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ポスト・スマートシティ 第10回 サステナブルシティを実現するパブリックガバナンスの在り方とは


情報センサー2022年新年号 パブリックセクター


EY新日本有限責任監査法人 パブリック・アフェアーズグループ 弁護士 伏見 達
法律事務所を経て現職。空港、上下水道等のさまざまな公共施設、国や地方自治体、独立行政法人等の幅広い公共主体に関する法制度に精通し、これらに関する官民連携スキームの構築を数多く手がける。対象分野は交通・ユーティリティ・都市計画・宇宙など多岐にわたるほか、新たな制度設計や制度改正に向けたロビイング業務にも従事。当法人 マネージャー。公認会計士試験合格。

Ⅰ はじめに

これまで9回にわたり、ポスト・スマートシティにおけるサステナブルシティの在り方をさまざまな目線から述べてきました。

最終回となる第10回では、「在るべきサステナブルシティ」が備えるべき要素を明らかにし、これを実現するために越えなければならない四つの関門と、越えるためのアクションとして何が必要となるかを考察していきます(<図1>参照)。

図1 在るべきサステナブルシティを実現するための四つの関門

Ⅱ 「在るべきサステナブルシティ」が備えるべき要素とは

第1回(本誌2020年7月号掲載)で述べたように、サステナブルシティとは「未来に残したい持続可能な都市/まち」です。つまりサステナブルシティは、人の集まりである普通の「都市/まち」を超えて、まさにそれ自体が一つの生命であるかのように将来に向かって自己変革をしていく「都市/まち」だということです。

このように考えれば、「在るべきサステナブルシティ」が備えるべき要素は、私たち人間を含む「生命」が備えている要素と似たものになるでしょう。

そこでまず挙げられるのは、細胞が日々生まれ変わるように、古いものを新しくする「イノベーション(技術革新)」たる要素です。

そして、多様でありながら全体でみれば対立せず協力し循環している「エコシステム」や、何らかの社会課題が生じたときに自らそれを修復・解決できる「自己修復機能」も求められる要素です。

さらに、自然災害などの外部環境の変化に耐えられる「レジリエンス」も必要となるでしょう。

しかし、これらの四つの要素は普通の「都市/まち」には備わっていません。このような要素を「都市/まち」の機能として組み込むためには、政策的な面において意図的なアクションが必要となります。

それではどのようにして、これらの要素を備えた「在るべきサステナブルシティ」を実現するのでしょうか。
 

Ⅲ 実現するために越えなければならない四つの関門

1. 冷徹な現状分析

「在るべきサステナブルシティ」の実現に向けた最初のステップ(関門)は、現状の「都市/まち」が抱えている課題・問題を精確に把握することです。

これは、表層に現れてきている課題をすくいとることではありません。それは単なる現象にすぎず、問題の本質が深層に隠れている可能性が十分にあります。政策決定者、自治体幹部や関係者だけにとどまらず、現場で業務に従事する職員や施設等の利用者、自治体業務の受注者にも広く意見を聴取して、今何が起こっているのかをつぶさに確認することが求められます。

場合によっては、全くその自治体とは関係のない「ヨソモノ」の忌憚(きたん)ない意見を聴くことも有益ではないでしょうか。

また、サステナブルシティを実現しようとすると、さまざまな利害関係者が多方面にわたって登場します。現状の課題を利害関係者で共通認識化しなければなりません。同床異夢や群盲象をなでるような状態では、その後のアクションがちぐはぐなものになってしまうことになりかねません。

そして、認識だけではなく「分析」も必要となります。多くの公共施設や公的組織は、サービスの提供をもって完結しがちですが、そもそも現状が住民の満足度をどの程度満たしているのかを計測する行為が必要となります。さらにその計測した数値が望むべき水準を超えているかどうかを判断するためには、水準の設定もしなければなりません。

2. 大胆な将来構想

現状分析をした後は、「在るべきサステナブルシティ」の具体像を「構想(ビジョン)」として公に示すことが必要です。しかしながら、この「構想」は現状の延長線上に作り上げるものではなく、将来の目線で作り上げなければなりません。現状の目線で将来を語ってしまえば、すぐにそれは陳腐化してしまい、「在るべきサステナブルシティ」とは程遠いものになります。最悪の場合は負の遺産(レガシー)として後世の人たちに迷惑をかけるかもしれません。

そのような将来構想を検討するにあたっては、「来し方と行く末」が一つのキーワードになるのではないでしょうか。「来し方から考える」というのは、わが国がこれまでの歴史を踏まえて作り上げてきた慣習や文化、考え方に即して違和感のないものかという観点です。

そして「行く末を考える」というのは、現在の世界を取り巻くグローバルアジェンダをきちんと理解するということです。21年現在のグローバルアジェンダとはまさに「シンデミック※」の具現化だといえるでしょう。気候変動、新型コロナウイルス蔓延(まんえん)による被害および生活環境の激変、資本主義の暴走による経済格差・貧困化等々、これらは独立して発生したものではなく相互密接に相関し因果していることを念頭に置くことが求められます。このようなグローバルアジェンダから、どのような「構想」を立ち上げるのかについてのヒントを得られるのではないでしょうか。

