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三様監査における監査役の役割

2018年1月8日 PDF
カテゴリー 特別寄稿

情報センサー2018年新年号 特別寄稿

獨協大学 法学部教授 高橋 均

一橋大学大学院博士後期課程修了。博士(経営法)。新日本製鐵(株)(現、新日鐵住金(株))監査役事務局部長、(社)日本監査役協会常務理事、獨協大学法科大学院教授を経て、現職。専門は、商法・会社法、金商法、企業法務。近著として、『グループ会社リスク管理の法務(第2版)』中央経済社(2015年)、『監査役監査の実務と対応(第5版)』同文舘出版(2016年)、『実務の視点から考える会社法』中央経済社(2017年)等。

Ⅰ はじめに

企業不祥事が発生し大きく報道される事態が生じると、短期的な業績悪化にとどまらず、企業の社会的信頼が大きく失墜することとなり、その回復は容易ではありません。事案によっては、会社役員の法的責任が問われるだけではなく、代表取締役社長の辞任にも発展することもあります。
このような事態を回避するために、リスク発生の未然防止や、仮にリスクが発生したとしても、それが拡大する前に迅速な対応が行われることが重要です。このために、業務執行者とは別に、監視の視点から監査する役割が存在します。具体的には、監査役・監査委員・監査等委員(以下、まとめて「監査役」)監査、会計監査人監査、内部監査部門による内部監査のいわゆる三様監査です。三様監査については、同じ監査を担う役割があっても、その相違を理解した上で、相互の効果的な連携を図ることが大切です。
そこで本稿では、三様監査の実効性確保のために、監査役として果たし得る具体的な方法について考えます。

Ⅱ 三様監査の各役割

1. 監査役・会計監査人・内部監査部門

三様監査を担う主体のうち、監査役と会計監査人は、会社法上の機関です※1。すなわち、監査役は、取締役の職務執行を監査する権限を有し(会社法381条1項前段)※2、会計監査人は、会社の計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに連結計算書類を監査します(会社法396条1項前段)。その上で、監査役も会計監査人も、事業年度ごとに監査報告を作成し、株主に通知しなければなりません(会社法381条1項後段・396条1項後段)。
監査役は、会社と委任関係にある会社法上の役員です(会社法330条・329条1項)。会計監査人は、会社法上の役員ではないものの、監査役と同様に、会社と委任関係にあります(会社法330条)。委任関係の場合は、委任者に対して善管注意義務を負うことになる(民法644条)ことから、法的には、監査役と会計監査人は、会社に対して善管注意義務を負う会社機関と位置付けられます。従って、監査役と会計監査人は、その職務の任務懈怠(けたい)によって会社に損害が生じれば、会社に対して損害賠償支払いの責任を負います(会社法423条1項)。会社が監査役や会計監査人に対する責任追及を行わなければ、株主代表訴訟の対象となります(会社法847条1項・3項)。
なお、会計監査人は、公認会計士の資格を有する会計の専門家であるのに対して、監査役は特段の資格要件が法定化されているわけではありません。
他方、内部監査は、法的に位置付けられた法定監査ではありません。会社組織の中で、専任の内部監査担当者がいる会社のほか、経理・財務部門等との兼務となっている会社もあります。もっとも、上場している会社では、金商法上の財務報告に係る内部統制の有効性を評価した上で、内部統制報告書に記載する必要(金商法24条の4の4第1項)から、実務を行う内部監査部門に専任の担当者を配属している会社が多くなっています※3

2. 監査役監査と内部監査の違い

三様監査の対象は、会社の各執行部門であることから、監査対象部門が三様監査の違いを認識した上で、監査を受けることが出発点です。三様監査の中では、会計監査人監査は、会計に特化した監査であり、純粋外部の職業専門家によるものとの認識は得られやすいと考えられます。他方で、監査役監査と内部監査は、各部門にとってその違いを十分に理解しているとは言い難い印象です。同じ社内の人間による不祥事防止のための監査であろう程度の認識が一般的のように思われます。その結果として、監査役監査と内部監査への対応負荷が大きい場合や、重複しているとの認識があると、監査対象部門は形式的な対応となり、監査の実効性が十分に上がらない可能性が高くなります。
監査役監査と内部監査の違いの第一は、監査役制度が会社法に規定されていることから監査役監査は法定監査であるのに対して、内部監査は法令上の規定はないことです。従って、会社内の組織の名称(監査部、内部監査室等)から社内での位置付け(社長直轄、総務部等と並列)など、各社によりさまざまです。また、内部監査が法令上の規定がないということは、監査業務の方法や手続きも各社が社内的に決定すればよいこととなります。
第二の違いは、監査役の監査対象は取締役の職務執行を監査すること(会社法381条)に対して、内部監査の対象は、従業員全般というのが通常の実務です。内部監査部門は、取締役の指揮・命令に服することになるので、指揮・命令権を持つ監督者に対して直接監査することは、物理的にあり得ても、現実的には考えにくいと言えます。他方、監査役は、株主総会で取締役とは別に選任され(会社法329条1項)、法的に執行部門から独立していることから、監査役監査の対象が取締役となり得ます。従って、取締役が違法行為や不正行為等により会社に著しい損害を及ぼすことがないか、言い換えれば、取締役が会社に対して善管注意義務を果たしているか、監査を通じて確認することとなります。
もっとも、取締役の違法行為等は、取締役自らに限らず、部下への下命や、部下達の違法行為等を是正しないで見て見ぬふりをする不作為も含まれるので、監査役監査では、各部門の執行役員以下からの報告聴取や重要会議・重要書類の閲覧等を通じて、取締役の善管注意義務違反の有無を監査することになります。
第三の違いは、内部監査は組織監査であるのに対して、監査役監査は、監査役間で相互に意見交換をするものの、最終的には他の監査役の意見に左右されないで意見表明ができる独任制となっていることです※4(会社法390条2項後段)。独任制は、各監査役の独立性を担保したもので、取締役には法定されていない特異の権限です。(<表1>参照)

