EUタクソノミーに基づく情報開示規制を堅持すべき理由とは

EUタクソノミーに基づく情報開示規制を堅持すべき理由とは


EYによる今回の調査結果から、調査対象企業の89%がタクソノミーに適格な経済活動から生じた売上高や設備投資(CapEx)、事業運営費(OpEx)を開示したことが明らかになりました。


要点

  • 欧州委員会が直接投資の参考とするために定めたEUタクソノミーは、環境的に持続可能と考えられる経済活動をリストしたものである。
  • 本調査では、2年目に入り、EU加盟国の企業が情報開示に伴う実務をどのように導入しているかを検証し、また考えられる今後の改善点について考察している。
  • タクソノミーに適格な経済活動に伴うKPIの平均割合は依然として40%を下回っており、また適格性と整合性の間にギャップが存在している。

欧州では、世界初のカーボンニュートラルな大陸になるという、積極果敢な目標を掲げています。このビジョンを実現し、持続可能なプロジェクトや経済活動への直接投資の誘致を図るため、欧州委員会では2018年3月、「持続可能な成長へのファイナンスに係るアクションプラン(Action Plan on Sustainable Finance)」を提示しました。

このアクションプランの一環として、EU規則2020/852(以下、「タクソノミー規則」または「EUタクソノミー」という)が2020年6月22日に公表され、2020年7月12日に発効されました。

このEU規則では、持続可能な経済活動を明確化する、詳細な分類システムを導入しています。その目的は、投資家に確信を与え、グリーンウォッシングを防ぎ、気候に優しい実践を推進し、市場の細分化を軽減し、持続可能な投資を促すことによって、欧州グリーンディールの目標達成を後押しすることです。

以下の項目について、タクソノミーに適格な経済活動とタクソノミーに整合する活動の割合を開示することを非金融事業者に義務付けています。

  • 売上高
  • 設備投資
  • 事業運営費

また、これら非金融事業者は、KPIの計算方法を記述するとともに、計算値について説明し、数値に変更がある場合には、それを報告する義務もあります。

一方、金融事業者に対してタクソノミー規則が義務付けているのは、その企業の活動が、環境的に持続可能とされる基準を満たす経済活動(整合する活動)にどのように、またどの程度関与しているかに関する情報開示です。

持続可能な経済活動に向けたEUタクソノミーは進化を遂げており、本規則の導入を目指す各企業に対し、大きな課題を突き付け続けています。「EY EU Taxonomy Barometer 2023」の調査結果から、セクターを問わず一貫したアプローチをサポートするためには、さらなるガイダンスが必要であることが分かりました。

克服すべき課題があるとはいえ、EUタクソノミーの導入により、企業は以下に示すような、コンプライアンス以上のメリットを得られる可能性があります。

  • 透明性と情報開示の向上。ステークホルダーの信頼を高め、説明責任を向上させることができる。
  • グリーンファイナンス(グリーンボンドやサステナブル投資ファンドなど)の利用促進。企業は資金調達の選択肢が増え、また条件も有利になる可能性がある。
  • ポジティブな信用評価とブランドイメージ。環境意識の高い消費者やパートナー、投資家を呼び込むことができる。
  • 長期的価値の創造。持続可能な実践は業務の効率性の向上や資源消費量の削減、イノベーションの拡大につなげることができる。
  • 従業員の維持・確保。サステナビリティを優先する企業で働くことに価値を見いだす従業員数が増える。

欧州委員会では、企業が情報開示要件を順守できるように段階的なアプローチを採用して時間的猶予を設けました。適用1年目に非金融事業者が開示する必要があったのは、気候委任法に基づき適格とされる経済活動から生じた売上高と設備投資、事業運営費のみです。

2022年度では整合性も義務化の対象となりました。非金融事業者は現在、気候委任法に基づきタクソノミーに適格かつ、タクソノミーに整合する経済活動から生じた売上高、設備投資、事業運営費を開示する必要があります。この開示情報には、タクソノミーに整合する経済活動、タクソノミーに適格はしていても整合していない経済活動、タクソノミーに不適格な経済活動の割合が分かる、設備投資と事業運営費、売上高の3つの表を含めなければなりません。

金融関連事業については、取引先の非金融・金融事業者から開示されるデータに依拠して、委任法で義務付けられている指標を策定する必要があるため、情報開示は2年かけての段階的な導入が認められ、整合性のKPIの義務化は2023年度からとなりました。

また2022年度には、金融信用機関に対して、総資産にトレーディングポートフォリオと要求払いの銀行間貸し付けが占める割合の開示が義務付けられました。保険会社は損害保険・再保険について、タクソノミーに適格な経済活動とタクソノミーに不適格な経済活動の割合を開示することになっています。


