顧客重視のテクノロジーが⼩売企業にもたらす⻑期的価値とは

顧客重視のテクノロジーが小売企業に与える長期的価値とは


⼩売企業に対する消費者の期待がこれまで以上に⾼まっています。今こそテクノロジーを最⼤限に活⽤し、将来に向けて進化する時です。


要点

  • 消費者が実店舗とオンラインのベストミックスを求める中で、小売企業はハイブリッド型の未来に備える必要がある。
  • 新しいテクノロジーを採用することで、3つのI(Invisibility, indispensability, intimacy)に沿った価値提案の構築が可能となる。
  • 大胆なデジタルトランスフォーメーション戦略は小売企業を成功に導くが、そのためにはテクノロジーのエコシステム間の連携強化が必須である。


EY Japanの視点

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックの影響で、日本における消費者の購買行動も大きく影響を受けました。その1つとしてオンライン消費の急拡大が挙げられます。一方で、オンライン消費の利便性を知った消費者でも、引き続き実店舗での購買行動が必要だと感じています。さらには、メタバース空間などの新たな販売チャネルが急速に拡大する機運も高まっています。実店舗、旧来型のオンライン、さらにはメタバース空間などの新たなチャネルを加え、小売企業には、消費者を引きつけるハイブリッド型のチャネル戦略を構築し、展開することが求められています。このような新たなチャネル戦略を実現するためには、オペレーションのデジタル化に加え、顧客のニーズに応えるための各チャネルにおけるデジタル化、そしてテクノロジー投資が不可欠です。特に、日本の消費者は実店舗における手厚いサポートに慣れており、オンラインにおいても同水準のサポートを求める傾向があります。このようなサポートをオンラインでも可能にするためには、例えば、バーチャルコンシェルジュのような機能を実現するテクノロジーが必要です。このようなデジタル化を、全て自前ではなくテクノロジー企業のリソースも活用しながら推進するといった柔軟性とスピード感が、顧客を獲得するためには必要です。


EY Japanの窓口

平元 達也
EY Japan 消費財・小売リーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

パンデミックを経験して消費者の期待は一変しました。消費者は、どのように買い物をし、どこで時間を過ごし、誰を信頼するかを選択できるようになり、自身で選択を管理することを望んでいます。消費者の⼩売企業に対する期待が⾼まる⼀⽅で、⼩売企業が消費者に与える影響⼒は減少しています。

こうした変化により、⼩売企業は、消費者の⽣活の中で果たす役割を変化させる必要に迫られています。多くの企業ではすでに、新しいチャネルやストーリーテリング、⾰新的なサービスを使った新たな顧客獲得⽅法を模索しています。しかし、パンデミック後の消費者を巡る競争に勝つためには、これまでの顧客中⼼主義のさらに先へと進み、Invisibility(無形化︓⽬に⾒えない利便性を提供すること)、Indispensability(不可⽋化︓なくてはならない存在になること)、Intimacy(親密化︓⾝近な存在として選ばれること)の3つをうまく組み合わせて新たな価値を創造しなければなりません。EYが提唱するこれら「3つのI」に基づく価値提案の実現に必要な能⼒を⼩売企業に与えてくれるのが、テクノロジーの適切な導⼊と統合です。

提案価値を最⼤化するための鍵は、適切なテクノロジーです。テクノロジーの導⼊にあたっては、これまでのアプローチは通⽤しません。現在求められている変⾰のスピードや規模に加え、最新テクノロジーが果たす役割、さらにそうしたテクノロジースキルの需要が極めて⾼いことを考えると、ソリューション開発と⼈材開発において新しいアプローチが必要です。成功するためにはテクノロジーのエコシステム間の連携を強化する必要があり、それは過去の取引ベースの関係性とは⼤きく異なるものです。

 

ディスラプション(創造的破壊)を乗り越え、消費者トレンドの波に乗る

⼩売企業にとってディスラプションは今に始まったことではありません。テクノロジーを駆使したオンライン企業やスタートアップ、マーケットプレイスの新規参⼊に何年も前から⽴ち向かってきました。しかし多くの企業は最先端を⾛ってきたわけではなく、そうした脅威に対して先⼿を打つというより後⼿の対応をしてきました。ここから再スタートを切り前進するには、効率とオペレーショナルエクセレンスを⼟台に、消費者が求めるものを正しく捉えて成⻑していく必要があります。その実現にテクノロジーは有用ですが、消費者の期待はすでにはるか先へと進んでおり、ギャップが⽣まれています。⼩売企業はこのギャップを解消しなければなりません。