3. 意欲的な推進体制

(1) シュタットベルケモデルの活用

大胆な将来構想を示した後は、この構想を実現するための推進体制の構築が次なる関門として待ち構えています。

この関門は厳しく、従来の公共の論理からの脱却なくして乗り越えることはできないでしょう。多くの公共的組織は、予算主義や調達ルールの制約によって多様な人材を柔軟に採用することができません。また、公共ならではの無謬(むびゅう)性の観点から、失敗を極端に恐れ、前例や明確な根拠なくして前に進むことを躊躇(ためら)います。

しかし、悪いのは、前に進むことではなく、公益性・公共性を担保する仕組みを欠いたまま前進することではないでしょうか。

「在るべきサステナブルシティ」を実現しようとするならば、ゴールに向けて歩みを止めずに推進し、多様な人材を集め、必要な利害調整を円滑かつスムーズに行うことができて、小さなつまずきをその都度軌道修正できるような「体制」構築が必要です。

このような柔軟性・機動力のある体制構築のためには、強いリーダーによる強いリーダーシップが発揮できる「器」が前提となります。第3回(本誌20年11月号掲載)でも紹介した「シュタットベルケ」のモデルを日本でも導入すること、それが一つのアプローチになると考えています。

(2) 新領域・新手法・新参者による官民連携の展開

「構想」の実現には、官民連携を大きくアップデートすることも必要です。

まず、新しい「器」を使いながら新しい人材を公共の世界に取り込んでいくために、公共による外延を外側へ大きく広げていくことが必要になります。すなわち、これまでのハードインフラ(公共施設)の官民連携をソフトインフラに拡張して、公共交通システムや情報データ、健康・ヘルスケア、教育や防災といった分野にもPPPを浸透させることが一つの解になります。

また、官民連携の手法も洗練化する必要があります。現在の主流でもあるコンセッション方式は、自治体の負担を限定しつつ民間に収益機会を提供することで大きな広がりを見せました。しかし新型コロナウイルス感染拡大で露呈した収益の不確実性リスクにより、コンセッション方式万能論には影が差そうとしています。見えないリスク・取れないリスクの取扱いをアップデートする新しい官民連携の手法も求められています。

そして、新しい登場人物も肝要です。これまで官民連携の分野に姿を現してこなかった民間事業者の参画を促すことが必要となるでしょう。彼らが持つ新しい発想や破壊的な技術が、官民連携を一歩先へ進める可能性が十分にあります。

総じて重要なのは、官民の枠組みにとらわれすぎないということです。「公益というものは、常に国家・自治体がこのように担わなければならない」という固定観念をいち早く捨て去り、「果たせる者がそれを果たせる仕組み」を作り上げるべきではないでしょうか。言うまでもなく、このことは100年前の後藤新平や渋沢栄一を顧みる「来し方」の視点です。

4. シン・パブリックガバナンス

意欲的な推進体制を構築し、まさに「在るべきサステナブルシティ」の実現に向けて歩みを進めようとするとき、最後の関門として乗り越えるべきは、どのようにガバナンスを利かせるかというものです。

ここで私たちは、現状の「事前統制型」のガバナンスではなく、柔軟性・機動力を許容しつつも公共性の根幹をゆるがせにしない、新しいパブリックガバナンスの形を提唱します。

柔軟性や機動力、多様な人材を獲得したとしても、公共性の維持を「事前監視」してしまえば、せっかくのポテンシャルは発揮できません。これまでの統制が「事前」に偏りがちだったのは、行動の結果の当否を適切に判断できる指標と能力が不十分だったからではないかと推測します。

公共的活動の事後的評価指標や方法は、既に第8回(本誌21年7月号掲載)で説明したPFSの仕組みや第9回(本誌21年8月・9月合併号掲載)で説明したPV(パブリックバリュー)を活用することで実現が可能だと考えています。そして、そのための仕組みとして、例えば、専門家等を活用する外部モニタリング機関を設置し透明性の高いガバナンスを実施することで、「公共性を維持していることの見える化」を行うことが考えられます。

このような取組みによって、新しいパブリックガバナンス、そして真のパブリックガバナンスが実現できるのではないでしょうか。
 

Ⅳ おわりに

「サステナブルシティ」が帯びる理想像は魅力的である一方、本稿で提唱した、その実現に至るまでのアプローチは険しく、従来の公共の論理とは離れており、実行もまた容易(たやす)いものではないかもしれません。

しかし、理想は常に「狭き門」から入るものといわれます(マタイによる福音書7章13-14節)。滅びに通じる門は広く、その道も広々としています。

私たちの目の前には広々とした道もあるでしょう。それでも私たちは、在るべき公共経営・「サステナブルシティ」の実現のためには、新しいパブリックガバナンスをはじめとする本稿で述べたアプローチが最適解であり、それこそが「狭き門」であると信じています。

※ 「シナジー(相乗効果)」と「エピデミック(疫病の流行)」を合わせた言葉で、人々が二つ以上の病気を同時に発症し、それらが相互作用することで病状が悪化し、さらに「社会的・環境的要因」によってそれが助長され、そして拡大・流行することをいう。20年9月、英国の医学雑誌『The Lancet』で、同誌の編集長でロンドン大学衛生熱帯医学大学院名誉教授のリチャード・ホートン氏が提唱。


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