EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 宮﨑 徹
品質管理本部 会計監理部において、日本の会計基準に係る会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、これまでリース業、製造業などの監査業務に従事。主な著書(共著)に『会社法決算書の読み方・作り方(第18版)』(中央経済社)がある。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 石川 仁
会計処理及び開示に関する相談業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、不動産業や機械製造業の会計監査業務に従事している。
本稿では、2027年4月1日以後開始する年度から原則適用(2025年4月1日以後開始する年度から早期適用可)となる企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下、リース会計基準)及び企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下、リース適用指針。また、「リース会計基準」と「リース適用指針」を合わせて、「リース会計基準等」)における貸手の会計処理及び開示について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめ申し添えます。
リース会計基準等は、国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下、IFRS第16号)及び米国財務会計基準審議会(FASB) Accounting Standards CodificationのTopic 842「リース」(以下、Topic 842)の公表により、現行のリース取引に係る会計基準である企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、企業会計基準第13号)等と取扱いに特に差異が生じていた借手の負債認識に関して、国際的な比較可能性を高めるために、公表されました。この点、貸手の会計処理については、IFRS第16号及びTopic 842ともに抜本的な改正が行われていないため、次の点を除き、基本的に、企業会計基準第13号の定めを踏襲することとされています。
リース会計基準等の適用に当たっては、まずリースを識別する必要がありますが、リースの定義及び識別については借手と貸手で同様の定めとなっているため、本稿では触れません。詳細は借手の会計処理及び開示を解説した情報センサー2024年12月「新リース会計基準の概要の解説」をご参照ください。
貸手のリース期間の決定については、継続して適用することを条件として、<表1>にあるいずれかの方法を選択することとされています。(1)の方法はIFRS第16号と整合的な方法ですが、借手による延長オプション又は解約オプションの行使可能性が合理的に確実か否かを評価することができる場合に借手のリース期間と同様に決定することを妨げる特段の理由がない等の理由から、(1)の方法も選択可能とされました。一方、(2)の方法は企業会計基準第13号のリース期間の定めを踏襲した方法です。
(1)借手のリース期間と同様に決定する方法
(2)借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間(事実上解約不能と認められる期間を含む)にリースが置かれている状況からみて借手が再リースする意思が明らかな場合の再リース期間を加えて決定する方法
なお、(2)の方法に関して、リース会計基準では、日本における再リースの一般的な特徴として、「再リースに関する条項が当初の契約において明示されており、経済的耐用年数を考慮した解約不能期間経過後において、当初の月額リース料程度の年間リース料により行われる1年間のリースであることが挙げられる」とされています。
また、リースが置かれている状況からみて借手が再リースする意思が明らかか否かを考慮するに当たって、借手のリース期間におけるオプションの行使可能性と同レベルの評価は求められないと考えられます。
貸手の会計処理については、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除き、基本的に企業会計基準第13号の定めが踏襲されています。このため、借手と異なり、貸手においては、引き続きリースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類することとなります。
ファイナンス・リースの定義(<表2>参照)やフルペイアウトの具体的な判定方法(<表3>参照)については、企業会計基準第13号の定めが踏襲されています。
ファイナンス・リースとは、次の(1)及び(2)のいずれも満たすリースをいう。
(1) 契約期間の中途において当該契約を解除することができないリース又はこれに準ずるリース(解約不能のリース)
(2)借手が、原資産からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該原資産の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース(フルペイアウトのリース)
次の(1)又は(2)のいずれかに該当する場合には、ファイナンス・リースと判定される。
(1) 現在価値基準
貸手のリース料(リース会計基準第23項)の現在価値が、原資産の現金購入価額の概ね90%以上であること
(2) 経済的耐用年数基準
貸手のリース期間(リース会計基準第16項)が、原資産の経済的耐用年数の概ね75%以上であること(ただし、原資産の特性、経済的耐用年数の長さ、原資産の中古市場の存在等を勘案すると、現在価値基準の判定結果が90%を大きく下回ることが明らかな場合を除く)
また、ファイナンス・リースについては、<表4>のいずれかに該当する場合、所有権移転ファイナンス・リースに分類し、いずれにも該当しない場合、所有権移転外ファイナンス・リースに分類することになります。この点についても企業会計基準第13号が踏襲されています。