テクノロジーによって業界の境界が曖昧になっていることを背景に、小売りのあらゆる側面、つまりマーケティング、調達、販売、企画、物流、経理、⼈事、不動産などの部⾨横断型の後⽅⽀援も含めた側⾯において、テクノロジーによる新たな可能性が生まれているのです。同時に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によってオンラインプラットフォームをベースとしたライフスタイルへのシフトも進み、ショッピング、仕事、フィットネス、エンターテインメントなどで、デジタルな選択肢が広く受け⼊れられてきています。

とはいえ、実店舗は不要になるという予⾔は外れました。EY Future Consumer Indexによれば、消費者は実店舗とオンライン両⽅の良いとこ取りを求めていることが分かります。

  • 55%の⼈は、購⼊状況を管理しにくいという理由から、ネットでは買い物をしないと⾃主的に決めている。
  • 45%の⼈は、⾷料品の買い物をネットと店舗の両⽅で⾏っている。
  • 58%の⼈は、選択肢が豊富な⼤型店舗での買い物を好み、週に一度まとめ買いをしている。

この最後のポイントは、在宅時間が増えて外で買い物をする機会が減った消費者は利便性を追求する、という基本的なトレンドに反しています。


私たちが向かっている未来は、実店舗とオンライン両⽅のチャネルが共存し、両者の境界線が曖昧になったハイブリッド型の未来です。しかしそうした未来を実現するには、ショッピングが実店舗・オンラインのどちらであろうと、デジタルテクノロジーが極めて重要です。


テクノロジーの価値と明確な⼩売戦略が適合していなければならない

実店舗とオンラインでの販売は二者択一ではなくなるでしょう。外部要因によって⼩売業のデジタル変⾰のスピードが加速した、というEY Reimagining Industry Futures 2022調査の結果は当然とも言えます。⼩売企業の71%が、サプライチェーンの可視化と管理の向上を⾒込める5GやIoT(Internet of Things)に以前よりも関⼼を持っていると回答し、75%は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、デジタルトランスフォーメーション計画が加速したと答えています。


小売企業におけるデジタルトランスフォーメーションの優先順位

EYでは、最新テクノロジーを活⽤し⾰新的な⽅法で顧客からの要望に応えようとしている⼩売企業を対象に、最も重要視する5GベースのIoT活⽤シナリオを尋ねました。回答を見ると、サプライチェーンの統合による事業運営の効率化、重要インフラの管理などが最優先として挙げられています。今後の優先事項としては、予測型またはリアルタイムのオペレーション、パーソナライズされた製品・サービスによる「3つのI」も同じくらい重要視されていることが分かります。その次にくるのが顧客インサイト、システムおよびプロセスの最適化となっており、いずれもInvisibility(無形化)、Indispensability(不可⽋化)、Intimacy(親密化)を組み合わせて提供したいという考えが明確に⽰されています。

⼩売企業において、情報技術(IT)への⽀出の中で最新テクノロジーへの投資が占める割合は増えています。現在の投資の焦点は、アナリティクスや⼈⼯知能(AI)およびロボティクスやオートメーションを優先したデータドリブンな組織作りであることは⼀⽬瞭然です。またIoTやエッジコンピューティングへの投資も⾏われています。しかし、投資の軸足は、今後数年で5Gや量⼦コンピューティングへと移っていくでしょう。ARやVR、ブロックチェーンへの投資は⽐較的抑えられたままです。このままでは、今後デジタル通貨やメタバースが台頭してきたときに課題となるかもしれません。


最新テクノロジーを促進する新しいビジネスモデルの導入

データによると、適切なデジタルトランスフォーメーション戦略の導⼊を促進するには、⼩売企業は今後次の2 つのアクションを検討する必要があることが分かります。

1. 5Gは重要な鍵を握るが、導⼊には課題を伴う

最新テクノロジーはそれ単体で検討できるものではないことを念頭に置くことが⼤事です。テクノロジーをスムーズに、安定して動作させるには適切なインフラ整備とインテグレーション(統合)が必要です。低遅延、⾼速、⾼帯域が特徴の5Gは、⼩売業のインフラで使う最新テクノロジー間の「接着剤」として理想的です。しかし、多くの⼩売企業はそれを実現するまでの道のりは長いと考えています。77%は、5G・IoT導⼊を成功させるためには今後5 年間で組織のオペレーションモデルの⼀新が必要だと考えており、それは容易なことではありません。

