席でハンドルを握る消費者が、頻繁に車線を変更している状況に喩えられる時代です。この問題を解決する答えは、データダッシュボードに示される数字だけでなく、ブランドの選択肢が無数にある世界で消費者が今何を考え、感じ取り、どう行動するのか予測可能なパターンをもっと見つけ出すことにあります。そのためには、新たなレベルの顧客フィードバックの理解が欠かせないものとなり、数字の捉え方をすべてのマーケターが変えなくてはなりません。ここで知っておくべき3つの戦略ステップについてご紹介します。

1. 標準的なデータ分析にとどまらず、根本要因を探るためのインサイトを得る

どのTMT企業も膨大なデータを広範囲にわたって収集しています。それは、ユーザーが何を視聴し、クリックしたか、どの時間帯に、どのような嗜好に基づき、どの広告やWebサイトでエンゲージメントが生じたか、といったものです。しかし、これらのデータがアプリ、スマートフォン、Webインターフェースといった無数のデジタルタッチポイントから蓄積されている一方で、多くの企業がデータの限界に気付いています。もしくは間もなく気付くことになるでしょう。企業が顧客とのタッチポイントから直接収集するファーストパーティーデータに対する規制が従来のユーザーデータ収集方法に影響し、また収集されたデータの多くが非構造化データ(テキストデータ、言い換え含む)であることから、数字から得られる示唆を理解することがビジネスを成功させる上でますます重要になっています。ここで新たなアナリティクス技術を活用すれば、TMT企業はオペレーションと消費者行動に関するインサイトを引き出し、あらゆる企業が求めている、自社の最優先課題とビジネス機会の根本要因を分析することができるでしょう。

 

従来のデータと、オペレーションや消費者行動に関するインサイトの効果的な組み合わせとでは違いが出る事例を見てみましょう。EYによる大手公共事業会社とのプロジェクトにおいて、カスタマーサービスにおける電話の待ち時間について否定的なフィードバックが急増していたことが判明しました。このような場合、標準的なデータ分析では単純に待ち時間の長さが原因と判断され、カスタマーサービスの迅速化を目指す戦略を立てることになるでしょう。EYの「Intelligent Insights」を活用すると、実際の根本原因は同社のWebサイトに掲載されていた「グリーンエネルギー」のマーケティングロゴであることが明らかになりました。このロゴにより担当者がトレーニングを受けていない問い合わせの急増を招き、回答探しに要する時間が長引いたのです。最終的に、現存しないサービスのロゴをWebサイトから削除しカスタマーサービス担当者向けに適切なトレーニングを実施するという、従来の想定とはまったく違う実行に移しやすい戦略が導き出されました。

 

2. 顧客の本音を捉え、ブランド体験を明確にする

ITソリューション、携帯電話サービス、ストリーミングTVなど消費者の選択肢があふれる中で、TMT企業が顧客から支持を得るためには、ブランド力を効かせた顧客満足と優れた体験を提供することに尽きます。そのためには、単一のインタラクションだけでなく、複数のタッチポイントから顧客の本音を理解することが求められます。企業は、コールセンターでの通話、チャット、従来型アンケート、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などのさまざまな情報源から得られる顧客データをインサイトとして統合するオムニチャネル型の消費者リスニングのアプローチを導入し、全体的な視点で自社のサービスや問題点、そして製品に対する認識について理解しなければなりません。オペレーションがどのように機能しているのか、また実行中の施策が消費者の認識・行動・嗜好にどのような影響を与えているのかといった正しいインサイトが、データに基づいて多くの重要な意思決定を行う上で強い味方になるでしょう。こうした施策の例として、デジタル領域やフロント業務を強化するための戦略、人工知能(AI)ツールの導入、より優れたオムニチャネル体験を創出し、顧客ロイヤルティーを構築するための顧客サービス戦略などが挙げられます。また、企業内においても従業員エクスペリエンスから得られるインサイトが組織のエンゲージメントを向上させ、マネージャーの効率を高め、リーダーが情報に基づいて人事やビジネス上の意思決定を行えるよう支援し、顧客から本当に愛される製品・サービスをデザインすることにも役立つでしょう。

 

3. コホート分析により、顧客を理解しエンゲージメントを強化する

ストリーミングサービス、インターネットおよび携帯電話サービス事業者などが自社サービスへの乗り換えを促すインセンティブを競い合う業界で顧客ロイヤルティーを高めるには、大規模かつ費用対効果の高い方法で、消費者の好みを的確にターゲッティングすることが必要です。より深いレベルの消費者インサイトなしに、本来のセグメンテーションは成し得ません。消費者個人の好みや行動様式に着目し、類似の傾向や特徴を持つグループに分類することで行動セグメンテーションを行い、消費者への理解を深め、より大きなユーザーグループ(「コホート」または群)向けにマーケティングを展開することができるのです。また、パーソナライズされたメッセージングや、製品・サービスに合わせた仕様にすることも可能です。その結果、消費者は自分の声が届き、欲しい情報や製品が提供されていると感じるようになるのです。

 

以上をまとめると

TMT企業は、AIによる音声・テキスト分析から得られたインサイトを広範囲に活用することで、消費者の行動パターンをより正確に予測し、施策の改善や成果に結び付けることができます。いずれ大規模な感情分析やテーマ特定といった手法が、顧客獲得に要する労力やコンバージョン指標などと合わせて新たな成功を測るベンチマークとなることが予想され、経営層から営業、顧客サポート、エンドユーザーに至るすべての関係者にとって有益なものとなるでしょう。

サマリー

消費者には、デジタルエンターテイメントコンテンツ、インターネットおよび携帯電話のサービス事業者について多数の選択肢があります。TMT企業が顧客層を広げ、顧客エンゲージメントを高めるためには、自社に対する消費者のブランド体験についてより深く理解することが求められます。

TMT企業が成長するためには、インサイトに基づいたアプローチへ移行すべきです。そうすることで、オペレーションを最適化し、消費者の行動パターンを予測し、顧客エンゲージメントをパーソナライズするための戦略を策定することが可能になるでしょう。



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