表1 監査役監査と内部監査との違い

Ⅲ 三様監査の中で監査役の果たすべき役割

1. 監査役と会計監査人との連携

監査役は、必ずしも会計に知見があるとは限りません※5。しかし、監査役は最終的に、会計監査人監査の相当性を判断した上で※6、期末の監査役(会)監査報告に反映し、株主に提出する義務があります。このためには、監査役と会計監査人との具体的な連携は不可欠です※7
期初においては、相互の監査計画を説明し、当該事業年度において重点的に監査を行う必要がある項目を確認しあうことが大切です。必要に応じて、監査役と会計監査人が同行して棚卸立会やシステム監査を実施することもあり得ます。また、期初の段階で、会計監査人から取締役や執行役員との面談・ヒアリングの要望があった場合には、監査役が積極的に調整することが考えられます。純粋外部者である会計監査人は、社内情報にアクセスする機会が少ないため、会計監査人にとって会計監査上必要と考えるヒアリング等については、監査役としてそのような場を設定することも大事な役割です。
監査役は、会計監査人が取締役の不正行為や法令・定款違反の重大な事実を発見したときには、報告を受けたり、報告を請求したりする権限があります(会社法397条1項・2項)※8。期末には、会計監査人の会計監査報告の内容の通知を受ける権限もあります(会社計算規則130条)。しかし、重大な事実に限らず、不正の恐れや懸念があるような事実についても会計監査人が発見した場合には、監査役は期中の段階から会計監査人から報告を受ける関係を構築しておくべきです。また、監査役からも、業務監査を通じて気になった点があれば会計監査人に説明し、会計監査の点から確認してもらうこともあり得ます。このためには、監査役と会計監査人が定例的に監査の実施状況の報告と意見交換を行うこと、とりわけ、会計監査人と経理・財務部門で意見の相違があった点などについては、監査役として状況を把握しておくことが重要です※9
監査役は、会計監査人から不正会計や法令・定款違反の重大な事実の報告を受けた場合には、監査役会等の場で十分に審議・協議した上で、必要に応じて独自に調査したり、取締役に対して必要な対応を促したりするなどの措置を講ずる必要があります。
なお、監査役は会計監査人の報酬同意権があり(会社法399条)、かつ公開会社の場合は、事業報告に報酬同意理由を開示しなければなりません(会社法施行規則126条2号)。従って、監査役は、執行部門が作成する報酬案に対して、会計監査人に対する評価を踏まえて、その妥当性について合理的な判断を行う必要があります。監査役の実務としては、会計監査人からの要望と経理・財務部門の意見の双方を聴取した上で、法的に執行部門から独立した立場で同意の有無を判断することになります※10

2. 会計監査人と内部監査部門との連携

三様監査は、本来、等距離で相互に連携を図っていく性格のものですが、会計監査人が通常接するのは経理・財務部門であり、独立した組織の内部監査部門との接点は必ずしも深くありません。内部監査部門が、金商法上の財務報告に係る内部統制の評価実務を行っている場合には、会計監査人・内部監査部門双方にとって、評価の視点からもお互いの意思疎通は重要です。
しかし、内部監査は法定監査でないことから、会計監査人は、監査役に対する場合と異なり、内部監査部門に対する報告義務は存在しません。従って、監査役は、意識的に両者の接点を持たせる役割があります。具体的には、会計監査人が監査役に対して会計監査の実施状況を報告する場所に内部監査部門の担当者が同席し、一緒に意見交換に加わるようにしたり、内部監査部門による内部統制システムの構築・運用状況の評価を会計監査人に説明したりする場があってよいと思われます。監査役として、内部監査部門による評価を会計監査人に説明したり、三者が一堂に会して、意見交換を行ったりすることも有益です。

