EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
獨協大学 法学部教授 高橋 均
一橋大学博士(経営法)。獨協大学法科大学院教授を経て現職。プロアクト法律事務所顧問。独立社外監査役を兼任。専門は、商法・会社法、金商法、企業法務。法理論と実務面の双方からアプローチをしている。近著として『監査役監査の実務と対応(第8版)』同文舘出版(2023年)、『グループ会社リスク管理の法務(第4版)』中央経済社(2022年)、『監査役・監査(等)委員監査の論点解説』同文舘出版(2022年)、『実務の視点から考える会社法(第2版)』中央経済社(2020年)。
監査役は取締役以下執行部門から法的に独立していると言われます。しかし、会社法の条文に、監査役は執行部門から法的に独立していると明記されているわけではありません。会社法の規定上、監査役の独立性の根拠とされているのは、①取締役とは別の議題・議案として株主総会で選・解任されること(会社法329条1項・339条)、②定款でその額を定めていないときは、取締役とは別の議題・議案として株主総会で報酬が決議されること(同法387条1項)、③会社や子会社の取締役や使用人の兼務は不可であること(同法335条2項)、④監査役の任期は、取締役と異なり4年であること(同法336条1項)、⑤監査役の株主総会への選任議案の提出の際は、監査役(会)の事前の同意が必要であること(同法343条1項)、⑥取締役に対して、監査役の選任議案を株主総会の議題とすること、及び監査役の選任議案を株主総会に提出することを請求できること(同法343条2項)、⑦監査役の選任・解任・辞任について、監査役が株主総会で意見陳述権を持っていること(同法345条4項・1項)、⑧監査役の報酬について、株主総会において監査役が意見陳述権を持っていること(同法387条3項)があります。監査役の執行部門からの独立性を示すこれら規定について、必要に応じてその権限を適切に行使することが重要となります。
本稿では、監査役の独立性規定の中で、監査役自身にとっても関心が高いと思われる監査役の任期の問題について、論点を整理した上で実務的な課題や立法論について検討します。
監査役の4年の任期(厳密には、「選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の時まで」であり、以下、便宜的に「4年」と表記)については、その任期を取締役のように定款で短縮したり、株主総会での決議によって短縮したりすること(会社法332条1項ただし書)は、法的に許されません。取締役の任期は、定款等で短縮されていなければ2年ですので、監査役の法定任期は取締役の2倍ということになります。しかも、この法定任期は、取締役の任期のように短縮できると定めていませんので、4年間は人事異動を気にすることなく、腰を据えて職務を行うことが可能という監査役の地位を強化する立法趣旨となります。すなわち、取締役の職務執行を監査する(会社法381条1項)職責のある監査役が、事業部門への事業報告請求権や業務・財産状況調査権(同条2項)を行使してさまざまな指摘を行った結果、取締役が快く思わないで監査役を交代させようとしたら、監査役が取締役に対して不必要な忖度(そんたく)をしたり、適切な意見表明を躊躇(ちゅうちょ)したりするなどの事態が生じる可能性があります。定款においても短縮できない監査役任期4年の法定化は、実効的な監査活動を行うために監査役としての身分保障を確保し、かつ地位の独立性の毀損(きそん)を防止する立法趣旨です。
ちなみに、平成14年の商法改正で創設された指名委員会等設置会社(当時は委員会等設置会社と呼称)の取締役監査委員の任期は1年、平成26年の会社法改正で創設された監査等委員会設置会社の取締役監査等委員の任期は2年となっており、監査役と同様に取締役の職務執行を監査する職責でありながら、その任期は異なっています。取締役監査委員の任期は、監査委員以外の取締役の任期と同じですが、取締役監査等委員の場合は、監査等委員以外の取締役の任期の1年と比較して2倍となっています。立案担当者の解説によると、監査等委員会の監査機能及び監督機能の実効性を確保するため、その身分保障を強化する一方で、取締役会の構成員として業務執行の決定に関与することから、株主総会での選任を通じた株主による監督を受ける頻度は、監査役より多くする必要がある(坂本三郎編著『一問一答・平成26年改正会社法〔第2版〕』商事法務(2015年)33ページ)ということです。したがって、監査等委員以外の取締役は、指名委員会等設置会社の取締役と平仄(ひょうそく)を合わせる一方で、監査等委員だけは、2倍の任期としたことになります。この点、監査役と監査等委員の任期の長さは異なるものの、身分保障の観点としては、同様の趣旨と解されます。一方、監査委員の任期は、他の取締役の任期と同様1年で統一されていますが、監査委員の選任は、社外取締役過半数から構成される指名委員会で取締役としての選任議案内容の決定が行われることから、監査役や監査等委員と異なり代表取締役が人事権を行使する余地が少ないため、身分保障の観点が薄れていることによるものと考えられます。
一方、監査役の任期についての課題として以下の点があります。