以下(1)から(3)のいずれかに該当する場合、所有権移転ファイナンス・リースに分類する。
(1) 契約上、契約期間終了後又は契約期間の中途で、原資産の所有権が借手に移転することとされているリース
(2) 契約上、借手に対して、契約期間終了後又は契約期間の中途で、名目的価額又はその行使時点の原資産の価額に比して著しく有利な価額で買い取る権利(割安購入選択権)が与えられており、その行使が確実に予想されるリース
(3) 原資産が、借手の用途等に合わせて特別の仕様により製作又は建設されたものであって、当該原資産の返還後、貸手が第三者に再びリース又は売却することが困難であるため、その使用可能期間を通じて借手によってのみ使用されることが明らかなリース
貸手のファイナンス・リースについて、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行うとされている点は、企業会計基準第13号と同様です。一方、収益認識会計基準において対価の受取時にその受取額で収益を計上することが認められなくなったことを契機としてリースに関する収益の計上方法を見直した結果、企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、企業会計基準適用指針第16号)で定められていた3つの方法のうち、「リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法」(いわゆる第2法)は廃止されることとなりました。
リース適用指針では、貸手の基本となる会計処理について、<表5>のとおり定めています。
表5 ファイナンス・リースの基本となる会計処理
*1 ただし、売上高と売上原価の差額(以下、販売益相当額)が貸手のリース料に占める割合に重要性が乏しい場合は、原資産の帳簿価額(付随費用がある場合はこれを含める)をもって売上高及び売上原価とし、販売益相当額を利息相当額に含めて処理することができる。
*2 ただし、当該売却損益が貸手のリース料に占める割合に重要性が乏しい場合は、当該売却損益を利息相当額に含めて処理することができる。 |
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リース会計基準等では、利息相当額の各期への配分に関して、原則的な取扱い及び簡便的な取扱いのいずれも現行と同様の取扱いとすることとされています(<表6>参照)。
表6 貸手の利息相当額の配分方法
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貸手のオペレーティング・リースについては、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行うとされ、貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で収益に計上することとされています。ただし、貸手のリース期間について、<表1>の(2)の方法を選択して決定する場合に当該貸手のリース期間に無償賃貸期間が含まれるときは、貸手は、契約期間における使用料の総額(ただし、将来の業績等により変動する使用料を除く)について契約期間にわたり計上することとされています。
なお、上記の無償賃貸期間には、いわゆるフリーレント※1(契約開始当初数カ月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項など)が含まれます。
例えば、リース期間3年のうち当初6カ月の賃料が無償で、残り2年6カ月は毎月12のリース料が発生するケースでは、3年間のリース料合計360(=12×30カ月)をリース期間36カ月で割ると10となるので、リース期間を通じて毎月10を収益に計上することになります(<図1>参照)。
図1 フリーレント期間がある場合
※1 現行の実務においても、フリーレント期間がある場合には、リース料総額についてフリーレント期間を含む契約期間にわたって均等に按分して収益を認識していることが多かったと考えられるが(会計制度委員会研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)-IAS第18号『収益』に照らした考察-」のケース48参照)、リース適用指針においてフリーレントの取扱いが明確化された。
リース会計基準等では、「サブリース取引」とは、原資産が借手から第三者にさらにリースされ、当初の貸手と借手の間のリースが依然として有効である取引と定義されています。また、当初の貸手と借手の間のリースを「ヘッドリース」、ヘッドリースにおける借手を「中間的な貸手」、中間的な貸手と第三者の間のリースを「サブリース」と定義した上で、サブリース取引について、IFRS第16号と同様にヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行うこととされています(<図2>参照)。
リースを事業の一環として行っている貸手においては、その事業の一形態としてサブリース取引を行っていることも考えられるため、貸手を中心としている本稿において解説します。
図2 サブリース取引の基本的な会計処理
IFRS第16号においては、本会計処理に対する例外は設けられていませんが、リース会計基準等では、サブリース取引の例外的な定めとして、「中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合」の取扱いと「転リース取引」の取扱いを定めています。
中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合については、<表7>のとおり、一定の要件を満たした場合に例外的な会計処理ができるとされています。
これは、我が国の不動産取引において、法的にヘッドリースとサブリースがそれぞれ存在する場合であっても、中間的な貸手がヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行い、貸借対照表において資産及び負債を計上することが取引の実態を反映しない場合があるとの意見が聞かれたことを受けて、ASBJで審議された結果、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で、我が国における例外的な取扱いを定めることとされたものです。
