グローバル・ミニマム課税制度に係る当期税金の会計上の取扱い

グローバル・ミニマム課税制度に係る当期税金の会計上の取扱い


情報センサー2025年3月 会計情報レポート


EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 兼 会計監理部 公認会計士 大竹 勇輝

IFRS並びに日本基準に関する会計処理及び開示に関する相談業務、研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。ファンド事業などの会計監査業務にも従事している。


Ⅰ はじめに

本稿では、日本において2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されるグローバル・ミニマム課税制度並びに日本以外の国・地域でグローバル・ミニマム課税における軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)が課せられる場合の会計上の取扱いや実務上のポイントについて解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。


Ⅱ グローバル・ミニマム課税制度の概要

1. 制度の概要

2021年10月に経済協力開発機構(OECD)/主要20カ国・地域(G20)の「BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework on Base Erosion and Profit Shifting)」において、当該枠組みの各参加国により第1の柱「市場国への新たな課税権の配分」とともに、第2の柱「グローバル・ミニマム課税」について合意が行われました。

グローバル・ミニマム課税は、法人税の国際的な引下げ競争に歯止めをかけ、税制面における企業間の公平な競争条件を確保するため、国際的に合意されたものであり、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等の国別の利益に対して最低15%の法人税を負担させることを目的としています。

また、当該課税ルールには、所得合算ルール(Income Inclusion Rule〈IIR〉)、軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule〈UTPR〉)及び国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax〈QDMTT〉)の3つのルールがあります。これらのルールの具体的な内容及びイメージは<図1>に記載のとおりです。

図1 グローバル・ミニマム課税制度の3つのルールのイメージ

図1 グローバル・ミニマム課税制度の3つのルールのイメージ

出所 :内閣府 第21回 税制調査会(2022年11月4日)「財務省説明資料〔国際課税〕」www.cao.go.jp/zei-cho/content/4zen21kai1.pdf、42ページ(2025年2月17日アクセス)


2. 日本の状況

日本においては、2023年3月28日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第3号)において、グローバル・ミニマム課税制度が創設され、前述の3つのルールのうちIIRに係る取扱いが規定されています。ただし、UTPR及びQDMTTに係る取扱いについては、令和7年度の税制改正での法制化が予定されています。
 

3. 海外の状況

海外においても、グローバル・ミニマム課税制度に関するルールの法制化が進んでいます。2025年2月5日時点において、既に法制化されている法域は<表1>のとおりです。


表1 グローバル・ミニマム課税制度に関するルールが法制化されている法域

法域

対象のルール

法域

対象のルール

オーストラリア

QDMTT・IIR・UTPR

ケニア

QDMTT

オーストリア

QDMTT・IIR・UTPR

クウェート

QDMTT

バハマ

QDMTT

リヒテンシュタイン

QDMTT・IIR・UTPR

バーレーン

QDMTT

ルクセンブルク

QDMTT・IIR・UTPR

バルバドス

QDMTT

マレーシア

QDMTT・IIR

ベルギー

QDMTT・IIR・UTPR

モーリシャス

QDMTT

ブラジル

QDMTT

オランダ

QDMTT・IIR・UTPR

ブルガリア

QDMTT・IIR・UTPR

ニュージーランド

IIR・UTPR

カナダ

QDMTT・IIR

北マケドニア

QDMTT・IIR・UTPR

クロアチア

QDMTT・IIR・UTPR

ノルウェー

QDMTT・IIR

キプロス

QDMTT・IIR・UTPR

オマーン

QDMTT・IIR

チェコ

QDMTT・IIR・UTPR

ポーランド

QDMTT・IIR・UTPR

デンマーク

QDMTT・IIR・UTPR

ポルトガル

QDMTT・IIR・UTPR

EU

QDMTT・IIR・UTPR

カタール

QDMTT

フィンランド

QDMTT・IIR・UTPR

ルーマニア

QDMTT・IIR・UTPR

フランス

QDMTT・IIR・UTPR

シンガポール

QDMTT・IIR

ドイツ

QDMTT・IIR・UTPR

スロバキア

QDMTT

ジブラルタル

QDMTT・IIR

スロベニア

QDMTT・IIR・UTPR

ギリシャ

QDMTT・IIR・UTPR

南アフリカ

QDMTT・IIR

ガーンジー

QDMTT・IIR

大韓民国

IIR・UTPR

ハンガリー

QDMTT・IIR・UTPR

スペイン

QDMTT・IIR・UTPR

インドネシア

QDMTT・IIR・UTPR

スウェーデン

QDMTT・IIR・UTPR

アイルランド

QDMTT・IIR・UTPR

スイス

QDMTT・IIR

マン島

QDMTT・IIR

タイ

QDMTT・IIR・UTPR

イタリア

QDMTT・IIR・UTPR

トルコ

QDMTT・IIR・UTPR

日本

IIR

英国

QDMTT・IIR

ジャージー

IIR

ベトナム

QDMTT・IIR


Ⅲ グローバル・ミニマム課税制度に係る当期税金の取扱い

日本では、IIRの取扱いが2024年4月1日以後開始する対象会計年度から適用されるため、ASBJより2024年3月22日に実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、実務対応報告第46号)が公表されています。また、前述のとおり、日本以外の一部の国では、すでにUTPRやQDMTTの取扱いが法制化されていることから、当該状況も踏まえて、実務対応報告第46号の内容及び考え方が2025年3月期決算に与える影響を解説します。

