ノートパソコンで作業する、ヘッドフォン姿の笑顔の女性

市民科学者は、地球を救うためにどのような活動をしているのか


私たちは皆、誰もが最先端の研究に参加し、答えを見いだし、真の発見に貢献することができます。


要点
  • 市民科学(シチズンサイエンス)を通じて、熱意のある個人が、重要な研究プロジェクトのデータ収集を加速している。
  • 大企業は、社員の参加、研究の進展を促進し、継続的に学ぶ文化を醸成する上で、中心的な役割を果たすことができる。
  • 科学的な画像を迅速に解読するAIの能力が人間の作業を補強することにより、市民科学者(シチズンサイエンティスト)はより複雑な分類作業に携わることができる。



EY Japanの視点

市民参加による自然科学の研究サポート

日本でも自然科学の研究に携わる、と聞くと一瞬身構えてしまう方が多いのではないでしょうか。

しかし、実際にはそのような必要はありません。自然科学の世界における観察、分析・研究のうち、特に動植物の生態を追う作業においては、画像データをひたすら確認し、判断していくような地道で根気のいる作業の積み重ねがあったりもします。限られた少人数の研究者だけではこの処理に膨大な時間がかかってしまうため、このようなときに一般からのサポートが大きく貢献することとなるのです。

近年では画像解析ツールがAIによって目覚ましく進化を遂げ、見るべき画像データの絞り込みや判断の補助もしてくれるため、格段に市民の参画が容易になっています。

研究者でもなく、文系であったとしても、自然科学の研究に携わり、学術に貢献する手段が実は存在することを、本記事を通してご理解いただきたいと思います。日本でも参加が増えることを期待しています。


EY Japanの窓口
茂呂 正樹
EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Environmental, Health & Safety (EHS) Leader, Nature Services APAC Regional Lead


毎年世界中で何百万人もの人たちが、市民科学プロジェクトで活動しています。科学界の専門家と熱心な一般市民との協力によって、市民はデータの収集、分析、解釈を中心に研究プロジェクトに貢献することができます。

市民科学プロジェクトの1つであるPenguin Watchでは、EYのメンバーや一般市民が、南極大陸全域でペンギンの成鳥、ヒナ、卵の画像にタグ付けを行います。これは、何百もの重要プロジェクトにおける人手不足を市民の協力によって解決する一例です。このパートナーシップは、市民科学者がもたらす多大な価値を浮き彫りにし、ペンギンの個体数、行動、生態系動態に関する洞察を得るためのデータ収集において、その規模とスピードを増幅させています。研究者はデータ分析をさらに掘り下げ、保全活動を加速させることで、ペンギンの生態系や、気候変動と人間の影響下での南極生態系の保全について理解を深めることができます。

しかし、そのメリットは科学的な進歩にとどまりません。市民科学の価値は研究チームにとってのものだけでなく、社会にも広がっています。参加者にとってこうしたプロジェクトは、科学とのつながりを深め、プロジェクトの枠を超えた新たな関心や機会を得るきっかけとなります。

マイクロソフトは、EYのグローバルな組織と共に、ザトウクジラの写真の分類で研究に貢献するSnapshots at Seaなどの市民科学プロジェクトに貢献しており、こうしたプロジェクトがもたらす支援や価値に賛同しています。「マイクロソフトにSnapshots at Seaに参加いただき、両社の社会的影響アジェンダにおける継続的な協力を推進できて光栄です。Snapshots at Seaのような市民科学プロジェクトは、テクノロジーを活用して積極的な環境活動を行うという両社の使命に合致しており、社員自身が関心のある分野に取り組むことを奨励しています」と、Ernst & Young U.S. LLP、Markets & Business DevelopmentのPartnerであるScot Studebakerは言います。

米国の成人のうち、市民科学に分類される活動に参加した経験がある人は26%に過ぎません1。しかし、調査によると、何らかのプロジェクトに有志として参加した市民科学者の77%が、その後、別のプロジェクトに参加し、多くの場合は複数の分野にまたがって参加しています2

Snapshots at Seaのような市民科学プロジェクトは、テクノロジーを活用して積極的な環境活動を行うという両社の使命に合致しており、社員自身が関心のある分野に取り組むことを奨励しています。

企業は社員の市民科学者としての活動を奨励

大企業は、この急成長する活動成長を促し持続させる中心的な力となっています。多国籍企業は、影響力のあるパートナー、ファシリテーター、サポーターとして、科学的発見のフロンティアを広げる革新的な協力関係を築きつつあります。

マンパワーを活用した研究プラットフォームであるZooniverseの主任研究員であるChris Lintott氏は、企業が市民科学者の募集に積極的に関与することで生まれる違いを目の当たりにしてきました。