第1の課題は、4年の任期未満の退任でも罰則規定がないことです。監査役が病気その他の事情によって、自ら退任を申し出た場合はともかく、代表取締役等から不本意ながら退任を促されることもあります。もっとも、役員定年を定めている会社では、例えば、2期目の途中で役員定年に到達する場合に、2期目の任期途中で退任することはあり得ると思います。もちろん、監査役が監査役としての善管注意義務を果たさず、任務懈怠(けたい)が明らかであれば、会社としては監査職務を委任している立場から、任期途中であっても、監査役に退任を求めることは理にかなっています。一方で、特に問題なく監査職務を行っている監査役に対して、代表取締役等が監査役に退任を求めることは、監査役の人事権を実質的に、代表取締役が掌握していることとなり、海外の機関投資家等がわが国の監査役制度に疑念を生じる理由の1つとなっています。しかし、代表取締役としては、一連の役員人事の一環として、監査役の職歴から子会社の取締役に就任してもらいたいと考えたり、役員定年との関係で、昇任時期に来ている執行役員や部長クラスを監査役ポストに就かせたいと考えたりしている場合に、現任の監査役に退任を求めるケースがあります。前者の監査役後のポストが監査役にとっても魅力的なものであれば、監査役として抵抗感はないと思いますが、例えば監査役就任のわずか1年後であったとしたら、代表取締役が考えている人事異動が優先されているとの評価となります。
他方、監査役が不本意な退任を迫られたときの対抗措置としては、直接的には、解任され、または辞任した監査役として株主総会での意見陳述権(前掲⑦の会社法345条4項・1項)を利用することとなります。すなわち、監査役として不本意な解任・辞任であることについて、理由を含めて株主に対して説明することが可能です。多くの株主総会では、委任状を含めて議決の賛否があらかじめ決まっていることが多いので、退任人事を覆すことは困難であったとしても、代表取締役からの安易な退任の強要に対する一定の抑止効果はあり得ます。間接的な対抗措置としては、監査役の選任議案に対する同意権(前掲⑤の会社法343条1項)の活用があります。監査役が退任するに当たり、執行部門としては、監査役の員数が減少しても後任が不必要の場合以外は、株主総会で監査役候補者の議題・議案を提案しなければなりません。監査役の候補者に対して、現任の監査役(会)が同意権を持つということは、いわゆる拒否権を持つことになります。監査役(会)が代表取締役から提案された候補者に同意しなければ、別の候補者を監査役(会)に提案しなければなりません。もっとも、退任させられる監査役一人が同意しなくても、監査役の選任議案については監査役(会)過半数の同意要件となっているので、退任を迫られた監査役としては、他の監査役に理解を求め、同意しないことに共同歩調を取ってもらう必要があります。
なお、任期途中での退任に罰則規定を設けるべきとの意見もあるかもしれませんが、罰則規定を設けると、監査役の人事そのものがさらに硬直的になること、監査役の退任については、会社側の事情ばかりでなく対外的に開示できない個人的な事情もあると思われるので、罰則規定を設けることは現実的ではないと考えます。
第2の課題は、任期に関する柔軟性がなく硬直的なことです。取締役の任期は、定款又は株主総会の決議で短縮することが可能で、事実多くの会社で取締役の任期を1年としています。取締役の任期を1年とした方が人事異動や剰余金の分配等で柔軟な会社運営を行うことができるメリットがあるからです。一方で、監査役の任期は、会社のニーズによって柔軟に設定できる法規定はありません。監査役の4年任期は執行部門からの法的独立及び身分の保障という立法趣旨があることから、会社全体としてみれば、監査役を役員人事の一環として監査役退任後のポストも見据えて、監査役に就任を要請するということもあり得るところです。したがって、監査役の選任に関しては、具体的な人選の選択肢がかなり狭められたものとなっているのが現状です。特に、4年の法定任期を遵守する意識が高いガバナンス上の上位クラスの会社であればあるほど、この傾向が顕著に表れてきます。それまでの職歴から、監査役就任の2年後はコーポレート部門の役付執行役員や取締役に推挙したいと代表取締役が考えたとしても、4年任期がネックとなって監査役候補者にできないということもあり得ます。このような状況を踏まえると、監査役にも、取締役と平仄を合せて、定款に定めたときは任期短縮が可能となる立法化は検討の価値があると思います。実際の運用として、監査役が法定期間より短期間で異動するときには、会社側から株主総会でその合理性を説明するとともに、監査役からも株主に対して執行部門に対する措置についての所感を述べる機会が付与されることが考えられます。
監査役に就任する際に、監査役にとって任期と報酬は、監査役就任中はもちろんのこと、その後の人生設計にも関係することから、関心が高いものと思われます。しかし、法制度的には、取締役の任期及び報酬と比較して、かなり硬直的で柔軟性を欠くものとなっています。また、株主総会における選任等に対する意見陳述権や監査役候補者に対する同意権についても、それを実際に行使する際には、その合理性や正当性がなければ、執行側からは監査役の独善であるとの批判も受けかねないことから、監査役としても権利の行使を慎重に見極めた上で、実行するか否かを判断する必要があります。意見陳述権等は、監査役に対して法的に定められた権限であることから、必要に応じて行使すればよいではないかとの意見もありますが、本人にとっては、現実的にはそれほど簡単なことではないと推認されます。
前述したように、監査役任期の柔軟性を確保する立法化を検討する一方で、監査役としては、就任時に代表取締役との意見交換において、監査役として期待されていることなどと併せて、任期の問題についても率直に意見交換を行い、役員人事の一環等を理由として任期途中での退任もあり得るか否か、あらかじめ質疑の機会を持つことは大切なことと考えます。
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