1. 会計処理

実務対応報告第46号では、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り、損益に計上することとされています。

ただし、特にグローバル・ミニマム課税制度の適用初年度については、当該制度の特徴から、当該制度に係る法人税等の見積りが困難であるため、適用初年度において従来の財務諸表の作成にあたって入手している以上の情報を入手できない場合に考えられる見積りの例が、ASBJより、補足文書「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する見積りについて」(以下、補足文書)として公表されています。当該見積りの例については<表2>のとおりです。
 

表2 適用初年度において情報の入手が困難な場合の会計上の見積りの例

ケース①

対象範囲の判定を行うに際して、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手していない国別報告事項*に関する情報や恒久的施設等及び特殊な会社等に関する情報を適時に入手することができない場合には、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の情報のみに基づき国別実効税率を算定する等の方法により対象範囲の判定を行う。

ケース②

子会社等におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の算定に際して、個別計算所得等の金額及び調整後対象租税額並びに給与適用除外額及び有形資産適用除外額の算定において必要な情報について、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手しておらず対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度の決算時において適時に入手することができない場合には、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の会計数値に基づき当該金額を見積る。

* 国別報告事項とは、特定外国籍企業グループの構成会社等の事業が行われる国又は地域ごとの収入金額、税引前当期純利益の額、納付税額その他の財務省令で定める事項をいうとされている(租税特別措置法第66条の4の4第1項)。


なお、それぞれのケースのイメージについては、<図2>及び<図3>のとおりです。

図2 適用初年度における見積り(ケース①)

図2 適用初年度における見積り(ケース①)
出所 :補足文書を基にEY作成

図3 適用初年度における見積り(ケース②)

図3 適用初年度における見積り(ケース②)
出所:補足文書を基にEY作成

2. 連結損益計算書及び個別損益計算書における表示

グローバル・ミニマム課税制度は、課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違する制度であることから、連結損益計算書における表示と個別損益計算書における表示について、<表3>のとおり、異なる取扱いを設けています。
 

表3 連結損益計算書及び個別損益計算書における表示

表示の取扱い

理由

連結損益計算書

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目(以下、法人税等を示す科目)に表示する

グローバル・ミニマム課税は多国籍企業グループ等の国別の利益に対して最低15%の法人税を負担させることを目的としており、連結財務諸表における税金等調整前当期純利益とグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等との対応関係を図る

個別損益計算書

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税等を示す科目の次にその内容を示す科目*をもって区分して表示するか、法人税等を示す科目に含めて表示し、金額の重要性が乏しい場合を除き、当該金額を注記する

  • 連結財務諸表と個別財務諸表とで表示区分が異なることが必ずしも財務諸表利用者に理解しやすい情報を提供しないと考えられたため、販売費及び一般管理費等の損益項目として表示せずに、税引前当期純利益の次に表示する
  • 課税の源泉となる各子会社等の個別計算所得等の金額は、親会社等における所得には該当しないため、他の法人税等と区別する

*「財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第95条の5第1項第2号及び様式第6号では、「国際最低課税額に対する法人税等」とされている。


3. 在外子会社においてUTPR及びQDMTTが生じている場合の取扱い

実務対応報告第46号では、日本において制度化されているIIRの取扱いを主として定めています。しかし、前述のとおり、日本以外の一部の国では、すでにIIRのみならず、UTPRやQDMTTの取扱いが法制化されており、在外子会社において、UTPRやQDMTTが課税されている場合があり、これらを連結損益計算書上どのように取り扱うか問題となります。

ここで、UTPRやQDMTTについても、グループの国別の利益に対して最低15%の法人税を負担させることを目的とするグローバル・ミニマム課税のルールのうちの1つであり、連結財務諸表上、税金等調整前当期純利益に関連する税金であると考えられます。

したがって、UTPRやQDMTTについても、実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」における当面の取扱いの適用の有無にかかわらず、実務対応報告第46号のIIRの取扱いと同様に、連結損益計算書上、法人税等を示す科目に表示することになると考えられます。


Ⅳ おわりに

グローバル・ミニマム課税は、OECDにおける国際的な合意の中で各国が法制化するものであることから、国によって当該課税制度の適用時期が異なる複雑なものとなっています。3月決算の会社については、日本におけるIIRの取扱いのみならず、在外子会社についてその所在地国でUTPRやQDMTTの取扱いが法制化している場合があり、適切な情報収集を行い、財務諸表作成時点において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を見積る必要があると考えられます。



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