第1章  主な調査結果
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第1章

主な調査結果

調査対象の企業の大半が、売上高、設備投資、事業運営費の適格性についての情報開示を行いました。

データ収集とプロセス全体の両方を強化し明確化を図るにあたり、改善の余地はあると考えられます。
 

非金融事業について

分析対象となった非金融事業者277社のうち、96%にあたる265社では、アニュアルレポートもしくは別途、非財務報告書でタクソノミー情報の開示が行われていました。このうち89%は、3つのKPI(売上高、設備投資、事業運営費)の少なくとも1つを開示しています。さらに、調査対象となった事業者が開示した、タクソノミーに適格な経済活動から得られる設備投資と事業運営費、売上高の平均割合は、それぞれ36%、28%、25%であり、昨年度の開示情報の数字とほぼ同等でした。

分析対象企業の3分の1強が、タクソノミーに適格な売上高を開示していないことを報告しており、このことは、欧州の主要証券取引所に上場している企業のうち、相当数が気候変動の緩和(CCM)や気候変動への適応(CCA)という目標に実質的な貢献をする可能性がないことを示唆しています。

さらには、整合する経済活動の割合も著しく低下しています。設備投資は、適格性と整合性の差が最も大きく、約21ポイントを示しています。その主な要因は、タクソノミーに適格かつタクソノミーに整合する経済活動や温室効果ガス排出量削減を目的とした個別の対策から生じる設備投資についても、適格として開示することをタクソノミー規則が企業に認めていることです。このことにより、本カテゴリーで整合性が認められることは極めて難しくなる可能性があります。一方、売上高と事業運営費では、この差がそれぞれ17ポイントと16ポイントでした。


タクソノミーに適格な経済活動と整合する経済活動の平均割合は、国とセクターにより大きなばらつきが見られます(詳しいインサイトについては、レポート全文(PDF、英語版のみ)を参照)。

タクソノミーに適格な経済活動の割合が最も大きいルクセンブルク(47%、ただし対象企業は4社のみ)を除くと、適格性の割合が30%を超える国はオーストリア(45%、16社)、スペイン(37%、30社)、ベルギー(36%、9社)、ギリシャ(31%、20社)の4カ国のみです。その背景には、この4カ国では建設・インフラ・不動産セクターと電力・ユーティリティセクターに属する企業の存在感が強いことがあります。オーストリアとスペインでは、売上高の平均割合が大きいものの、主に寄与しているのは電力・ユーティリティセクター、建設・インフラ・不動産セクター、モビリティセクターの企業です。

一方、適格な経済活動で得られる売上高の割合が最も小さいのはスロバキア(2%、1社)、オランダとポーランド(ともに10%、それぞれ31社と26社)です。オランダについては、適格性の平均割合が最小レベルであった消費財セクターとヘルスケア、バイオテクノロジーおよび化学セクターの企業が足を引っ張った形となりました。ポーランドでこの要因となったのは、消費財セクターと鉱業・採石セクターです。スロバキアは、調査対象となった唯一の企業が観光・ホスピタリティーセクター(その他)で、同社の適格な経済活動による売上高の割合が低かったことが要因となっています。

これは、適格な経済活動と整合する経済活動での売上高の平均割合を国別に表したグラフです。適格な経済活動での売上高の平均割合が最も大きかったのはルクセンブルク(47%)で、これにオーストリア(45%)とスペイン(37%)が続きます。


このデータからは、欧州の主要証券取引所に上場している企業活動の大多数が不適格であると思われることも分かります。その要因は、各セクターが気候変動の緩和と気候変動への適応という目標に貢献できる可能性が低いことです。

2022年度は、企業は整合性の確認のための情報も開示する必要がありました。適格性と整合性の間のギャップが大きかったのは、モビリティと建設の2つのセクターです(45ポイントから50ポイント)。このようなギャップが生じた最大の要因は、この2つのセクターにさまざまな種類の企業が属していることです。タクソノミー規則では、すべての企業が同じ基準を満たす必要があります。一方、ヘルスケア・バイオテクノロジー・化学や消費財などのセクターについては、開示されたタクソノミーに整合する経済活動での売上高の平均割合が0%でした。主な要因は、これらセクターの場合、気候委任法の対象となる経済活動がごくわずかであることです。その結果、これらセクターの多くの企業は、整合性を評価する十分な証拠がないことが多く、非中核活動に関連した、適格な経済活動の売上高だけしか情報開示を行えませんでした。