2. テクノロジーサプライヤーとのより緊密な連携が⽬標ではあるが、発想の転換が必要

⼩売企業は⾃社のデジタル化を加速させ、最新テクノロジーのための戦略策定を進めると同時に、エコシステム間の連携に強い意欲を⽰しています。63%が、パンデミックによってテクノロジープロバイダーとの連携強化が促されたと回答しています。

しかし、ほとんどの企業が緊密な連携を必要としながらも、多くの場合その実現に⾄っていません。5Gベンダーとの現在の関係について、まだ⼤半が限定的かつ取引ベースだと69%が答えています。こうした現状は、今まで⾃前でシステム開発や⼈材育成を⾏ってきた⼩売企業にとっては、考え⽅の⼤転換を迫るものであるからかもしれません。しかし⽬標とする場所に、要求されているスピードで到達するとなると、適切な⼈材をすぐに雇⽤し、育成することはまず不可能です。そこで必要なスキルを獲得する別の⽅法を⾒つけなければなりません。つまり、コラボレーションが唯⼀実現可能な選択肢なのです。


3つのIを活用してリテールテクノロジーの力を発揮する

私たちが向かっているハイブリッド型の未来では、消費者はどのチャネルを利⽤するかにこだわりません。消費者は購⼊場所がどこであっても、商品やサービスを同じような形で購⼊したいだけです。
 

これは⼩売企業にとって顧客との関わり⽅を変⾰する絶好の機会です。多くの⼩売企業は、将来の価値提案を進化させるために新しいテクノロジーを取り⼊れ、未来のチャンスをつかむべく体制を整えようとしています。しかしその道のりは決して平たんではなく、チャンスの扉が開いている時間はそう⻑くないかもしれません。


採用する新しいテクノロジーが未来に適合したものかを確かめるため、EYでは小売企業が検討すべき3つの重要課題をまとめました。
 

  1. 採⽤するテクノロジーをサポートする適切なインフラが整備されていること。古いインフラに新しいテクノロジーを付け足しても、物事を減速させ、使い勝⼿を悪化させるだけです。新しいテクノロジーと古いシステムの統合に苦労している⼩売企業は少なくありません。
  2. テクノロジーパートナーと緊密に連携し、時流に乗り遅れないこと。新たな動きに後れを取らないようにするためには、ソフトウエアやテクノロジーを最新状態に保つ必要があります。⼩売企業とテクノロジーパートナーとの関係は、従来のような取引ではなく、サービス主体のサポートへと移⾏して、システムの陳腐化を避けなければなりません。
  3. 将来に向けて計画しつつ、あらゆるテクノロジーを検討すること。調査では、ブロックチェーンやAR、VRを⾃社ビジネスに必要なものとしては考えていないという回答が多数でした。しかしデジタル通貨やNFT(⾮代替性トークン)やメタバースが価値創造の新たなチャンスを⽣み出すにつれ、こうした分野への関⼼は急速に加速しています。


3つのIの⼒を最⼤限に発揮して消費者の関⼼を引き、獲得し、定着させるためには、適切なユースケースとビジネスモデルを⾒つけ、それに投資しなければなりません。⼤胆な戦略的選択をし、実現させる時です。それは、先へと進む上で次に通るべき重要な段階であり、今すぐ取り組むことが必要です。


サマリー

⼩売企業の⽬前には、顧客体験を⼀新させ、顧客の期待に応えるチャンスの扉が開かれています。オンラインと実店舗の両⽅でエンゲージメント強化を図る上で、テクノロジーは⽋かせないツールです。移行の過程においては、将来の提供価値を進化させることのできる、統合型のエコシステムへとシフトしなければなりません。オペレーションにおけるテクノロジーの重要性はすでに認識されている一方で、チャンスを確実につかむためにはパートナーシップ連携強化や最新テクノロジーへの投資を盛り込んだ明確な戦略が求められます。


この記事について

執筆者