3. 監査役と内部監査部門との連携

社内では監査役監査と内部監査との差異が十分に理解されない可能性があることから、期初の段階で監査役は内部監査担当者との打ち合わせを通じて、相互に重複のない監査実務を行うようにすることが必要です※11。例えば、監査対象部門に対する監査日程が近接している場合は、ある程度の間隔をあけること、監査の方法も内部監査部門が網羅的なチェックリストを利用している場合には、監査役監査では世間で問題となっている不祥事や前年の監査で指摘した事項の改善状況等、重点を絞った監査を行うことが考えられます。
同じ社内の監査ということで、監査役スタッフと内部監査スタッフが兼務している会社が見られるように、効率的監査を実施するために、監査役またはそのスタッフが内部監査部門と行動を共にして監査することも否定されるわけではありません。しかし、このような場合も、監査役監査は、法的に取締役の職務執行を監査する役割があるとの視点を常に念頭に置くべきです。すなわち、監査を通じて事件・事故を発見した場合にも、その原因が内部統制システムの不備による取締役の善管注意義務違反に起因したものか否かを判断する視点を持っておくべきです。

Ⅳ おわりに

企業の持続的な発展のためには、コンプライアンス経営が前提です。取締役をはじめとした業務執行者が常にコンプライアンス意識を持って会社の運営に当たることが必要ですが、場合によっては利益優先の意識が先行して、法令・定款違反を犯すことになるかもしれません。このような不祥事を未然に防止するために、監査役・会計監査人・内部監査部門が実効性のある監査職務を遂行することが重要です。
会計監査人と内部監査部門に日頃から接することが可能な監査役が、監査役監査にとどまらず、会計監査人監査や内部監査の実効性確保のための相互の調整的な役割を積極的に担っているという認識を持っておくことが大切です。

(注)文中、法令条文等は、以下のとおり略して記載しています。
   金商法:金融商品取引法

※1 金商法では監査人と称し、法的には、会計監査人と監査人とは別であることも可能だが、実務的には同一

※2 監査等委員会の該当条文は、会社法399条の2第3項1号、監査委員会は、同法404条2項1号

※3 日本監査役協会のアンケートによると、内部監査部門に少なくとも専任スタッフを配属している会社の割合は71.0%(会社数2,502社)であり、専任の監査役スタッフを配置している会社の31.1%(477社)と比較してかなり多くなっている。(日本監査役協会「役員等の構成の変化などに関する第17回インターネット・アンケート集計結果」月刊監査役No.668(2017年)、30・32ページ)

※4 監査委員及び監査等委員は、独任制ではなく組織監査であることから、監査委員会・監査等委員会で議論を尽くした上で結論を出すことになる。

※5 コーポレートガバナンス・コードでは、監査役には、財務・会計に関する適切な知見を有している者が1名以上選任されるべきである(原則4-11)としているが、日本監査役協会は、監査役の候補者が限定されるとして、財務・会計に関する適切な知見を有している者が望ましいとしている。(日本監査役協会「有識者懇談会の答申に対する最終報告書」月刊監査役No.570、2010年、41ページ)

※6 会計専門家である会計監査人の監査は、特段の事情が無い限り十分に信頼がおけるものとの前提で、監査役が重ねて同様の監査を行う必要がないことから、相当性の判断で足りると解される。(西山芳喜『監査役とは何か』同文舘出版、2014年、247~248ページ)

※7 日本公認会計士協会からは、日本公認会計士協会監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」が公表されている(2015年5月29日)。

※8 この立法趣旨は、「監査役も会計監査の一端を担っていること、および会計監査人の有する情報が業務監査に役立つことが多い」(江頭憲治郎『株式会社法(第7版)』有斐閣、2017年、624ページ)からである。

※9 会計監査人と監査役との非公式な形でのコミュニケーションの機会を増やすことの重要性を主張する意見として、和久友子「監査役監査と公認会計士監査との連携実務~監査人の視点から~」秋坂朝則編著『監査役監査と公認会計士監査との連携のあり方』(同文舘出版、2016年、244ページ)参照。

※10 高い監査品質を実現している監査法人が会計監査人候補者に選ばれるためにも、監査品質を表す指標を積極的に開示すべきとの主張もある。(浜田康「監査法人の監査品質向上のための一考察(後)」会計・監査ジャーナルVol.29、2017年、27~28ページ)

※11 監査役の情報収集体制の強化の視点からも、監査役は内部監査部門に対して報告請求権(会社法381条2項・3項)をもとに、社内ルール化すべきとの意見がある。(日本監査役協会「監査役等と内部監査部門との連携について」月刊監査役No.663、2017年、12ページ)

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