「EYのようなグローバルな組織のおかげで、私たちの変革的な市民科学プロジェクトに幅広い関心を集めることができ、さらにこうしたプロジェクトと人々の生活との融合について、深く考えることにもつながりました。地球とその生態系、そして地球が属する宇宙を理解するために、地球上の誰もが有意義な貢献ができるようにするというのが私たちの目標ですが、この目標に向けたこうした企業の支援はかけがえのないものです」

同じくEY Allianceの一員であるSAPも、EYと共にZooniverseを通じて市民科学に貢献しています。「SAPは、EYのグローバルな組織とZooniverseに参加する機会を、どちらにとってもメリットのある関係だと捉えています。SAPの社員には、自身の関心がある分野に貢献するチャンスが与えられ、それが重要な研究の加速につながるのです」と、SAPのSenior Corporate Social Responsibility LeaderであるChelsey Lerdahl氏は言います。

SAPは、EYとZooniverseに参加する機会を、どちらにとってもメリットのある関係だと捉えています。SAPは社員自身が関心のある分野に貢献するチャンスを与えると同時に、重要な研究を加速させています。

企業と科学コミュニティとの協力体制が、研究の進展の原動力となり、継続的な学習や地域社会への貢献を重視するような労働文化を育みます。

ペンギンからイグアナまで、そしてその先へ!

2007年以来、EYのメンバーは市民科学の分野においてインパクトを与えています。Zooniverseのプロジェクトに参加したEYのメンバーは何万人にも上り、このプラットフォームはEYのCSR(企業責任)に関する取り組みの中でも最高のプログラム参加者数を記録しました。

過去3年間で、EYのチームメンバーはPenguin Watchをはじめとした、以下5つのZooniverseプログラムに参加しました。

  • Weather Rescue (完了):日誌を記録することを通じて、気候変動の理解を助ける
  • Invader ID(完了):外来種が新たに発生していないかを探す
  • Arctic Bears(完了):ワパスク国立公園でのホッキョクグマ、ハイイログマ、ツキノワグマの共存個体群の研究
  • Snapshots at Sea(完了):ザトウクジラの個体識別
  • Iguanas from Above(完了):絶滅危惧種であるガラパゴスウミイグアナの生息地を記録し、効果的な保護を支援

AIによって市民科学が不要になるのか?

市民科学の未来は、画像から科学データを読み解く人工知能(AI)による変革の可能性と相まって、さらに躍動すると考えられます。AIは、機械学習(ML)アルゴリズムとコンピュータビジョンの技術を使って、画像から得られるデータを収集、処理、解釈する方法に革命を起こすでしょう。

 

市民科学に関してAIの最も注目すべき一面は、人間の作業を補強する能力です。映像データの膨大な量と複雑さは、時に圧倒的ですが、AIが強力な味方となり、データ分析という骨の折れる作業を自動化します。AIは画像のパターン、異常、種を素早く正確に識別ですることで、人間である市民科学者を解放し、より複雑で知性に依存する分類プロセスに取り組む時間を与えます。

 

市民科学では、クジラの写真の分類など、人間の判断を必要とする重要な科学的プロセスを共有することができます。Snapshots at SeaのTed Cheeseman主任研究員は、「個々のクジラを識別するためにAIの画像認識を活用する一方、人間が関与することで、私たちが必要とする微妙で定性的なデータや将来の機械学習開発のトレーニング材料も得られます」と述べ、テクノロジーと人間の関与の関係性を強調しています。

 

こうした考えに呼応するように、機械学習やAIと、人間主導の市民科学との組み合わせは、人間である参加者の役割を縮小するのではなく、むしろ強化するというのが、多くの科学者の一致した意見となっています。

 

ZooniverseのSnapshots at Seaプログラムでは、写真の中のシャチや船の衝突痕のような特徴を採点し、タグ付けすることにより、ザトウクジラの個体識別に貢献することができます。市民科学者の世界的な活動に加わり、今すぐ変化を起こしましょう!

市民科学の世界に飛び込んでみませんか?

ザトウクジラの個体識別に協力してください。あなたが行う分類の1つ1つが、海洋研究の未来を形づくる力となります。 

Humpback whale swims in the ocean

1 Pew Research Center (June 2020) – “Younger, more educated U.S. adults are more likely to take part in citizen science research”
2 BioScience Volume 72, Issue 7 (Jul 2022) – “Citizen Science as an Ecosystem of Engagement: Implications for Learning and Broadening Participation”


サマリー

市民科学は、科学者と市民による協力の形の1つであり、一般市民がデータの収集や分析に参加し、重要な研究の進展を加速させることができます。EYのような組織は、市民科学プロジェクトを支援するためにプロフェッショナルの参加を促し、科学の進歩に貢献し、継続的に学ぶ文化を醸成する上で重要な役割を担っています。


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