OECD、ICAP統計を発表

  • 2024年1月29日、経済協力開発機構(OECD)は、国際的コンプライアンス確認プログラム(ICAP)の統計を公表した1
  • 統計によると、2018年1月から2023年10月までに20件のICAP事案が完了し、1件あたりの平均所要期間は61週間で、平均で5つの租税当局が関与し、事案の80%において、対象となったすべての主要リスク分野において低リスクの結果が得られたか、または対象となった主要リスク分野のうち1つか2つだけが「非低リスク」という結果が得られた。
  • 2024年1月にEYが行った国際税務・移転価格動向調査では、ICAPへの関心の高まりが確認され、回答者の41%がICAPは「非常に有用である」と回答し、前回調査の27%から増加した。
     

エクゼクティブサマリー

2024年1月29日、OECDは、2018年のプログラム開始から2023年10月までに完了した20件すべてを網羅したICAPに関する統計を初めて公表しました。この統計は、完了したICAPリスク評価に参加した税務当局、リスク評価の完了に要した平均時間、対象となった主要なリスク分野、およびリスク評価の結果についての集計データに関する情報を提供しています。また、この文書には、事前確認制度(APA)や相互協議手続(MAP)など、他の方法で税の確実性を確保するための手段とICAPとの関係についての情報も含まれています。

詳細解説

はじめに

ICAPは、自主的なリスク評価・確認プログラムです。ICAPでは、複数の税務当局が協力して多国籍企業(MNE)グループのリスク評価を同時に行います。その見返りとして、多国籍企業に対し、参加税務当局が一定期間、低リスクの対象取引についてはさらなる調査が必要になるとは予想しないという一定の保証を提供します。

2018年1月、ICAPの最初のパイロットプログラムが開始され、8つの税務当局が参加しました。第2回目のパイロットプログラムは2019年3月に開始し、19の税務当局が参加しました。その後、ICAPは2021年9月に完全なプログラムとなりました。現在、ICAPには23の国・地域が参加しており、ポルトガルは2024年1月にプログラムに参加する最新の国・地域です。

OECDが毎年開催している「税の確実性の日(Tax Certainty Days)」において、ICAPが議論の焦点となり、さまざまな多国籍企業グループが、ICAPで得られた前向きな経験やメリットについて報告しました1

事案数、税務当局、所要期間

2018年から2023年10月までの間に、20件のICAP事案が完了し、統計はこれらの事案の実施と結果に関する情報を提供しています。

ICAPリスク評価事案には最大で9つの税務当局が関与し、最小で3つの税務当局が関与しました。関与した税務当局の平均は5つでした。

ICAP事案の各段階には、具体的な目標所要時間が設定されています。下記の統計は、各段階の平均完了時間を目標時間と比較したものです:

目標所要時間

平均所要時間

選定段階

4-8 週間

10.4 週間

リスク評価段階

20-36 週間

42.4 週間

結果段階

4-8 週間

8.3 週間

総所要時間

28-52 週間

61.1 週間

統計は、ICAPリスク評価の平均所要時間が目標所要時間を大幅に超えていることを示しています。しかし、OECDは、複数の国・地域や複数のリスク分野にわたって確実性が提供されることを考慮すると、この所要時間はそれでも比較的短いと説明しています。

ICAPには一度に複数の税務当局が参加しますが、統計では、参加税務当局の数とICAPリスク評価の完了に要した時間との間に有意な相関関係はありませんでした。OECDによれば、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる影響およびICAPが新しいプログラムであることが、平均所要時間が目標を上回った一因である可能性があるとのことです。

リスク評価の結果 — 全般

ICAP評価では、税務当局は対象となる各取引を低リスクまたは非低リスクと評価します。取引が低リスクとされるのは、税務当局がリスク評価の対象期間において、さらなる調査が必要になるとは予想しない場合です。しかし、取引が「非低リスク」とみなされたとしても、さらなる調査が必要になることを意味するものではありません。

統計によると、ICAPに参加した多国籍企業のうち、対象となったすべてのリスク分野で「非低リスク」という結果を得た企業はありませんでした。一方、多国籍企業の40%が、リスク評価の対象となったすべての主要リスク分野において、取引が低リスクであったという結果を得ています。さらに、40%の多国籍企業が、1つまたは2つの主要リスク分野を除けば、残りのすべての取引で低リスクの結果を得ています。

