EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
ライフサイエンス企業の取引件数は安定しているものの、取引額は減少しています。未来に対する自信を高めるうえで、ディールの小規模化・スマート化はどのように役立つのでしょうか。
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2024年の製薬業界におけるM&Aでは、大型の買収よりも小規模化、スマート化という特徴を見ることができました。これは、企業ができる限り初期投資を抑えながら外部のイノベーションを獲得し、またAIを創薬やオペレーションにも活用することで、リターンを最大化しようとする戦略に基づく行動の結果であると考えられます。M&A由来の製品がバイオ医薬品大手企業全体の売上高における最大シェアを占めるようになった今日、日系製薬企業もアーリー段階のイノベーティブなバイオテックやAIスタートアップへの適切な投資により、成長エンジンを確保していくことが求められています。
ライフサイエンス企業の取引件数は安定しているものの、取引額は減少しています。2025年度版EY Firepower M&Aレポートでは、ライフサイエンス企業がよりスマートで小規模な取引により、自信に満ちた未来を確保する方法について詳しく考察しています。
2025年度版EY Firepowerの分析結果の主なポイント:
これから、分析結果について詳しく説明していきます。特定のトピックのみ読みたい方は、該当するタイルを選択してください。そのトピックに直接飛ぶことができます。
出典:Capital IQ、EYの分析結果
2023年の特徴であった、リスクの低い資産に目を付けた大型ディールから注目が離れるなか、2024年はライフサイエンス企業のM&A取引額が41%減少しました。前年に買収した企業の統合を進める医薬品大手にとって、2024年は「リセット期」となったのかもしれません。
米国で連邦取引委員会(FTC)の積極的な規制活動やインフレ抑制法(IRA)導入に伴う規制面の困難な問題が続いたことで、2024年はM&A活動が低調となった可能性もあります。1月に新政権が誕生して、2025年はこうした規制面の不確実性の一部が解消され、M&Aの新たな可能性が開かれるかもしれません。
出典:Capital IQ、EYの分析結果
2025年を迎えた今、M&Aの投資収益が期待できる確かな構造的理由がある反面、規制面と政策立案面の一部で先行きの不透明感が残っています。
推進要因:
制約要因:
出典:Capital IQ、EYの分析結果
2024年は取引額が減ったとはいえ、ライフサイエンス企業がM&Aを敬遠していたわけではありません。買い手と売り手のバリュエーションギャップを埋めるため、企業が重点をシフトさせて、期間の長いM&A機会や、マイルストーン支払いを利用したディールを求めるようになるなか、取引件数は安定していたものの、ディールの平均規模は縮小しました。
リスクが低く上市の近い資産の取得に資金を投じるのではなく、開発サイクルの早い時点でイノベーションを活用しようとし、企業はアーリーステージ(フェーズIII前)アセットをターゲットとしていました。
企業はまた、新たなAI分野など、従来とは異なる成長機会も模索しています。
出典:Capital IQ、EYの分析結果
AI関連の提携と買収はこの5年間で急増しました。これは、このテクノロジーがライフサイエンス企業に好機をもたらすことを物語っています。最も注目されているのは、AIを利用した創薬と医薬品開発の最適化です。とはいえ、それにとどまらず、AIは業務運営からビジネス戦略まで、バリューチェーン全体に利益をもたらします。
ライフサイエンス企業は、AIがバリューチェーン全体にもたらす機会に着目していますが、今後最大の課題の1つとなるのが、ライフサイエンス業界のニーズに合わせて、テクノロジー企業をうまく統合する方法を見いだすことです。EYのCEOコンフィデンス指標の結果から、ライフサイエンス企業のCEOが、AIなどの最新テクノロジーを人材獲得と並び、今後12カ月間の最大の混乱要因(ディスラプター)と考えていることが分かりました。これは、イノベーションのこの新たな波がライフサイエンスセクターに、いかに大きな機会と課題をもたらすかを物語っています。急速に拡大するAIセクターは、ディスラプションを起こす可能性を秘め、またディスラプションを起こすような人材を擁しています。そのため、ライフサイエンス企業がこうしたセクターと協働するにあたっては、自らのマインドセットと業務アプローチを柔軟に変えて、セクターをまたいだ提携のメリットを最大限引き出す必要があるでしょう。ライフサイエンス企業に特に求められるのは、以下のようなケイパビリティの構築です。
医薬品会社との提携を真剣に検討しているAI企業は、業界が何を期待しているのかを把握する必要があります。
出典:Capital IQ、EYの分析結果
ライフサイエンス企業は、イノベーションの従来の領域にとどまらず、新たなバリュードライバーを探求する取り組みを拡大させています。抗体薬物複合体(ADC)関連のM&A投資額が数十億ドルに達した2023年以降、次世代の放射性医薬品から多重特異性抗体まで、まったく新しい治療手段がM&Aのターゲットとして注目を集めています。
デジタル技術とAIがヘルスケアの新境地を切り開いています。研究開発も、イノベーション発信地としてこれまで知られてこなかった中国をはじめとする国・地域で活況を呈しています。ADCなどまったく新しいがん療法のライセンスイン(導入取引)を求める企業にとって、ターゲットとしての中国の重要性が高まってきました。
一方、中国のライフサイエンス・イノベーション経済の成長を阻む最大の課題の1つが、対象となる中国企業との取引を2032年までに終了することを義務付ける米国のバイオセキュア法です。これにより、国境を越えた協業を行う企業の能力が制限される恐れがあります。とはいえ、新政権の誕生で米中関係の先行きが不透明となっている今、ライフサイエンス・イノベーションは、今後、新たなワーキングモデルの交渉が必要な領域の1つにすぎません。
この業界は、革新的な研究開発パイプラインを備え、自己改革をし続ける必要があります。
“Subin Baral企業は、ターゲットの選定からエグゼキューションまで、M&Aを適切に進めることに注力し、自信を持って未来を形作ることを可能にする提携戦略を策定する必要があります。
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ライフサイエンス業界におけるM&Aの動向2024年度版 ~変化の時代にM&Aを成功させる戦略とは
ライフサイエンス業界は、コスト削減と収益向上の圧力の中で、再びM&A活動を活発化しつつあります―製薬会社、医療機器企業などのライフサイエンス企業が適切なディールを特定し、価値を確保するためには何が必要でしょうか。
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