タクソノミーに整合する経済活動での売上高の割合が最も大きいセクターは、電力・ユーティリティ(30%)と鉱業・採石(21%)です。


適格な経済活動での設備投資の平均割合は36%で、3つのKPIで最も大きくなりました。これは、適格な経済活動での売上高に伴う設備投資に加え、企業がタクソノミーに適格な経済活動とタクソノミーに整合する経済活動のほか、温室効果ガス排出量削減を目的とした個別の対策から生じた購買に関連する投資も開示した可能性があるためであると考えられます。また、265社中31社(12%)が、適格な経済活動での設備投資の割合を0%と開示しました。タクソノミーに整合する経済活動での設備投資の割合は15%に低下し、この割合を0%と開示した企業は265社中111社でした。

国を問わず、企業が属するセクターによって、適格な経済活動と整合する経済活動での設備投資の平均割合には大きなばらつきが見られます。この差を分析した結果、最も差異が大きかったのはマルタで、指数を対象に行った分析結果と合致しました。同国は調査対象の企業が10社で、ギャップが39ポイントです。これに34ポイントのドイツとオーストリアが続きます。


適格な経済活動と整合する経済活動での事業運営費の割合は、売上高の割合に比較的近く、適格な経済活動が28%、整合する経済活動が約12%です。

適格な経済活動での事業運営費の平均割合は、設備投資の割合を下回っています。これは、事業運営費の場合、適格な経済活動での売上高に伴う経費の及ぼす影響がより大きいことを示しています。調査対象企業265社のうち、適格な経済活動での事業運営費の割合を0%と開示したのは86社(32%)です。2022年版では18%だったため、ほぼ倍増したことになります。この差は、分析対象の企業の数が増えたことと、企業の購買活動が年月とともに変わったことによる結果であるかもしれません。

国別のデータでも、適格な経済活動と整合する経済活動での事業運営費のKPIの割合が売上高のKPIに比較的近いことが確認できます。これは、事業運営費が主に、企業の収益を生み出す経済活動に伴うものであることを示唆しています。

適格な経済活動での事業運営費の平均割合が最も大きかったのは、適格な経済活動による売上高の割合でも2位だったオーストリアです。主要セクター別で見ると、電力・ユーティリティセクターが97%、建設・インフラ・不動産セクターが73%でした。一方、この割合が最も小さかったのはハンガリー、オランダ、スロバキアです。


金融関連事業について

金融関連事業については、EUの環境目標への銀行による貢献を、タクソノミーに整合する資産比率を示す「グリーンアセットレシオ(GAR)」で測定します。ただし2022年度は、環境目標に貢献する可能性のある信用ポートフォリオと投資ポートフォリオの割合を反映して金融機関が開示したのは、タクソノミーに適格な資産に関する情報のみであり、取引先の売上高に基づくタクソノミーに適格な資産の割合は、最小が0%、最大が55%で、平均が26%でした。タクソノミーに適格な資産の主なエクスポージャーは、自動車や建物改築のためのリテールモーゲージや消費者金融などです。

保険会社によるEU環境目標への貢献は、以下の2つの指標で測定します。

  1. 適格保険料:保険会社の引受ポートフォリオが気候変動への適応に貢献する可能性があることを示す。割合は最小が2%、最大が92%で、平均が48%。
  2. 適格資産:取引先の売上高に基づいたもので、保険会社の投資ポートフォリオが環境目標に貢献する可能性があることを示す。割合は最小が1%、最大が39%で、平均が15%。

銀行の適格資産の割合は、保険会社での割合に比べて大きく、平均が26%(保険会社は15%)でした。タクソノミー整合性に関する情報開示要件が拡大し、取引先から提供される情報も増えていることから、金融機関が開示するデータはさらに充実することが予想されます。

第2章  各セクターの情報開示が今後向かう先
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第2章

各セクターの情報開示が今後向かう先

新たな要件の適用開始が近づく中、進むべき道を照らしてくれるガイダンスが必要となっています。

適用から2年目となり、昨年のレポートの結果が裏付けられました。企業はタクソノミー規則の導入にあたり、数々の課題に引き続き直面しています。

こうした課題は、タクソノミーに適格なデータに加え、タクソノミーに整合する経済活動の売上高と設備投資、事業運営費の割合を開示するという、非金融事業者に新たに課せられた要件に起因するものだけではありません。より重視すべきは、特定の基準の解釈と、整合性の評価に必要な技術的かつ具体的で詳しいデータや情報の収集の難しさから生じる課題です。

