移民受け入れは先行国に学べ

寄稿記事

掲載紙:2023年7月3日 日本経済新聞「私見卓見」
執筆者:EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 森川 岳大
 
森川 岳大
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部
(兼)北海道大学公共政策学研究センター研究員  

技能実習制度の廃止や、永住・家族帯同を認める「特定技能2号」の大幅拡大など、外国人材受け入れ制度の改定に向けた動きが活発だ。この分野で大きな制度改正が行われるたびに、経済成長や日本人の賃金の低下、財政の悪化、出生率の向上、治安の悪化など、様々な観点から移民の受け入れに関する賛否両論が巻き起こる。様々な意見を評価する上で参考になるのが、移民の受け入れに長い歴史を持つフランスの先行研究だ。

フランスでも高度人材の受け入れが経済成長に寄与することは論をまたないが、その他の移民も自国民の専門化を後押しし、経済成長に寄与する可能性が示唆されている。定型業務が多い職種で働く移民が増える場合、自国民は他の職種に特化するようになり、産業の高度化が促進されるようなイメージだ。

さらに賃金の低下については、最低賃金制度がある場合は影響が限られることが明らかになっている。財政面では、短期的には言語・職業訓練や生活保障による支出が多いものの、長期的には支出以上の税収をもたらす可能性が高くなるという。

出生率については、送り出した国の出生率が受け入れ国の出生率よりも高い場合には、受け入れ国の出生率向上に寄与する傾向にある。治安については、移民だから犯罪率が高いのではなく、本質的には移民も自国民も変わらず、自国民と同様、社会階層や雇用の状況などにより影響を受けることが確認されている。つまり、移民の経済的環境を改善する政策は、犯罪率の低下に大きく寄与する可能性があるというのだ。

これらはあくまでも先行研究の一部であるが、全体を通していえることは、プラスの影響を示唆する事例が多い一方、受け入れ国の社会制度や移民の文化・社会的背景などの違いにより、その影響度合いは様々であるということだ。

外国人材の定住が進むなか、先行して移民を受け入れてきた諸外国から学ぶべきことは多い。日本でも受け入れの影響に関する継続的な調査・研究の推進や、科学的な根拠に基づく冷静な評価を行い、経済や社会の発展に向けて適正な政策が実行されることを期待したい。

※日本経済新聞の許可を得て掲載。2023年7月3日

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