表7 中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合の要件及び会計処理
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転リース取引とは、サブリース取引のうち、ヘッドリースの原資産の所有者から当該原資産のリースを受け、さらに同一資産を概ね同一の条件で第三者にリースする取引とされています。企業会計基準適用指針第16号における転リース取引の取扱いについては、主に機器等のリースについて仲介の役割を果たす中間的な貸手の会計処理として実務に浸透しているため、<表8>のとおり、リース会計基準等では、当該取扱いをサブリース取引の例外的な取扱いとして、企業会計基準適用指針第16号の定めを変更せずに認めることとされています。
表8 転リースの要件及び会計処理
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貸手の会計処理について、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除き、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲しており、貸手の表示についても、<表9>のとおり、企業会計基準第13号を踏襲しています。
表9 貸手の表示
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開示目的を定めることで、リースの開示の全体的な質と情報価値が開示目的を満たすのに充分であるかどうかを評価することを企業に要求することになり、より有用な情報が財務諸表利用者にもたらされると考えられるため、リースに関する情報を注記するに当たっての開示目的(借手又は貸手が注記において、財務諸表本表で提供される情報と併せて、リースが借手又は貸手の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示すること)を定めています。
貸手の会計処理について、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除き、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲することとしたため、貸手の注記事項についても、企業会計基準第13号の定めを踏襲することが考えられました。
しかし、貸手の会計処理を基本的に変更しないとしても、国際的に貸手の注記事項が拡充する中で貸手の注記事項を拡充すべきであるとする財務諸表利用者を中心とした意見があったこと、リースの収益に関連する注記事項は、リースを本業とする企業などのリースが財務諸表に重要な影響を与える企業において重要な情報とあると考えられ、リースを適用対象外としている収益認識会計基準では、重要性のある収益に関する情報を注記することを企業に求めており、リースに関する収益が収益の一形態であることを考慮すれば、収益認識会計基準と同様の注記を求めることが有用と考えられること、収益認識会計基準と同様の内容ではないもののIFRS第16号で求められている注記事項についても、企業会計基準第13号に同様の定めがあり、リース料の支払いが通常分割して行われることを考慮した際に将来のリースのキャッシュ・フローの予測と流動性の見積りをより正確に行うことを可能とする観点で有用な情報を適用すると考えられることから、貸手の注記事項について、IFRS第16号と整合的なものとしています。
開示目的を達成するため、貸手のリースに関する注記として、<表10>の事項を注記します。
表10 貸手の注記事項
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<表10>の貸手の注記事項について、現行の企業会計基準第13号等の注記事項との主な相違点をまとめると<表11>のとおりです。
表11 現行の企業会計基準第13号等の注記事項との主な相違点
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連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、貸手の注記のうちの「リース特有の取引に関する情報」及び「当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報」について注記しないことが認められています。
開示に関して、リース会計基準等に基づく連結財務諸表における開示の定めと個別財務諸表及び中間財務諸表との関係は、<表12>のとおりとなります。
表12 連結財務諸表における開示の定めと個別財務諸表及び中間財務諸表との関係
*2 連結財務諸表を作成している場合、注記しないことができる(リース適用指針第110項)。
*3 企業(集団)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適切に判断するために重要な事項となる場合には、中間会計基準においてその他の事項として注記が求められる。 |
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リース会計基準等では、会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間すべてに遡及適用します。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとの経過措置が定められています。
この経過措置を適用する場合、貸手は、適用初年度においては、リース会計基準第55項の貸手の注記は比較情報に記載せず、企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号に定める事項を記載することとなります。
貸手の経過措置は具体的には<表13>のとおりに定められています。
表13 主な貸手の経過措置
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