解釈上の問題に対処するため、EUは第8条「開示委任法」と気候委任法、それぞれに基づく開示要件に関わる「よくある質問」への回答を示す、2件の欧州委員会通知(草案)を2022年12月に公表しました。

企業が直面している課題の代表的な例を以下に紹介します。

  • KPI開示テンプレートが複雑:各KPIに必要な情報量と、複雑な表の編集に関連するいくつかの課題に直面した。その結果、詳しいガイダンスが必要となったが、返ってあやふやな解釈や読みにくさを招く結果となり、EU全体でデータが比較しにくくなるという影響が生じた。
  • 依然として解釈の余地がある:欧州委員会通知が発出されたにもかかわらず、タクソノミー規則の特定の点については、解釈のあいまいさが残った。
  • 技術的なスクリーニング基準の順守:整合性に関する情報開示の導入により複雑さが増し、求められるような詳しい情報を入手できないことも多く、一部企業は必要なデータを提供する準備を十分に整えることができなかった。
  • ミニマムセーフガード:タクソノミー規則第18条の要件の内容は、何をもってセーフガードの「ミニマム」とするかに関して、いくつかの解釈上の疑義を招いた。

タクソノミー規則は、今後数年間にさらなる進化を遂げることが予想されます。「委任規則」が先ごろ採択されたことで、6つの環境目標のいずれかに実質的な貢献ができる経済活動のリストに新たな活動が加わり、タクソノミーに適格かつタクソノミーに整合する可能性のある経済活動の割合が拡大することになるでしょう。このような変化により、現在はEUタクソノミーから除外されているプラスチック包装品製造や中古品販売などのセクターが新たに対象に加えられることが考えられます。一方、こうした規制の変更に対応するために、企業は定期的に評価を行うことが求められるでしょう。

今後数年間のうちに発効するはずの追加の要件に備えて、「次の」、そして「さらにその先の」展開を予測し、準備をしておくことが重要です。

このような拡大は、このタクソノミーの枠組みが持つ、進化するという性格を反映しています。そのため、6つの環境目標の1つに実質的に貢献する条件を備えている可能性のある経済活動が徐々に追加されていくことが予想されます。

最後に、先ごろ承認された環境委任法に従うと、企業は2024年1月1日から、追加の活動についてのみ、タクソノミーの適格性に関わる情報開示が求められます。一方、2025年度以降は、タクソノミー規則の対象企業に6つの環境目標すべてについて、タクソノミーの適格性とタクソノミーの整合性の両方に関わる情報開示が義務付けられることになります。

この点について、欧州理事会と欧州議会が2022年11月に承認した企業サステナビリティ報告指令(CSRD)は、その対象企業に対して、サステナビリティステートメントにタクソノミーの開示情報も盛り込むことを明確に義務付けています。

情報開示の基準とシステム、管理策を策定することで、企業は複雑で新しい規制の枠組みに対応することができると考えられます。その策定にあたってのステップは以下のとおりです。

  • EUタクソノミー規則に定められた3つのKPI(売上高、設備投資、事業運営費)の計算に必要な財務データをマッピングし、データの収集プロセスと管理方法を設計する。
  • 気候委任法と環境委任法に従い、タクソノミーに適格な経済活動をマッピングする。
  • 規制要件を、自社の現行システムで管理できる情報に落とし込む。
  • さまざまな事業ユニットやサイト、部門にあるデータを診断し、ギャップや代替ソリューションを洗い出す。
  • 適切なKPIを計算・報告する手法を確立し、考慮点を整理する。
  • 財務システムと財務データの抽出について検討し、事業活動をサンプリングして、財務情報のトレーサビリティを試験する。
  • 年度末にデータの抽出を行い、それを処理して、対応するKPIを計算するとともに、タクソノミー規則で義務付けられている定性情報に必要な説明ができるようにする。
  • 3段階の試験(スリーステップテスト)とギャップ分析を行い、タクソノミーに適格な各活動の整合性評価を行う。
  • 今後、タクソノミーに適格な経済活動をタクソノミーに整合した活動として格上げさせるアクションプランを策定する。
  • 最新のプロセスを導入し、収集したデータと情報を統合し、非財務レポートに盛り込むタクソノミー開示情報の草案を作成する。

サマリー

EUが2050年までに温室効果ガス排出量ネットゼロを実現して、資源効率的で競争力のある経済に転換すべく取り組んでいることから、事業KPIにとってのタクソノミー規則の重要性は一段と高まると思われます。

2回目の発行となるEY EU Taxonomy Barometerの調査結果から、情報収集とプロセス自体の両方を改善および明確化し、EUの環境目標に貢献する自社の経済活動を把握する機会が数多くあることが分かりました。


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