3つ以上のリスク分野で非低リスクの結果を得た多国籍企業は、全体のわずか20%でした。

リスク評価の結果 — 取引タイプ別

ICAPは、有形資産、無形資産、役務提供、資金調達、および恒久的施設(PE)の5つの主要な取引タイプ/分野を対象としています。

この統計は、主要リスク分野別のICAPリスク評価結果の概要を次のようにまとめています:

  • 有形資産:レビューされた取引の90%が「低リスク」と結論づけられました。
  • 無形資産:レビューされた取引の75%が「低リスク」と結論づけられました。
  • 役務提供:レビューされた取引の88%が「低リスク」と結論づけられました。
  • 資金調達:レビューされた取引の76%が「低リスク」と結論づけられました。
  • 恒久的施設(PE):レビューされた取引の95%が「低リスク」と結論づけられました。
     
問題解決

税務当局間で問題を解決するための措置を講じることが可能な場合、ICAPプロセスでは「問題解決」段階を設けることができます。問題解決を利用することで、税務当局は、より多くの主要リスク分野で低リスクの結果を達成し、個別の問い合わせやMAPの必要性を回避することができます。

この統計の対象となったICAP事案の32%において、問題解決プロセスが利用されました。さらに、いくつかの事案では、税務当局と多国籍企業が、1つまたは複数の対象リスクにAPAを通じて対処するなど、ICAP以外の問題解決を行うことを決定したとOECDは述べています。

租税確実性に至る他の手続きとICAPとの比較

この統計には、ICAPがAPAやMAPとどう比較されるかという見解が含まれています。OECDは、多国籍企業に確実性を提供する場合、これらのアプローチのそれぞれが、異なる状況において重要な役割を担っていることを認識すべきであると指摘しています。

OECDによると、ICAPでは、複数の税務当局が幅広い企業間取引とPEリスクをレビューし、低リスクの取引を比較的迅速に特定する機会を与えられるので、税務調査、APA、MAPのリソースをさらに制約することはありません。APAやMAPは、通常、より狭い範囲の取引と国・地域に焦点を当てていますが、高度な法的確実性を提供します。MAPは一般的に、既存の紛争を解決したり、すでに発生している二重課税を軽減するための唯一の二国間または多国間の解決措置です。

OECDは、ICAP、APA、MAPの範囲と要件の違いは、期間を比較する際に認識されるべきであり、一般的に、APA、または税務調査に続くMAPは、ICAPよりも時間のかかるプロセスであると示唆しています。OECDによれば、多国籍企業の一連の取引をカバーするために、ICAPを他の税の確実性を高める手段と併用することで、より高い資源効率が達成され、各プログラムが最も適切な取引に使用されることが保証されるであろうとのことです。

今後の影響

ICAPの統計は、これまでのICAPの進化について有益な洞察を提供しています。多国籍企業にとって、ICAP、APA、MAPは、多国籍企業グループの税務リスクを管理し、税の確実性を高めるために併用できる補完的な手段であることを理解することは有益です。

税の確実性は、今日の絶え間なく変化する環境において極めて重要であり、利用可能なさまざまな紛争防止および解決メカニズムを活用しながら税務リスクを管理する方法を模索することは、企業にとって価値あることです。BEPS2.0プロジェクトの進展に伴い、策定・実施されている新しい規則の実施と継続的な管理の両方において、税の確実性のメカニズムは納税者と税務当局にとって重要な役割を果たすことになるでしょう。ICAPの参加がBEPS2.0第2の柱の順守にどのように役立つかについてのEYの最近の記事はこちら(英語のみ)をご覧ください。

APA、MAP、ICAPのような税の確実性を高める手段に対する関心の高まりは、最近のEY国際税務・移転価格調査EY International Tax and Transfer Pricing Survey(英語のみ、近日中に和訳公開予定)からも明らかです。ICAPに関しては、調査回答者の41%がICAPは「非常に有用である」と回答しており、これは前回調査の27%から増加しています。

巻末注

  1. 2023年11月21付EY Global Tax Alert「OECD holds Tax Certainty Day addressing MAP developments and updates on tax certainty efforts」、2023年12月8日付EY Japan税務ニュース「OECDが「税の確実性の日」を開催、MAPの進展と税の確実性への取り組みの最新情報を発表」、2022年12月1日付EY Global Tax Alert「OECD holds Tax Certainty Day addressing MAP developments and tax certainty under Pillars One and Two」をご参照ください。

お問い合わせ先

EY税理士法人

角田 伸広 パートナー
西村 淳 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです

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